61 / 78
第8章
文化祭 当日(Chase the Girl) 2
しおりを挟む
額から流れる汗が目に入らないように僕は腕で拭った。
前方からこちらへ近づいてくる女子の制服姿が見えた。それが誰かわかったとき、僕はまた鼓動が早くなったような気がした。
「ゆ、佑くん、どうしたの? そんな息を切らして……なんでこんなとこに……?」
女子生徒が僕の名前を呼んだ。
薄っすらと茶色の入ったサラッとした長い髪が風で揺れる。最近、茶髪っぽいなと思っていた。
「絵理沙、オマエこそなんでここに?」
前から歩いてきたのは絵理沙だった。
「え……ゆ、佑くん……? 怖いよ?」
美咲とさくらは僕と一緒に教室でクラスイベントに参加していた。柚葉と千尋は体育館で準備をしていた。
さっきのカメラマンが「二人」と言っていたその一人は絵理沙だったのか。
「もう一度、聞くぞ? こんなとこで何を?」
絵理沙はゆっくりと後ろを振り返る。向こうにあるのはいろんな部活動の部室がある部室棟だ。
「ちょっと、忘れ物を」
「忘れ物? 絵理沙があっちに何を忘れるんだ?」
「それは……言えないかな。女子っていろいろあるんだよ」
「へぇ……。まぁいいや。オレはそっちに用があるからさ」
僕が前に進もうとすると、絵理沙が立ちはだかった。口元に笑みこそ浮かべているが、ここは通さないという意志が伝わってきた。
「……彩夏は、こっちに来てないよ。私、見てないし。体育館にいるんじゃない?」
その言葉を僕は聞き逃さなかった。
「いま、なんて言った?」
「え……?」
なんのことだと絵理沙は首を傾げる。
「『彩夏は、こっちに来てないよ』と言ったよな? オレは彩夏のことなんて聞いてない。そっちに用があると言っただけだ」
僕は部室棟を指さしながら言った。
「あ……」
絵理沙の表情が文字どおり青ざめていく。
敢えて、僕はいま絵理沙の前で、彩夏の名前を出していなかった。彩夏がいなくなったということは伝えていなかった。
それなのに、絵理沙は自分から彩夏は来ていないと言った。
「彩夏がいないことを、なぜ知ってるんだ?」
「れ、連絡をもらってて。彩夏がいないんだけどって」
「誰から? 絵理沙、スマホを持ってきてないだろ?」
「えーっと……柚葉だったかな?」
「そうか。じゃあ今、柚葉にたしかめてみてもいいかな? オレと柚葉は今日はスマホを持ち込みOKなんだよ」
僕はポケットからスマホを取り出して見せた。ディスプレイには何の通知も見えなかった。彩夏はまだ来ていないということだろう。
「え、あー……違ったかも。誰だっけかなぁ……」
道を譲る気がなさそうに立ちはだかったまま絵理沙が言った。
別に僕は探偵をしているわけではない。確固たる証拠はいらない。
絵理沙の様子が明らかに変だ。絵理沙は何か知っている。絶対に知っている、そこまでわかればあとは問い詰めてしまいたい。ただ、もう一押しできるものが欲しい――、
「ああ、いたいた。さっきの少年」
のんびりした口調の声が聞こえた。
振り返るとそこにいたのはさっき廊下で会ったカメラマンの男性がいた。
男性は顎髭をさすりながら立っていた。
「もう目的は果たしちゃったのかな? さっき君が言ってた女の子と一緒にいたのは、いま君の前にいる子だよ」
その言葉で僕はまた絵理沙に向き直った。
絵理沙の目は、うつろになりながら僕を見ていた。
「何その人、私が誰と一緒にいたって? そんなのその人の勘違いかもしれないじゃん」
「勘違い? ここに写真もあるよ。なんか慌ててる感じでリアルだなぁって思ってさ」
男性は一眼レフのカメラを僕に見せてくれた。女子生徒が二人、小走りしているような後ろ姿だった。クラスメイトだからすぐにわかった。一人は彩夏、そしてもう一人は光に当たって一段と茶色に見える髪の女子だった。
最近、髪の茶色が濃くなってきたクラスメイトを僕はよく知っている。
絵理沙だった。
前方からこちらへ近づいてくる女子の制服姿が見えた。それが誰かわかったとき、僕はまた鼓動が早くなったような気がした。
「ゆ、佑くん、どうしたの? そんな息を切らして……なんでこんなとこに……?」
女子生徒が僕の名前を呼んだ。
薄っすらと茶色の入ったサラッとした長い髪が風で揺れる。最近、茶髪っぽいなと思っていた。
「絵理沙、オマエこそなんでここに?」
前から歩いてきたのは絵理沙だった。
「え……ゆ、佑くん……? 怖いよ?」
美咲とさくらは僕と一緒に教室でクラスイベントに参加していた。柚葉と千尋は体育館で準備をしていた。
さっきのカメラマンが「二人」と言っていたその一人は絵理沙だったのか。
「もう一度、聞くぞ? こんなとこで何を?」
絵理沙はゆっくりと後ろを振り返る。向こうにあるのはいろんな部活動の部室がある部室棟だ。
「ちょっと、忘れ物を」
「忘れ物? 絵理沙があっちに何を忘れるんだ?」
「それは……言えないかな。女子っていろいろあるんだよ」
「へぇ……。まぁいいや。オレはそっちに用があるからさ」
僕が前に進もうとすると、絵理沙が立ちはだかった。口元に笑みこそ浮かべているが、ここは通さないという意志が伝わってきた。
「……彩夏は、こっちに来てないよ。私、見てないし。体育館にいるんじゃない?」
その言葉を僕は聞き逃さなかった。
「いま、なんて言った?」
「え……?」
なんのことだと絵理沙は首を傾げる。
「『彩夏は、こっちに来てないよ』と言ったよな? オレは彩夏のことなんて聞いてない。そっちに用があると言っただけだ」
僕は部室棟を指さしながら言った。
「あ……」
絵理沙の表情が文字どおり青ざめていく。
敢えて、僕はいま絵理沙の前で、彩夏の名前を出していなかった。彩夏がいなくなったということは伝えていなかった。
それなのに、絵理沙は自分から彩夏は来ていないと言った。
「彩夏がいないことを、なぜ知ってるんだ?」
「れ、連絡をもらってて。彩夏がいないんだけどって」
「誰から? 絵理沙、スマホを持ってきてないだろ?」
「えーっと……柚葉だったかな?」
「そうか。じゃあ今、柚葉にたしかめてみてもいいかな? オレと柚葉は今日はスマホを持ち込みOKなんだよ」
僕はポケットからスマホを取り出して見せた。ディスプレイには何の通知も見えなかった。彩夏はまだ来ていないということだろう。
「え、あー……違ったかも。誰だっけかなぁ……」
道を譲る気がなさそうに立ちはだかったまま絵理沙が言った。
別に僕は探偵をしているわけではない。確固たる証拠はいらない。
絵理沙の様子が明らかに変だ。絵理沙は何か知っている。絶対に知っている、そこまでわかればあとは問い詰めてしまいたい。ただ、もう一押しできるものが欲しい――、
「ああ、いたいた。さっきの少年」
のんびりした口調の声が聞こえた。
振り返るとそこにいたのはさっき廊下で会ったカメラマンの男性がいた。
男性は顎髭をさすりながら立っていた。
「もう目的は果たしちゃったのかな? さっき君が言ってた女の子と一緒にいたのは、いま君の前にいる子だよ」
その言葉で僕はまた絵理沙に向き直った。
絵理沙の目は、うつろになりながら僕を見ていた。
「何その人、私が誰と一緒にいたって? そんなのその人の勘違いかもしれないじゃん」
「勘違い? ここに写真もあるよ。なんか慌ててる感じでリアルだなぁって思ってさ」
男性は一眼レフのカメラを僕に見せてくれた。女子生徒が二人、小走りしているような後ろ姿だった。クラスメイトだからすぐにわかった。一人は彩夏、そしてもう一人は光に当たって一段と茶色に見える髪の女子だった。
最近、髪の茶色が濃くなってきたクラスメイトを僕はよく知っている。
絵理沙だった。
25
あなたにおすすめの小説
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ここは世田谷豪徳寺
武者走走九郎or大橋むつお
青春
佐倉さくら 自己紹介するとたいていクスっと笑われる。
でも、名前ほどにおもしろい女子じゃない。
ないはずなんだけど、なんで、こんなに事件が多い?
そんな佐倉さくらは、世田谷は豪徳寺の女子高生だぞ。
ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる