天国で時はゆるやかに流れて

多田莉都

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Scene 2

2-1

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 天国当局から支給されたタブレットで、現世の家族の様子を見ることができる。
 二人を見守ることは雪音にとって、ささやかな楽しみだった。
 雪音にとって、亮介、そして娘の里依紗がどう過ごしているかは、どんな映画や小説よりも気になるものだった。

 小学生になった里依紗はキャメル色のランドセルで学校に通っている。
 肩よりも長い髪を毎日セットしているのは亮介だった。
 この日も里依紗のリクエストで二つに分けて結ぶいわゆるツインテールを作っていた。クラスメイトの影響で編み込み気味にしたいらしい。

「それは難易度高いなぁ」

 と髪を結う前から雪音は苦笑いをしていた。
 亮介は単純な結び方しかできないと知っていたからだ。くるりんぱを作るだけでも苦戦するのだ。そんな亮介が編み込みなんて。

 案の定、亮介は苦戦していた。
 最初から櫛で頑張って分けようとしているのでなかなかうまくいっていないようだ。手で毛束を作ってから進めるほうがうまくいくのだが、亮介にそんな経験も知識もあるはずもなかった。
 悪戦苦闘して、なんだか分け方に偏りがあり、頭頂部が少し膨らんだようなツインテールで里依紗は出かけていった。

 朝の準備だけで疲れ果てている亮介の姿を見ていると、そっと声をかけたい衝動に駆られた。しかし、雪音にはできるはずもなく、ただ見守ることしかできなかった。

*
 夕方近くになり、帰ってきた里依紗は髪をほどいて帰ってきていた。
 どうしたのだろうと雪音と同じように思ったらしい亮介が、里依紗に尋ねた。
 苦虫を嚙み潰したような顔した里依紗は、亮介の三度目の問いかけでやっと口を開いた。

「『里依紗ちゃんの髪の毛、ぐちゃぐちゃ』って言われたの!」

 怒っているような泣いているような声で里依紗は、ドンドンと足を鳴らして部屋に入っていった。玄関でしばらく立ち尽くししていた亮介は大きくため息をつくと頭を少し搔いていた。

「そうか、里依紗、ごめんな……」

 と亮介が呟いたとき、雪音は胸が締め付けられるような思いだった。
 里依紗はどうしたのだろうと部屋の中を見てみると、里依紗は机に突っ伏して、すすり泣くようにしていた。

「里依紗……」


 そばに行ってあげられるなら抱きしめてあげたかった。
 そばにいられるなら「パパはちょっとうまくいかなかったね。明日は私がやってあげるね」と声をかけたかった。
 しかし、天国にいる雪音からは何もすることができなかった。

 友達に髪型をからかわれたことは悲しかっただろう。髪をほどいたのは娘なりの抵抗だ。亮介にすぐに説明しなかったのも娘なりに思うところがあったのだろう。
 

「なんで私、そばにいてあげられないんだろ……」

 大粒の涙がタブレットの画面に落ちる。何度拭っても涙は止まらない。

「ごめんね、ごめんね……」

 届かないとわかっていながら、雪音は画面越しの里依紗に、亮介に謝り続けた。
 何度も何度も。


 
 
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