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第2章
誰も知らない町で①
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アスファルトの道が真っ直ぐと続く。
全く見慣れない街の道を歩きながら、僕は学校に向かって歩いていた。
中学までは僕が相手のことを知らないのに、相手が僕の名前を知っているということはよくあった。なれなれしく「相沢」だとか「碧斗」だとか呼んでくる奴は何人もいた。
「世間体」というものを意識せざるをえなかった僕は愛想を返して会話をするようにしていたが、もうそんなことをする必要もない。
――少なくとも、この学校で僕の過去を知っている奴はいないのだから。
「相沢ー」
後ろからの声に振り返ると伊藤優弥が僕に向かって手を振っていた。
僕が立ち止まると伊藤は少し駆け足で近寄ってきた。
「相沢、数学の予習やってきた? 今日は一日だよ? 数学の時間に絶対あてられるはずだけど?」
「そうじゃん! フツ―に忘れてた」
「あー、これで今日は三時間目後の休み時間はなくなるねぇ」
伊藤は大げさにため息をついた。
数学の佐川という女の先生は日付をもとに指名して、黒板の前で問題を解かせることで有名だった。その日の授業の応用問題ではあるのだが解けない生徒も何人かいる。「私の授業を聞いていればわかるはずです!」と休み時間になっても黒板の前で生徒に考えさせ続ける先生だった。
休み時間を削ってまでの授業時間が続くことで佐川の評判はすこぶる悪い。
そして、生贄となって立ち尽くす生徒へのクラスメートの視線も冷たい。
そのため、自分の出席番号が絡む日付の前日は皆、予習してくるようになっていた。
「やっべー。全然やってきてねー。伊藤はやってきた?」
「僕も明日当てられるからね、一応やってきてはいる」
出席番号は苗字の五十音順で決まるので、僕が1番、伊藤が2番だった。
「おお! じゃあ答え見せてよ。休み時間のうちに写すから」
「家で解いてきただけだからノートには書いてないんだよなぁ」
「これだから優等生は……頼れるのは伊藤しかいないのになぁ」
今度は僕が大げさにため息をついた。
ため息は大げさにわざとらしくついたが、伊藤が頼りというのは嘘ではなかった。
僕は高校に入学して最初に話したのが、この伊藤だった。
この高校に入学した時点では、誰も僕を知らなかった。
なぜならば僕は生まれ育った富山の高校ではなく、誰も僕を知ることのない愛知の高校に入学したからだった。
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――少なくとも、この学校で僕の過去を知っている奴はいないのだから。
「相沢ー」
後ろからの声に振り返ると伊藤優弥が僕に向かって手を振っていた。
僕が立ち止まると伊藤は少し駆け足で近寄ってきた。
「相沢、数学の予習やってきた? 今日は一日だよ? 数学の時間に絶対あてられるはずだけど?」
「そうじゃん! フツ―に忘れてた」
「あー、これで今日は三時間目後の休み時間はなくなるねぇ」
伊藤は大げさにため息をついた。
数学の佐川という女の先生は日付をもとに指名して、黒板の前で問題を解かせることで有名だった。その日の授業の応用問題ではあるのだが解けない生徒も何人かいる。「私の授業を聞いていればわかるはずです!」と休み時間になっても黒板の前で生徒に考えさせ続ける先生だった。
休み時間を削ってまでの授業時間が続くことで佐川の評判はすこぶる悪い。
そして、生贄となって立ち尽くす生徒へのクラスメートの視線も冷たい。
そのため、自分の出席番号が絡む日付の前日は皆、予習してくるようになっていた。
「やっべー。全然やってきてねー。伊藤はやってきた?」
「僕も明日当てられるからね、一応やってきてはいる」
出席番号は苗字の五十音順で決まるので、僕が1番、伊藤が2番だった。
「おお! じゃあ答え見せてよ。休み時間のうちに写すから」
「家で解いてきただけだからノートには書いてないんだよなぁ」
「これだから優等生は……頼れるのは伊藤しかいないのになぁ」
今度は僕が大げさにため息をついた。
ため息は大げさにわざとらしくついたが、伊藤が頼りというのは嘘ではなかった。
僕は高校に入学して最初に話したのが、この伊藤だった。
この高校に入学した時点では、誰も僕を知らなかった。
なぜならば僕は生まれ育った富山の高校ではなく、誰も僕を知ることのない愛知の高校に入学したからだった。
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