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第7章
高校生活で一番楽しい時期 8
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美容室「AC-EX」。僕が高校一年から通っている美容室だ。
お店に入ると、ミルクティーみたいなキレイな髪の色をしたお姉さんが僕に微笑みかけてくれた。
「いらっしゃいませー」
「環奈さーん、久しぶり」
「きっかり二カ月振りだね」
北見環奈さん、僕は親しみを込めて「環奈さん」と呼ばせてもらっている。僕が髪をいつも切ってもらっているのはこの人だ。
正直なところ、中学までは美容院なんて全然通っていなくて、高校に入ってからどこで髪を切るか悩み、あちこちを転々としていたところ、クラスメイトの三吉に紹介してもらったのだった。
椅子に座り、クロスをかけられる。
鏡に映る僕の髪は少しベタッとしていた。体育館の足洗い場で水洗いしたぐらいではダメだったらしい。
「なんかすっごい汗かいてきた?」
「今日、体育大会だった」
「あー、だからか。一回流そうか。シャンプー台へどうぞ」
椅子がくるりと回転し、僕は立ち上がる。シャンプー台へと移動し、天井を見るようにして座る。顔に薄い布をかけられる。
美容院に通い始めた頃は、こんな風にシャンプーしてもらうことにとても緊張していたが、いまでは何て言うのか、すごく落ち着く時間だなって思っている。自分で髪を洗うときと全く違う感覚だ。
シャンプーをしてもらってから、再び席に戻る。濡れた髪の自分がさっきと別の人間に見える気がする。人に髪を洗ってもらっただけなのに。
「体育大会って言っても、碧斗くん、怪我してたんでしょ?」
環奈さんが僕の髪を軽く整えてくれながら言った。
「あー、それは治った」
「お、やったね。じゃあ、今年も走ったの?」
「それがさー、体育の先生と病院の先生が繋がっててさ、まだ走らせるなって言われて、自粛だよ」
「え? じゃあ体育大会なのに何もできなかったの?」
「騎馬戦の上ぐらいは乗らせてもらった」
「なるほどー……って、騎馬戦ならなら太腿の負担掛かんない……のかな?」
「わかんないけど、今日は三人倒した」
わざとらしくドヤ顔をしてみた。
「だいたいはもう大丈夫なんだけどさ、ちゃんとリハビリプログラムやってからってさ」
「そりゃあー、体育の先生に期待されてるんだよ。ちゃんと鍛えたらもっと走れるって」
環奈さんが鏡越しに僕に微笑んだ。
いろんな大人の人と話してきたけど、環奈さんは不思議な人だ。
その優しい笑顔を見ていると吸い込まれそうになる。深い湖に落ちていくような感覚で、僕はどんなことでも話せそうな気がしてしまう。
「もっと……走れる……かぁ。どうかな」
僕は苦笑いして誤魔化そうとしたが、環奈さんは微笑んだままだった。
「できると思うけどなあ?」
「なんで」
「だって……碧斗くんは一度は全国で一番速かったんだから」
そう、この人は知ってるんだ。僕の過去を。
というより、僕から話してしまったんだ。
環奈さんと話していると、なぜかどんなことでも話していいような気持ちになってしまう。本当に、不思議な人だ。
美容室「AC-EX」。僕が高校一年から通っている美容室だ。
お店に入ると、ミルクティーみたいなキレイな髪の色をしたお姉さんが僕に微笑みかけてくれた。
「いらっしゃいませー」
「環奈さーん、久しぶり」
「きっかり二カ月振りだね」
北見環奈さん、僕は親しみを込めて「環奈さん」と呼ばせてもらっている。僕が髪をいつも切ってもらっているのはこの人だ。
正直なところ、中学までは美容院なんて全然通っていなくて、高校に入ってからどこで髪を切るか悩み、あちこちを転々としていたところ、クラスメイトの三吉に紹介してもらったのだった。
椅子に座り、クロスをかけられる。
鏡に映る僕の髪は少しベタッとしていた。体育館の足洗い場で水洗いしたぐらいではダメだったらしい。
「なんかすっごい汗かいてきた?」
「今日、体育大会だった」
「あー、だからか。一回流そうか。シャンプー台へどうぞ」
椅子がくるりと回転し、僕は立ち上がる。シャンプー台へと移動し、天井を見るようにして座る。顔に薄い布をかけられる。
美容院に通い始めた頃は、こんな風にシャンプーしてもらうことにとても緊張していたが、いまでは何て言うのか、すごく落ち着く時間だなって思っている。自分で髪を洗うときと全く違う感覚だ。
シャンプーをしてもらってから、再び席に戻る。濡れた髪の自分がさっきと別の人間に見える気がする。人に髪を洗ってもらっただけなのに。
「体育大会って言っても、碧斗くん、怪我してたんでしょ?」
環奈さんが僕の髪を軽く整えてくれながら言った。
「あー、それは治った」
「お、やったね。じゃあ、今年も走ったの?」
「それがさー、体育の先生と病院の先生が繋がっててさ、まだ走らせるなって言われて、自粛だよ」
「え? じゃあ体育大会なのに何もできなかったの?」
「騎馬戦の上ぐらいは乗らせてもらった」
「なるほどー……って、騎馬戦ならなら太腿の負担掛かんない……のかな?」
「わかんないけど、今日は三人倒した」
わざとらしくドヤ顔をしてみた。
「だいたいはもう大丈夫なんだけどさ、ちゃんとリハビリプログラムやってからってさ」
「そりゃあー、体育の先生に期待されてるんだよ。ちゃんと鍛えたらもっと走れるって」
環奈さんが鏡越しに僕に微笑んだ。
いろんな大人の人と話してきたけど、環奈さんは不思議な人だ。
その優しい笑顔を見ていると吸い込まれそうになる。深い湖に落ちていくような感覚で、僕はどんなことでも話せそうな気がしてしまう。
「もっと……走れる……かぁ。どうかな」
僕は苦笑いして誤魔化そうとしたが、環奈さんは微笑んだままだった。
「できると思うけどなあ?」
「なんで」
「だって……碧斗くんは一度は全国で一番速かったんだから」
そう、この人は知ってるんだ。僕の過去を。
というより、僕から話してしまったんだ。
環奈さんと話していると、なぜかどんなことでも話していいような気持ちになってしまう。本当に、不思議な人だ。
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