この要らない悪縁、誰か切ってもらえますか

のぎく

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巡りの始まり 3

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 魔法学校、という名前の通りこの学校では魔法の授業に力を入れている。もちろんほかの授業も各分野の先生が教えてくれるという豪華さではあるが。

 ここに通う子のほとんどは騎士団や王国直属の治安維持機関に入ったり、領地経営を任されるなどの王国を守る仕事を将来的に担うであろう子達。だからこそ魔法、特に戦闘形の魔法に重きを置いている。有事の際に最前線に立つであろう彼等が弱くあってはならないのだ。

 今までは魔法座学といって魔法関連の知識を学ぶ授業が中心だったが、今回はいよいよ属性魔法の判定が行われるらしい。
 先生が教室に入ってきて一言そう告げると途端に騒がしくなった。

 それはそうだろう。ここにいる全員がまだ自分の属性を知らないのだから。
 属性は勝手に分かるものではないし、然るべき手順をおって学校や学舎の先生の指示の元判別する、と法律で決まっている。なので大人は誰も教えてくれないし、先生達に詰め寄ったところで笑って流されるのがオチだ。
 だからこそ属性の判定は私達子供にとって楽しみな行事の一つと言えよう。それにこれが分かれば扱える魔法の種類が倍以上に増える。楽しみでない子供がいるとすればそれは子供ではない。子供になりきった大人だ。

「はい静かにー。それじゃあ軽く魔法のおさらいからな。魔法の元となる魔力は自分の体の中、心臓から作られているのは覚えてるな?」

 みんなに教科書を配ると黒板に心臓らしき物体を描きながら説明する先生。上手いとは言い難いが、簡易的で見やすい。

「心臓で作られた魔力は血液によって体中に送られる。こうして魔力が送られる事で俺たちは初めて魔法が使えるようになる。だから血が無くなると魔法は使えなくなる。ま、血が無くなれば人間は死ぬので生きている限り魔法は使い続けられるというわけだ」

 教科書に載っている魔力の説明についてはもっとうんたらかんたらびっしり書いてあるのだが、先生は随分端折って説明したな。
 分かりやすくていいけどこのうんたらかんたら教科書を書いた人がこれを聞いたら怒るか、それか卒倒するだろうな。

 ちらりと教室中に視線を向けて見れば誰一人として教科書には目もくれない。私もだが。......怒るでも卒倒するでもなく泣くかもしれない。

 どれどれ著者は......マイカル・アペールさんか。うん、知らないな。
 心の中で謝っておく。教科書見なくてごめんなさい。

「そして属性魔法だが、これは心臓がどの魔力を作っているかによる。一つの心臓につき一つの属性の魔力しか作れないので二つ属性を持つ者はいない。二つ持ってるとしたら心臓が二つもある化け物って事だからなあ。あ、二つ属性持ってる奴がいたら判定の際は隠した方がいいぞ。どう隠すかは分からんがばれたら研究所行きだからな」
「研究所に行ったらどうなるんですか?」
「そりゃ実験体にされるだろ。変態達に。」
「うげぇ」

 クスクスとどこからか笑い声が聞こえる。

 まだこのクラスの誰も自分の属性は分からないし、心臓が二つある人間なんかいないのでこれは先生の冗談だと分かるからだ。だって人間一人につき心臓は一個しかないのだから。

「先生はれっきとした人間なので使えるのは一つだけ。先生は火属性だ。」

 先生がくるりと指を一回転させると火の輪っかが生まれた。

「属性によっては相性の悪いものなんかも存在する。俺の火属性の場合相性が悪いのは水と風だな。相性が悪いと相殺されたり打ち負かされる可能性が高くなる。その逆もしかりだが。」

 広げていた手の平をぎゅっと握ると火の輪っかが消えた。

 つまりは火が水と風と相性が悪いのと同じく、水や風も火とは相性が悪いという事だろうか。

「俺の嫁さんは風の魔女で、魔法の相性は最悪。しかもあっちの方が魔法の腕が立つので俺は家に帰れば尻に敷かれる日々だ。というわけで男ども。気をつけたまえ。この中に将来お前達を尻に敷くおっかねえ女がいるかもだぞ」

 先生は命知らずなのだろうか。女子、それも貴族女子達がその眦を吊り上げているんだけど。

 ああ、可哀想に。隣の女子の顔を見てしまい震え上がっている男の子が多数いる。君達、見なかったことにしたまえ。こういうのは忘れるのが一番いい。

「さて。冗談はここまでにして。判定を始めるぞー。そうだなあ……ラロ、こっち来てみてろ」
「私ですか?」

 一番後ろの席の私が一番最初に指名されるとは。こういうのって一番前の席の人からじゃないの?

 そんなことを考えながらも呼ばれたので席を立ち先生の元へ向かう。

「ん、これ羽織っとけ」

 手渡されたのは先生が今の今まで来ていた黒いコート。なぜだ。
 首をかしげていればいいから、と促される。私は何が何だかわからないまま袖に手を通す。だぼっだぼだ。

「はいじゃあこんな風にして手のひらを上に向けてみろ」
「こうですか」
「そうそう」

 言われた通り片手のひらを上に向けながら先生に確認をとる。すると次に小さな紙を手渡された。紙には魔方陣と一文字だけ文字が書かれている。

「次はこれを読んでみ?」
「はあ…… 『鍵』?」

 ザバッ。

 前に出していた手の平から勢いよく水が溢れ出した。水はジャバジャバと私の顔に向かってとめどなく溢れてくる。

「………」
「おお、ラロは水だな。手の平をこうぎゅっと握ると止まるぞ?」

 言われた通り握る。と、水は止まった。

 残されたのはびしょ濡れの私と沈黙が広がる教室。

「こんな風に初めてやるから加減が効かないことはよくある。大人しくできるやつもいるにはいるがな。んじゃ、こんな感じで進めていくから」

 先生が指を一振りすると一瞬で水浸しの床やびしょ濡れの私の体が乾く。

「それとこうしてこのコートを着てもらう。今みたいな場合に下着を皆に曝さないためだ。ちなみに雷と火が防げるようになっているので服が焦げる心配はない。安心するといい」
「……」
「あ、ラロは戻っていいぞ。コートは返してくれな」

 頭をポンポンされる。

 言われた通りコートを脱いでから席に戻る。
 席に座ると前の席のジルバールがこちらを振り向いた。

「面白かったよ!!」

 ゴッ。

 ムカついたのでその顔に拳を喰らわせといた。

 それから一人ずつ前に出て属性の判定が行われたが、私のように加減を間違えた子は誰一人としていなかった。

 解せぬ。




  *************






「あははははは!お前そんなことになってたの?」

 目尻に涙を浮かべながら人の事を指差し腹を抱えて笑っているのは可愛くない我が弟ユーリ。
 おい、誰かこいつを黙らせてくれ。

「今すぐ笑うのやめて」
「ひうっ、無理ぃ……ブハッ!」

 どんだけ笑うんだよ。何がツボに入ったのかはわからないがこんなユーリは滅多に見られるもんじゃない。私が笑われてる本人じゃなかったなら微笑ましく見ていただろうが無理。この状況で微笑ましくは無理。

「私こんなに笑うユーリ君は初めて見たわ。言って良かった」

 黙れ元凶。

「くくっ」

 おいそこ、笑い堪えてんな。聞こえてるから。

「そこまで笑うほどのことか?」

 真面目に聞くのはやめてくれ。王子に悪気がないのは分かってるけどやめて。お願いだから。

 夕食が終わった時間帯、自分の属性はなんだったかという当たり障りない話から始まったはずの会話はシゼルの暴露によっておかしな方向へと軌道を変えていた。もう修正出来る気がしない。いや、諦めたらそこで終了してしまう。……なにがだ。試合か、試合なのかこれは。だったらなんのだ。

「しかしそうか、エリスは水か。ユーリと同じだな」
「へえユーリも水だったんだ」

 こいつらときたら笑ってばかりで全然教えてくれない。忘れているだけかもしれないが。

 もうお前らは無視だ。無視。いいもん私はこの隙に殿下との友情を深めるから。

「そういう殿下はどうなの?」
「私は火だ」
「へえ」
「ヴァンサンも私と同じだ」
「その情報はいらない」

 てか知りたくないけどもう知ってる。女子達が話してたのを聞いたから。
 いつの間にあんな早く情報を仕入れるのか、貴族女子達の情報網は侮れないと改めて認識させられた日だった。

「俺はお前と同じだったけど加減を間違えたりはしなかったな………ぶふぁっ」

 肩に手を置きそう言うユーリ。何回吹き出せば気がすむんだこいつは。

 癪に障ったので奴の服の襟を掴み思いっきり引き寄せて頭突きをかます。鈍い音が食堂に響いて、笑い声が消えた。代わりに声にならない悲鳴がこだまする。

 私はユーリの服の襟を掴んだまま女男の方へ向き直る。

「あんたもこれ以上笑うなら頭突きかましてあげるけど」
「遠慮しておきます。明日は外に出る用事があるのでね、痣でも作っていったら失礼にあたりますから」

 そこまで私は石頭ではないし、痣なんぞできるものか。
 というかいつまでも人の嫌がることで笑ってる方がよっぽど失礼。

 私がぱっと服から手を離すとユーリは床に尻餅をついた。うずくまり額を抑えながら小さなうめき声を漏らしている。

「シゼルはなんだったんです?」
「私?私は風属性よ。オシェルの人間はなぜか代々この属性でね」
「いてて……それって遺伝ってやつか?」
「多分」

 うずくまっていたユーリはようやく顔を上げ、額をさすりながら話に加わってきた。

 確か先生が授業の最後に言っていた。この属性魔法というのはほとんどが親と同じ属性を持って生まれてくるものだ、と。

 火と風の両親からなら火か風どちらかを持った子供が生まれてくるということ。そうでない場合は祖母や祖父と同じだったり。だから血の繋がりで決まると言っても過言ではないんだとか。

 そう言えば母さんは水の魔女だったけど父さんがどの属性だったのかは聞いた事がないな。

 父さんは私達が生まれた時からいなかったので、私が知ってる父さんの情報といったら名前くらい。けどそれを疑問に思ったことは一度もない。それはいた、という実感がないからだろうか。両親を知っている周りの大人達から出てくる話はほとんどが母さんの話題ばかりで、父さんは出てこない。だから全然知らない。
 どういう人だったのか、何が好きだったのか。

 そう思い始めてたら知らない、ということが無性に寂しく思えてきた。

「貴方最近休日はいつも外に出ているな、と不思議だったのだけどなるほど、逢引してたのね?」
「まあそんなところですね」
「色男は忙しいんだねえ、休む日なしかよ」

 なんでだろうか。今とても父さんについて知りたいと思う。こんなことは初めてだ。

「ねえユーリ」

 シゼル達の話の輪から抜けてきたユーリの袖を軽く引いた。何?と小首を傾げるユーリの耳に手を当て顔を近づける。

 まだ私とそんなに身長の変わらないユーリは私の意図を理解し、その私と同じ薄い青の瞳をこちらに向ける。相変わらず襟足の長い黒髪がくすぐったい。

「今度村に帰ったら父さんの話を聞いてみよう?」

 小さくそう言ってみる。
 ユーリは最初何故こんな話をしてくるのか分かっていないみたいだったが、「あー」と小さく呟くと「だな」と返してくれた。

「なに、遺伝って俺が言って先生の話でも思い出した?」
「さすが。そう、母さんは水の魔女だったけど父さんのは知らないよなあ、って」
「そういやそうだな」

 話が早くて助かる。

「楽しみだな」
「楽しみだね」

 近付けていた顔を離して笑い合う。
 さて、どんな話が聞けることやら。

「どうかした?」
「ううん。なんでもない」
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