都合よく「疫病神」として扱われてきましたが

のぎく

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ローリアの経緯

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 私が教会に引き取られたのは六歳の時。

 それまで私はお金持ちでも貧乏でもない、極々平凡な家庭で、優しい両親とモドキたちに囲まれて幸せに過ごしていた。
 けれどそんな日々はあっけなく、両親の死という形で崩れ去る。

 食料備蓄のため森へ木の実や薬草を取りに行っていた母が、崖から足を滑らせてしまったのだ。ついて行ったモドキたちがふと目を離した隙の出来事で、見つかった時にはすでに事切れていたという。

 その葬儀から数ヶ月と経たないうち、今度は元々体の弱かった父が後を追うように逝ってしまった。

「ごめんな、ローリア」

 最期まで私の身を案じ、泣きそうな顔で謝っていた父の姿が今も脳裏を焼きついて離れない。

 引き取り先も、身寄りもない。立て続けに両親を亡くし、悲しむ暇もなくこれからどうすればいいのかと途方に暮れていたその時、通りがかった一人の神官さまが手を差し伸べてくれた。

「あなたはもしや、『妖精の眷属』さまかもしれません」

 そう、言って。

 その頃の私は幼さゆえの無知で、この世界を治める女神についても、妖精についても、そしてその眷属さまについても、何一つ知らなかった。

 だからいきなり知らないおじいさんに一緒に来ませんか?と言われても意味がわからず、また母に『知らない人についていっちゃダメ!』と強く言い聞かされていたこともあって、どうしたらいいのか、わけがわからなかった。

「え、あ……でも……」
『――ローリア』

 躊躇っていたその時、背後から優しく頭を撫でられた。

 手の主を見ると、薄い金色の髪に真っ白な服を着た男の大人の人――リトという、兄代わりの彼が『大丈夫』と軽く私の背を押す。

『この人にはついていっても大丈夫だから。もちろん私も一緒に行くし、安心して』

 モドキと同じく、周りには見えていない彼と話す私を神官さまは不思議そうな顔で見ていたが、とにもかくにも信頼する彼の言葉に背を押され、私はその手を取ったのだ。

 初めて見た教会は、とても大きくて綺麗だった。女神像や妖精たちの絵画、繊細な浮き彫りや光を透かす色付きの硝子に、幼心に感動したのを覚えている。とはいえ緊張しなかったわけじゃないし、不安がなかったわけでもない。けど、リトたちが側にいてくれたおかげで、幾分か安心はできていた。

 物珍しさにキョロキョロ忙しなく辺りを見回しながらも手を引かれ、神官さまに連れられて行った部屋には、他の神官さまたちが待っていた。
 もう十年も前の話だから記憶があやふやなところも多いが、いくつかの質問に答えたあと、私を連れてきた神官さまと他の神官さまたちとで、何やら言い争っていたのは覚えている。

 今でこそ疫病神だのなんだの言われている私だが、初めは眷属さまと間違えられて教会に引き取られたのだ。
 なんでも神官さまが私の周りに妖精が集まっていたのを見たらしいのだが、あのお爺さんも結構なお年だったので、最終的には見間違いと判断された。その事実を裏付けるように、今も昔も私の周りに妖精が集まってきたことはないしね。……むしろ逃げられるんだもんね……!

 勘違いしてしまった私をどうするか、大人たちは大いに悩んだらしい。
 一度引き取った子を手放すのは外聞が悪く、かといって神官見習いとさせるには早すぎる。

 一度神官になる道を選んでしまうと、生半可な理由ではその道から外れられない。今後の人生が左右される決断は本人の意思なくして判断はできず、かといって私はそれを決断できるほど成長してはいなかった。
 後々後悔することがあってはかわいそうだ、と教会の手違いで引き取られた私に同情した神官さまたちは、その時は――そう、真剣に悩んでくれたのだ。

 そんなある日、私をどうするかも決まっていない中、この教会に今度こそ本物の『妖精の眷属』さまが現れた。
 偶々祈りにやってきた親子の娘の側に、たくさんの妖精が集まっていたのだそう。今度は見間違いでもなんでもなく、何人もの神官がそれを目にしていた。

 彼女はすぐさま教会に引き取られた。――のだが、ここで問題が発生する。 

 そうなると、見間違いとして連れてこられた私は当然のことながら邪魔者以外の何者でもなくなってしまうのだ。

 初めは同情的だった神官たちも、本物の眷属さまの相手をするのに必死で、すぐさま私には見向きもしなくなった。それどころか日に日に邪険に扱われるようになり、あれよあれよという間に私は教会の隅に追いやられる形となってしまったのだ。

 ただでさえ両親を亡くしその悲しみも癒えていなかった当時の私にとって、優しくしてくれる大人がいないなかでは、リトやモドキたちだけが心の支えだった。
 頼れる唯一の家族だったのだ。

 となれば、彼らに寄りかかってしまうのは仕方がないだろう。

 結果、常時側にいてくれる彼らを意識してるうちに、いつの間にか私の悪評はながれていた……と。

 私が疫病神としてこの教会での地位を確立したのは、そのわずか一年後だった。

 それからは散々な日々だったといえる。

 明らかに子供にやらせるには荷が重すぎる仕事を押し付けられ。
 「疫病神なんだから飯なんか食わなくても生きていける」という謎理論でご飯も出してもらえず。
 汚れを落とすためのお風呂にもはいらせてもらえなく。
 成長期や破れてしまった服の替えさえもらえずに。
 果てには部屋さえ与えられなかったので、教会の奥の奥、誰も立ち寄らないような忘れ去られた物置を私の部屋にした。

 それでもなんとか生きてこられたのは、リトやモドキたちのおかげ。
 過重労働はリトたちが魔法を駆使して手伝ってくれたからなんとかやってこれたし、お風呂だって魔法で水浴びさせてくれた。ご飯は毎日三食、どこから持ってくるのかは分からないが、ふわふわのパンや果物、スープをほかほかの状態で持ってきてくれる(外から盗んできてないことを祈るばかりだ)。

 日用品や衣服は、まだまだ使えるのに関わらず捨てられていたのを拾ってきた。ここには大人用の服しかなくて、体が小さかった昔は服に着られているような状態だったが、成長した今では中々に着こなせていると思う。
 ……さすがに下着の類は頑張って作ってるけど。
 あとは、使われてない物置から箪笥や鏡も引っ張ってきた。新品同然の物ばかりで埃をかぶってるのはもったいないし、どうせ気付く人なんて誰もいないし。

 食事も与えられず物の支給もされてない私がピンピン健やかにしてるものだから、それが余計不気味さに拍車をかけているのは知っていたが、それは知らないふりだ。知らないふり。

 ――でも、周りにモドキたちが見えていないのだと全然気づかなかった私も私だけど、それで厄災を振りまく~だの、呪いをかける~だの、疫病神~だの、いちいち大袈裟すぎない?

 一通りの掃除用具を選びつつ今更な疑問にうなっていると、『ローリア遅ーい』とモドキたちが急かし始めた。
 慌てて道具を抱き上げ外に出ると、洗濯物のよく乾きそうなカラッとした風が、落ち葉を踊らせていた。





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