都合よく「疫病神」として扱われてきましたが

のぎく

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白金の

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 教会の敷地は広い。
 真ん中に建つ本館は一般人向けの礼拝堂を備えており、一般人立ち入り禁止区域になっている礼拝堂の奥からは神官たちの居住区になっている。
 私の仕事場はこの居住区のほうで、礼拝堂に入ったことはここに来た時以来一度もない。

 女神官長に言わせると、

「わざわざ祈りに来てくださる方々のお目汚しになっては困るのよ」

 とのこと。

 そして高い塀に囲まれ、外からは窺えない裏手側には、東と西にそれぞれ一つずつ別館が存在する。私が掃除を言いつけられた方――西の別館は埃をかぶりもう何年も使われていないが、東は違う。あそこは、十年前から眷属さまの屋敷として、礼拝堂と同じく私が近寄ることを禁ぜられている場所だ。

 






     *************







 別館に続く遊歩道には背の高い木々が並んでいることもあって、本館からその様子を窺うことはできない。つまり、モドキたちと話していようがヒソヒソされず、新たな噂もたたないというわけだ。

「そういえば、今日はリト見かけないけどどこに行ったの?」

 いつもなら一緒にいる少し過保護気味な兄貴分の行方を尋ねると、珍しくモドキたちが口籠った。

『んー、内緒って言われてるからー』
『秘密なのー』
『あとで怒られるのやー』

 モドキたちは、ねー、と口をそろえて首を傾げた。

 こういう時、意外と秘密主義な彼らは絶対口を開かない。長い付き合いでそれらを心得ていた私は、彼らの口を割らせるのは早々に諦めた。

 あまり困らせるのもかわいそうだし。

 ため息を吐いて視線を戻そうとしたその時、縦横無尽に飛び回るモドキたちの背後、花壇のほうにふと目がいった。

 ――あ、あそこまた草が伸びてきたなあ。刈らなきゃ。

 教会の敷地が広すぎて、そしてその掃除や手入れを任されているのが私一人なせいで、中々全部には手が回らない。だからああやって管理が行き届いてないところをちまちま見かけるのだが、神官たちはあまり気にしてないらしい。
 というか気にしてたら文句を言ってくるはずだもんね。それに人を雇うとかもできるはずだし。

「でも貴族さまが来るなら一応整えておかないとだよね。いいところに住んでるからこそ、そういうところにも気がつきそうだし……」
『ローリアー、考えごと?』
「んー、あそこの草伸びてきたなあって……」
『そうだねー』
『最後にいつ抜いたっけ?』
『たしかずっとまえー』
『それはわかってるってばー』
「えっと、一ヶ月くらい前……だっけ?」
『えー、そんな遅かったかなあ』
『リトに頼んだら、ばばってやってくれるよー』
「そうだねぇ、リトに頼むのもいいかも。でも無心でできるから草取りは結構好き……」
「ちょっといいかな」

 …………ん?

 長い遊歩道を歩きながらモドキたちと話していたら、ふと知らない声が混じった。

 思わず立ち止まりモドキたちの方を向こうとして――

「!?」

 視界に背の高い影が映って慌てて振り向くと、そこにいたのは見慣れない男性だった。

 白い神官服とは真逆の紺色のシャツに、同系色のズボンを身に纏った長身。
 それだけでも部外者立ち入り禁止のここでは驚きものだが、それより驚くべきはその美貌だった。

 涼しげな目元と通った鼻筋に薄く形のいい唇。そのどれもが白くきめ細かな肌の完璧な位置に配置されていて、まるで美しさそのものを体現したような人だった。

 ――人間、だよね?

 人間離れしたその美貌を前に、美しいと感嘆するより以前に疑ってしまう。私の側にいつもいる「人間ではない」リトも、同じように「人間離れした」美貌を持っているせいだろうか。

「ええっと、はい、なんでしょう」

 モドキたちとの会話を聞かれたかどうかはこの際置いといて、しどろもどろながら何事もなかったかのように笑顔を向けてみた。
 若干頬が引きつってる気がしたが、気付いてないのか、それとも気にも留まらないのか男性は笑い返してくる。

「神官長の部屋へ行きたいのだけど、迷ってしまってね。簡単に教えてくれないかな」

 心配が杞憂に終わったようで、内心ホッと息を吐く。

 彼はどうやらお客様のようだ。本館はその広さのせいか入り組んでる場所も多く、住んでる私たちはともかく、彼が迷ってしまうのにも納得がいく。

 手短に道順を説明すると、男性は一つ頷いて「ありがとう」と微笑む。

「おかげで助かったよ。お礼に目的地までその荷物を運んであげたいところだけど――」

 言いながら金色の目が私の持つ掃除用具に移り、慌てて首を振った。

 お客様に運ばせたなんてバレたら、何を言われることかっ!
 というかそれ以前に、こんな高貴そうなお方にこれを持たせるなんて真似、私にはできそうにない。

「いえ、その、これは一人で大丈夫ですから!また迷ってしまうかもしれませんし、あの、神官たちも探してるかもしれませんし!お、お役に立てたならよかったです」
「うん、ごめんね。……それじゃあ」

 困ったように微笑むと、男性は踵を返し、白金の髪を揺らしながら本館の方へ消えていった。

 その背が見えなくなったところで、無意識に入っていた力が抜け、脱力する。

「……あれって絶対貴族さまだよね?」

 もう全身から育ちの良さというか高貴さというか、そんなのがにじみ出ていた。あれは庶民なんかじゃ到底出せないものだ。
 それに、男の人にこの言葉があってるかは分からないけど、すごい美人だった。
 見つかったなら最後、絶対女神官たちは彼をほっとかない――

「――ん?それにしても……」

 そこで思い当たることがあり、首を傾げる。

 教会の神官たちは私が人前に出るのを嫌う。だからこそ礼拝堂の方へも立ち寄らせてもらえないのだが……

「お客様が来る日なのに、なんで私、外に出てもいいんだろう?」

 いつもなら来客の予定がある日は絶対部屋から出てくるな、と厳命されるのに、今日はそれがなかった。

 ……言い忘れかな。

 一番あり得そうな結論をつけ、私は珍しく静かに待ってくれていたモドキたちとともに別館へと足を早めた。
 

 
 
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