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平定者パスカルの呪い:滅びの前兆
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246年犀の2日
今日は朝からひどい胸騒ぎがした。
側近達に違和感を訴えても、皆一様に何も感じないという。どんな感じですかと聞かられても言葉では言い表せない。1番近いのは焦燥に駆られるような感じか・・・迫ってくるような何かを忘れたくて、執務室に独り籠り残っていた仕事に没頭した。
気づくと、夜が深まっていた。カーテン越しに漏れる月の光がいつもより強い気がして窓の外を見てみると、巨大な紅月が見えた。まるで迫って来るような迫力だった。その血のような"紅"に突然心臓が早鐘のようになり始めた。私の直感が、この場から逃げろと警告を鳴らしている。だが、その時には既に遅かった。
突然、パスカル王の肖像画に掛けていたカーテンが勝手に開いた。パスカル王の紅月のような赤い左目が怪しく光り輝いたと思った瞬間、部屋中の物という物が宙に舞った。私は咄嗟に停止の魔法を使い動きを止めた。
──さすがだな、ヘルゼン。
低い、聴く者を震え上がらせるような声がした。
──パスカル王!
その声はパスカル王の肖像画から聴こえてきていた。
みるみるうちに肖像画が何倍にも大きく膨れ上がった気がした。
──今宵は紅月。月の女神が狂乱する祭りの日。私の呪いを解いたトバルズの王よ。そなたに聞きたい事があって闇の回廊を渡ってきた。
その声を聴くうちに恐怖で両足の膝が震えた。怯えを悟られないよう、舌打ちをした。
──地獄から来たのか!何の用だ。
──知れたことよ。魔法使い共を狩らずにこの国をどうやって守っていくつもりなのか問いただしたかったからだ。そなたがこれからやろうとしていることはなんだ。
私は、思いつく限りの施策を早口で捲し立てた。
──それが全てか?呆れるな。そなたが話したことは、人が善き者だという前提がある。そんな思想では国は守れぬ。人は裏切り、破壊行動を繰り返す。争いの芽を摘まず、取り返しがつかぬようになってからでは遅いのだぞ。
──だが、やって見なければ分からぬ!
その時、グンと紅い眼が大きく近づいた気がした。
──では、やって見るがいい。だが、危険思想を持つ邪悪な魔法使いが産まれたら、そんな甘っちょろい考えではこの国は滅びることになるぞ。この国を守る為に命を落とした全ての犠牲が無駄になるのだ。・・・私はこの国を守ると大事な人達に誓いをたてたのだ。むざむざと見過ごすことはできん。・・・邪悪な魔法使いが産まれたら、もう一度闇の回廊を渡って、そなたの子孫としてこの国に戻って来よう。そなたが作り上げた方法で対応出来なければ、私の方法でこの国を守って見せる。
その時、突然激しい風が吹き窓ガラスを割った。差し込んできた紅月の真っ赤な赤い光が、まるで赤い絨毯のように見えた。
パスカル王の肖像画を見ると、いつものただの絵になっていた。
夢を見たような気分だったが、部屋中に散乱した物と割れた窓ガラス・・・何より激しく波打つ鼓動が現実だと物語っていた。
私に子孫とこの国を守る為に何ができるのか。改めて考えなければならない。
ーーーーーーーーーーーー
その日の日記はそこまでで終わっていた。
アレン様の顔色は真っ青になっていた。パスカルの肖像画に目をやる。
「父上、この日記にあるパスカル王の肖像画とはアレですよね。何故まだここにあるのですか?こんな不吉な物、処分すれば良いのに。」
「先代の王が処分しようとしたが、触れた者全てが原因不明の病気になったり、事故にあったりした。王自身が焼こうとしたが、絵は火に巻かれても焼けなかった。その代わり王は原因不明の病で三日三晩生死の境をさまよった。それから誰もあの絵には触れようとしていない。」
アレン様はまた、唇を噛んだ。
アレン様の唯ならぬ様子に不安になりながら、陛下のお言葉に耳を傾ける。
「日記にあったように、ヘルゼンはパスカルに忠告を受けた。ヘルゼンのやり方では、いつか国が滅びると。彼は、まずこの王宮に魔法の侵略を抑えるバリヤを貼った。魔法を特定しない張り方は脆弱なので気休め程度だが・・・。アレンには古の魔法と伝えていたが、あの事件の時王宮にいたクリストファーを僅かに守っていたのはヘルゼンの魔法だ。」
アレン様は何か言いたげに、口を開きかけたが首を振り何も言わなかった。
「ヘルゼンが最も恐れていたものは『暗黒期 』の再来だ。1人の魔法使いなら武力で対抗出来ても、集団になったら叶わない。彼は騎士団を倍増し、危険思想に傾倒する集団達を取り締まった。これは魔法使いだけではなく、国家転覆を企む輩や犯罪組織など多岐に渡った。騎士団は必要な部団が細分化し、類を見ない程の強固なものとなった。その頃からこの国は"武のトバルズ"と呼ばれるようになった。
次に『暗黒期 』の内乱に備え、諸外国と積極的に縁戚を結んだ。これは内乱となれば諸外国の侵略を受ける可能性があるためだ。他にも様々な施策を実行して行った。・・・ヘルゼンの施策は功を奏したかに見えた。だが・・・」
陛下はその先を語ることを、躊躇うように少し沈黙した。パスカルの肖像画とアレン様を交互に見つめ話し始めた。
「ヘルゼンの御代から三代、トバルズ国には平和が保たれていた。ヘルゼンが見たパスカルは夢だったのではないか?と先代が言う程だった。だが、夢では無かったのだ。
アレンは難産だった。朝から産気づいたにもが関わらず、一向に産まれてこなかった。ジリジリと夜まで待っていると月が登って来た。巨大で月のように紅い・・・紅月だった。その月を見た時、全身に戦慄が走った。私は、我が子こそがパスカルの生まれ変わりだと悟った。つまりそれは邪悪な思想を持った魔法使いが先に産まれていることも意味してる。・・・私には紅月が滅びの前兆の気がしてならなかった。」
246年犀の2日
今日は朝からひどい胸騒ぎがした。
側近達に違和感を訴えても、皆一様に何も感じないという。どんな感じですかと聞かられても言葉では言い表せない。1番近いのは焦燥に駆られるような感じか・・・迫ってくるような何かを忘れたくて、執務室に独り籠り残っていた仕事に没頭した。
気づくと、夜が深まっていた。カーテン越しに漏れる月の光がいつもより強い気がして窓の外を見てみると、巨大な紅月が見えた。まるで迫って来るような迫力だった。その血のような"紅"に突然心臓が早鐘のようになり始めた。私の直感が、この場から逃げろと警告を鳴らしている。だが、その時には既に遅かった。
突然、パスカル王の肖像画に掛けていたカーテンが勝手に開いた。パスカル王の紅月のような赤い左目が怪しく光り輝いたと思った瞬間、部屋中の物という物が宙に舞った。私は咄嗟に停止の魔法を使い動きを止めた。
──さすがだな、ヘルゼン。
低い、聴く者を震え上がらせるような声がした。
──パスカル王!
その声はパスカル王の肖像画から聴こえてきていた。
みるみるうちに肖像画が何倍にも大きく膨れ上がった気がした。
──今宵は紅月。月の女神が狂乱する祭りの日。私の呪いを解いたトバルズの王よ。そなたに聞きたい事があって闇の回廊を渡ってきた。
その声を聴くうちに恐怖で両足の膝が震えた。怯えを悟られないよう、舌打ちをした。
──地獄から来たのか!何の用だ。
──知れたことよ。魔法使い共を狩らずにこの国をどうやって守っていくつもりなのか問いただしたかったからだ。そなたがこれからやろうとしていることはなんだ。
私は、思いつく限りの施策を早口で捲し立てた。
──それが全てか?呆れるな。そなたが話したことは、人が善き者だという前提がある。そんな思想では国は守れぬ。人は裏切り、破壊行動を繰り返す。争いの芽を摘まず、取り返しがつかぬようになってからでは遅いのだぞ。
──だが、やって見なければ分からぬ!
その時、グンと紅い眼が大きく近づいた気がした。
──では、やって見るがいい。だが、危険思想を持つ邪悪な魔法使いが産まれたら、そんな甘っちょろい考えではこの国は滅びることになるぞ。この国を守る為に命を落とした全ての犠牲が無駄になるのだ。・・・私はこの国を守ると大事な人達に誓いをたてたのだ。むざむざと見過ごすことはできん。・・・邪悪な魔法使いが産まれたら、もう一度闇の回廊を渡って、そなたの子孫としてこの国に戻って来よう。そなたが作り上げた方法で対応出来なければ、私の方法でこの国を守って見せる。
その時、突然激しい風が吹き窓ガラスを割った。差し込んできた紅月の真っ赤な赤い光が、まるで赤い絨毯のように見えた。
パスカル王の肖像画を見ると、いつものただの絵になっていた。
夢を見たような気分だったが、部屋中に散乱した物と割れた窓ガラス・・・何より激しく波打つ鼓動が現実だと物語っていた。
私に子孫とこの国を守る為に何ができるのか。改めて考えなければならない。
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その日の日記はそこまでで終わっていた。
アレン様の顔色は真っ青になっていた。パスカルの肖像画に目をやる。
「父上、この日記にあるパスカル王の肖像画とはアレですよね。何故まだここにあるのですか?こんな不吉な物、処分すれば良いのに。」
「先代の王が処分しようとしたが、触れた者全てが原因不明の病気になったり、事故にあったりした。王自身が焼こうとしたが、絵は火に巻かれても焼けなかった。その代わり王は原因不明の病で三日三晩生死の境をさまよった。それから誰もあの絵には触れようとしていない。」
アレン様はまた、唇を噛んだ。
アレン様の唯ならぬ様子に不安になりながら、陛下のお言葉に耳を傾ける。
「日記にあったように、ヘルゼンはパスカルに忠告を受けた。ヘルゼンのやり方では、いつか国が滅びると。彼は、まずこの王宮に魔法の侵略を抑えるバリヤを貼った。魔法を特定しない張り方は脆弱なので気休め程度だが・・・。アレンには古の魔法と伝えていたが、あの事件の時王宮にいたクリストファーを僅かに守っていたのはヘルゼンの魔法だ。」
アレン様は何か言いたげに、口を開きかけたが首を振り何も言わなかった。
「ヘルゼンが最も恐れていたものは『暗黒期 』の再来だ。1人の魔法使いなら武力で対抗出来ても、集団になったら叶わない。彼は騎士団を倍増し、危険思想に傾倒する集団達を取り締まった。これは魔法使いだけではなく、国家転覆を企む輩や犯罪組織など多岐に渡った。騎士団は必要な部団が細分化し、類を見ない程の強固なものとなった。その頃からこの国は"武のトバルズ"と呼ばれるようになった。
次に『暗黒期 』の内乱に備え、諸外国と積極的に縁戚を結んだ。これは内乱となれば諸外国の侵略を受ける可能性があるためだ。他にも様々な施策を実行して行った。・・・ヘルゼンの施策は功を奏したかに見えた。だが・・・」
陛下はその先を語ることを、躊躇うように少し沈黙した。パスカルの肖像画とアレン様を交互に見つめ話し始めた。
「ヘルゼンの御代から三代、トバルズ国には平和が保たれていた。ヘルゼンが見たパスカルは夢だったのではないか?と先代が言う程だった。だが、夢では無かったのだ。
アレンは難産だった。朝から産気づいたにもが関わらず、一向に産まれてこなかった。ジリジリと夜まで待っていると月が登って来た。巨大で月のように紅い・・・紅月だった。その月を見た時、全身に戦慄が走った。私は、我が子こそがパスカルの生まれ変わりだと悟った。つまりそれは邪悪な思想を持った魔法使いが先に産まれていることも意味してる。・・・私には紅月が滅びの前兆の気がしてならなかった。」
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