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平定者パスカルの呪い:血塗られた手

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陛下は、私とアレン様の顔を交互に見つめた。

「2人は、"悲劇の王子"の物語を知っているか?」
「はい。知っております。」
「はい。聞いたことがあります。」
ライディンから教えてもらった物語を思い出す。

「あの話には幾つか矛盾点がある。だが・・・その中で最も矛盾があるのはパスカルの『平定者』という尊称だ。「タヤーナ峡谷の戦い」で活躍したのはアーサーだ。パスカルはのか・・・あの話には出てこない。」

平定者・・・確かに何を平定したのかは出てきていない。彼は何を平定したと言うのだろう。

「この絵ではパスカルの瞳は色が違うだろう。元々は両眼とも紫色の瞳だったそうだ。「タヤーナ峡谷の戦い」での出来事やエリスの死、身内の裏切り・・・真実を知った時、彼の左目からは血の涙が流れ瞳の色が変わった。それが"平定者パスカルの呪い"の始まりだと王家では言い伝えられている。」

「父上、私は知りませんでした・・・"平定者パスカルの呪い"とは」
「・・・そなたの立太子式が終わったら話すつもりだった。そなたが王太子にならず、王位を次ぐ予定がなければ話すつもりは無かった。」
アレン様は唇を噛んで黙り込んだ。

「平定者パスカル・・・彼のしたことを一言で言えば粛清だ。」

粛清・・・その響きのおぞましさに戦慄する。

「パスカルは、敵味方関係なく老若男女も問わず一定の魔力以上を持つ魔法使い全てを暗殺した。魔術師は闘争に使用出来る魔法陣を没収または焚書にし、逆らうものは奴隷にした。
巷には"悲劇の王子"の噂を流し、死にゆく彼ら魔法使いの死をアーサーの・・・"悲劇の王子の呪い"として洗脳して行ったのだ。皮肉にも・・・いやパスカルの狙った通りなのか、魔法使い×魔術師の不毛な戦いは終わりを告げ、トバルズ国に平和が訪れたはずだった・・・だが、国が安定した後も隷従させた魔術師達を使い、一定以上の魔力が有れば赤子でも問答無用で暗殺して行った。いつしか隷従した魔術師達は王家では隠語で"屠るもの達"と呼ばれるようになった。パスカルの存命中に命を落とした魔法使いとその関係者は数百人に及んだという。」

陛下は自らの拳を強く握った。

「パスカルは自分の死後、また魔法使い×魔術師の不毛な戦いが起きることを恐れた。そのため、次世代の王達と、隷従させた魔術師達の子孫たちに一定の魔力を持つ魔法使い達を処分していくように"呪い"を掛けた。」
「"呪い"ですか?」
「そう、パスカルの意志に逆らえば狂死するという。恐ろしい"平定者パスカルの呪い"だ。」

「父上、何故?何故パスカルはそこまでしなければならなかったのでしょうか?」
アレン様の声は動揺からか僅かに震えていた。

という理由は分からない。憶測だが、アーサーから託されたトバルズ国を守る為だったのだと思う。パスカルは魔法使いを処分すること、魔術師の力を王家の支配下に置くことで、トバルズ国を守り続けたかったのではないかと思う」

ライディンから聞いた時もそんな言葉を聞いたことがあったのを思い出した。

──"悲劇の王子"の遺言を汲んだ平定者が、王家の子孫にそのように導くよう伝えた可能性がある──

「"平定者パスカルの呪い"は王家と隷従させた魔術師達を縛り続けていた。歴代の王は無辜な民や貴族達を屠り、その手を血に染めてきた。それに異を唱え、"平定者パスカルの呪い"の呪縛を断ち切ろうと立ち向かった王がいた。4代前の王、ヘルゼン・トバルズ王だ。」

陛下が指差した肖像画を何気なく見て心臓がキュッと痛くなった。その肖像画の男性はクリス様によく似ていたのだ。優しく微笑むような口元、透き通るような紫の瞳、輝くブロンドの髪をしていた。

「クリストファーによく似ているだろう。ヘルゼンは見掛けは優男だが、トバルズ国の歴史上1番の魔力を持っていたと言われている。彼は、魔力を持って産まれてきただけで罪もなく殺されていく命を見捨てることが出来なかったのだ。彼の魔力の前には"平定者パスカルの呪い"も発動出来なかった。パスカルの意志に逆らいながら狂死しなかったのは彼だけだ。」
「兄上・・・では兄上も生まれ変わりなのですか?」
「分からない。と違ってクリストファーには何も感じたことはない。外見はただの先祖返りも有り得るからな・・・。」
「そうですか・・・」
アレン様はすこしガッカリしたようだった。

「ヘルゼンは"平定者パスカルの呪い"を解くために奔走した。東の国パタンやメシアン国、南の国エストアの高名な魔法使いを訪ねたそうだ。そしてとうとう"平定者パスカルの呪い"の解ける大魔法使いを見つけ出し王家の者達、隷従させた魔術師達に掛けらた呪いを次々に解呪して行った。そして解呪された魔術師達の奴隷契約を破棄し自由の身とした。ダリスやライディンの先祖は、"屠るもの達"の一族の内の1つだったのだ。」
だがな・・・と陛下は溜め息をついた。

「ヘルゼンは、魔術師達を解放するにあたり古の毒や禁術の持ち出しを禁じた。だが、アーリス嬢に使われていたのは屠るもの達が使用していた禁術と古の毒だった。信じても裏切られる事がある。ヘルゼンもやりきれない思いだろう・・・とはいえアーリス嬢、貴女には迷惑をかけた。ヘルゼンに代わって謝罪する。」
陛下はそういうと私に向かって頭を下げられた。

「へっ陛下、私に謝罪など不要でございます!頭を上げてください。」
慌てふためく私をよそに、陛下はゆっくりと頭を上げ、話を続けた。

「ヘルゼンは"平定者パスカルの呪い"を解き放ち、無辜の者たちを救ったことに満足していた。だが、ある日、恐ろしい事が起きたのだ。」
「恐ろしい事・・・?」
「そうだ。この執務室で起こったことだ。口で説明するのが難しい。ここにヘルゼンの日記がある。読んで見てくれ。」
渡された古い日記には、しおりが挟んであった。
アレン様と共に、しおりの挟まれたページを読んで行った。



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