禿げブサメン、その正体が超優良物件だったという話

革酎

文字の大きさ
7 / 65

7.バレてしまった人生観

しおりを挟む
 昼の休憩時間。
 源蔵が会社近くのコンビニに足を延ばそうとしたところで、不意に後ろから声がかかった。
 企画課の美智瑠と晶だった。このふたりとは、啓人が主催した合コン以降、たびたび顔を合わせる様になった――というよりも、向こうの方から何かと声をかけてくる様になったといった方が正しい。

「楠灘さん、こんにちは~。今日のお昼はコンビニ?」
「そうですねぇ……ちょっと出遅れたんで、どの店も混んでそうですし」

 などと適当に返しながら、源蔵はふたりから距離を取ろうとした。が、どういう訳か美智瑠も晶も源蔵の左右に張り付いて、一向に離れる気配が無い。

「おふたりもコンビニで済ますんですか?」
「ん~、最初はどうしようかなって思ってたんですけど、ま、コンビニでもイイかな、って」

 などと答えながら、美智瑠は何ともいえぬ微妙な笑みを返してきた。
 源蔵が啓人から聞いた限りでは、美智瑠はイケメン至上主義で、不細工な奴はそもそも眼中には無い筈だ。
 それでも何かと絡んでくるのは矢張り、源蔵の資産総額を見てしまったからなのか。

(別に親しい相手でもないのに、何を思って僕に絡んでくるのやら)

 何か美味いものでもご馳走してくれると思っているのだろうか。
 生憎ながら、源蔵といえどもそこまでお人好しではない。彼が本当に助けたいと思う相手は一所懸命努力し、それでもどうにもならない程に追い詰められている様なひとびとだ。
 少なくともただ資産総額に目がくらんで近づいてくる様な輩は、相手にしたいとも思わない。
 それは老若男女問わず、である。
 源蔵が純粋に助けたいのはただ兎に角、頑張っているひとだけであった。

「そーいえば楠灘さんって、カノジョとか居るんですか?」
「居ませんよ」

 美智瑠の問いかけには何らかの意図を感じたが、余り深く追及しないことにした。下手に首を突っ込み過ぎると藪蛇になる。
 ところが、そんな源蔵の警戒心を知ってか知らずか、美智瑠も晶も更にぐいぐいと恋バナを持ち掛けようとしてきた。

「えー、そんな勿体無い……誰か良さげなひと、居ないんですか?」
「良さそうなひとが居る居ないは関係無いです。これは僕の人生観の問題なんで」

 出来れば深くは語りたくなかったが、余りにしつこい様ならば、自らの主義を叩きつけて諦めさせるしかないであろう。
 源蔵は美女ふたりを撃退する為ならばと腹を括った。

「それって、どういうことなんですか?」

 晶が横合いから覗き込んできた。30cm程の身長差がある為か、子供が大人に質問攻めで食いついている様な錯覚に陥った。

「実は、こんな僕でも過去に三回、好きな子に告ったことがあるんですよ」
「えー、そうなんですか? 聞きたい聞きたい!」

 美智瑠がまるで女子高生の様なはしゃぎっぷりで食いついてきた。
 しかしこれは、源蔵が仕掛けた罠だ。ここから彼女はドン引きワールドに突き落とされることになるだろう。それが狙いだった。

「こっ酷くフラれましたよ。お前みたいな不細工は論外や、いうてね」
「あっ……」

 ここで一瞬、美智瑠は引きつった笑みのままで凝り固まってしまった。馬鹿みたいに笑顔で囃し立てた結果が悲惨な体験談だったということを、想定もしていなかったのだろう。
 晶も流石に気まずくなったのか、形ばかりの愛想笑いを浮かべている。

「世の中には三にまつわる諺とかいい回しが多いですよね。二度あることは三度あるとか、三度目の正直とか……でも僕の場合は、仏の顔も三度まで、なんです」

 この時、美智瑠と晶は若干の不安を交えた表情で、何だろうと顔を見合わせた。源蔵が語る言葉の意味が、理解出来ていない様子である。

「まぁ要するに、女性と付き合う為のチャンスは三度まで、っちゅう訳です。それ以上は何度やっても無駄なんでやめとけってな訳ですわ」
「えー、そんなこと……」

 晶が何やら反論じみた台詞を口にしようとしたが、ここで源蔵はわざとゴリラの顔真似をして彼女の端正な顔を逆に覗き込んでやった。

「この不細工なツラに、三度以上のチャンスなんてあると思います? イケメンなら何ぼでもチャンスはあるんでしょうけど、こんなブサメンは三回チャレンジしてダメやったら、この先何度やっても一緒です」

 源蔵のこの理論に、美智瑠も晶も反論のしようが無いのか、すっかり黙り込んでしまった。
 世の中には挑戦もしないうちから、どうせ自分は駄目だと拗ねる様な輩は大勢居る。
 しかし源蔵は最低でも三度は己の可能性に賭けてみようと考えた。挑戦した上で、それでも駄目ならば諦めるしかないと腹を括った上で。
 そうして三度の告白はいずれも完璧に粉砕された。
 自分は、やるべきことはやった。やった上で、敗れ去ったのだ。であれば、誰に何を非難される謂れもないだろう。
 源蔵としては、精一杯のことはやり抜いたのだから。
 その上で源蔵は、自分には恋愛や結婚など不可能だと結論づけたのだ。この結果に対し、他者がどうこういうのは大きなお世話である。

「まー、そんな訳で僕は一生カノジョも作れませんし、結婚も出来ません。生涯童貞で生きていきます。なのでおふた方とも、僕なんかよりもっと将来性のあるイケメンとつるんでた方が生産的ですよ」

 そこまでいい切って、源蔵は歩くペースを速めた。
 一方、美智瑠と晶は半ば呆然とした表情のまま、源蔵からどんどん距離を空けられてゆく。
 もうこれで良いだろう。
 源蔵は既に女性との『男女の仲』は諦めているのだ。
 これ以上は無駄に関わるな――彼が発したメッセージは、彼女らには十分に伝わったと思われる。

(ブサメンには人権は無い。悲しいけど、それが今の民意ってやつですよ)

 しかし、今更辛いとも悔しいとも思わない。
 そんな感情はもう、随分と前に潰えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...