禿げブサメン、その正体が超優良物件だったという話

革酎

文字の大きさ
53 / 65

53.バレてしまった同居

しおりを挟む
 美月はテーブル上で両手を組んだまま視線を落としていたが、ややあって、若干上目遣いの形で源蔵の強面に瞳を向けてきた。

「……御免、まだちょっと、すぐには返事出来ない。何だか頭ん中がごちゃごちゃしてて……それに、お母さんのこともあるし……」
「あぁ、別に僕も急いでませんよ。蕗浦さんがその気になったらでエエですし、もっというたら、断ってくれても結構ですから」

 いいたいことは、全て伝えた。
 美月が源蔵を信じるか、信頼を置くかどうかは別問題だ。彼女が源蔵を信じることが出来ないなら、それはそれで構わない。
 源蔵としても、自分のことを信じてくれなどと強要するつもりはない。
 ただこれは、源蔵からの一方的なお願いだ。
 美月がひとり立ちし、彼女が自分の人生に幸福を見出してくれることが源蔵自身の精神の幸福に繋がる。或いはその切っ掛けになるかも知れない。
 いうなれば、これは源蔵本人の願望であり、我儘だ。
 それを美月という依り代を使って実現させようとしているに過ぎないのである。

「つまりうちは、楠灘さんの身代わりってこと?」
「まぁ簡単にいうたら、そういうことです」

 源蔵は苦笑を滲ませながら小さく肩を竦めた。
 自分では出来ないから、代わりに美月にやって貰う。彼女の美貌ならば、それが可能だ。美月をひとりの自立した女性に仕立て上げれば、自ずと彼女に魅かれた男性が現れるだろう。

「僕はもう自分の不細工さに拘り過ぎて、すっかり拗れてしもうたから、今更何も出来んと思ってます。けど蕗浦さんはまだまだ挽回のチャンスがあるんで、そこに僕の存在意義ってのを見つけたい」
「それで楠灘さんは、割り切れる? うちひとりだけが幸せになって、それを横から見てるだけなんて……そんなのって、何かちょっと、変っていうか……」

 美月は尚も理解不能だと渋っている。
 だが源蔵の心理は、彼女には一生分からないだろう。
 だからこそ、源蔵はそこまで無理強いするつもりも無かった。

「決めるのは蕗浦さんです。僕は僕自身の心の幸せの為に、蕗浦さんを利用しようとしてるだけなんでね。さっきもいいましたけど、僕なんぞに操られんのが嫌やったら断ってくれてもエエですよ」

 ここで源蔵は席を立った。
 明日も仕事がある。そろそろ入浴を済ませ、明朝に備えなければならない。

「話は以上です。蕗浦さんもまだ体調が万全やないでしょうから、しばらくは何もせんとゆっくりしとって下さい……あ、昼飯ぐらいは自分で何とかして下さいね。冷蔵庫ん中、適当に漁って貰って結構ですから」

 源蔵はそのままバスエリアへと向かった。
 彼の後方では、美月も立ち上がって頭を下げている気配を示した。

◆ ◇ ◆

 翌日の定時後。
 源蔵は詩穂を伴ってリロードへと顔を出した。

「また近々、うちからボードゲームをこっちに持ってきますけど、その時にはまた神崎さんと坂村さん、あと冴愛ちゃんにも色々お手伝いして貰わんといけんのですが……」

 ここで源蔵は、自宅に今、ひとりの女性を住まわせていることを正直に伝えた。
 冴愛と詩穂はただ驚いただけだったが、操の面には加えて困惑と不安、更には僅かな嫉妬の色も浮かんでいるのが伺えた。

「あ、別にいかがわしい関係ちゃいますからね」

 源蔵は叔父から受けたアパート解体時の相談と、結果として美月を引き取ることになった経緯を説明した。
 そこで冴愛と詩穂は何となくではあるが納得した様子を見せた。
 が、操は相変わらず、腹落ちしたとはいい難い微妙な顔つきを覗かせていた。

「楠灘さんが、保護の必要ありって判断したことには、きっと間違いは無かったんでしょうけど」

 カウンター裏で頬杖をつき、若干頬を膨らませている操。
 源蔵はしかし、そんな操の反応は敢えて見なかったことにして、次のボードゲーム移動の際には美月が居ても驚かない様にとだけ釘を刺した。

「それにしても課長……ホントにマジで、色んなオンナに食いつかれますねー」

 詩穂が呆れるやら感心するやらなどと笑ったが、源蔵は別に美月を自分のカノジョにしようとしている訳ではないとかぶりを振った。
 するとまたもや、操が不機嫌そうに源蔵の顔をじぃっと睨みつけてくる。

「楠灘さんが変な下心を持って動く様なひとじゃないってことは、そりゃあ私もちゃんと分かってますけど……でもやっぱりちょっと、悔しいっていうか何ていうか……」

 実のところ源蔵は、自分に執着するのはやめて他の男を探せ、という話を操にはまだ持ち掛けていない。その話をする前に、美月を預かる格好となったからだ。
 しかし、仮に美月との同居が無かったとしても、果たして操に、自分を諦めてくれなどとはっきりいえたかどうかは少し怪しい。

(やっぱ僕なんかが、そんな偉そうに上から目線でいうのは、ちょっと変やなぁ)

 源蔵は何度も何度も考えた。
 自分の如きブサメンが、美女たる操にそんな宣言が出来る立場なのかと、矢張りどうしても委縮してしまうのが現状だった。
 そもそも操にしろ美智瑠にしろ晶にしろ、ちゃんとした形で源蔵に告白してきた訳ではないのである。
 いってしまえば、源蔵が勝手に三人の女性の心理を読み解いているだけであり、それが必ずしも的中しているとは限らない。
 そんな状況で、

「僕のことは諦めて下さい」

 などと、いえるのかどうか。

(もし違ってたら、ただの自意識過剰なキモいブサメンやしなぁ……中々難しい)

 結局、彼女らの気持ちがはっきりと分かるまでは源蔵の方からも何もいえないという結論に落ち着いた訳である。こんな状況で何が語れるというのだろう。

(まぁそれいうたら、神崎さんが怒るのもおかしな話やねんけど)

 源蔵に対して素面の状態で、好きだとも何ともいっていない操が、源蔵と美月の同居に対してどうこういえる立場ではない筈だ。
 少なくとも建前上は。

(クリスマスまでに何とか決着つけようかと思うてたけど、そういう訳にもいかんかなぁ)

 源蔵は背中に突き刺さる様な視線を感じながら、リロードを後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...