KEEP OUT

嘉久見 嶺志

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しばらくして、貸したブレザーを返された。

「本当にいいの?
まだ乾ききっていないんじゃ━━」

 彼女はうなずき、自分のブレザーをバックに入れて立ち上がっては、スカートの埃を払う。

そのとき、何か閃いたのか、スマホに文字を打ち込む。

『これから部活に行くんだけど、良かったら見学に来ない?』

「部活?」

文化系だろうか、だとしても障害のある志保が、部活に入っていることに意外だった。

「何部なの?」 

少し興味が湧いた鈴音に、入力を済ませたスマホを差し出す。

鈴音は、表示されていた部活動名に眉をしかめる。

 「“特設帰宅部”?」

聞き慣れない部活を口にし、 あまりピンとこなかった。

「…具体的に、何の部活なの?」

鈴音の質問に対して、少々悩んでいる様子。

説明しにくいのか、来れば分かると返答され、さらに不信感が増す。

そんな鈴音の手を取り、部室へと案内しようとする。

「待って」

志保は足を止め、鈴音と向き合う。

「行く前に、その、連絡先…」

視線をそらし、顔を赤らめる彼女に、とても微笑ましかった。



手を引かれながら階段を上り、角を曲がると、例の表札が目に入った。

本当にあった…。

あまり気乗りしないまま連れてこられた鈴音を廊下に残し、先に志保が入室する。

すると、当然の反応が返ってきた。

「どうしたの!? その格好!?」

「ビショビショじゃん!!」

志保の湿ったカーディガン姿に、部員は皆驚いている模様。

そりゃそうなるよ。

しかも、中には聞き覚えのある声が何人かいるし。

徐々に場が静まり返ったところで、入り口から志保が顔を出し、手招きしてきた。

どうやら準備が整ったようだ。

鈴音は、恐る恐る室内を覗くと、衝撃が走った。 

中には、4人の男子生徒がおり、その中に最も会いたくなかった人物がそこにいたのだ。

「━━あれ? 星、さん?」

ケータが口開くと、動かなかった足が咄嗟に反応し、気づけば廊下を駆け出していた。

志保は、慌てて鈴音に手を伸ばすが、あっという間に遠くへと走り去っており、触れることすらできなかった。

「━━えッ? 何?」 

残された部員たちは、状況がよく理解できず、顔を見合わせる。

角を曲がり終えたところで失速し、胸を押さえながら息を荒く吐く。

なんで、あの人がいんの!?

呼吸を整え、歩き続けているうちに、志保への罪悪感が増していった。

最低な事しちゃったな。

後でLAINを送ろう。

頭の血が下がってきたのか、重要なことに気づいてしまう。 

そういえば、アタシ…。

落ち込んでいると、通りすがりの白衣を着た少女が目に入った。 

腰まであるロングカールの茶髪に、前髪をカチューシャで上げている。

身長に合っていない白衣の袖を捲り、小さな手で書類を持っている。

ワイシャツにループタイ、黒のロングスカートを履いていた。 

生徒、かな? いや、でも━━。

 見た目で判断している状況じゃない。 

「あッ、あのッ━━!」

少女を呼び止め、駆け寄っては、すがる思いで尋ねる。

「昇降口って、どこですか?」




 
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