KEEP OUT

嘉久見 嶺志

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「部活見学に誘った!?」

ケータ達にスマホを見せ、自身の経緯を省き、鈴音を連れてきた事情を説明した。

「星さんって、“カン”が視えるの?」

未来の問いに、志保がハッとした様子を見せたため、勢いだったのかと周囲は察した。

「この部活自体特殊すぎるから、一般人が入部するってかなり難しいと思うけど…」

「いやッ! そんなことよりも━━」

ナベショーが話しを強制的に中断させ、一番気になっていることに触れ始める。

「なんで小賀坂さんがびしょ濡れなんだで!?
そこんとこ詳しく━━」

「ナベショー」

ここに来て、初めて声を出した直樹。

「しつこいと女子に嫌われるよ」

穏やかにそう言うと、まだ何か言いたげなナベショーに、 未来が軽く肩を叩く。

無言の彼や周りを見渡し、空気を悟ったのか、気持ちを抑える。

「━━それと、小賀坂さん」

直樹は、立ち尽くす志保に声をかける。

重荷を背負うのも・・・・・・・・程々にね・・・・

彼に対し、スマホを持ったまま、両手を合わせて軽く会釈する。 

「━━でもすごいな。
初日でもう仲良くなったんだ」

そう言うと、志保は、照れながらにやけた口元をスマホで隠した。

「はいッ! それじゃ、気を取り直して、特設帰宅部のミーティング始めますかッ」

未来が手を叩き、ナベショーにペンを持たせると、戸惑いながらもホワイトボードに文字を記していく。

志保も開いている席に着き、荷物をテーブルの下に置いた。

“ミーティング”の下に活動内容を書き終え、ボードに手を当てる。

「はいッ、今月の“害虫駆除”の件数8件。
そのうちのほとんどは、ケータが怪我したり、ドジったりして、ボロボロになってきましたッ!」

「ケータらしいねェ」

「いいよッ!? 別にそんなこと言わなくったって!?」

イジられたことによって場は和んだが、本人はふてくされ出し、ぶつぶつ言い始める。

「だってしょうがないじゃんよ。
穏便に済ませようとしてんのに、話しかけた途端にぶん殴られるし、相手を捕まえようとしたら、取り逃がしちゃうし━━」

「そういえば、未来君、生徒会行かなくていいの?」

アレ? オレ、スルーですか!?

直樹によって強引に話題を変えられてしまい、流されてしまう。

「大丈夫ッ、今日はなんかめんどくさい内容だったはずだから」

そして、それでいいのか!? 未来君ッ!?

ガッツポーズをする未来に、動揺するケータだった。

「━━それで、今日は誰が福島行くの?」

ケータは不服だったが、改めて話を戻してみる。 

「今日はバイトあっから無理」 

「いや、俺だってあるし」

「良いべ~、どうせ今月4日しかバイト無ェんだべ?」

「いや、だからだろ。
それに、人の心の傷をつつくようなこと言うなや」

乗り気のないナベショーに、ケータは呆れてしまう。

「じゃあ、オレが代わりに行ってあげようか?」

そこで未来が軽く挙手し、名乗り出た。

「いや、未来君は駄目でしょ。
“副会長”の立場をオレ等のせいで危うくさせるわけにはいかないし。
つか、未来君、“駆除”できなくね?」

「ハッ! 未来君をなめんなよッ!
未来君がその気になれば、お前よりも状況をすぐに判断してッ、頭脳プレイでッ、秘めt●Ⅹ▲■━━、ッしゃあ! 噛んじまったッ!!」

「━━大丈夫、お前の言いたいことは、だいたい分かったから」

感情的になったナベショーを、ケータが落ち着いて眺める。

「よしッ」

すると、いきなり直樹が口を開いた。

「ケータ君で行こうッ」

「ちょっと待てッ!?」

ケータが強引な決定を瞬時に止めるが、直樹は無表情のまま引こうとしない。

「ケータ君で行こうッ」

「いやッ、だから━━」

「ケータ君で行こうッ」

「あのッ━━━━━━」

「ケータ君で行こうッ」

「…はい」

折れた━━。 

畜生━━━!

テーブルに顔を伏せると、ナベショーが身を乗り出し、彼の肩にそっと手を置いた。

「大丈夫だって。
バイト終わったら、多分すぐに行くと思うから」

「“多分”ッ!?」

追い打ちをかけるナベショーに、志保は、こらえきれず吹いてしまう。

「━━仕方ない、みんなで行こうか」

盛り上がっている中、直樹がやれやれとそう呟くと、場の空気が止まった。

…はい?



━━陽は沈んで暗くなり、時計の針が20時を指す。

春の夜は気まぐれで、冷たい風が肌を刺した。

1日の労働に疲弊した者達が、酒や娯楽を求めて駅から散っていく。

そんな中、特設帰宅部は、福島駅西口に集合していた。

「━━それでは、“害虫駆除”しに来たわけですが、気を引き締めて行きましょう~」 

直樹は、覇気のない棒読みで部員に声かけをする。

昼間と違い、全身黒の印象が強く、マスクを着用し、薄いタートルネックに袖を少し上げ、 革バンドの時計が左腕に映えている。 

細めのスキニーに、マーティンブーツを履いて立っていた。

「お~ッ!」

未来が軽い返事をしながらガッツポーズをする。 

彼はカーキのミリタリージャケットを着て、ファスナーを胸元まで下げている。

下は、暗めのデニムに、ブラウンのローカットブーツを履いていた。

隣に並ぶ志保は、ロングカーディガンに紺のシャツ。

デニムにスニーカー姿で、未来につられて控えめに片腕を上げて見せる。

それよりも、目の前のベンチに座ってる彼らが気になり、気まずくてならなかった。

━━結局、俺バイト休む羽目になったし。

━━オレ、バイト始めて一週間ちょいしか経ってねェのに。 

どうやら強制的にサボる羽目になったらしい。 

ケータは、赤と黒を強調した服装をしていた。 

薄生地の黒いコットン帽子を深くかぶり、赤チェックシャツの上にファー付きダウンベスト。

左手に腕時計、細身のズボンに、ワインレッドのマウンテンブーツを履いている。

ナベショーは、 赤パーカーに黒の V ネック、ダボダボ感のある暗いカーキのカーゴパンツに、スニーカーを着用していた。 

二人は、重い空気を漂わせ、揃って深い溜息を吐く。 

「それじゃあ、2組に分かれるよ」

直樹は、そんな二人を無視して話を進める。

一組目、直樹、未来、ナベショー、志保。

二組目、ケータ。

「よしッ! オッケィッ!!」

「うおィッ!!」

ケータは、理不尽な組み分けに異議を唱えた。

「なんだで?」

「おかしくね!? オレだけっておかしくね!?」

「おかしくねェで。
バランス良く分かれたべした」

「え"ッ!? 二組ってそういう━━!?」

ケータは、てっきり2:3で分かれると勘違いしてしまっていたようだ。

「せめて未来君と一緒にさせてッ!」

「何言ってんだで、未来君は、なっくんのサポートに決まってッペしたァ」

ケータが必死になってナベショーに訴えかける姿に、直樹は呆れてため息をこぼす。

「━━わかったケータ君、寂しい気持ちは分かったから。
じゃあ、こうしよう」

ケータ×志保ペア。

「ちょっと待てッ!?」

ケータは、再度異議を唱えた。

「なんだで? まさかお前、小賀坂さんを足手まといだとでもいうのかで!?」

「別にそういうわけじゃ━━」

「だったら良いべした」

さらに物申そうとしたが、横にいる志保が目に入り、気まずくなったため、喉の奥に止めた。

「それじゃよろしくね。
何かあったら、いつも通りすぐに行くから」

そう言って直樹達は、二人を残して二手に分かれたのだった。



とりあえずケータと志保は、線路に沿って歩き出した。

街灯の少ない夜道、所々に駐車している車を通り過ぎる中、沈黙に耐え切れず志保がスマホを見せてきた。

『私って足手まとい?』

「ッ! いや、そんなこと思ってないよ」

ケータは、焦って誤解を解こうとした途端、志保の目に明かりが消えた。

「ただ、俺のそばにいると━━ッ」

次の瞬間、後頭部に激痛が走り、景色が一気に暗転してしまったのだった。




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