朝のひだまりの中、君の隣で

有森崎あたる

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25時のバレンタイン・キス ① 〜プロローグ〜

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ファッションビルが立ち並ぶ繁華街。
色とりどりのモダンな洋服や、華やかなバッグ、煌びやかなアクセサリーがショーウィンドウを飾る。
人気の音楽が流れ、流行りのファッションに身を包んだ人々が通りを埋め尽くす。

僕は、新しいセーターが欲しくて、お気に入りのショップを目指した。
久しぶりの街の様子に、時折足を止めつつ、ショップにたどり着くと、店内に足を踏み入れる。

一推しの洋服を纏うマネキン、棚に折り目正しくきちんと並べられた洋服や、壁側に飾られたバッグにシューズ。
お目当てのセーターのコーナーを目視で確かめると、一目散にそこを目指す!

「う~~~ん、どれにしよう…」

あらかじめ、ネットで見て決めていたのに、実際にいろんなセーターを目の前にすると、目移りしてしまう!
僕は、あれこれ悩んだあげく、大好きなモスグリーン色のセーターを手に取り、体にあてがうと、近くにあった鏡に向かった。
鏡に映った自分の姿をじっと見つめ、右に左に向きを変えて、再び正面に向かうと、納得するように首を縦に振った。

「うん!これにしよう」








ショップの紙袋に入れられた、買ったばかりのセーターを片手に店を出る。
欲しいものを手にした満足感からか、自然と頬が緩み、足取りも軽い。
明日、早速着て出かけようかな…と考えながら通りを歩いていると、ふとそれは、僕の目に飛び込んできた!


真っ赤なハートと大きなリボン!
そして、
華奢な箱に入った、艶やかに光る小さなチョコレート。


ショーウィンドウに飾られたバレンタインチョコのディスプレイだ。

(あ…もうすぐ、バレンタイン…)

思わず足を止めて、僕はショーウインドウを覗き込む。

(そういや、彼と初めてのバレンタインだ…)

華やかに並ぶ色とりどりのいくつものチョコレート。
赤やピンクのハートとバルーンが浮かび、乙女チックでファンタジーなその世界に一瞬で飛び込んだように、僕はしばらく見惚れてしまう。

(うわぁ…可愛い…)

すぐに、彼の顔が脳裏に浮かんだ。

(彼に…チョコ、あげた…い)

「…んん?」

(…彼?好きかな?そういや?チョコ、食べてるとこ、見たこと…あった???)

僕は、1人立ち尽くしながら考える。

(他の物をあげる?でも、やっぱ、バレンタインだし…チョコないのもなぁ…)

首をひねっていると、

クスクス…

と、聞こえる外野の声。
???と思い、チョコを見ていた目線を上げる。
目に飛び込んできたのは、ガラスに映る僕の顔と、こちらを見る後ろの通行人。
バレンタインチョコのショーウィンドウの前に張り付いている男子が目立っていたのか、振り返ると通りを歩く女子たちが、面白げに眺めていたり、注目していたり。

「見て見て、可愛いー!チョコ見てるよー!」

「え?欲しいの見てるのかな?彼女にリクエスト?」

「え?まさかの贈るほう?ヤバっ!キュン死すぎるー!」

それぞれにひそひそと口ずさむ声が、僕の耳に届く。

かぁぁぁぁぁぁぁ…!!!

僕は、恥ずかしくなって、たまらずその場を走り去った。








僕は、自分の部屋で、それと向き合っていた。
正座をし、神妙な面持ちで、テーブルに置いたそれをじっと見つめていた。
テーブルの上に、静かに置かれているのは、タブレットPC。
そして、開かれているサイトは、僕が生まれて初めて見る、お菓子のレシピサイト。

『あなたにもできる!初めて作る!手作りバレンタインチョコ!』

と、いう名の手作りチョコのレシピ。

恐る恐る、指を伸ばし、サイトのページをタップする。
その画面から目に飛び込んできた四角い世界には、女の子らしい、キュートでポップなデザインのパッケージに包まれた美味しそうなチョコのオンパレード!

「……」

無言で僕は、そのページから目を離す。

(…は、早まったか…)

チラリと、またそのページを見る。

(僕にもできるだろうか?)

今度は、ポンポンと数ページめくってみる。

(お、美味しそう~!)

作り方のページに手を止める。

(これなら?できそう???)

じっくり読み出す僕。

(やっぱ、買ったやつのほうが無難???いやいや、やっぱ手作りだろ!手作りの方が愛がこもってるし…でも?うまくできる???僕、料理苦手だし、彼が作ったほうが美味しいに決まってるし…)

ふと、目が止まる、サイトの中のキャッチコピー。

『これで彼のハートもとろけちゃう!』

「とろけちゃう…」

思わず、声に出して呟くと、ぽっと頬が熱くなった。

(いつも僕が甘えてばかりだから、今年のバレンタインは、手作りチョコで彼を驚かせて、甘えさせてあげたい…)

「よし!僕!頑張る!!!」

そして、またタブレットに向い、指を滑らし、検索し始めた。

「えっと…たしかもうすぐ始まるはず…」

検索サイトのトップに表示された、『トワイライト・ミスティック・イルミネーション』という文字をタップすると、キラキラと輝く幻想的なネオンの世界が画面いっぱいに躍り出た。

「あ!もう開催されてる!これ!これ、見たいんだよな…ここ行った後にチョコ渡して…」

ゆっくりとフェードアウトしながら、変わっていくイルミネーションの映像に、僕は彼と肩を並べて眺める姿を重ねる。

(こうして、2人の時間を、思い出をたくさん作っていきたい…昨日も会ったのに、もう彼に会いたいや…)

僕はその煌めく世界を目にしながら、スマホを取りだし、彼に電話した。
長いコール音の後、彼が電話に出た。

「もしもし?僕…」

「あ…うん、どした?」

短い返事と、変わらない彼の穏やかで耳に心地いい声。

「仕事終わった?今忙しい?しゃべれる?」

早く彼に、イルミネーションのことを話したくて、早口になる。

「あー…ちょい待って」

と、電話の向こうでガサガサと雑音が聞こえてから、しばらくして、

「もしもし?ごめんごめん、今商品の確認に追われてて…でも、抜け出したから大丈夫…で?何?」

「あ…ごめん…もう仕事終わったかなって思って…」

まだ仕事が終わっていない彼に、電話をしてしまった申し訳ない気持ちが心を咎めて、僕の声が小さくなっていく。
そんな僕の変化を察したのか、彼はすぐにやんわりと話した。

「大丈夫だよ、ちょっと息抜きもしたかったし…逆にお前の声聞けて、嬉しいよ」

心に染み渡るように、彼の優しさに包まれていく自分に、僕は改めて彼を好きになってよかったと実感する。

「本当は、今日会いたかったんだけど、なんか無理そう、ごめんな」

彼は、残念そうにため息混じりの声で話す。

「仕事忙しいんだね」

「まあね…バタバタしてて」

「あ、すぐに切るね、ごめん、あのね、今度、2人で行きたいところあって…」
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