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25時のバレンタイン・キス ②-2 〜バレンタイン前日〜
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「申し訳ございませんでした」
45度の角度でお辞儀をしながら、お詫びの言葉を繰り返す。
「本当にこの度は誠に申し訳ございませんでした、二度とこのようなご迷惑はおかけ致しませんので…」
その声の後に、はあぁ…と深いため息が漏れ、俺の胸に突き刺さる。
「ほんと、頼むよぉ~」
腕を組み、眉間に皺をよせて、その担当者は続けた。
「お宅との付き合いは長いから、あんまり言いたくはないんやけど…こんなまちごうた商品送られたら、ほんま困るでぇ~」
腕にかけた指をトントンと動かす仕草に相手の苛立ちを感じ取り、俺はますます、顔を上げづらくなった。
俺よりも一回り年上のその担当者の声は、大阪とあって関西弁が聞き慣れていないせいか、口調はゆっくりでも、凄みを帯びた叱責に聞こえた。
「ほとんどメインでいくつもりの商品やから、ちゃんとしてもらわんと…この日のために準備してきたモンも台無しや、お宅もそれはわかってるハズやで…こんな初歩的なミスとかありえへん…で、明日の展示会には、間に合わせてもらえるんやろね?」
それは、ほぼ強制だった。
でも、こちらが間違えた手前、ここで出来ませんとは、絶対言えない!
「そ、それはもちろんですっ、正しい商品を今こちらに向かわせておりますので、明日の開場時間までには必ず…」
その言葉に、相手も納得したのか、ふぅと短い息を吐くと、
「わかりました、君の言葉を信じます。頼みますよ、ほんま」
と、ポンと俺の肩を軽く叩いた。
「ほま、私は準備があるんで、失礼します」
と、くるりと背を向けた。
「申し訳ございませんでした…」
俺は、再度お辞儀をし、その担当者が見えなくなるまで、頭を下げ続けた。
カチャッと、薄いカードキーを入口のホルダーに差し込むと、パッと室内の照明が光る。
狭いベッドに、通路に置かれた違和感な椅子と、狭い部屋に不釣り合いな大きな液晶テレビ。
駅前のビジネスホテル。
俺は、大きめのビジネスバッグを床に放り投げると、疲れきった体を投げ出すように、ベッドに倒れ込んだ。
「うぅぅ…つかれた…」
ネクタイを緩め、天井のライトを見つめる。
(今日は散々な一日だったな…)
今日一日の出来事が、走馬灯のように頭を駆け巡る。
俺は、思わず瞼を閉じて頭を横に振る。
(思い出したくないことは、綺麗さっぱり洗い流そう…)
ムクッとベッドから起き上がり、スーツを脱ぎ捨て、裸になると、これまた狭いシャワールームに入った。
蛇口をひねり、熱いお湯を頭からかぶる。
シャワーが勢いよく噴き出すと、瞬く間に周りに湯気が立ちこもる。
なめらかな肩に、程よく筋肉が盛り上がる胸、引き締まった腹筋に、お湯がはじくように降りそそいでは、したたり落ちる。
俺は、絶え間なく溢れ出るシャワーのお湯に、嫌な思いをすべて洗い流すように、無言で浴び続ける。
ふと、あいつの顔が浮かんだ。
「そういや…電話してなかった…」
俺は、急いでシャンプーをし、体を洗うと、シャワーを終わらせた。
ややごわついたバスタオルを腰に巻き、濡れた髪から滴る水滴をタオルで拭いながら、コンビニで買ってきたミネラルウォーターを一口飲む。
チラッとベッドサイドの時計を見ると、深夜に近い時間。
俺は、スマホに履歴が残るあいつの電話番号をタップした。
トゥルルルル…と鳴り響くコール音の後、
プッ、「はい…」
あいつはすぐに出た。
(早い…待ってたのか?)
「俺…電話、遅くなってごめん」
「ううん…いいよ…仕事だろ…仕方ないよ」
その声はいつもより沈んでいて、今日会えることを楽しみにしていたことが手に取るようにわかった。
「ごめんな…今日行けなくて…会えなくて…ほんとごめん」
「ふっ…ごめんばっかだね」
「……」
こころなしか、棘のある言い方に聞こえてしまうのは、自分の中の罪悪感からか?俺は、思わず声につまった。
「今、何してるの?」
あいつが尋ねる。
狭苦しいベッドを横眼に、窓のカーテンを少し開けて、俺は椅子に腰かけた。
「うん…シャワー終わったとこ」
カーテンの隙間から窓の外の街のネオンを眺めながら、今度は俺があいつに尋ねた。
「おまえは?何してた?今日」
いつものように口から出た言葉に、俺は思わず、しまった!と後悔する。
約束していたデートを自分の仕事でドタキャンしておいて、無神経に聞いた自分を呪った。
「……」
(…案の定、返事がない)
急に不安が頭をもたげ、俺は慌てて聞き返す。
「もしもし?」
「聞いてるよ」
「ああ…」
あいつの返ってきた声に、ほっと胸をなでおろす。
「別に…暇だから…家…にいた」
ドキッ…!
俺の心に突き刺さる『暇』というワード!
「はは…そう…だよね…」
脳裏に蘇る、あいつと約束をした会話。
バレンタインのデート。
俺の心にどんよりした重い何かがのしかかる。
「今日は、電話の声だけで我慢してよ…明日帰るから…」
「……」
イルミネーション・スポットを見に行くのを楽しみにしてたあいつの顔が浮かぶ。
「明日必ずそっち行くから!まっすぐ行くから!絶対走って行くから!」
もうあいつの心に訴えかけるように、必死で連呼する。
「…うん…待ってる…」
「…うん、待ってろよ」
「じゃあ、切るよ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
と、言った後の少しの間に、あいつがまだ電話を切らないのがわかると、俺は、名残惜しい気持ちに小さく囁いた。
「好きだよ…おやすみ」
「……」プッ、プープープー…、
と、通話が切れた。
(は…?!!!)
俺は唖然として、しばらくスマホを見つめた。
「やべぇ…」
ベッドに両手両足を広げ、大の字に寝転ぶと、俺はモヤモヤする気持ちに焦りを覚えた。
(あいつ絶対怒ってるよなぁ…拗ねてる?いじけてる?もしや?泣いてる???)
膨らむモヤモヤ感に俺は急に思い立ったように、メッセージをあいつに送った。
《最後に言った電話の返事は?》
既読にすぐになった…が、返信がない。
破った約束の不安を拭いたい、そんな気持ちだけが先走る。
そんなことで俺たち2人の関係が揺らぐことがないのは頭で理解していても、あいつを悲しませている自分を否定したい。
そんな確信が欲しくて、俺は狡くなる。
「俺だって、お前に会いたいよ…」
1人、狭い部屋で、目を伏せて呟く。
(お前を抱きしめて、お前の体温を肌で感じて、いつまでもこの腕の中に捕まえておきたい…)
もう一度、メッセージを送ってみる。
《好きだよ》
またすぐに既読になる、が、返事がない。
(相当?怒ってる???)
俺は焦る気持ちと、少しずつ苛立ちが募り、思わず、スマホを裏返しに伏せた。
(ああ…何で?こうなる?そもそも発注ミスした事務員が悪いんだが…ちゃんと最後に確認しなかった俺のせいか?俺???)
自分の胸に自問自答する。
そのとき、スマホがブッブッと俺の手の中で振動した。
すかさず、画面を食い入るように見る。
(…!!!)
《僕も好きだよ》
やっと返ってきたその言葉を目に焼き付け、俺は思わず、ホッとした。
そして、
「はは…あいつの言葉ひとつに、一喜一憂するなんて…我ながら情けない…」
そう呟くと、少し気持ちが楽になった安堵感と、昼間の疲れから急に眠気に襲われ、俺はそのまま、深い眠りに落ちた。
45度の角度でお辞儀をしながら、お詫びの言葉を繰り返す。
「本当にこの度は誠に申し訳ございませんでした、二度とこのようなご迷惑はおかけ致しませんので…」
その声の後に、はあぁ…と深いため息が漏れ、俺の胸に突き刺さる。
「ほんと、頼むよぉ~」
腕を組み、眉間に皺をよせて、その担当者は続けた。
「お宅との付き合いは長いから、あんまり言いたくはないんやけど…こんなまちごうた商品送られたら、ほんま困るでぇ~」
腕にかけた指をトントンと動かす仕草に相手の苛立ちを感じ取り、俺はますます、顔を上げづらくなった。
俺よりも一回り年上のその担当者の声は、大阪とあって関西弁が聞き慣れていないせいか、口調はゆっくりでも、凄みを帯びた叱責に聞こえた。
「ほとんどメインでいくつもりの商品やから、ちゃんとしてもらわんと…この日のために準備してきたモンも台無しや、お宅もそれはわかってるハズやで…こんな初歩的なミスとかありえへん…で、明日の展示会には、間に合わせてもらえるんやろね?」
それは、ほぼ強制だった。
でも、こちらが間違えた手前、ここで出来ませんとは、絶対言えない!
「そ、それはもちろんですっ、正しい商品を今こちらに向かわせておりますので、明日の開場時間までには必ず…」
その言葉に、相手も納得したのか、ふぅと短い息を吐くと、
「わかりました、君の言葉を信じます。頼みますよ、ほんま」
と、ポンと俺の肩を軽く叩いた。
「ほま、私は準備があるんで、失礼します」
と、くるりと背を向けた。
「申し訳ございませんでした…」
俺は、再度お辞儀をし、その担当者が見えなくなるまで、頭を下げ続けた。
カチャッと、薄いカードキーを入口のホルダーに差し込むと、パッと室内の照明が光る。
狭いベッドに、通路に置かれた違和感な椅子と、狭い部屋に不釣り合いな大きな液晶テレビ。
駅前のビジネスホテル。
俺は、大きめのビジネスバッグを床に放り投げると、疲れきった体を投げ出すように、ベッドに倒れ込んだ。
「うぅぅ…つかれた…」
ネクタイを緩め、天井のライトを見つめる。
(今日は散々な一日だったな…)
今日一日の出来事が、走馬灯のように頭を駆け巡る。
俺は、思わず瞼を閉じて頭を横に振る。
(思い出したくないことは、綺麗さっぱり洗い流そう…)
ムクッとベッドから起き上がり、スーツを脱ぎ捨て、裸になると、これまた狭いシャワールームに入った。
蛇口をひねり、熱いお湯を頭からかぶる。
シャワーが勢いよく噴き出すと、瞬く間に周りに湯気が立ちこもる。
なめらかな肩に、程よく筋肉が盛り上がる胸、引き締まった腹筋に、お湯がはじくように降りそそいでは、したたり落ちる。
俺は、絶え間なく溢れ出るシャワーのお湯に、嫌な思いをすべて洗い流すように、無言で浴び続ける。
ふと、あいつの顔が浮かんだ。
「そういや…電話してなかった…」
俺は、急いでシャンプーをし、体を洗うと、シャワーを終わらせた。
ややごわついたバスタオルを腰に巻き、濡れた髪から滴る水滴をタオルで拭いながら、コンビニで買ってきたミネラルウォーターを一口飲む。
チラッとベッドサイドの時計を見ると、深夜に近い時間。
俺は、スマホに履歴が残るあいつの電話番号をタップした。
トゥルルルル…と鳴り響くコール音の後、
プッ、「はい…」
あいつはすぐに出た。
(早い…待ってたのか?)
「俺…電話、遅くなってごめん」
「ううん…いいよ…仕事だろ…仕方ないよ」
その声はいつもより沈んでいて、今日会えることを楽しみにしていたことが手に取るようにわかった。
「ごめんな…今日行けなくて…会えなくて…ほんとごめん」
「ふっ…ごめんばっかだね」
「……」
こころなしか、棘のある言い方に聞こえてしまうのは、自分の中の罪悪感からか?俺は、思わず声につまった。
「今、何してるの?」
あいつが尋ねる。
狭苦しいベッドを横眼に、窓のカーテンを少し開けて、俺は椅子に腰かけた。
「うん…シャワー終わったとこ」
カーテンの隙間から窓の外の街のネオンを眺めながら、今度は俺があいつに尋ねた。
「おまえは?何してた?今日」
いつものように口から出た言葉に、俺は思わず、しまった!と後悔する。
約束していたデートを自分の仕事でドタキャンしておいて、無神経に聞いた自分を呪った。
「……」
(…案の定、返事がない)
急に不安が頭をもたげ、俺は慌てて聞き返す。
「もしもし?」
「聞いてるよ」
「ああ…」
あいつの返ってきた声に、ほっと胸をなでおろす。
「別に…暇だから…家…にいた」
ドキッ…!
俺の心に突き刺さる『暇』というワード!
「はは…そう…だよね…」
脳裏に蘇る、あいつと約束をした会話。
バレンタインのデート。
俺の心にどんよりした重い何かがのしかかる。
「今日は、電話の声だけで我慢してよ…明日帰るから…」
「……」
イルミネーション・スポットを見に行くのを楽しみにしてたあいつの顔が浮かぶ。
「明日必ずそっち行くから!まっすぐ行くから!絶対走って行くから!」
もうあいつの心に訴えかけるように、必死で連呼する。
「…うん…待ってる…」
「…うん、待ってろよ」
「じゃあ、切るよ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
と、言った後の少しの間に、あいつがまだ電話を切らないのがわかると、俺は、名残惜しい気持ちに小さく囁いた。
「好きだよ…おやすみ」
「……」プッ、プープープー…、
と、通話が切れた。
(は…?!!!)
俺は唖然として、しばらくスマホを見つめた。
「やべぇ…」
ベッドに両手両足を広げ、大の字に寝転ぶと、俺はモヤモヤする気持ちに焦りを覚えた。
(あいつ絶対怒ってるよなぁ…拗ねてる?いじけてる?もしや?泣いてる???)
膨らむモヤモヤ感に俺は急に思い立ったように、メッセージをあいつに送った。
《最後に言った電話の返事は?》
既読にすぐになった…が、返信がない。
破った約束の不安を拭いたい、そんな気持ちだけが先走る。
そんなことで俺たち2人の関係が揺らぐことがないのは頭で理解していても、あいつを悲しませている自分を否定したい。
そんな確信が欲しくて、俺は狡くなる。
「俺だって、お前に会いたいよ…」
1人、狭い部屋で、目を伏せて呟く。
(お前を抱きしめて、お前の体温を肌で感じて、いつまでもこの腕の中に捕まえておきたい…)
もう一度、メッセージを送ってみる。
《好きだよ》
またすぐに既読になる、が、返事がない。
(相当?怒ってる???)
俺は焦る気持ちと、少しずつ苛立ちが募り、思わず、スマホを裏返しに伏せた。
(ああ…何で?こうなる?そもそも発注ミスした事務員が悪いんだが…ちゃんと最後に確認しなかった俺のせいか?俺???)
自分の胸に自問自答する。
そのとき、スマホがブッブッと俺の手の中で振動した。
すかさず、画面を食い入るように見る。
(…!!!)
《僕も好きだよ》
やっと返ってきたその言葉を目に焼き付け、俺は思わず、ホッとした。
そして、
「はは…あいつの言葉ひとつに、一喜一憂するなんて…我ながら情けない…」
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