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10. カフェバーへ
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午後7時すぎ。
仕事を終わらせて、健人は、足早にあのカフェへと向かった。
(夕方の6時半からいるって言ってたから…)
昼間、あの彼が言った言葉を、脳裏で復唱する。
(カフェの店員だったのか)
昼にも訪れたそのカフェにたどり着くと、健人は思わず立ち止まった。
カフェの入り口に掲げられたボードには、カクテルやビールなどお酒の名前が並べられていた。
(え?夜はバーに?!!)
ゆっくりと足を踏み出し、中に入ると、昼の明々とした明るい店内とは打って変わって、グッと抑えた照明とジャズピアノのメロディが流れる、夜の大人の雰囲気に変わっていた。
さらに濃紺色の壁と相まって、天井から吊るされた丸いガラスの照明が夜空に浮かぶ星や惑星のように浮かんで見える。
テーブルには、天井と同じ丸いガラス玉が置かれ、中のキャンドルの炎がゆらゆらと揺らめいて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「いらっしゃい」
入り口に立つ健人に、声をかけたのは、その彼だった。
昼間に見た出で立ちのまま、黒いシャツに黒のズボン、ダークグレーのエプロンを腰に巻き、彼が立っていた。
抑えられた照明の中で、彼の肌の白さが浮き立ち、妖艶さを放つ。
一瞬、ドキッとした健人に彼は、
「来てくれたんだ…ありがと…夜はバータイムなんだ、オーダーは席で聞くから、好きなところに座って」
そういうと、健人を中へ促した。
レジカウンターの横を通り過ぎ、中に入り、どこに座ろうかとキョロキョロする健人。
丁度レジの裏にあたるところは、バーカウンターになっていて、レジとカウンターを仕切る棚には洋酒やカクテルなどのボトルが並べられている。
健人は、そのカウンターの一つに腰掛けた。
「何飲む?」
カウンターに置いてあったメニュー表を見ながら、健人は、グラスビールをオーダーした。
ビールが来るまでの間、店内を見渡すと、カフェタイムからいるのか、若い女の子のグループ、1人でお茶を嗜む女性、仕事帰りに早速一杯飲んでるサラリーマンたちがちらほら座っていた。
バーカウンターに立った彼は、よく冷えたグラスに、黄金色に輝くビールを注ぐ。
「ビールお待たせ」
グラスの縁から溢れそうで溢れないきめ細やかな泡をのせ、すぅと静かにテーブルに置いた。
その指先には、あのワインレッドのネイルが光っていた。
そして、
「これ、僕から」
色鮮やかな包み紙のチョコレートといろんなナッツが入った小皿を、コトッとテーブルに差し出した。
健人の顔に近づき、
「この前のライブんときのお詫び」
ふふっと笑みを浮かべた。
(やっぱり、アレはからかってたんだ…)
彼の言葉に、ブワッとライブの時の感覚が鮮明に蘇る。
急に恥ずかしさがこみあげてきたのか、健人はビールを一気にグィッと空にし、タンっ!とグラスを置いた。
「おかわり!」
空にしたグラスを見つめ、彼はニコッと微笑むと、
「いい飲みっぷりだね」
と、新しくビールを注いだグラスを差し出すと、健人はカウンター越しに彼の手を掴み、
「少し話せる?」
「ちょっと待って」
彼はするりと手を離し、我慢して言わんばかりに健人の目を見つめ、手の甲をギュッと握りしめ、押し返した。
「…う、うん…」
触れた手の感覚が抜けず、彼の香りたつなまめかしい雰囲気に魅せられて、不思議と言いつけられた子供のように、大人しくなる健人。
彼は、他から入ったビールのオーダーに、はいっと頷くと、グラスを片手に、ビールサーバーに向かう。
慣れた手つきで、手際よく泡立つビールを注ぎ入れ、忙しなくカウンター内を行き来する。
そんな彼を遠巻きに見守る健人は、ポツンと1人で飲む寂しさか、さらにビールを空にした。
仕事を終わらせて、健人は、足早にあのカフェへと向かった。
(夕方の6時半からいるって言ってたから…)
昼間、あの彼が言った言葉を、脳裏で復唱する。
(カフェの店員だったのか)
昼にも訪れたそのカフェにたどり着くと、健人は思わず立ち止まった。
カフェの入り口に掲げられたボードには、カクテルやビールなどお酒の名前が並べられていた。
(え?夜はバーに?!!)
ゆっくりと足を踏み出し、中に入ると、昼の明々とした明るい店内とは打って変わって、グッと抑えた照明とジャズピアノのメロディが流れる、夜の大人の雰囲気に変わっていた。
さらに濃紺色の壁と相まって、天井から吊るされた丸いガラスの照明が夜空に浮かぶ星や惑星のように浮かんで見える。
テーブルには、天井と同じ丸いガラス玉が置かれ、中のキャンドルの炎がゆらゆらと揺らめいて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「いらっしゃい」
入り口に立つ健人に、声をかけたのは、その彼だった。
昼間に見た出で立ちのまま、黒いシャツに黒のズボン、ダークグレーのエプロンを腰に巻き、彼が立っていた。
抑えられた照明の中で、彼の肌の白さが浮き立ち、妖艶さを放つ。
一瞬、ドキッとした健人に彼は、
「来てくれたんだ…ありがと…夜はバータイムなんだ、オーダーは席で聞くから、好きなところに座って」
そういうと、健人を中へ促した。
レジカウンターの横を通り過ぎ、中に入り、どこに座ろうかとキョロキョロする健人。
丁度レジの裏にあたるところは、バーカウンターになっていて、レジとカウンターを仕切る棚には洋酒やカクテルなどのボトルが並べられている。
健人は、そのカウンターの一つに腰掛けた。
「何飲む?」
カウンターに置いてあったメニュー表を見ながら、健人は、グラスビールをオーダーした。
ビールが来るまでの間、店内を見渡すと、カフェタイムからいるのか、若い女の子のグループ、1人でお茶を嗜む女性、仕事帰りに早速一杯飲んでるサラリーマンたちがちらほら座っていた。
バーカウンターに立った彼は、よく冷えたグラスに、黄金色に輝くビールを注ぐ。
「ビールお待たせ」
グラスの縁から溢れそうで溢れないきめ細やかな泡をのせ、すぅと静かにテーブルに置いた。
その指先には、あのワインレッドのネイルが光っていた。
そして、
「これ、僕から」
色鮮やかな包み紙のチョコレートといろんなナッツが入った小皿を、コトッとテーブルに差し出した。
健人の顔に近づき、
「この前のライブんときのお詫び」
ふふっと笑みを浮かべた。
(やっぱり、アレはからかってたんだ…)
彼の言葉に、ブワッとライブの時の感覚が鮮明に蘇る。
急に恥ずかしさがこみあげてきたのか、健人はビールを一気にグィッと空にし、タンっ!とグラスを置いた。
「おかわり!」
空にしたグラスを見つめ、彼はニコッと微笑むと、
「いい飲みっぷりだね」
と、新しくビールを注いだグラスを差し出すと、健人はカウンター越しに彼の手を掴み、
「少し話せる?」
「ちょっと待って」
彼はするりと手を離し、我慢して言わんばかりに健人の目を見つめ、手の甲をギュッと握りしめ、押し返した。
「…う、うん…」
触れた手の感覚が抜けず、彼の香りたつなまめかしい雰囲気に魅せられて、不思議と言いつけられた子供のように、大人しくなる健人。
彼は、他から入ったビールのオーダーに、はいっと頷くと、グラスを片手に、ビールサーバーに向かう。
慣れた手つきで、手際よく泡立つビールを注ぎ入れ、忙しなくカウンター内を行き来する。
そんな彼を遠巻きに見守る健人は、ポツンと1人で飲む寂しさか、さらにビールを空にした。
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