ネイルの残像

有森崎あたる

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13. 照れ隠し

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道すがら、上代に教えてもらったネイルサロンをスマホで検索し、ようやくそのサロンにたどり着く。

ネイルに全く縁のない健人は、店内に入ろうかどうしようか迷い、立ち往生してしまう。

ちょうど、ネイルを施してもらうために来店した1人の女性が、店の前でウロウロする健人を不審な目つきで見ながら、中に入っていく。

ガァーッとドアが開くと、健人は中の様子を伺おうと、首を伸ばしてみたり、爪先立ちするも、店内の様子がはっきりと見えず、意気消沈気味に肩を落とす。

どうしよう、どうしようと、ソワソワしている健人の背後から、声が聞こえた。

「健人?何してるの?」

ちょうどネイルサロンから出てきた千春が、健人の姿を捉え、偶然の出会しにびっくりしていた。

「千春!!!」

千春の顔を見るや否や、思わず健人の声も大きく高くなった。

「どうして…ここがわかったの?」

(な、何?会いに来てくれたの?)

千春は、嬉しさのあまり健人に歩み寄る。

「上代さんに教えてもらった」

「え?上代って、彰宏あきひろくんに会ったの?」

瞬時に、千春の顔が曇り、怪訝な表情になる。

(え?)

健人は、その表情を気にかけながらも、

「うん、俺が君に用があるって店に行ったら、向こうから話しかけてきて」

「それで?」

「ほら、この間の飲んだお金、払ってないだろ。だから、今日店に行って、君に払おうとしたらいなくて、連絡先教えてって言ったら、上代さんがここを教えてくれた」

「他には?」

「それだけだよ」

ほっとした表情を見せるも、それだけと言われた千春は、ちょっとムッとする。

「ちゃんと払うよ!いくらだよ」

健人は背中のバックパックから、財布を取り出す。

「お金なんていいよ、いらない」

「そういうわけにはいかないだろ」

「開店祝いだし」

「はっ?バカ!それを言うなら、俺のセリフだろ!」

「いらないって言ってるだろ!いいよ!あん時のこともあるから…」

プイと顔を背けて、歩き出す千春。

「あん時って…」

苛立ち始めた健人は、前をスタスタ歩く千春の手を掴み取り、

「待てよ!」

千春を振り向かせ、

「まだ、用が終わってない!」

ぐいっと、千春を引き寄せた。

「何?まだ僕に用があるの?」

まだ、と言われた言葉に、健人はカァッとなり、不機嫌そうに眉が歪む。

(な、ない?何もない?)

千春を掴む手に力が入る。

千春も、自分に素直になれないのか、

「お金返すとか言いながら、実は僕に会いたかっただけじゃないの?」

「…っなっ!またそれかよ!…何回それ言うんだよ!…会いたい、会いたいって、ほんとはお前が会いたいんだろ!」

「……!」

確信をつかれた千春は、ブワッと頬を真っ赤にする。

「え?マジ・・・?」

今まで多少の傲慢さを覗かせていた千春の、初めて見せる、照れた表情に、健人は意外さを感じた。

「お、俺は、聞きたいんだ…なんで、なんで俺なんだ?」

「言っただろ、顔がタイプだって…」

(覚えてないのかよ…)

キッと、厳しく見つめる千春に、健人はさらに、

「それだけ?それだけであんな場所であんなことするのか?」

自分の言った言葉で、ライブのあの様を急に思い出したのか、恥ずかしさが込み上げ、健人は、赤みを帯びた頬を隠すように、腕で自分の顔を覆った。

それに敏感に気づいた千春は、健人の耳元に近寄ると、囁くように、

「何照れてるの?」

「なっ!それは君だろ?!」

ハッと意気込むと、千春は取り繕い、

「何?もしかして、また触って欲しい?」

小悪魔のように微笑んで、新たに施した、艶やかに煌めくボルドー色のグラデーション・ネイルの指先で、健人の頬を撫でた。

ふわぁと、甘く柔らかな香りが健人の鼻を包んだかと思うと、千春の顔が近づき、唇が触れそうになる。

ウッ!

我に帰り、慌てて千春を振り離す。

「何?ほんとは、気持ちよかったんでしょ?また、気持ちよくなろうよ…」

それでも体を寄せてくる千春は、ぐっと健人の腰に手をかけると、もう片方の手でスーツの上から股間を触り出した。

「ちょ、ちょー待てって!こんなところでっ!!!」

慌てて、建物の路地裏に逃げ込む健人、そして、その後を追う千春。

「ここじゃなかったら?いいの?どこか、2人きりになるれとこ行く?」

ドン!と、雑居ビルの壁に健人の体を押し付ける千春。
その細い腕からは、考えられないほどの力で、健人を押さえ付ける。

「何なんだ?何がしたい?」

通りを走る車のヘッドライトだけが、2人の頬を照らし、暗闇に浮かび上がる。

「言ったでしょ?タイプって…」

最後の言葉がはっきりと聞こえるか?聞こえない瞬間に、千春は、健人の顎を引き寄せ、彼の唇に、自分の唇を押し付けた。

「…んぐっ…」

急な唇の触れ合いに、健人は顔を紅潮させ、体を強張らせる。

尚も離れない千春は、引き寄せている顎から手を這わせ、力をこめて健人の口を開かせる。

ぬるっ、とした生暖かい感触が健人の口いっぱいに広がる。

千春の舌が、健人の口の中で入ってくると、彼の舌に絡まるように動く。

クチュクチュっと、淫靡な音を響かせ、千春から沸き立つ甘い香りが鼻をくすぐる。
健人の首を巻き付けた腕と、口の中を頬張るように絡ませる舌の感触に、健人は酔いしれ、身動き出来ずにいた。

吸い付いていた唇を離し、千春は、健人のおでこを自分のおでこをあてると熱い吐息をもらし、喘ぐように囁く。

「健人…」

その声に、ハッと我に帰った健人は、渾身の力を込めて、バンと千春を押しのけると、ダッとその場を走り去った。

人混みに紛れて小さくなっていく健人を後ろ姿を、千春は見えなくなるまで見つめていた。





バタンっ!

どこをどう歩いて、たどり着いたか。
健人は、気がついたら自分のマンションの玄関にいた。

靴を脱ぎ、ドカドカっと短い廊下を歩いて、部屋に入ると、床にバックパックをなげつけ、壁側に置かれたベッドになだれ込む。

(チクショー…何なんだっ!!!)

見上げた天井を見つめると、さっきの光景が脳裏に浮かぶ。

健人は、おもむろに自分の唇を指で撫でる。

千春の瞳、

艶やかな唇、

甘い香り、

生暖かい舌の感触、

絡まる腕、

触れ合う体と体温。

「チッ…」

いつのまにか、大きく膨らんだ下半身に、健人は顔を赤らめる。

「くそっ」

吐き捨てるかのように、スーツのズボンのジッパーを下げる。

ブルンっと勢いよく飛び出してきた健人のペニスは、大きくそそり立ち、ジワっとその先からはカウパーが滲み出していた。

「なんで…俺が…」

硬くなったペニスを握りしめると、健人は上下に激しく擦り出した。

「はぁっ…ぁあ…」

熱い吐息がもれ、さらに扱く手の速度が速くなる。

「ふっ…ぅぅ…」

体の底からそそり上がってくる快感と共に、健人の脳裏に、千春の小悪魔的に微笑んだ顔が浮かぶ。

「…ぅう…っぐっ…」

瞼を閉じ、浮かんでくる白いシャツを着た千春の姿。
やがて、そのシャツを脱ぎ、透き通るほど白い柔肌を見せると、両手を広げ、健人を招き入れるかのように手招きする。

(健人、おいで…)

濡れた唇、

なまめかしい鎖骨、

怪しく艶めくボルドー色のネイルの指先。

「…ち、ちはるぅぅ…」

健人は、低く呟き、体を小さく屈めたかと思うと、ビクンっとさせ、そのまま手の中で果てた。

「はぁ、はぁ…」

手のひらを広げ、そこにベットリついた精液に、健人は無言でティッシュで拭うと、投げつけるようにゴミ箱に捨てた。

宙を見つめる健人は、ダラっと力なく、壁にもたれかかると、小さく呟いた。

「何やってるんだ、俺…」
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