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15. 消えぬ思い
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「はぁぁ…」
と、大きく溜息をつく健人。
デスクに肘をつき、顔を手で覆いながら、また、大きく溜息を1つ。
(千春のことばかり、考えてしまう…)
心ここにあらずといった面持ちの健人は、スクっと立ち上がり、会社のリフレッシュコーナーへと向かった。
そのコーナーの壁に立ち並ぶ自販機の前に来ると、迷わず缶コーヒーのボタンを押す。
落ちてきたコーヒーを取り出し、缶を開けると、そのままグイっと一口飲んだ。
(タバコでも、一服しようかな…)
と、シャツの胸ポケットに手を当てた瞬間、目の前の自販機に、ワインレッドのネイルの人差し指がすぅーと伸びてきた。
(え?!…ネイル…!)
ぐっと体が強張る健人。
(ちはるっ?!)
健人は手を伸ばし、思わずワインレッドのネイルの指を握りしめた。
「え?」
聞き慣れない声が、健人のすぐ隣で聞こえた。
びっくりした表情で、こちらを向いていたのは、経理課の社員証をぶら下げた髪の長い女性だった。
(人違いだっ!!!)
「す!すみません!!!」
慌てて、健人は手を離し、平謝りするも、もうすでに時遅く、指を握りしめた瞬間、自販機のボタンを押していた。
ガコンっ!と音とともに、取り出し口から落ちてきたのは、あまり見たことのない明るいオレンジ色の清涼飲料水だった。
お互い、無言のまま、取り出し口を見つめ、立ち尽くす。
「ほんと!すみません!!!知ってる人と間違えて!」
頭を深く下げて、謝る健人。
「彼女とですか?」
と、その女性はクスッと微笑んだ。
苦笑いする健人は、
「あ、あの…すみません、俺、それ飲むんで、好きなのもう一回選んでください。」
と、コインを取り出し、自販機に入れ始める。
「あの…」
頭1つ分背の低いその女性が、上目遣いで健人を見つめると話し出した。
「大丈夫ですよ。これ、ビタミン入りのドリンクですよね?あたし、こうゆうの好きですし、気にしないでください」
と、細い指先で、取り出し口から清涼飲料水を取り出した。
ペットボトルをもつ手の指には、濡れたようにワインレッドのネイルが艶めいていた。
咄嗟に、その指先を見つめる健人。
「それじゃあ、失礼します」
その女性は、長い髪をなびかせながら、健人の横を通り抜けた。
ふわぁ~っと甘いフローラルな香りが鼻をくすぐると、ふと健人の脳裏に、甘いオリエンタルな香りが蘇る。
「違う…」
不意に呟く。
健人は、わずかに鼻が覚えていた千春の甘くオリエンタルな香りに、えっと驚きを隠せない。
(…いや、何を言ってるんだ…俺…)
手に持っていた缶コーヒーを一口飲むと、そのまま、直線上にある、テラスに出て、一呼吸、外の空気を吸った。
(あれから、千春のことが頭を離れない…)
テラスには、オフィスワークの気分転換にと、数人が休憩していて、柵の向こうに青々と茂る緑の木々がひとときの癒しを誘う。
健人は、隅に申し訳なさそうに追いやられている灰皿の隣を陣取ると、柵に体を預け、タバコに火をつけた。
そこへ、先輩の近藤がテラスの入口から近づいてくるのが見えた。
「健人も息抜き?」
手に持つ炭酸のペットボトルのキャップを捻りながら、健人の隣に肩を並べた。
冴えない顔の健人に、
「どした?何かやらかしたか?」
ゴクリと喉を鳴らし、炭酸水を飲む近藤が尋ねた。
「…いや、そんなんじゃないっすよ…」
「ふ~ん…」
と、近藤は、何か言いたげに健人を見るが、すぐに自分のタバコを取り出し、火をつけた。
遠くを見つめる健人は、つい先ほどの光景を思い出す。
自販機に伸びる指先。
濡れたように光るネイル。
(綺麗な指してな…細くて…)
ふぅぅーと、大きく白い煙を吐き出すと、首元のネクタイを緩めた。
くしゃくしゃと髪を掻き乱し、頭を垂れると、タバコを咥えたまま、フイッと宙を見上げる。
(そういや、あいつの指も細かったな…)
近藤と2人、深くタバコを吸うと、吐き出した煙が白く細く、青空へと消えていった。
と、大きく溜息をつく健人。
デスクに肘をつき、顔を手で覆いながら、また、大きく溜息を1つ。
(千春のことばかり、考えてしまう…)
心ここにあらずといった面持ちの健人は、スクっと立ち上がり、会社のリフレッシュコーナーへと向かった。
そのコーナーの壁に立ち並ぶ自販機の前に来ると、迷わず缶コーヒーのボタンを押す。
落ちてきたコーヒーを取り出し、缶を開けると、そのままグイっと一口飲んだ。
(タバコでも、一服しようかな…)
と、シャツの胸ポケットに手を当てた瞬間、目の前の自販機に、ワインレッドのネイルの人差し指がすぅーと伸びてきた。
(え?!…ネイル…!)
ぐっと体が強張る健人。
(ちはるっ?!)
健人は手を伸ばし、思わずワインレッドのネイルの指を握りしめた。
「え?」
聞き慣れない声が、健人のすぐ隣で聞こえた。
びっくりした表情で、こちらを向いていたのは、経理課の社員証をぶら下げた髪の長い女性だった。
(人違いだっ!!!)
「す!すみません!!!」
慌てて、健人は手を離し、平謝りするも、もうすでに時遅く、指を握りしめた瞬間、自販機のボタンを押していた。
ガコンっ!と音とともに、取り出し口から落ちてきたのは、あまり見たことのない明るいオレンジ色の清涼飲料水だった。
お互い、無言のまま、取り出し口を見つめ、立ち尽くす。
「ほんと!すみません!!!知ってる人と間違えて!」
頭を深く下げて、謝る健人。
「彼女とですか?」
と、その女性はクスッと微笑んだ。
苦笑いする健人は、
「あ、あの…すみません、俺、それ飲むんで、好きなのもう一回選んでください。」
と、コインを取り出し、自販機に入れ始める。
「あの…」
頭1つ分背の低いその女性が、上目遣いで健人を見つめると話し出した。
「大丈夫ですよ。これ、ビタミン入りのドリンクですよね?あたし、こうゆうの好きですし、気にしないでください」
と、細い指先で、取り出し口から清涼飲料水を取り出した。
ペットボトルをもつ手の指には、濡れたようにワインレッドのネイルが艶めいていた。
咄嗟に、その指先を見つめる健人。
「それじゃあ、失礼します」
その女性は、長い髪をなびかせながら、健人の横を通り抜けた。
ふわぁ~っと甘いフローラルな香りが鼻をくすぐると、ふと健人の脳裏に、甘いオリエンタルな香りが蘇る。
「違う…」
不意に呟く。
健人は、わずかに鼻が覚えていた千春の甘くオリエンタルな香りに、えっと驚きを隠せない。
(…いや、何を言ってるんだ…俺…)
手に持っていた缶コーヒーを一口飲むと、そのまま、直線上にある、テラスに出て、一呼吸、外の空気を吸った。
(あれから、千春のことが頭を離れない…)
テラスには、オフィスワークの気分転換にと、数人が休憩していて、柵の向こうに青々と茂る緑の木々がひとときの癒しを誘う。
健人は、隅に申し訳なさそうに追いやられている灰皿の隣を陣取ると、柵に体を預け、タバコに火をつけた。
そこへ、先輩の近藤がテラスの入口から近づいてくるのが見えた。
「健人も息抜き?」
手に持つ炭酸のペットボトルのキャップを捻りながら、健人の隣に肩を並べた。
冴えない顔の健人に、
「どした?何かやらかしたか?」
ゴクリと喉を鳴らし、炭酸水を飲む近藤が尋ねた。
「…いや、そんなんじゃないっすよ…」
「ふ~ん…」
と、近藤は、何か言いたげに健人を見るが、すぐに自分のタバコを取り出し、火をつけた。
遠くを見つめる健人は、つい先ほどの光景を思い出す。
自販機に伸びる指先。
濡れたように光るネイル。
(綺麗な指してな…細くて…)
ふぅぅーと、大きく白い煙を吐き出すと、首元のネクタイを緩めた。
くしゃくしゃと髪を掻き乱し、頭を垂れると、タバコを咥えたまま、フイッと宙を見上げる。
(そういや、あいつの指も細かったな…)
近藤と2人、深くタバコを吸うと、吐き出した煙が白く細く、青空へと消えていった。
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