ネイルの残像

有森崎あたる

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17. 近づかないで

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健人と上代は、大きな声がする方に視線を送ると、仁王立ちでレジ横で立っている千春の姿があった。

「見られちゃいましたね」

悪びれる素振りもなく、健人にニコッと笑う上代は、

「おはようございます」

と、健人に寄せていた顔を離し、涼しげな表情で千春に挨拶をする。

そんな上代の態度に、千春はものすごい剣幕で喋り出した。

「彰宏くん!あれだけ言ったよね!僕言ったよね!健人には近づかないでって!」

「聞きましたよ、まあ、少し顔を寄せただけで、そんな、ピッタリくっついていた訳ではありませんし」

「顔が近いだけで、アウトだよ!!!」

徐々に声を荒げ出すと、周りの客が何だなんだと、ざわざわし出す。その反応に、上代はキッと睨みを効かすと、

「千春、とにかく事務所に入りましょう」

有無を言わせない圧に、千春も黙ったまま、無言で裏の事務者に向かった。

事務所の裏に消えていく2人を、不安げに見つめる健人は、呆然とその後ろ姿を見送るしかなかった。

バタン!

大きな音とともに、ドアが閉まると、千春は腕組みをし、

「彰宏くん!何で僕の好きになった人ばっか、ちょっかい出すの?」

「ちょっかいなんて出してませんよ、千春が過剰にヤキモチ焼きすぎなんです」

「過剰じゃない!」

千春も負けじとキッと睨むと、

「最初は親切心でも、そのうち、みんな、彰宏くんのこと、好きになっちゃうんだよ!優しくするから!親切すぎるからっ!それに!かっこいいし!お金持ちだしっ!!!」

ダダダっーと、捲し立てると、急に感情の波が押し寄せてきたのか、瞳に涙をにじませる。

「ち、…はる?」

「好き…好きなんだ…どうしても…彼以外…考えられなくて…」

一筋の涙が頬をつたう。

「こんなに1人の人を好きになったのは…健人が初めてなんだ…」

「千春…」

彰宏はたまらず千春の肩を引き寄せ、抱きしめた。

「何も君の恋路を邪魔するつもりなんてないんです」

優しく頭を撫でながら、

「ただ、2人がうまくいってくれたらと思って…」

その言葉で、急に千春は、彰宏から体を離した。

「だから!それが余計なんだってっ!!!」

目くじらを立てて、プイと背を向けて、事務者を出て行った。

バタン!と勢いよく開いたドアから、駆け出した千春は、すぐ近くに立っていた健人の前で、しばし立ち止まると、ずずっと鼻をすすると、また走り去って行った。

開いたドアの向こうにいた上代に、健人は駆け寄る。

「上代さん、どうなったんですか?」

「さぁ?」

ふぅと、息を1つ吐き、呆れたと言いたそうに両手を広げるポーズをすると、

「ちょっとナーバスになってるんでしょう」

?と首を傾げ、上代を見つめる健人に、

「前にね、千春と仲の良かった男性に、少し親切にして差し上げたら、逆に私に近寄るようになって…」

ツカツカと健人に近寄ると、

「千春を宥めてあげて下さい」

「え?」

「今、千春を慰めてあげられるのは、君しかいないでしょう?」

そう言うと、健人の背中を押した。

「え?でも、千春はどこに?」

あ、そうそう!と言うかのように、上代はまたしてもペンを片手に紙ナプキンに何やら書き始めた。

「はい、これ」

と、差し出されたそれには、とある住所と簡単な地図が書かれていた。

「千春のマンションです」

「はぁ…」

健人は、ペラッとした紙ナプキンを受け取ると、上代は、

「きっと、自宅の部屋で、シュンとしてるでしょうから、後は頼みましたよ」

笑顔で両手を振って、上代は健人を送り出した。
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