18 / 27
18. 千春の部屋
しおりを挟む
ピンポーン!
乾いたインターホンの音が通路に響き渡る。
上代に教えられた住所を頼りに、千春が住むマンションまでやってきた健人。
インターンホンを押して、しばらくドアの前で待ってみるが、中からの反応がない。
ピンポーン!
もう一度鳴らしてみるが、やはり反応がない。
立ち尽くす健人は、拳をぎゅっと握りしめると、ドアを大きく叩き始めた。
ドンドンドンっ!!!
「千春!ちーはーるっ!!!」
ドンドンっ!!!
健人の大きな声と、叩くドアの振動が響く。
ダンマリを決め込んでいるのか?本当はいないのか?不安になってきた健人は、もう一度ドアを叩く。
ドンドンっ!!!
すると、
「今開けるから!」
千春の声が内側から聞こえたと思ったと同時に、ドアがカチャッと開いた。
「千春…」
中からは、少し瞳を潤ませた千春が顔を覗かせ、ボソッと呟いた。
「近所迷惑だから、中入って」
ドアを開ける千春に促されて、健人はマンションの中へ入って行った。
通された部屋は、小綺麗に整頓され、モノトーンで揃えられた家具に、千春の趣味なのか、壁にはモダンアートの絵がいくつか飾られている。
「座って」
健人は、部屋の壁際にあるグレーのソファに黙って腰掛ける。
部屋の入り口で立ったままの千春も、何も言葉を発しないまま、2人の間に、重い沈黙が流れた。
初めての千春の部屋で、健人も妙にかしこまり、落ち着かない様子。
「何か飲む?」
最初にその沈黙を破ったのは、千春の方だった。
「って言っても、コーヒーか、水、あと、ビールとお酒しか、ないけど…」
「じゃあ、コーヒーで」
無言でくるりと背を向け、小さめなキッチンに向かい、ポットでお湯を沸かし始めた。
千春は、手にしたレギュラーコーヒーの蓋をポンと開けると、ふわっとコーヒーの芳しく香ばしい香りが舞う。
そんな千春を横目に、健人はキョロキョロと周りを見回す。
整理整頓され、一見殺風景にも見える部屋。
テレビの横の収納ラックには、カフェの本や、経営に関する本がいくつも並べられていた。
それを目にした健人は、
(へぇ…カフェ経営の勉強?店を開業したいのか?…意外と真面目?)
コポコポっと、コーヒーをドリップする音と共に、今度は部屋中に芳醇なコーヒーのアロマが広がる。
「ブラック?それともミルクと砂糖?」
ドリッパーにお湯をゆっくりと注ぎながら、千春が尋ねた。
「いや、ブラックで」
千春は、コクンと頷くとしばらくして、
「どうぞ」
と、カップに入ったコーヒーを差し出し、健人と向かい合わせになるように、ソファーの反対側にあるベッドに腰掛けた。
千春は、カップを両手で持つと、ふうと熱いコーヒーを冷ましながら、ゆっくりと飲み始めた。
千春に入れてもらったコーヒーに、健人はそっと顔を近づけると、いれたてのコーヒーの香りを楽しむようにすーと大きく息を吸い込み、一口、口に含ませた。
「おいしい…」
パァァと綻ぶ健人の表情に、千春は照れてようにはにかんだ。
「ありがと…」
小さく呟くと、千春はもう一口コーヒーを飲んだ。
「千春…」
コトッと、健人はカップをガラスのテーブルに置く。
「まだ、上代さんに怒ってるの?」
「……」
両手に持つカップをテーブルに置き、千春は目を伏せる。
「俺は、ただお店に行こうとしたら、上代さんがいて、君を待つ間、お酒を頂いただけだよ、それだけだよ」
「なんで?」
「え?」
「わざわざ、そんなこと言いにここまできた訳?」
一瞬、和らいだ千春の顔が徐々に曇って行く。
「そもそも、健人は何しに店に来たの?」
その問いに、クッと千春の目を見つめる健人。千春は続け様に、
「ただ飲みにきただけ?僕に会いにきたの?それとも、彰宏くんに会いたかったの???」
「そんなわけないだろ!何でそうなる?!上代さんとはそんなに何回も会ったことないのに!」
「僕もそうだよね?彰宏くんと同じだよね?だったら、僕にも会いたかった訳じゃないんだよね?なのに、どうしてここに来たの?!」
(ち、違う…違う…こんなことを言いたいんじゃないんだ…)
心とは裏腹に、千春はだんだん興奮しだし、思ってもいないことが口を滑り、声を張り上げてしまっていた。
「わからないだ…」
困惑気味の健人は、迷いながらも心の内を吐き出すかのように、呟いた。
「たぶん…」
(そう、最初からかも…しれない)
「頭から離れないんだ…君のワインレッドのネイルが…」
健人は、千春の瞳を見つめ、
「初めてライブハウスで会ったあの時から…あの瞬間から…俺は君が気になっていたのかもしれない…」
「け…んと…」
「最近、君のことばかり、考える…」
健人は、ふぅと一呼吸する。
「君にとっては、男のことを思うのは普通なことかもしれないが…俺にとっては、普通じゃなくて…初めてのことで…でも…」
見つめる健人の瞳には、何とも言えない力がこもっており、千春は、健人の言葉を静かに聞き入っていた。
「君のことが忘れられない…どうしようもなく、君の匂いを思い出したり、ネイルを見ると、君の顔がちらつく…変だろ…」
「ううん…」
すっかり落ち着きを取り戻した千春は、
「僕もだよ…」
「……」
組んだ両手に顎を乗せると、ソファにゆったりと体を預け、健人は千春の話に耳を傾けた。
「僕も健人を思わない日はないよ、だって僕の初恋の人だから…」
「???」
驚いた目を見せる健人。
「僕たち、初めて会ったのが、ライブハウスじゃないよ」
「…えっ!!!」
千春の言葉に状況が飲み込めないのか?健人は声を詰まらせながら、
「は、は、初めてじゃ…ない???」
驚く健人の素振りに、千春は困ったように微笑むと、
「覚えてないよね…」
やっぱりね…とでも言いたげに、千春は、コーヒーを一口飲むと、静かに話し出した。
「僕が彰宏くんのカフェでアルバイトしてるとき、そこで会ってるんだ、僕たち」
「…カフェ?会ってる…???えっ…と…?」
必死に思い出そうとしているのか?千春の言った言葉を復唱してみても、健人は思い出せずにいた。
「あれは、秋だったかな…僕がまだアルバイト始めたばっかで慣れてなくて…」
乾いたインターホンの音が通路に響き渡る。
上代に教えられた住所を頼りに、千春が住むマンションまでやってきた健人。
インターンホンを押して、しばらくドアの前で待ってみるが、中からの反応がない。
ピンポーン!
もう一度鳴らしてみるが、やはり反応がない。
立ち尽くす健人は、拳をぎゅっと握りしめると、ドアを大きく叩き始めた。
ドンドンドンっ!!!
「千春!ちーはーるっ!!!」
ドンドンっ!!!
健人の大きな声と、叩くドアの振動が響く。
ダンマリを決め込んでいるのか?本当はいないのか?不安になってきた健人は、もう一度ドアを叩く。
ドンドンっ!!!
すると、
「今開けるから!」
千春の声が内側から聞こえたと思ったと同時に、ドアがカチャッと開いた。
「千春…」
中からは、少し瞳を潤ませた千春が顔を覗かせ、ボソッと呟いた。
「近所迷惑だから、中入って」
ドアを開ける千春に促されて、健人はマンションの中へ入って行った。
通された部屋は、小綺麗に整頓され、モノトーンで揃えられた家具に、千春の趣味なのか、壁にはモダンアートの絵がいくつか飾られている。
「座って」
健人は、部屋の壁際にあるグレーのソファに黙って腰掛ける。
部屋の入り口で立ったままの千春も、何も言葉を発しないまま、2人の間に、重い沈黙が流れた。
初めての千春の部屋で、健人も妙にかしこまり、落ち着かない様子。
「何か飲む?」
最初にその沈黙を破ったのは、千春の方だった。
「って言っても、コーヒーか、水、あと、ビールとお酒しか、ないけど…」
「じゃあ、コーヒーで」
無言でくるりと背を向け、小さめなキッチンに向かい、ポットでお湯を沸かし始めた。
千春は、手にしたレギュラーコーヒーの蓋をポンと開けると、ふわっとコーヒーの芳しく香ばしい香りが舞う。
そんな千春を横目に、健人はキョロキョロと周りを見回す。
整理整頓され、一見殺風景にも見える部屋。
テレビの横の収納ラックには、カフェの本や、経営に関する本がいくつも並べられていた。
それを目にした健人は、
(へぇ…カフェ経営の勉強?店を開業したいのか?…意外と真面目?)
コポコポっと、コーヒーをドリップする音と共に、今度は部屋中に芳醇なコーヒーのアロマが広がる。
「ブラック?それともミルクと砂糖?」
ドリッパーにお湯をゆっくりと注ぎながら、千春が尋ねた。
「いや、ブラックで」
千春は、コクンと頷くとしばらくして、
「どうぞ」
と、カップに入ったコーヒーを差し出し、健人と向かい合わせになるように、ソファーの反対側にあるベッドに腰掛けた。
千春は、カップを両手で持つと、ふうと熱いコーヒーを冷ましながら、ゆっくりと飲み始めた。
千春に入れてもらったコーヒーに、健人はそっと顔を近づけると、いれたてのコーヒーの香りを楽しむようにすーと大きく息を吸い込み、一口、口に含ませた。
「おいしい…」
パァァと綻ぶ健人の表情に、千春は照れてようにはにかんだ。
「ありがと…」
小さく呟くと、千春はもう一口コーヒーを飲んだ。
「千春…」
コトッと、健人はカップをガラスのテーブルに置く。
「まだ、上代さんに怒ってるの?」
「……」
両手に持つカップをテーブルに置き、千春は目を伏せる。
「俺は、ただお店に行こうとしたら、上代さんがいて、君を待つ間、お酒を頂いただけだよ、それだけだよ」
「なんで?」
「え?」
「わざわざ、そんなこと言いにここまできた訳?」
一瞬、和らいだ千春の顔が徐々に曇って行く。
「そもそも、健人は何しに店に来たの?」
その問いに、クッと千春の目を見つめる健人。千春は続け様に、
「ただ飲みにきただけ?僕に会いにきたの?それとも、彰宏くんに会いたかったの???」
「そんなわけないだろ!何でそうなる?!上代さんとはそんなに何回も会ったことないのに!」
「僕もそうだよね?彰宏くんと同じだよね?だったら、僕にも会いたかった訳じゃないんだよね?なのに、どうしてここに来たの?!」
(ち、違う…違う…こんなことを言いたいんじゃないんだ…)
心とは裏腹に、千春はだんだん興奮しだし、思ってもいないことが口を滑り、声を張り上げてしまっていた。
「わからないだ…」
困惑気味の健人は、迷いながらも心の内を吐き出すかのように、呟いた。
「たぶん…」
(そう、最初からかも…しれない)
「頭から離れないんだ…君のワインレッドのネイルが…」
健人は、千春の瞳を見つめ、
「初めてライブハウスで会ったあの時から…あの瞬間から…俺は君が気になっていたのかもしれない…」
「け…んと…」
「最近、君のことばかり、考える…」
健人は、ふぅと一呼吸する。
「君にとっては、男のことを思うのは普通なことかもしれないが…俺にとっては、普通じゃなくて…初めてのことで…でも…」
見つめる健人の瞳には、何とも言えない力がこもっており、千春は、健人の言葉を静かに聞き入っていた。
「君のことが忘れられない…どうしようもなく、君の匂いを思い出したり、ネイルを見ると、君の顔がちらつく…変だろ…」
「ううん…」
すっかり落ち着きを取り戻した千春は、
「僕もだよ…」
「……」
組んだ両手に顎を乗せると、ソファにゆったりと体を預け、健人は千春の話に耳を傾けた。
「僕も健人を思わない日はないよ、だって僕の初恋の人だから…」
「???」
驚いた目を見せる健人。
「僕たち、初めて会ったのが、ライブハウスじゃないよ」
「…えっ!!!」
千春の言葉に状況が飲み込めないのか?健人は声を詰まらせながら、
「は、は、初めてじゃ…ない???」
驚く健人の素振りに、千春は困ったように微笑むと、
「覚えてないよね…」
やっぱりね…とでも言いたげに、千春は、コーヒーを一口飲むと、静かに話し出した。
「僕が彰宏くんのカフェでアルバイトしてるとき、そこで会ってるんだ、僕たち」
「…カフェ?会ってる…???えっ…と…?」
必死に思い出そうとしているのか?千春の言った言葉を復唱してみても、健人は思い出せずにいた。
「あれは、秋だったかな…僕がまだアルバイト始めたばっかで慣れてなくて…」
0
あなたにおすすめの小説
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる