ネイルの残像

有森崎あたる

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19. 割れたグラス

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「いらっしゃいませ」

若い女子の4人組が、キャッキャッと騒がしく店の中へ入っていく。

パフェが人気のカフェ。

壁一面ガラス張りのそのお店からは、パティシエがデザートを手づくりしている様が、通りからよく見える。

午後3時過ぎ。

ティータイムどきもあって、店内は、近くの大学の学生や、若い女子、カップルで賑わっている。

「モンブランパフェ4つですね」

秋という季節柄と、ここのパフェがSNSで話題になったこともあって、店は常に満席状態で、アルバイトの千春はフル回転で働いていた。

「ありがとうございましたー!」

ひと組のカップルが席を立ち、見送りながら、そのテーブルを片付け出す千春は、グラスを持ち上げた次の瞬間、

パリーンッッッ!!!

店内に響く、乾いた高い音。

辺り一瞬、シーーーンと静まり返る。

「も、申し訳ございませんっっっ!!!」

千春は手を滑らせ、背の高い2つのパフェグラスが衝突し、テーブルの上で割れたのだ。
慌てて、モップとフキンを手に、掃除し出す千春。
テーブルを拭き、床にモップをかけ、飛び散ったガラスの破片を拭う。
真横、向かい、斜めのテーブルのお客に頭を下げる千春。

「申し訳ございません、申し訳ございません」

1人1人に丁寧に謝っては、テーブルや床に落ちたグラスの破片を拾う。自分の過ちに、少しでも早く片付けたいという焦りもあったのか、

「いたっ!」

千春は、グラスの破片で、指を少し切ってしまった。

「…っつ…」

指先から、一筋の血がにじむ。

千春は、すかさずエプロンで血の付いた指を隠そうとした瞬間、

「待って!」

グラスが割れたテーブルの横に座っていた1人の男性が、声をかけてきた。

「待って、指見せて」

と、千春の手を強引につかみ取ると、自分の持っていたハンカチを指に巻き、止血し始めた。

「エプロンって意外と汚れてるだろ、このハンカチは洗ってあるから大丈夫だよ」

そう言うと、指にハンカチを巻き終えた千春の手をやさしく軽く握りしめた。

(…え…)

戸惑う千春に、その男性は、微笑みかけると、

「フキンを貸して」

千春からフキンを取り上げ、テーブルを拭き出した。

「お、お客様、申し訳ありません、わたしがします、ですから、フキンを…」

すると、その男性は、

「怪我してるだろ、後でちゃんと消毒しなよ、それか、病院で見てもらいなよ」

やさしい言葉を千春にかけた。

(…え…)

「ここはもう大丈夫だよ」

そう言いながら、その男性は、汚れたフキンをトレイにおいた。

「ほ、本当に申し訳ございませんでした」

深々と頭を下げると、その男性は、ニコッと笑い、

「気にしないで。お大事にね」

「はい…あ、ありがとうございます」

「それじゃあ…あ、コーヒーごちそうさま、おいしかったよ」

そう言うと、席を立ち、レジへ向かった。

(…や、やさしい…めっちゃいい人…それにめっちゃイケメン…また、会いたいな…)

千春は、彼がカフェを出るまでしばらく見送った。
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