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20. 不安定な曖昧さと切ない感情
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「それが、僕と健人の初めての出会い…一目惚れ…に近い…かな」
「……」
「健人は覚えてないかもしれないけど、あの後、また、君がカフェに来てくれてね…」
静かに話し出す千春を、黙ったまま見守るように見つめる健人。
「2度目は、健人は、女の子と来てて…ああ、彼女かな?…健人はノンケだった…って、ちょっと落ち込んだりして…その頃、僕はもう恋愛対象は、男だったから」
昔を懐かしむかのように、千春は可愛らしくはにかんだ。
「でも、僕はまだ男が好きだって自覚し始めた頃で…」
黙ったままの健人。
「彼女?友達?健人とどういう関係なのかわからない女の子と楽しそうにカフェで向かい合う2人に、イラっともしたけど、何を話してるのか、気になって気になって…僕は2人の近くに近寄ったんだ」
千春は、チラッと健人を見ると、健人はコクンとうなづき、続けてと言わんばかりに促した。
「その時、健人は、彼女がしてた、ワインレッドのネイルを褒めたんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、えっとした顔つきで、眉をピクッとさせ、健人は小さく呟いた。
「ワインレッド…」
(え?え?ワインレッドのネイル…前にも?見てた?)
健人の脳裏に、走馬灯のように駆け巡る思い。
「あ、それ…」
「思い出した?」
「た、たしか、大学のゼミが一緒の友達で…その日は…ゼミの後、喉乾いたねってなって…一緒にカフェに行って…たしか…」
「そう、そのカフェ。そこで僕はアルバイトしてたんだ」
「その友達が、綺麗なワインレッドのネイルしてて…た、たしか…」
「うん、健人は言ったんだ…『ワインレッドのネイルが綺麗だね、俺、ネイルの綺麗な子、好きなんだ』って」
「…え…」
(そんなこと…言ったっけ…?言った?…?)
必死に記憶を辿ろうとする健人に、千春は、腰掛けたベッドの上で組んだ足を組み替えた。
「友達だったんだ…彼女…」
ほっとした表情を浮かべる千春。
「それからだよ、僕がワインレッドのネイルを好んでするようになったのは…いつか、どこかで健人に出会えるかもしれないって思いで…男でネイルなんて、変?」
と、綺麗に施されたクロスラインのデザインにワインレッドのフレンチネイルがヒラッと宙を舞うように千春は手を回転させ、ネイルに軽く唇をあてがうとキスをした。
そして、腰掛けていたベッドから立ち上がり、千春は、健人に歩み寄る。
「だって、君が好きだって言ったから…」
(そんな前に言ったこと…?…未だに…?…覚えてて???)
健人の隣にストンと座ると、肩に腕を回し、
「ずっと、君だけを想ってきた…」
「ずっと?」
「僕のこと、ほんとはどう思ってる?」
「…え?」
その時、ふっと、健人の脳裏に近藤の言葉が蘇る。
『甘い言葉には、気をつけろよ』
近藤が言っていた言葉が、リフレインのように耳に響く。
しばらく、黙り込んでいた健人は、
「さっきも言ったけど、わ、わからないんだ…」
「嫌い?」
グッと顔を近づける千春に健人は、困惑しながらも、
「き、嫌いでは、ない…と思う…」
「気になる?」
千春は、首に回した手に力を込め、さらに健人の体に密着する。
「うん…」
「じゃあ、好きかも?」
「う、うぅ…」
返事に困った健人は、ゆっくりと口を開いた。、
「その…俺の言葉が君を勘違い…させたなら…」
「え?勘違い?」
途端に眉をひそめ、怪訝な顔つきの千春。
一気にどんよりした重い空気が漂う。
「いや…その、昔俺が言った何気ない一言…深い意味はなくって…その…勘違いさせたなら、申し訳なくって…その、なかったことっていうか…忘れてほしい…」
(忘れて?ほしい?)
その言葉に、千春は自分を否定された気がして、かぁっと顔を赤らめると、健人から手を離した。
「君のとっては、ただその場から出た言葉かもしれないけど、僕にとっては、その一言が大事だったんだ…健人からみれば、勝手に思ってる僕のことなんか迷惑なだけかもしれない…けど…それならそれで、拒絶されてもかまわない…でも、僕は思い出まで消し去ることなんて出来ない…心に秘めた僕の大事な思い出まで奪う権利が健人にはないよね!」
涙をうっすら浮かべた千春の瞳は、まっすぐ射貫くように健人を見据えると、プイッと顔を横に向けて立ち上がると、一言、言葉を放った。
「出てって」
健人に背を向け、顔すら見ようと千春。
健人は、自身が今言った言葉と、千春に心惹かれる自分の気持ちの不安定さからくる曖昧さ。
その感情の狭間に揺れ動きながら、何一つ言葉を返せなかった。
千春も、気持ちとは裏腹に、背中から健人を寄せ付けない切なさが漂う。
(待って…行かないでよ…)
「…千春」
ポツリと呟く健人は、静かに立ち上がり、千春の肩に手を伸ばそうとしたが、キュッと手のひらを結び、その手を下した。
(…こんな、いい加減な気持ちじゃ…)
健人は、ゆっくりと歩き出すと、部屋を後にした。
パタンと締まるドアの音を聞いた千春は、その場に立ちすくんでいたが、やがて、ぺたんと座り込むと、健人が出ていったドアを見つめた。
「健人…」
千春の頬に、一筋の涙が流れた。
「……」
「健人は覚えてないかもしれないけど、あの後、また、君がカフェに来てくれてね…」
静かに話し出す千春を、黙ったまま見守るように見つめる健人。
「2度目は、健人は、女の子と来てて…ああ、彼女かな?…健人はノンケだった…って、ちょっと落ち込んだりして…その頃、僕はもう恋愛対象は、男だったから」
昔を懐かしむかのように、千春は可愛らしくはにかんだ。
「でも、僕はまだ男が好きだって自覚し始めた頃で…」
黙ったままの健人。
「彼女?友達?健人とどういう関係なのかわからない女の子と楽しそうにカフェで向かい合う2人に、イラっともしたけど、何を話してるのか、気になって気になって…僕は2人の近くに近寄ったんだ」
千春は、チラッと健人を見ると、健人はコクンとうなづき、続けてと言わんばかりに促した。
「その時、健人は、彼女がしてた、ワインレッドのネイルを褒めたんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、えっとした顔つきで、眉をピクッとさせ、健人は小さく呟いた。
「ワインレッド…」
(え?え?ワインレッドのネイル…前にも?見てた?)
健人の脳裏に、走馬灯のように駆け巡る思い。
「あ、それ…」
「思い出した?」
「た、たしか、大学のゼミが一緒の友達で…その日は…ゼミの後、喉乾いたねってなって…一緒にカフェに行って…たしか…」
「そう、そのカフェ。そこで僕はアルバイトしてたんだ」
「その友達が、綺麗なワインレッドのネイルしてて…た、たしか…」
「うん、健人は言ったんだ…『ワインレッドのネイルが綺麗だね、俺、ネイルの綺麗な子、好きなんだ』って」
「…え…」
(そんなこと…言ったっけ…?言った?…?)
必死に記憶を辿ろうとする健人に、千春は、腰掛けたベッドの上で組んだ足を組み替えた。
「友達だったんだ…彼女…」
ほっとした表情を浮かべる千春。
「それからだよ、僕がワインレッドのネイルを好んでするようになったのは…いつか、どこかで健人に出会えるかもしれないって思いで…男でネイルなんて、変?」
と、綺麗に施されたクロスラインのデザインにワインレッドのフレンチネイルがヒラッと宙を舞うように千春は手を回転させ、ネイルに軽く唇をあてがうとキスをした。
そして、腰掛けていたベッドから立ち上がり、千春は、健人に歩み寄る。
「だって、君が好きだって言ったから…」
(そんな前に言ったこと…?…未だに…?…覚えてて???)
健人の隣にストンと座ると、肩に腕を回し、
「ずっと、君だけを想ってきた…」
「ずっと?」
「僕のこと、ほんとはどう思ってる?」
「…え?」
その時、ふっと、健人の脳裏に近藤の言葉が蘇る。
『甘い言葉には、気をつけろよ』
近藤が言っていた言葉が、リフレインのように耳に響く。
しばらく、黙り込んでいた健人は、
「さっきも言ったけど、わ、わからないんだ…」
「嫌い?」
グッと顔を近づける千春に健人は、困惑しながらも、
「き、嫌いでは、ない…と思う…」
「気になる?」
千春は、首に回した手に力を込め、さらに健人の体に密着する。
「うん…」
「じゃあ、好きかも?」
「う、うぅ…」
返事に困った健人は、ゆっくりと口を開いた。、
「その…俺の言葉が君を勘違い…させたなら…」
「え?勘違い?」
途端に眉をひそめ、怪訝な顔つきの千春。
一気にどんよりした重い空気が漂う。
「いや…その、昔俺が言った何気ない一言…深い意味はなくって…その…勘違いさせたなら、申し訳なくって…その、なかったことっていうか…忘れてほしい…」
(忘れて?ほしい?)
その言葉に、千春は自分を否定された気がして、かぁっと顔を赤らめると、健人から手を離した。
「君のとっては、ただその場から出た言葉かもしれないけど、僕にとっては、その一言が大事だったんだ…健人からみれば、勝手に思ってる僕のことなんか迷惑なだけかもしれない…けど…それならそれで、拒絶されてもかまわない…でも、僕は思い出まで消し去ることなんて出来ない…心に秘めた僕の大事な思い出まで奪う権利が健人にはないよね!」
涙をうっすら浮かべた千春の瞳は、まっすぐ射貫くように健人を見据えると、プイッと顔を横に向けて立ち上がると、一言、言葉を放った。
「出てって」
健人に背を向け、顔すら見ようと千春。
健人は、自身が今言った言葉と、千春に心惹かれる自分の気持ちの不安定さからくる曖昧さ。
その感情の狭間に揺れ動きながら、何一つ言葉を返せなかった。
千春も、気持ちとは裏腹に、背中から健人を寄せ付けない切なさが漂う。
(待って…行かないでよ…)
「…千春」
ポツリと呟く健人は、静かに立ち上がり、千春の肩に手を伸ばそうとしたが、キュッと手のひらを結び、その手を下した。
(…こんな、いい加減な気持ちじゃ…)
健人は、ゆっくりと歩き出すと、部屋を後にした。
パタンと締まるドアの音を聞いた千春は、その場に立ちすくんでいたが、やがて、ぺたんと座り込むと、健人が出ていったドアを見つめた。
「健人…」
千春の頬に、一筋の涙が流れた。
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