ネイルの残像

有森崎あたる

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21. 自分に素直に

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「よおー!」

相変わらずのテンションで、ご機嫌よく現れた近藤。
仕事の合間に抜け出して来た健人が、屋外のリフレッシュエリアでタバコを一服しているのを見つけると、横にやってきて、同じようにタバコに火をつけた。

「はいよ」

ホットコーヒーの缶を健人に差し出すと、近藤も同じコーヒーをプシュッと開けた。

「ありがとうございます」

「なんかあったー?」

ふぅーと吐き出すタバコの煙を見つめながら、無言でコーヒーを受け取った健人に、近藤は尋ねた。

「なんかって…そう見えます?」

開けた缶コーヒーを一口口に含むと、屋外のフェンスにもたれていた背中をそのままズルズルと下げ、その場にペタッと座り込んだ。

「まあな…だてにいつも一緒にいるわけじゃねーからな…見ればわかるさ」

近藤は、ゴクッとさらに一口コーヒーを飲むと、

「で?何があった?新しい案件で何かやらかしたか?聞いてやるよ」

大きく吸い込んだタバコの煙を上を向きながら吐き出すと、近藤は、首元のネクタイを緩めた。

「…いや…仕事じゃなくて…」

「え?」

「え?」

お互い顔を合わせて、目を合わせると、近藤は驚いた表情で、

「仕事じゃねーの?」

「なくて…です」

「え?何?何系???」

「え、何系って…まあ、その…恋…系?」

「こい…?こい…!恋って、そのーーー?!!恋愛系?そっち?!!!」

「ええ…まぁ…」

「なに、なに、健人ちゃぁーーーん!一人前に恋に悩んでるのぉーーー?」

「茶化さないでくださいよ!けっこう真剣に悩んでるんですよ…」

「で…何に悩んでんの?フラれたか?」

「いや、その逆っす…」

「おっ?さすが!やるねー!告られたの?」

「まあ…そんなとこっす…」

「いいじゃん、いいじゃん、つきあっちゃえよ、モテるうちは!モテなくなったら、そんな悩みすらなくなっちゃうよぉ~」

調子よく答える近藤を横目に、健人は、

(相変わらず、軽いな…)

「え?そんな簡単に答え出ないっすよ…」

健人は、相手が男ということをあえて言わなかった。

「好きなの?好きじゃないの?」

「それが…わかんないんです…けど…すんげー気になるんです」

「わかんない?でも気になる?なんだ、それ」

「気になって、頭から離れないんです…だから、悩んでるんですよ」

キョトンとした目つきで、じっと健人を見る近藤は、次にゲラゲラ笑うと、

「何それ!簡単じゃね?好きでもなく、何とも思ってない子だったら、これっぽっちも思い出さないんじゃないの?」

「…ん、まあ」

「じゃあ、最初から答え出てんじゃん、頭から離れないくらい思ってるんだろ、だから悩んでるんだろ、それぐらい好きってことじゃん!」

「……」

「一度、つきあってみれば?」

「…近藤さん…迷いなしっすね…」

「上手くいかないものは、どうあがいたって最後は上手くいかない。悩んでウジウジしながら最初から避けるのは、俺は性に合わないな…確実で安全な道を選ぶのも悪くはないが、そんな人生、つまんなくねぇ?何を尻込みしてるか?わからんけど、後から後悔だけはするなよ」

「…後悔…か」

「えらそうなこと、言ったけど、お前の気持ちの思う方に進めばいいよ」

「何っすか!それ!最後の決断は俺っすか?」

「だって、お前の恋愛だろ!」

と笑いながら、タバコをまた一服した。

「自分の気持ちに素直に従ってみれば?あんまし、悩むな、お前っていつも笑ってるじゃん」

と、タバコをもみ消すと、じゃあなと手をあげ、近藤はオフィスへ戻って行った。

「自分に…素直に…かぁ」

(なんやかんや言って、いざっていうとき、いいこと言ってくれるよな、近藤さん…後悔…ね…素直にならないで、避けて後から後悔するくらいなら…)

健人は、最後にタバコを一口吸って、もみ消すと、青く透き通る空を見上げた。

青空を見つめるその顔からは、何かを吹き飛ばしたかのように晴々とした表情をあった。

そして、天高く両手を伸ばし、グーンと大きく背伸びをすると、健人は近藤の後を追うようにオフィスへと戻って行った。
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