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龍淵に潜む秋・ミツキの求婚
修学旅行【2ND】
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集合二〇分前になっても起きようとはしない新之助の顔にメントールを塗り、それでも起きないなら、と口にハバネロスティックを咥《くわ》えさせ、さらに応援を呼ぶために園部三和子《そのべみわこ》にメッセージを送った。慌てて駆け付けた園部三和子は、新之助の顔にミネラルウォーターを容赦なく浴びせる。
その様子を見ていたミツキは口元を両手で押さえて、なんてことを、と。どうにもこうにも、可笑しくなってしまい、園部三和子はついにはスマホで動画撮影を始める始末。いや、冗談抜きで時間厳守なのにどうするの、と僕が焦っても始まらない。
「新之助くん!! クアロア牧場楽しみにしていたのに。もう置いていくからね!」
園部三和子は半笑いでそう言い放つも、起きる様子がない。新之助がこんなに寝起きの悪い男だとは思わなかった。仕方ない、などと言いつつ新之助の耳元でミツキは何かを囁《ささや》いた。
「うぁぁぁぁぁぁぁ」
跳び上がる新之助はミツキの顔を見るなり、驚愕の表情を保ちながらベッドから落下する。まさに、ポルターガイストにでも出くわしたかのような反応。いったい、ミツキは何を囁いたのだろう。ミツキは笑いながら、ごめんね、と言って新之助に手を貸した。
「は、花山、お前。そんな過激なこと口走るなよ。春夜にそんなことしてるのか!?」
「ミツキ……いったい、何を言ったの」
「花山さんそれ、ちょっと気になるわ」
「ふふ。内緒」
気になるから教えてよ、と言った僕まではぐらかすのは、きっとすごく恥ずかしいことを言ったに違いない。卑猥《ひわい》なことでも言ったのかな。まさか、あのミツキがそんなこと言うはずがない。じゃあ、いったい。
時刻は現地時間で、早朝の五時。こんな早い時間からバスに揺られて、朝食は各自買ってこいなんて。食欲がない上に、こちらのお土産屋さん兼コンビニのお店のおにぎりやサンドイッチのおいしくないこと、この上ない。陽が少しずつ水平線を溶かし始めている時間に、角がカピカピになったサンドイッチを食べていると、アメリカだな、となぜか実感してしまう。そう、家族と行くサンフランシスコの朝食も同じような感じだった。
「シュン君、これ食べる?」
「え? おいしそうなおにぎり。どうしたの?」
「日本からレンジでチンするご飯持ってきたの。お部屋にレンジ付いていたでしょ。だから、早起きして作っちゃった」
ラップに包まれたおにぎりは少しだけ塩味がして、中身は種無しのカリカリ梅だった。しかも、握り方がふんわりとしていて、それでいて食《しょく》していて崩れないのはさすがだ。美味しすぎて、涙が出そうだった。
「すごくおいしい。ミツキありがとう~~~」
「春夜《しゅんや》は、まだまだだな。現地で朝食を調達するなんて」
隣でカップ麺を啜《すす》る新之助は、お湯が足りなかったな、と言ってサーモスのタンブラーからお湯を継ぎ足す姿はもはや異常である。朝食がカップ麺なんて。しかも、あんなに遅く起きたくせに、しっかりと夜のうちにお湯を仕込んでおいた新之助の用意周到さは、もはやラーメンに取りつかれた亡者そのもの。ああ、そんな人生送りたくない。絶対に高血圧症まっしぐら。
「新之助くんって、旅行に行ってもラーメンなの。それに、意外とマメなのよ。食べたラーメンをすべてノートに事細かく書いていて、ラーメン学者にでもなるつもりみたい」
「いや、園部さん、それって、付き合っていて嫌にならないの?」
訊《き》いた僕が間違っていたのかもしれない。そういえば園部三和子という人も少し変わった人だった。どうして。ラーメンは好きではないけれどスープを飲むのは好きなのよ、と。つまり、麺は食べないけれどスープを飲みに行く、ということなのか、ああ、信じられない。それって喉がすごく渇くじゃない。この人も高血圧症にならないといいけれど。
「みんな、付き合い方って色々なのね。僕とミツキがまともだということがよく分かったよ」
「そう? シュン君とわたしは、割と波乱万丈《はらんばんじょう》だと思うけど」
「……よくよく考えればそうだね」
そろそろ眠くなってきたね、という頃に到着したクアロアランチという牧場。まるで壁のような切り立った山が空を押し上げていて、見下ろす海にはまるでシルクハットのような岩が浮かぶ海。サファイアのような煌《きら》めきを放つ海を切り裂くマリンジェットが、バナナボートをけん引している。水平線の向こうに見える虹の柱は輝きに満ちていて、反対側の海には真っ黒な恐怖を演出する雲の影が、地上を一口で呑み込もうとしている。目まぐるしく変わる空の気持ちは、まるで秋の空の乙女のよう。女心と南国の空。
「班ごとに分かれて、行動してください。ここは様々な映画のセットが組まれた場所です。いいですか。どの映画のどのシーンなのかを考えてみてくださいね。スケッチはすべて完成させる必要はありません。ですが、必ず映画のタイトルとスケッチを帰ってから提出してもらいますからね。アクティビティもいいですけれど、必ず集合時間までに戻ってきてください。はい、解散」
僕とミツキが選んだ映画は、五〇回目のファーストキスという作品。ドリュー・バリモアとアダム・サンドラが演じるラブストーリーで、一日で記憶を失ってしまう女性との愛を育む恋愛映画だ。日本でもリメイクされたみたいだけど、今回は洋画の方を選んだ。
「スケッチって、ミツキ得意?」
「——どうだろう。あまり描いた経験がないかも」
アクティビティの邪魔にならない程度に道から外れて座り込む。小さめのビニールシートが必須と修学旅行冊子に書いてあったけれど、ここで使うのか。ちなみに、同じ班の新之助と園部三和子はジュラシックパークを選んだ。場所は被っているため問題はないのだが。
————一時間後
「ねえ。みんなさ。スケッチってなんだか分かってる?」
僕の描いたスケッチは、道が山の向こうに繋がっていて、雄大な雲と切り立った崖が印象的で彼氏が車を停めるシーン。百合の花を渡すと、満面の笑みで受け取る彼女がすごく可愛かった。
新之助のスケッチは、地面で蛇がのたうち回り、山脈のような蜘蛛の巣がその蛇に睨《にら》まれているような落書き。ちなみに、雲は薔薇のよう。
園部三和子のスケッチは、いくつもの石器ナイフが地面を刺していて、やけに伸びた草がまるで燃えているような芸術的作品。ちなみに、描きすぎて黒ずんでいる。
そして、問題はこの人。ミツキのスケッチは——黒い壁が行く手を阻む地獄。空はおどろおどろしく鳴いていて、草木は枯れている以前になにかに取りつかれている。きっと歩行者を襲うつもり。いったい、なにを見て描いたらこんな風になるの。ねえ。教えて。
「え。見たまま描くんでしょ? シュン君。わたしのやっぱり変?」
「へ、変というか。うんとね。うん。写真撮って帰ってから描こうか」
「上手だね。新之助くん。私、あまり上手に描けなくて」
「おお。三和子上手だなぁ。これなら確かにどこから恐竜出てきてもおかしくないな」
人の感覚というか、感性というか、芸術性というか。そういうものがちょっと分からない。その後も新之助と園部三和子は、互いに褒めちぎり、完成したミミズの図を満足そうにリュックに仕舞い込んでいた。ミツキは、自分の描いた絵と僕の絵を見比べていて、負けた、と呟くと残念そうに目の前の景色をスマホに収める。
道を歩く馬の列がすぐ近くを通ると、仔馬《こうま》の一頭が道を外れてこちらに向かってきた。可愛らしい瞳と人懐こい仕草に、ミツキは恐る恐る鬣《たてがみ》を撫でる。摺《す》り寄せる仔馬の顔を抱き締めたミツキは、可愛い、シュン君みたいなんて。
呼び戻されて、再び群れに戻る仔馬を視線で追う。きっとミツキは動物にも好かれているのだろう。だって、僕や新之助、園部三和子に仔馬は近づこうともしなかったのだから。
「花山さんって美味しそうだから」
「え?」
香りよ、と言った園部三和子は微笑んで、私もお腹空いてきちゃった、と。そう言われれば。確かに。しかし、集合時間までは少しばかり時間があった。
一度受付まで戻った僕たちは、せっかくだからアクティビティでもしようかという話でまとまり、ラプターという4WDの車で大自然を駆け抜けるツアーに参加する運びとなった。このラプターというのが、窓無しのゴルフカートを大きくしたような自動車で。とにかく揺れる。ものすごく揺れる。
運転手兼ガイドのとなりに新之助と園部三和子が座り、僕とミツキは後部座席に乗りこんだ。舗装されていない道を走るのに、徐行と言う言葉を知らないガイドがほくそ笑みながら告げる。抱きつくチャンスだ、と。
いやいやいや。抱きつく前に、被らされたヘルメットで何回ヘッドバンキングしているの。ミツキのヘルメットと激突するまでは良かったけど、態勢を崩して、本当にミツキに抱きついてしまった。普通逆だろう、なんて新之助のツッコミが入る。
「ああ、ちょっと、前に川。ねえ、川。リヴァァァァァ」
新之助が叫ぶのもお構いなしに川に突っ込むラプター。園部三和子が泣きそうな顔で呟く言葉はクレイジー。ガイドは大爆笑。今度はミツキが僕に抱きついたまま離れようとしない。もしかして、と思ってガイドに訊く。僕たちが高校生だからこんなに無茶するの、と。しかし、帰ってきた言葉は、今日の気分。ということは、今日はご機嫌なのですね。この金髪のナイスガイは。
道半ばでラプターを停めたガイドが車から降りろと指示する。現在位置はきっと山の中腹あたり。ここで歩いて帰れ、なんて言われたら遭難して明日の日本の新聞の社会面に載ってしまう。ああ、このガイドはご機嫌斜めだったのか。ミツキどうしよう、なんて話していると、ラプターの後部座席に登って、木に生《な》るたわわにぶら下がった赤い果実をもぎ取り始める。僕たちにそれぞれ一個ずつ取ってくれて、ワイルドアップル、と。
なんとでもなれ、と豪快に齧《かじ》ってみる。酸味が効きすぎているけど、とても甘くておいしかった。じっと果実を見ているミツキは、まるで警戒心が強い猫のよう。これは食べられるのか、食べたらお腹を壊すのではないか、いや、アクが強いはず、なんて。
「ミツキ、大丈夫だから。食べてみたら」
「そう?」
恐る恐る齧ると、おいしい~と頬を両手で支えるミツキを見て、ガイドは気を良くしたのか、もう一個もぎ取った林檎をミツキに投げた。ありがとう~と言って、もう一齧り。
そこはセンキューだろ、と新之助がツッコミを入れたが、ガイドは、どういたしまして、と拙《つたな》い日本語で返した。本当にナイスガイだったみたい。カッコいい。
また、野生の林檎のほかに、教えてもらった野生の生姜《しょうが》の匂いを嗅《か》ぐ。そのまま生姜を食べようとした新之助を制止するミツキは、ゆっくりとかぶりを振った。きっと死ぬよ、と。食べられるとしても、きっと、何かばい菌がついているに違いないと。やはり、ミツキは警戒心の強い猫だ。
丘の上から望むハットのような岩ないし島は、チャイナマンズハットという愛称で呼ばれていると教えてもらった。ブルーハワイとはよく言ったもので、かき氷みたい、と園部三和子が口にする。
帰りの道も容赦なく見事なワイルドドライブであった。侍というタトゥーの彫られた腕を見せつけるガイドは、もっと抱きつけ、と言って容赦ないハンドルさばきを披露する。ああ、僕はこんな車にはもう乗りたくない、と言うと、ミツキはとても残念そうに声を上げた。えぇ、それはだめ。なんて。
「シュン君と二人きりで来た時もまた乗りたいの。またあの林檎食べたいし」
「————うん。やむを得ない」
やむを得ないって何、と言って顔を上げて僕の顔を覗くミツキは、とても楽しそうで、一番はしゃいでいた。良かった。ミツキが修学旅行に来ることができて。
ミツキは修学旅行の日程を、アイドルに復帰した当初から予定に組んでいて、ドラマの撮影もそれに合わせてクランクアップさせていた。普通ならあり得ないこと、と話す。五日間も休みを取るとなると、相応の無理が生じるのだと言う。でも飛行機が苦手なのにどうして、と訊いたら、シュン君が行くからに決まっているでしょう、と。だから、飛行機の中でミツキは自分を見失うくらいに怖気づいていたにもかかわらず、それを分かっていて、僕のために来てくれたことがとても嬉しい。無理してくれてありがとう。ミツキ。
昼食を食べた後、クアロアランチを発《た》った。次に向かう場所は、自然保護区域に指定されているハナウマ湾という場所らしく、なんとサンオイルや日焼け止めの使用は禁止されている。女子はこの世の終わりみたいな顔をして——まるで“叫び”を描いたムンクの心境のよう——嘆き悲しむ。水ぶくれになって死んじゃう、なんて両頬を押さえながら叫ぶムンクもどきもいるくらい。
バスから降りるなり、すぐに海に入れると思っていたみんなは、海に入る際の掟のような話を三〇分程度聞かなければいけないことを知ると愕然としていた。なんで。ただの海なのに、と。
「いいですか。ここは海の中の生物を簡単に見ることができます。写真を撮るなり、スケッチするなりして何が生息していたか、なぜサンゴを守るのか、自然保護活動について、のレポートを帰ってから書いてもらいます。遊びではありません。あと、他の観光客の方に迷惑の掛からないよう行動を慎んでください。以上。それでは後についてきてください」
とにかく動植物に触るな、餌を上げるな、砂を巻き上げるな、砂を持って帰るな、等という説明がなされた。とはいえ、ほとんどの生徒があまり聞いていなかったように見えたのだが。
「シュン君見て! どう水着!」
コーラルピンク色のラッシュガード——もうこの時点で可愛い——を脱ぐと、同じ色で統一したコーラルピンクのビキニに、サクラカラーのスカートのようなフリルがついた水着。僕の前でフリルを摘まみながら、まるでお姫様が新しいドレスを王子に初披露するような仕草に、その場の男子生徒すべてが凍り付いた。
ああ、もうこれが見られただけで僕はここに骨を埋めてもいいや。なんて思えるほど可愛い。直視したら、あまりの眩しさに目が潰れてしまうかもしれない。
きめ細かい白い肌はまるで神話の中の楽園に広がる砂浜のようで、触れれば崩れてしまうのではないかと思うほど儚い色彩。その肌を覆うピンクの布地が谷間を強調していて、細い二の腕と対照的。僅かに縦に割れたお腹はダンサーの証であり、引き締まったウェストは抱きしめたら折れてしまいそうなほど華奢《きゃしゃ》だ。長い脚は引き締まっていて。全身が黄金比のようなスタイルは何者にも形容しがたい。ようは、八万年に一度の美少女というのはあながち間違いではなく、空前絶後の美少女だ。
惜しみなくその姿を見せるミツキを隠したくなった。心の狭い僕からすれば、当然の心境だ、なんて自己分析してみたり。
そして、予想通りの人だかり。ミツキの周りに意味もなく群がる男子。花山って本当にスタイルいいんだな、なんて学校では絶対に言わないような台詞を何気なく口にする男子は、もうテンションがおかしいことになっているのだと思う。しかも、そんな男子に目もくれず、僕の隣に座って腕を絡めてくるのだから、もう、僕は気まずいどころの話ではない。
「ミツキ、ここ学校と同じだって分かってる?」
「———だって、水着になることなんて滅多にないから。全然こっち見てくれないし。シュン君」
「だけど、くっつく必要ある?」
「うーん。シュン君が守ってくれなかったら、わたしきっと、さらわれちゃうよ?」
周りを見回すと、確かに意味もなく歩き回る男子生徒の姿が。女子生徒は怪しい男子に近づかないよう向こう側で固まっている様子。本当だ。これは危険かもしれない。男子生徒は姫が一人になることをひたすら待つ、魔王軍の下っ端みたい。翼の生えた悪魔みたいなやつ。
「春夜~~海は入れるのか~~?」
「うん。まあ、泳がなければ大丈夫」
シックスパッドの腹筋を持つ新之助は、さすがサッカーで鍛えているだけのことはある。だけど、おかしなテンション故に、女子たちは引き気味。だって、ロボットのような歩き方をしている意味が分からない。その理由は後ろを歩く園部三和子のせいだ。
ビスチェのようで、レースになっている上下黒の水着。下はスカート。全く普通の、しかも露出があまりない水着なのに。新之助はなにを緊張しているのか。
「新之助? どうした?」
「三和子が俺にしがみついてくるんだ。あんなに薄着なのに」
お前はウブか、とツッコミを入れたものの、聞くところによるとキスもしたことがないという。あれ、確か夏に付き合い始めたような。手を繋ぐのがやっとだという。初耳だ。そんなキャラだっけ。
「涼森くんって、絶対に真面目なのよね。だって、朝起こすときにね」
キスしよっか、って言ったら飛び起きたの。なんてミツキは言う。
「ちょ、ミツキ、そんなこと他の男子に言っちゃだめだからねッ!!」
「本当にするわけないでしょ。でもね、これで起きない男子高校生はいないって志桜里《しおり》ちゃんが言ってたんだよ」
————なんてことを教えるんだ志桜里のやつ。
「ねえ、さっそく入ってみよ!」
手を引くミツキに誘われて海の中に。海色《あさせ》の世界は僕たちの世界の音が消えて。
「シュン君。わたし海で泳いだことないの」
「は?」
でも、こんなにお母さんの近つくことなんて滅多にないから。楽しみにしていたんだ。
そんなミツキの腕を持って支えると、よろけたミツキは僕に抱きつく。
気持ち良いね。海って。
その様子を見ていたミツキは口元を両手で押さえて、なんてことを、と。どうにもこうにも、可笑しくなってしまい、園部三和子はついにはスマホで動画撮影を始める始末。いや、冗談抜きで時間厳守なのにどうするの、と僕が焦っても始まらない。
「新之助くん!! クアロア牧場楽しみにしていたのに。もう置いていくからね!」
園部三和子は半笑いでそう言い放つも、起きる様子がない。新之助がこんなに寝起きの悪い男だとは思わなかった。仕方ない、などと言いつつ新之助の耳元でミツキは何かを囁《ささや》いた。
「うぁぁぁぁぁぁぁ」
跳び上がる新之助はミツキの顔を見るなり、驚愕の表情を保ちながらベッドから落下する。まさに、ポルターガイストにでも出くわしたかのような反応。いったい、ミツキは何を囁いたのだろう。ミツキは笑いながら、ごめんね、と言って新之助に手を貸した。
「は、花山、お前。そんな過激なこと口走るなよ。春夜にそんなことしてるのか!?」
「ミツキ……いったい、何を言ったの」
「花山さんそれ、ちょっと気になるわ」
「ふふ。内緒」
気になるから教えてよ、と言った僕まではぐらかすのは、きっとすごく恥ずかしいことを言ったに違いない。卑猥《ひわい》なことでも言ったのかな。まさか、あのミツキがそんなこと言うはずがない。じゃあ、いったい。
時刻は現地時間で、早朝の五時。こんな早い時間からバスに揺られて、朝食は各自買ってこいなんて。食欲がない上に、こちらのお土産屋さん兼コンビニのお店のおにぎりやサンドイッチのおいしくないこと、この上ない。陽が少しずつ水平線を溶かし始めている時間に、角がカピカピになったサンドイッチを食べていると、アメリカだな、となぜか実感してしまう。そう、家族と行くサンフランシスコの朝食も同じような感じだった。
「シュン君、これ食べる?」
「え? おいしそうなおにぎり。どうしたの?」
「日本からレンジでチンするご飯持ってきたの。お部屋にレンジ付いていたでしょ。だから、早起きして作っちゃった」
ラップに包まれたおにぎりは少しだけ塩味がして、中身は種無しのカリカリ梅だった。しかも、握り方がふんわりとしていて、それでいて食《しょく》していて崩れないのはさすがだ。美味しすぎて、涙が出そうだった。
「すごくおいしい。ミツキありがとう~~~」
「春夜《しゅんや》は、まだまだだな。現地で朝食を調達するなんて」
隣でカップ麺を啜《すす》る新之助は、お湯が足りなかったな、と言ってサーモスのタンブラーからお湯を継ぎ足す姿はもはや異常である。朝食がカップ麺なんて。しかも、あんなに遅く起きたくせに、しっかりと夜のうちにお湯を仕込んでおいた新之助の用意周到さは、もはやラーメンに取りつかれた亡者そのもの。ああ、そんな人生送りたくない。絶対に高血圧症まっしぐら。
「新之助くんって、旅行に行ってもラーメンなの。それに、意外とマメなのよ。食べたラーメンをすべてノートに事細かく書いていて、ラーメン学者にでもなるつもりみたい」
「いや、園部さん、それって、付き合っていて嫌にならないの?」
訊《き》いた僕が間違っていたのかもしれない。そういえば園部三和子という人も少し変わった人だった。どうして。ラーメンは好きではないけれどスープを飲むのは好きなのよ、と。つまり、麺は食べないけれどスープを飲みに行く、ということなのか、ああ、信じられない。それって喉がすごく渇くじゃない。この人も高血圧症にならないといいけれど。
「みんな、付き合い方って色々なのね。僕とミツキがまともだということがよく分かったよ」
「そう? シュン君とわたしは、割と波乱万丈《はらんばんじょう》だと思うけど」
「……よくよく考えればそうだね」
そろそろ眠くなってきたね、という頃に到着したクアロアランチという牧場。まるで壁のような切り立った山が空を押し上げていて、見下ろす海にはまるでシルクハットのような岩が浮かぶ海。サファイアのような煌《きら》めきを放つ海を切り裂くマリンジェットが、バナナボートをけん引している。水平線の向こうに見える虹の柱は輝きに満ちていて、反対側の海には真っ黒な恐怖を演出する雲の影が、地上を一口で呑み込もうとしている。目まぐるしく変わる空の気持ちは、まるで秋の空の乙女のよう。女心と南国の空。
「班ごとに分かれて、行動してください。ここは様々な映画のセットが組まれた場所です。いいですか。どの映画のどのシーンなのかを考えてみてくださいね。スケッチはすべて完成させる必要はありません。ですが、必ず映画のタイトルとスケッチを帰ってから提出してもらいますからね。アクティビティもいいですけれど、必ず集合時間までに戻ってきてください。はい、解散」
僕とミツキが選んだ映画は、五〇回目のファーストキスという作品。ドリュー・バリモアとアダム・サンドラが演じるラブストーリーで、一日で記憶を失ってしまう女性との愛を育む恋愛映画だ。日本でもリメイクされたみたいだけど、今回は洋画の方を選んだ。
「スケッチって、ミツキ得意?」
「——どうだろう。あまり描いた経験がないかも」
アクティビティの邪魔にならない程度に道から外れて座り込む。小さめのビニールシートが必須と修学旅行冊子に書いてあったけれど、ここで使うのか。ちなみに、同じ班の新之助と園部三和子はジュラシックパークを選んだ。場所は被っているため問題はないのだが。
————一時間後
「ねえ。みんなさ。スケッチってなんだか分かってる?」
僕の描いたスケッチは、道が山の向こうに繋がっていて、雄大な雲と切り立った崖が印象的で彼氏が車を停めるシーン。百合の花を渡すと、満面の笑みで受け取る彼女がすごく可愛かった。
新之助のスケッチは、地面で蛇がのたうち回り、山脈のような蜘蛛の巣がその蛇に睨《にら》まれているような落書き。ちなみに、雲は薔薇のよう。
園部三和子のスケッチは、いくつもの石器ナイフが地面を刺していて、やけに伸びた草がまるで燃えているような芸術的作品。ちなみに、描きすぎて黒ずんでいる。
そして、問題はこの人。ミツキのスケッチは——黒い壁が行く手を阻む地獄。空はおどろおどろしく鳴いていて、草木は枯れている以前になにかに取りつかれている。きっと歩行者を襲うつもり。いったい、なにを見て描いたらこんな風になるの。ねえ。教えて。
「え。見たまま描くんでしょ? シュン君。わたしのやっぱり変?」
「へ、変というか。うんとね。うん。写真撮って帰ってから描こうか」
「上手だね。新之助くん。私、あまり上手に描けなくて」
「おお。三和子上手だなぁ。これなら確かにどこから恐竜出てきてもおかしくないな」
人の感覚というか、感性というか、芸術性というか。そういうものがちょっと分からない。その後も新之助と園部三和子は、互いに褒めちぎり、完成したミミズの図を満足そうにリュックに仕舞い込んでいた。ミツキは、自分の描いた絵と僕の絵を見比べていて、負けた、と呟くと残念そうに目の前の景色をスマホに収める。
道を歩く馬の列がすぐ近くを通ると、仔馬《こうま》の一頭が道を外れてこちらに向かってきた。可愛らしい瞳と人懐こい仕草に、ミツキは恐る恐る鬣《たてがみ》を撫でる。摺《す》り寄せる仔馬の顔を抱き締めたミツキは、可愛い、シュン君みたいなんて。
呼び戻されて、再び群れに戻る仔馬を視線で追う。きっとミツキは動物にも好かれているのだろう。だって、僕や新之助、園部三和子に仔馬は近づこうともしなかったのだから。
「花山さんって美味しそうだから」
「え?」
香りよ、と言った園部三和子は微笑んで、私もお腹空いてきちゃった、と。そう言われれば。確かに。しかし、集合時間までは少しばかり時間があった。
一度受付まで戻った僕たちは、せっかくだからアクティビティでもしようかという話でまとまり、ラプターという4WDの車で大自然を駆け抜けるツアーに参加する運びとなった。このラプターというのが、窓無しのゴルフカートを大きくしたような自動車で。とにかく揺れる。ものすごく揺れる。
運転手兼ガイドのとなりに新之助と園部三和子が座り、僕とミツキは後部座席に乗りこんだ。舗装されていない道を走るのに、徐行と言う言葉を知らないガイドがほくそ笑みながら告げる。抱きつくチャンスだ、と。
いやいやいや。抱きつく前に、被らされたヘルメットで何回ヘッドバンキングしているの。ミツキのヘルメットと激突するまでは良かったけど、態勢を崩して、本当にミツキに抱きついてしまった。普通逆だろう、なんて新之助のツッコミが入る。
「ああ、ちょっと、前に川。ねえ、川。リヴァァァァァ」
新之助が叫ぶのもお構いなしに川に突っ込むラプター。園部三和子が泣きそうな顔で呟く言葉はクレイジー。ガイドは大爆笑。今度はミツキが僕に抱きついたまま離れようとしない。もしかして、と思ってガイドに訊く。僕たちが高校生だからこんなに無茶するの、と。しかし、帰ってきた言葉は、今日の気分。ということは、今日はご機嫌なのですね。この金髪のナイスガイは。
道半ばでラプターを停めたガイドが車から降りろと指示する。現在位置はきっと山の中腹あたり。ここで歩いて帰れ、なんて言われたら遭難して明日の日本の新聞の社会面に載ってしまう。ああ、このガイドはご機嫌斜めだったのか。ミツキどうしよう、なんて話していると、ラプターの後部座席に登って、木に生《な》るたわわにぶら下がった赤い果実をもぎ取り始める。僕たちにそれぞれ一個ずつ取ってくれて、ワイルドアップル、と。
なんとでもなれ、と豪快に齧《かじ》ってみる。酸味が効きすぎているけど、とても甘くておいしかった。じっと果実を見ているミツキは、まるで警戒心が強い猫のよう。これは食べられるのか、食べたらお腹を壊すのではないか、いや、アクが強いはず、なんて。
「ミツキ、大丈夫だから。食べてみたら」
「そう?」
恐る恐る齧ると、おいしい~と頬を両手で支えるミツキを見て、ガイドは気を良くしたのか、もう一個もぎ取った林檎をミツキに投げた。ありがとう~と言って、もう一齧り。
そこはセンキューだろ、と新之助がツッコミを入れたが、ガイドは、どういたしまして、と拙《つたな》い日本語で返した。本当にナイスガイだったみたい。カッコいい。
また、野生の林檎のほかに、教えてもらった野生の生姜《しょうが》の匂いを嗅《か》ぐ。そのまま生姜を食べようとした新之助を制止するミツキは、ゆっくりとかぶりを振った。きっと死ぬよ、と。食べられるとしても、きっと、何かばい菌がついているに違いないと。やはり、ミツキは警戒心の強い猫だ。
丘の上から望むハットのような岩ないし島は、チャイナマンズハットという愛称で呼ばれていると教えてもらった。ブルーハワイとはよく言ったもので、かき氷みたい、と園部三和子が口にする。
帰りの道も容赦なく見事なワイルドドライブであった。侍というタトゥーの彫られた腕を見せつけるガイドは、もっと抱きつけ、と言って容赦ないハンドルさばきを披露する。ああ、僕はこんな車にはもう乗りたくない、と言うと、ミツキはとても残念そうに声を上げた。えぇ、それはだめ。なんて。
「シュン君と二人きりで来た時もまた乗りたいの。またあの林檎食べたいし」
「————うん。やむを得ない」
やむを得ないって何、と言って顔を上げて僕の顔を覗くミツキは、とても楽しそうで、一番はしゃいでいた。良かった。ミツキが修学旅行に来ることができて。
ミツキは修学旅行の日程を、アイドルに復帰した当初から予定に組んでいて、ドラマの撮影もそれに合わせてクランクアップさせていた。普通ならあり得ないこと、と話す。五日間も休みを取るとなると、相応の無理が生じるのだと言う。でも飛行機が苦手なのにどうして、と訊いたら、シュン君が行くからに決まっているでしょう、と。だから、飛行機の中でミツキは自分を見失うくらいに怖気づいていたにもかかわらず、それを分かっていて、僕のために来てくれたことがとても嬉しい。無理してくれてありがとう。ミツキ。
昼食を食べた後、クアロアランチを発《た》った。次に向かう場所は、自然保護区域に指定されているハナウマ湾という場所らしく、なんとサンオイルや日焼け止めの使用は禁止されている。女子はこの世の終わりみたいな顔をして——まるで“叫び”を描いたムンクの心境のよう——嘆き悲しむ。水ぶくれになって死んじゃう、なんて両頬を押さえながら叫ぶムンクもどきもいるくらい。
バスから降りるなり、すぐに海に入れると思っていたみんなは、海に入る際の掟のような話を三〇分程度聞かなければいけないことを知ると愕然としていた。なんで。ただの海なのに、と。
「いいですか。ここは海の中の生物を簡単に見ることができます。写真を撮るなり、スケッチするなりして何が生息していたか、なぜサンゴを守るのか、自然保護活動について、のレポートを帰ってから書いてもらいます。遊びではありません。あと、他の観光客の方に迷惑の掛からないよう行動を慎んでください。以上。それでは後についてきてください」
とにかく動植物に触るな、餌を上げるな、砂を巻き上げるな、砂を持って帰るな、等という説明がなされた。とはいえ、ほとんどの生徒があまり聞いていなかったように見えたのだが。
「シュン君見て! どう水着!」
コーラルピンク色のラッシュガード——もうこの時点で可愛い——を脱ぐと、同じ色で統一したコーラルピンクのビキニに、サクラカラーのスカートのようなフリルがついた水着。僕の前でフリルを摘まみながら、まるでお姫様が新しいドレスを王子に初披露するような仕草に、その場の男子生徒すべてが凍り付いた。
ああ、もうこれが見られただけで僕はここに骨を埋めてもいいや。なんて思えるほど可愛い。直視したら、あまりの眩しさに目が潰れてしまうかもしれない。
きめ細かい白い肌はまるで神話の中の楽園に広がる砂浜のようで、触れれば崩れてしまうのではないかと思うほど儚い色彩。その肌を覆うピンクの布地が谷間を強調していて、細い二の腕と対照的。僅かに縦に割れたお腹はダンサーの証であり、引き締まったウェストは抱きしめたら折れてしまいそうなほど華奢《きゃしゃ》だ。長い脚は引き締まっていて。全身が黄金比のようなスタイルは何者にも形容しがたい。ようは、八万年に一度の美少女というのはあながち間違いではなく、空前絶後の美少女だ。
惜しみなくその姿を見せるミツキを隠したくなった。心の狭い僕からすれば、当然の心境だ、なんて自己分析してみたり。
そして、予想通りの人だかり。ミツキの周りに意味もなく群がる男子。花山って本当にスタイルいいんだな、なんて学校では絶対に言わないような台詞を何気なく口にする男子は、もうテンションがおかしいことになっているのだと思う。しかも、そんな男子に目もくれず、僕の隣に座って腕を絡めてくるのだから、もう、僕は気まずいどころの話ではない。
「ミツキ、ここ学校と同じだって分かってる?」
「———だって、水着になることなんて滅多にないから。全然こっち見てくれないし。シュン君」
「だけど、くっつく必要ある?」
「うーん。シュン君が守ってくれなかったら、わたしきっと、さらわれちゃうよ?」
周りを見回すと、確かに意味もなく歩き回る男子生徒の姿が。女子生徒は怪しい男子に近づかないよう向こう側で固まっている様子。本当だ。これは危険かもしれない。男子生徒は姫が一人になることをひたすら待つ、魔王軍の下っ端みたい。翼の生えた悪魔みたいなやつ。
「春夜~~海は入れるのか~~?」
「うん。まあ、泳がなければ大丈夫」
シックスパッドの腹筋を持つ新之助は、さすがサッカーで鍛えているだけのことはある。だけど、おかしなテンション故に、女子たちは引き気味。だって、ロボットのような歩き方をしている意味が分からない。その理由は後ろを歩く園部三和子のせいだ。
ビスチェのようで、レースになっている上下黒の水着。下はスカート。全く普通の、しかも露出があまりない水着なのに。新之助はなにを緊張しているのか。
「新之助? どうした?」
「三和子が俺にしがみついてくるんだ。あんなに薄着なのに」
お前はウブか、とツッコミを入れたものの、聞くところによるとキスもしたことがないという。あれ、確か夏に付き合い始めたような。手を繋ぐのがやっとだという。初耳だ。そんなキャラだっけ。
「涼森くんって、絶対に真面目なのよね。だって、朝起こすときにね」
キスしよっか、って言ったら飛び起きたの。なんてミツキは言う。
「ちょ、ミツキ、そんなこと他の男子に言っちゃだめだからねッ!!」
「本当にするわけないでしょ。でもね、これで起きない男子高校生はいないって志桜里《しおり》ちゃんが言ってたんだよ」
————なんてことを教えるんだ志桜里のやつ。
「ねえ、さっそく入ってみよ!」
手を引くミツキに誘われて海の中に。海色《あさせ》の世界は僕たちの世界の音が消えて。
「シュン君。わたし海で泳いだことないの」
「は?」
でも、こんなにお母さんの近つくことなんて滅多にないから。楽しみにしていたんだ。
そんなミツキの腕を持って支えると、よろけたミツキは僕に抱きつく。
気持ち良いね。海って。
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