居候の訳アリ女子高生アイドルに三日で恋をして、相思相愛になった件。【三月の雪】

月平遥灯

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巡る季節に告ぐ言葉・三月の雪

花山充希という人

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 志桜里《しおり》が亡くなってからの半年間。虚空《こくう》の闇を漂う魚のように浮上できない僕の心は、自分でどうにもできないほど、悲哀《ひあい》に喘いでいた。何をしても上の空。結婚式場を選ぶミツキのとなりで、何にも興味を示せない僕は、まるで瞳の奥の光を失ったアンドロイドのよう。作動はするけど、どこか感情が伴わない出来損ない。


 ミツキが立ち直れたのかといえば、そういう訳でもない。ただ、前に進まなくてはいけないことを理解していて、心を強く持っているだけなのだと思う。できることなら、僕だってそうしたい。だけど、先に進む推進力がない。どうすればミツキみたいになれるの。教えてミツキ。


 ミツキの部屋で広げる式場のカタログは、どれも実際に足を運んで持ち帰った戦利品。どの式場もそれぞれ特徴があって、どこも捨てがたい。だけど、ミツキにはすでに心に決めている場所があるみたい。僕はそれに賛成だし、ミツキの意思を最優先したいと思っている。


「シュン君。ねえ。聞いてる?」

「あ、うん。ごめん」

「わたしね、やっぱりこの海の見える式場にしたいんだけど」

「うん。いいんじゃないかな」


 もう、と言ってミツキはカタログを片付け始める。立ち上がり、僕に注ぐ彼女の視線は悲しそう。ごめん、ミツキ、と謝っても、彼女は何も言わずに嘆息するばかり。


「ねえ、シュン君。ちょっと出かけよう」



 ☆☆☆



 ミツキの運転するSUVが進む道は徐々に狭まり、どこに連れて行かれるのか不安だった。なにも語らないミツキは、もしかしたら、こんな僕に嫌気が差して殺害でもしようとしているのかも。それで誰にも気づかれないひっそりとした場所に埋めて———。完全犯罪。


 だけど、そんな心配も杞憂《きゆう》に終わり、やがて開けた場所に出る。広い駐車場に車を停めると、眼前に広がる山に囲まれた海。その入江は、日本の渚百選にも選ばれた絶景の海。潮騒《しおさい》が奏でる夏の終わりに、少し侘《わび》しさを感じながら望む夕陽の反射した海は、まるでカンパリ・オレンジのカクテルのよう。


 車から降りた僕とミツキは、堤防に腰かけて眺める海に沈黙した。さざ波が寄せては返す泡沫《うたかた》の様相がどこか切なく。ただ、眺めているだけなのに涙が零れる。どこかでウミネコの鳴く声がして、視線を頭上にやればオレンジピールのような雲。ゆっくりと流れていく夏の欠片が、秋の始まりを感じさせる。


「わたしのお母さんが死んじゃった時はね、海に散骨したんだ。すごく悲しかった。なんで、わたしを置いて行っちゃったんだろうって。でもね、海を見ていると思うの。寄せる波も返す波も、全部海なんだって」

「うん」

「寄せては返す波のように、喜びと悲しみを繰り返して生きていくのが私たち。いなくなっちゃった人たちの感情は、きっと消えてないと思うの。お母さんと過ごした日々や志桜里ちゃんと笑った日々は、私たちが引き継がなくちゃ。だって、そうじゃなきゃ、その人たちの生きた証がなくなっちゃう。そんな気がするんだ。だから、必死に生きなきゃ」

「……うん。ごめん。僕……」

「シュン君が、がんばって泣かないようにしているの、知っているよ。男の子なのに泣かないの、って志桜里ちゃんに言われたこと気にしているんでしょう。でも、今日はわたしが許します」


 今日だけは泣こう。そう言って僕の頭を優しく抱き寄せるミツキの胸で思いきり泣いた。そうか。僕は、こうして声をあげて思いきり泣けなかったんだ。心のどこかで、自分の責任とか、僕が志桜里の異変に気付いていたら、とか、理屈ばかりこね回して。感情を吐き出せばいいのに、それができなかった。溜め込んだ感情が僕の心を侵食して、やがて、心を支配した悲しみに、僕は呑み込まれてしまった。


 流した涙と感情は、打ち付ける波の音に溶け出していく。僕の頭を撫でるミツキは、まるで僕の心の氷を融かす優しい焚火《たきび》。温かくて、気持ち良くて。


「志桜里ちゃんに言われたでしょ。ミツキをよろしくって。ちゃんとわたしの面倒見てね。わたしも志桜里ちゃんに言われた通り、シュン君をしっかり支えるから、ね」


 顔を上げた僕に微笑むミツキを、夕陽の逆光が差して、その輪郭を浮かび上がらせる。まるで、夏の空から降り注ぐ光に背伸びする大輪の向日葵《ひまわり》のように。



 ————シュン、ミツキをお願い。



 そうだったね。分かったよ、志桜里。きっと志桜里なら言うよね。前に進めって。志桜里の分まで生きるから。志桜里に拾ってもらった命は、志桜里とともに。志桜里がいたことは忘れないから。僕とミツキの中で生きて、志桜里。



 ☆☆★



 ————結婚式当日。



 大きな鏡の前にある椅子で視線を爪先に落とす。窓のない部屋の作りが閉鎖的空間を感じさせた。フィッティングルームが三つ並んでいて、どれもカーテンは開いている。奥でスタッフがドレスを丁寧にハンガーに掛けていた。擦れる音がシルクのようで、少し落ち着かない。

 着替えた白いタキシードにどことなくソワソワする。深呼吸をして落ち着かせようとも、浮足立った心が逃げ場を探す。あと数分もすれば、きっと僕は注目を浴びることになる。その視線に耐えられそうにもない。これは、復帰したダンスステージなどよりも、はるかに緊張をするし、まして、家族みんなの前でキスをしなくてはいけない状況なんて、考えただけでも震えが止まらない。


「春夜さん、そろそろお時間です。お願いします」


 ノックもせずに部屋を訪れた式場の若い女性スタッフは、僕の緊張などよそに、そう言って開けたままの扉から出るようにお辞儀をした。

 この人はなんて業務的な動きと話し方をする人なのだろう、と僕は内心苛立いらだった。だけど、扉を出た時に、春夜さん、がんばって、と笑顔でガッツポーズをするそのスタッフに声を掛けられたことで、僕は怒りをすべて否定する。なにをそんなに敏感になっているのだろう。


 三メートル近くある分厚い扉の前で待機させられた僕は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。僕の両脇に立つ女性のスタッフが、僕の顔を見るなり苦笑した。そんなに可笑しいですか、と訊《き》けば、みんな同じ顔しますよ、と。僕が特段おかしいのではないと気付くと、なんだか安心。扉に向こうでみんなはどんな話を咲かせているのかな。


 シュンのやつガチガチだぜ。ミツキちゃん綺麗だろうな。楽しみだね、二人の門出。早く始まらないかな。なんて話しているかも。


 インカムでコソコソと話すスタッフが扉に手を掛ける。いよいよか、と僕は瞳を閉じて覚悟を決めた。



 ————まばゆい光が溢れる。



 扉の向こう側はこちらの仄暗《ほのぐら》い穴倉のような世界とは対照的に、光に包まれた異世界。



 どうぞ、と言って開かれた教会の扉の向こうは硝子張りの壁。一八〇度見渡す海がサファイアの煌《きら》めき。燦々《さんさん》と降り注ぐ太陽の光が反射し硝子《がらす》の十字架を染め上げる。参列してくれた家族と、友人たちに視線で射抜かれながら歩く赤いヴァージンロードを踏む柔らかい感触がとても高貴で、一歩ずつその踏みしめる感覚を心に刻んでいく。


 右側に並ぶ僕の友人たち、左側に並ぶミツキの友人たち。風見碧唯《かざみあおい》、新之助、園部さん、そして朱莉《あかり》、怜さん。優しい視線が仄かに僕の心を打つ。みんな来てくれたんだ。

 やがて、視界に入る家族の姿。父さんと母さん、それに姉さんが神妙な面持ちをしている。なんで僕よりも緊張しているの。


 あまりにも静寂すぎて、空気が重くて。硝子の天井から見下ろしてくる空が近くて。眩しくて。祭壇前で踵《きびす》を返した僕はとても耐え切れずに、顔を背けて視線を落とす。

 すると、どこからか聞こえる声。



 ————シュン、顔を上げて。



 はっとして顔を上げると、僕と参列者を包む静謐《せいひつ》で神秘的な雰囲気に思わず唾を飲み込んだ。いったい誰が僕に言ったのか分からなかった。だけど、聞いたことのある声。優しい声。


 静寂の支配する厳かな空気が流れる部屋の重圧に屈しそうになる。だけど、響く扉の開く音と同時に見えた光に————僕は言葉を失う。


 注がれた光を纏《まと》うように、純白のドレスに身を包んだ彼女はまるでプリンセス。月白《げっぱく》と薄桃色の薔薇のブーケを持つ、姫のヴェールの向こう側の表情は、ここからでは見て取れないけど、花山健逸《はなやまけんいつ》——お父さん——に腕を引かれて歩く姿は凛としていて、触れてはいけないような儚さ。まるでオルゴールの高音で奏でる讃美歌《さんびか》のような足音が、祝福の薫りに包まれる。本当に、神々しく美しい。


 僕に引き渡される花嫁は、ヴェールの向こうで頬を緩ませる。少しだけ緊張しているのかな、なんて思ったけれど、あのミツキが緊張なんてするはず——いや、そうでもないかも。呼吸が少しだけ荒い。うん、ミツキは緊張している。



 歌う讃美歌は少し恥ずかしい——と思ったら、隣のミツキが聖歌隊に負けじと美声を発していた。また、参列者の中の風見碧唯もミツキに対抗するように歌う姿に、思わず笑いそうになる。なぜここで歌バトルをしなくてはいけないのか。


 汝、倉美月春夜《くらみつきしゅんや》は、この女、花山充希《はなやまみつき》を妻とし、病める時も健やかなるときも、喜びの時も、悲しみの時も富める時も貧しき時も共に歩み、死が二人を分かつ時まで愛を誓い、妻に寄り添い、想い、命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?


 ————誓います。


 汝、花山充希は、この男、倉美月春夜を夫とし、病める時も健やかなるときも、喜びの時も、悲しみの時も富める時も貧しき時も共に歩み、死が二人を分かつ時まで愛を誓い、夫を想い、敬い、夫のみに寄り添うことを誓いますか?


 少しだけ間を置いたミツキは沈黙する——え、ミツキはもしかして、誓えません、とか言うのかな。不甲斐ない僕を見限って、やっぱり結婚できません、とか。


 ————誓います。


 夫婦としての誓いを立てた僕たちは、互いに見つめ合う。少しだけ上目遣いになったミツキの瞳は相変わらず綺麗で、ヴェールのこちら側から窺《うかが》うその表情は、ほんの少し笑っているみたい。薄い撫子色《なでしこいろ》のチークが彩る彼女の頬は、僕を見るなりさらに色に染まっていく。


 受け取った指輪をそっとミツキの華奢《きゃしゃ》な指に嵌《は》める。震えてしまった僕の手を今度はミツキがしっかり握って、ヴェールの向こうから僕だけに聞こえるように、大丈夫。優しく僕に嵌める指輪が光にきらり。


 いよいよ、ミツキのヴェールを捲ると、その美しい姿に思わず固まってしまった。羽が舞う風の中に後光が差す天使のような表情のミツキは、この世に化現《けげん》した天界の使いみたい。恐れ多くてキスなんてできるはずがない。

 だけど、そんな僕にミツキは言う。シュン君、キスだよ。いや、分かっているけど。したら罰当たりじゃないよね。


 キスなんて何回もしているのに、こんなに緊張するなんて。


 ゆっくりと近づけた僕の唇に、ミツキは少しだけ顔を前に出して触れるようにキスをした。その瞬間、時が止まった。硝子張りの四方から注ぐ光と照らされるすべてが一瞬モノクロームに。侵食する白黒がアメーバのように空、海、ミツキ、そこにいるすべての人たちに広がっていく。やがて、すべてを光と影のコントラストで描かれた世界で、僕は絶望という毒に侵された空気を吸い込んでいく。


 僕はこの子と結婚をしてもいいのだろうか。この子を本当に幸せにできるのだろうか。また病気になって悲しませないだろうか。また、ミツキを泣かせたりしないだろうか。



 ミツキと結婚する資格なんて、この僕にあるのだろうか。



 ————シュン、前を見て。



 その声はどこからともなく。いったい————。

 ミツキから唇を離して真っ直ぐ前を見ると、彼女の瞳に吸い込まれる。ブラウンの硝子玉は水の惑星の様相を呈《てい》して、そこから広がる世界が色づいていく。

 空も海も風も、この空気も。固唾《かたず》を呑んで見守るみんなも。すべての人が動き出し、彩られた世界が僕の心の中に溶け込んでいく。心に焼き付けた世界は、ミツキの瞳の中で悠久の時間を紡ぎ始める。ああ、そうだった。ミツキを幸せにできるのは僕しかいない。



「ミツキ、絶対に幸せにするから」

「うん……嬉しい」



 響く鐘の音が触れるキャンディカラーの空は高く、薫る潮騒の風に乗った薔薇の花びらが舞い上がる。包まれた祝福の声に、思わず頬を綻ばせたミツキは僕の指を優しく摘まんで、階段を下りていく。

 異世界の可憐なプリンセスの足を持つと、僕はその華奢で軽い身体を抱きかかえた。お姫様抱っこをしながら下りる階段に、ミツキは、きゃあ、と声を漏らす。でも、赤らめる顔はとても嬉しそう。身体が健康になったらやりたかったことその一は、このお姫様抱っこ。結婚式まで取っておいて良かった。


「筋トレしているし、心臓はもう大丈夫だから」

「もう、打ち合わせで言っていなかったじゃない。でも、シュン君、頼もしい~。転んだら、二人して死んじゃうから気を付けて」


 ミツキの心配も杞憂に終わった。無事に階段の下まで降りた僕たちは、階段上の姉さんや母さん、父さんに手を振る。そして、朱莉や新之助、それに園部三和子の心配そうな顔が印象的だった。こんなところで僕とミツキが転倒したらそれこそ笑えないから。


 ブーケを投げたミツキは振り返り、その行方を追う。


 風が吹いた。突然。


 ふわりと弧を描く白い薔薇は、誰の手にも届かず。跳びすぎたブーケは、志桜里の写真を持つ風見碧唯の元に。


 まったく志桜里はやっぱり、欲しいものは何でも手に入れる性格なんだから、と、風見碧唯は苦笑した。


 そうか、志桜里も来てくれたんだね。



 ☆★★



 披露宴で流された映像は、僕とミツキの出会いから今までの物語を演じた友人達の悪ノリ動画。とにかく酷かった。だけど、思わず笑ってしまった。あまりにも適当すぎてふざけすぎていて。




 シュン、ミツキちゃん、結婚おめでとう。あたしは————。


 ダンス部に入ったばかりのミツキちゃんが、急遽ステージに立ってくれた桜祭り。後で動画を見返したら、ミツキちゃんしか目立ってなくて悔しい思いをしたけど、あたしにダンスを教えてくれるミツキちゃんは優しくて、いつも良い匂いがして。憧れでした。

 一緒に競った浴衣美人コンテストは、ミツキちゃんの足元にも及ばなかったけれど、でも、二人でステージに立てたことは、一生の思い出です。

 それに、三人で行った海浜公園は、すごくギスギスしちゃったけど、今思うとすごく楽しかった。アトラクションに乗れないシュンを置いて、ミツキちゃんと二人で楽しんでしまったことには、反省しています。

 大学生活では、毎日一緒に講義を受けて、お昼を食べて。あたしの隣にいることが当たり前のミツキちゃんは、毎日、悲しげにシュンのことを話していました。絶望する毎日に、励まし、逆にミツキちゃんに励まされて。こうして今日という日を迎えられたことは奇跡なんだなって思います。

 数えきれないくらいの思い出を浮かべれば思うことは一つです。

 倉美月春夜くんと花山充希さん——倉美月充希さんが大好きです。

 二人が友達であたしは幸せでした。



 だから————だから、シュン。ミツキちゃんを幸せにしてあげて……ください。

 ミツキちゃん……シュンをよろしくお願いします。二人とも————。



 ————大事な親友だから。


 
 朱莉が読んだ手紙に涙したミツキは、彼女と抱き合って、友人としての誓いを立てたみたい。珍しく朱莉が泣いていて、僕も貰い泣きをした。なんて涙もろいのだろう。ああ、嫌だ。


 最後にミツキが読んだ花山健逸への手紙は、言葉一つ一つに愛が込められ、亡き母への想いも綴られている。ミツキはいつの間にか、僕の前以外でも泣くようになっていた。そうか、花神楽美月《はなかぐらみつき》はもういない。



 ————目の前にいるのは花山充希だ。



 花山充希は、締めに父と母から貰った愛情を、今度は僕に注ぐと読んだ。涙声で読む手紙に会場は感動をして涙する人が次から次へと。ベッド・ミドラーのザ・ローズという定番の曲が包む耽美《たんび》な空間に、思わず嗚咽《おえつ》を上げる人まで。


 ————わたしは今日から、倉美月春夜の妻となります。倉美月充希《くらみつきみつき》として、春夜くんとともに支え合い、ともに分かち合い、ともに歩んでいきます。どうかこれからも応援してください。よろしくお願いします。


 充希が頭を深く下げるのを見計らって、僕と母さん、それに父さん、花山健逸も頭を下げる。



 充希。これからもよろしくね。



 ★★★



 家に帰った僕と充希は、ようやくまともな食事を取れるようになった。披露宴ではなかなか食べることができなかったために、空腹で吐き気を催すほど。


「ねえ、春夜くん。結婚しちゃったね」

「え。今さらどうしたの充希」


 はにかむ充希は言う。だって、実感が湧いたから。確かに言われてみればそんな気もする、と言った僕にお弁当を差し出す。式場が用意してくれた幕ノ内弁当は、冷めきっていたけど、空腹の僕にはご馳走だった。充希と二人で箸を入れるこのお弁当が、夫婦になって初めての食事だと思うと、なんだか感慨深い。


「ごめんね。わたしが作ればいいんだろうけど」

「あ、いや、それはいいよ。もうクタクタじゃない」

「え。春夜くんはクタクタなの? 初夜なのに」

「ええ。初夜って。なんか卑猥だよ充希」


 噴出《ふきだ》した充希につられて、僕も噴出す。やっぱり充希と二人でいると笑顔が絶えない。今まで以上に僕の空気になっている充希は、もし存在しなければ僕は息が吸えない。隣にいてもなんの違和感もなく、むしろいて当たり前。


 充希は僕の妻で、生涯の伴侶。だから、いつまでも一緒にいたい。


「ねえ、春夜くん。子供は何人作ろうか」

「だから、なんかさっきから卑猥じゃない。どうしたの」

「もう。家族計画は大切なのよ。夫婦になった初日から考えないと」


 そう言って僕の左腕に絡みつく充希は、きっとタイプ。いや、手段も目的も選んでいくタイプなのかな。



 お風呂に入ってベッドに横たわる僕の隣で充希は言う。きっと春夜くんとなら、いつまでもこうして仲良く笑い合いながら生きていけるのかな、なんて。


「波みたいに、悲しみとか喜びとか、繰り返して生きていくんでしょ。だからきっと、また喧嘩したりするよ。充希が出て行ったり、僕が拗《す》ねたり」

「また、そうやって、意地悪なこと言うんだから」

「でもさ、それでも充希のこと離さない。絶対。だって、人間だもん。喧嘩することだって、意見が合わないことだってあるでしょ。それでも、僕は充希を一生大事にする」

「————うん。わたしも。春夜くん。いつまでも一緒。約束しよ」


 差し出す小指に小指を絡ませる僕は、すぐに充希を抱き締めた。


 
 充希。これからもよろしくね。



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