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1巻
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しおりを挟むレオン
「あと一年、か……」
レオンの口から大きなため息が漏れた。耳と尻尾を垂らし、ベッドに腰掛ける。深く沈んだマットレスはレオンの心とリンクしているかのよう。
手の中には家族から送られてきた一通の手紙。便せん三枚に亘り、レオンを心配する内容がびっしりと記されている。
家族と最後に顔を合わせたのは九年前。村を出た日のこと。以来、一度も会っていない。
仲が悪いのではない。むしろレオンは家族を大事にしている。村を出る直前に撮ってもらった家族写真を写真立てに入れて、いつも見える位置に飾っていた。
この九年で送られてきた手紙に同封されていた写真も、当然大切に保管している。帰りたいと思ったのも一度や二度のことではない。長期休暇を取って帰省したという話を同僚から聞く度、羨ましくてたまらなかった。
レオンはまだ『帰る資格』がないから、帰りたくても帰れないのだ。
レオンが生まれ育った猫獣人の村には変わった風習がある。いや、レオンの育った村限定ではない。猫獣人の村には必ずとある決まりがあった。少しばかり基準は変わっても、求められることや基本的なルールは同じ。
それは以下のようなものだ。
十五歳前後で村から出される。そして『とあること』を成し遂げるか、タイムリミットを迎えるまで、村の敷地に足を踏み入れてはならない。
猫獣人のみが暮らす村は閉鎖的になりやすい。そのため『村の外の世界を知る』という名目で、ある程度成長した子供を一定期間、外の世界に触れさせるのだ。
――というのはあくまでベータ男性に生まれた子供の話。アルファ男性は優れた種を蒔いてくることを求められ、女性もしくはオメガ性を持って生まれた者は『優秀な男性の子を産む』ことが求められる。
ベータ男性は十年が経過すれば帰村が許された。その間どのように過ごし、誰と関係を持つのも個人の自由。
けれどどの種族にも少数しかいない、選ばれし才能を持って生まれたアルファ男性は、村を出る際に指定された人数を孕ませなければ村に帰ることは一生許されない。
そしてアルファ男性と同様に、女性とオメガにも求められる基準が存在する。それはベータ女性かそれ以外かでも大きく変化した。
オメガはベータとは違い、男女関係なく子供を孕め、定期的に『発情期』がやってくる。発情期になると自分の意思とは関係なく、アルファを誘うための発情香が溢れ出るのだ。
抑制剤を服用することで、発情期に伴う症状をある程度抑えることができる。ただし、オメガの猫獣人が好んで抑制剤を使うことはない。
オメガの猫獣人にとって、発情期とはチャンス期間である。発情期と発情香を上手く活かせるかどうかが、役目を果たす上で重要になるのだ。
オメガはベータ女性よりも使える手段が多いため、村の期待も大きい。
アルファ女性にはオメガのような発情期はないが、オメガの発情香を利用して発情することが可能だ。アルファとオメガの特性を利用し、猫獣人同士で手を組んでもいい。求められるのは結果であり、そこまでの過程は個人の采配に委ねられている。
種族関係なく、絶対数が少ないオメガとアルファは性的な魅力が高いことが多い。加えて猫獣人の場合は『出産が可能である』というだけでも他種族から見ればかなり魅力的だ。
なにせ猫獣人は複数の相手の子供を同時に孕めるのだから。
村から出たオメガや女性の中にはこの特性を買われ、大国の貴族に囲われる者もいる。もちろんそれも全て織り込み済みで、大人達は子供を村の外に送り出す。その証拠に、初経を迎えた子供達にありとあらゆる性知識を叩き込むのだ。
今まで猫獣人と多く交わってきた人間に関する知識は、特に念入りに。人間という種族に特別優秀な者が多いわけでも、種族同士相性がいいわけでもない。
獣人や他種族と比べて、しがらみや種族間でのルールが少ないため、一夜の相手に適しているのだ。初めから割り切っている相手なら、揉めることはない。
まぁ揉めたところで子種さえもらえれば、村に戻れる。適当に撒いて逃げられるというのも、慣れない者が人間を選びやすいポイントだ。
こうして猫獣人達は長年栄えてきた。
レオンが九年間で出会ったオメガの猫獣人達は皆、自らの役目を果たすことに必死だった。
もちろんレオンだってそう。自分なりに努力はしてきた。
だが全員が目的を果たせるわけではない。気が弱い者であったり、外見的なハンデを背負っていたり。理由は様々だ。
幸い、レオンは気の弱いほうではない。けれど幼少期から発育がよかった。それは他のベータやアルファと比較しても変わりはない。
小さく可愛らしい容姿が多いはずのオメガなのに、だ。
ベータであれば力仕事を任せられると喜ぶところだが、オメガにはハンデにしかならない。レオンは本当に目的が果たせるのかと、幼少期からずっと村中の大人に心配されていた。
緊急時以外は月に一往復までと決まっている手紙には、必ずレオンを心配する旨が記載されていた。体調を気にするものがほとんどだが、レオンがオメガとして上手くやれているのか心配する親心もまた、多分に含まれていることには気づいている。
だから普段は月に一度、部屋のドアに挟まる手紙を大事に読んで、王都から遠く離れた実家に暮らしている家族に思いを馳せていた。
けれど今日は違う。
『いつになったら帰ってくるのか』
レオンの進捗を気にかける一文が、事の深刻さを突きつける。
期限は十年。うち九年も経過しているのに、一向に帰ってくる様子がないのだから当然だ。
加えてレオンは王城で騎士をしている。それも第一騎士団所属。国内最高峰の武力を持つ者達が集うその場所で、副団長の地位を確立していた。
アルファ男性やベータ男性であれば誇れる経歴だが、レオンはオメガ。
ただでさえオメガとしてはマイナスな容姿を持って生まれてしまったというのに、出世してどうするのか。子を孕むチャンスを自ら遠ざけているようなものだ。家族が頭を抱えるのも無理はなかった。
目的の果たせなかったオメガの末路は悲惨だ。村中のアルファ男性に頭を下げて優秀な種を注いでもらわねばならない。
年齢など関係なく、精子を出せれば、身体の自由が利かなくなった老人だろうと、精通したばかりの子供だろうと構わなかった。
もちろん家族にアルファがいればその人にも種を注いでもらう。それが親友の番や父親だったとしても。どんなに罵られようがずっと頭を下げ続けるのだ。そんなことが村中のアルファ男性の種を注がれるまで続く。
そうして生まれた子供は、村の子供として育てられる。無事子供が生まれれば役割が終わり、なんて甘い話ではない。目的を果たせたオメガとは決定的に違う。
十年の時をかけてもろくに役割を果たせなかった者に待つのは、生涯さらし者になりつづける悲劇だけ。
欠陥品の烙印を押され、ようやく子供を産み終えたオメガが向かう先は、村の一番端にあるほったて小屋の中。
そこでは外見の美しさや十年間の成果、頭のよさなど諸々を合算した上でランクが付けられる。
よくて精通したばかりの子供達の練習台。だが多くは、村の資金になるために奴隷として売られていく。
そんなことになるくらいだったら逃げてしまえばいい。そう考えるオメガもいただろう。けれど、村の追っ手はどこまでだって追いかけてくるのだ。
有力貴族に抱えられても、村への申し出がなければいつまでだって追い続ける。その貴族が村が認める何かを差し出すまでずっと。猫獣人の『種の繁栄』に向ける執念を甘く見てはいけない。
ならば適当な男娼にお金を渡して抱いてもらえばいいのではないか。そう考え、行動に移した者もいた。過去に十数人はいるそうだ。
けれどそれで上手くいった例は数少ない。
第一に、優れた種を持つ男娼の一夜はそれなりの値段が付けられている。十日先まで予約が埋まっているなんてこともザラだ。ギリギリで駆け込めるほど甘くない。一夜を買えるだけの金を用意し、なんとか種付けに漕ぎ着けたとしよう。けれど今度は第二の問題が立ち塞がる。
男娼の中にはアルファと偽って働くベータが多いのだ。見極めが肝心となってくる。といっても、これは男娼以外の相手に抱いてもらう場合にも発生しうることであるのだが。
必ずしも相手がアルファでなければならない、ということはない。オメガ達に課せられたのは十年の期限内に『優秀な種を孕むこと』であり、ベータでも相手が優秀でさえあれば構わない。アルファを狙うのは優秀な子供が生まれる確率を上げるため。
もし相手がアルファだったとしても、産んだ子供の能力が同年代のオメガが産んだ子供と比較して劣っていると判断された場合、目的を果たせなかったとされる。
レオンがこのまま子を孕めなければ、待っているのは確実に奴隷コース。
しかも村を出てから騎士として鍛練を続けてきたレオンは、家族が思っている以上に屈強な身体に成長を遂げている。
せめて他のオメガ達と同じように、商業ギルドの受付など、比較的身体の負担が少ない仕事に就いていれば、こんなに成長することはなかったのだろう。今になって悔やんだところで後の祭りである。
こんな状態のレオンが奴隷として売りに出されたところで、買い手が見つかるとも思えない。
戦闘特化の奴隷としてならば売り込む余地はある。最前線での戦闘はもちろん、第一騎士団所属経験を活かした領地の防衛や護衛育成なども得意だ。見た目の通り、丈夫でよく働くのもポイントだと思う。
だがレオンを含め、村の者は奴隷の販売に詳しくない。役立たずを少しでも役立てるため、金に換えるだけ。いわば制裁の一部なので詳しくなる必要がないのだ。
加えて、優秀な子を産めず金にもならないとなれば、レオンだけでなく家族の立場も怪しくなる。
家族が自身の保身よりもレオンのことを考え、心配してくれているのは十二分に理解している。だからこそ今の状況に申し訳なさを感じるのだ。
「俺はどうすればいいんだろうな」
数年間、何度も自問自答してきた言葉を口にする。
けれど答えなんて浮かばない。静まりかえった室内で頭を抱え、今後について考える。
いつも以上にハッキリと時計の進む音が聞こえるだけ。それは早く仕事に行けと訴えていた。
顔を上げ、時計を見る。すでに朝食の時間が終わりかけていた。
起床後すぐにドアに挟まっていた手紙に気づいたため、まだまだ時間に余裕があると思っていたが、随分と深く考え込んでいたらしい。
腹の虫がようやく気づいたかとばかりに大きな声を上げた。
「とりあえず飯食わねえと」
いつも通り問題を先延ばしにし、手紙を引き出しに入れる。手洗い場で顔と頭を一緒に洗って、ざっくりと寝癖を整えてから制服に手を伸ばす。
とりあえずスラックスを穿き、シャツは軽く羽織る。ジャケットはどうせすぐに脱ぐからと、肩にかけて部屋を出る。シャツのボタンを留めながら食堂に駆け込み、なんとかスープとパンにありついた。
それでも完全には思考を切り替えられていない。
鍛練中も剣を振りながら自分の進むべき道を悩み続けている。
何度考えても、オメガとしての役割を果たすのであれば騎士を辞めるべきである、という結論に辿り着く。だが、その決断に踏み切れない。
オメガとして劣っている分、早めに決断しなければいけない。そう、理解している。それでも小さな小さな恋心がレオンを騎士団に引き留めるのだ。
「――顔色が優れないな」
「すみません……」
「謝るな。叱っているわけではない。ただ心配なんだ。お前にしては珍しく、食堂に来るのもギリギリだったと聞く。何かあったんじゃないか? 私に話してみろ」
「団長……。ご心配いただきありがとうございます。けれど大丈夫です。ただ少し考えに耽っていただけで」
「ほぉ、私の鍛練の途中に考え事とは。さすがは副団長といったところか、レオン。お前は二セットずつ追加だ!」
「はい!」
ピシッと指先まで伸ばし、敬礼する。そんなレオンの姿を見て、ギルハザールはフッと笑みをこぼした。
その考え事に自分が関わっているなんて夢にも思っていない。
レオンの想い人は、王宮騎士団のトップに君臨する第一騎士団団長・ギルハザール――目の前にいる男なのだ。
オメガでありながら多くのアルファとベータを薙ぎ倒してきたレオンが、唯一歯が立たない相手でもある。騎士としても男としても最上級である上官から種をもらえれば、レオンは胸を張って村に帰れる。
生まれてくる子供がアルファでもベータでもオメガでも文句は言われない。言わせない。自分よりも強い男の種だと全員黙らせるだけだ。
だが肝心の種をもらえていない。この先もらえる見通しすらない。
問題点は主に三つ。
一つ、ギルハザールはレオンをオメガとして見ていない。
二つ、身分も性別も種族も関係なく多くの者から言い寄られるギルハザールが、可愛さも美しさもないレオンに手を出すメリットがない。
三つ、そもそも部下に手を出すような人ではない。
以上の三点に、今から対処できるものがない。
オメガであると宣言するくらいならできるが、言われたところで困るだけだろう。レオン自身、第一騎士団の仲間達から自身の第二性を打ち明けられたところで「だからなんだ」以外の言葉が浮かばない。気遣いは得意ではないのだ。
何か不自由を感じているならともかく、レオンが騎士団に所属してからかなりの年数が経過している。オメガ最大の難所である発情期すら問題なく過ごしてきた。
オメガだと打ち明けるならもっと早く打ち明けるべきだったのだ。
レオンは自分の読みの甘さに反省こそすれど、ギルハザールに恨みがましい視線を送ることさえできない。
中身もまた外見同様、可愛げなどないのだ。慰み者にすら選ばれるはずがない。
● ● ●
レオンが騎士になると決めたのは村を出てすぐのこと。
両親が持たせてくれた僅かな金を握りしめ、真っ直ぐ王都を目指した。そして自分よりもずっと体格のいい男達を目の当たりにする。
彼らなら自分を抱いてくれるのではないか。そう直感した。
だが焦ってはいけない。まずは優秀な種を持つかどうか見定めなければ。期間は十年もある。レオンがいくら見た目に大きなハンデを抱えているとはいえ、顔と体格がいいだけの男で妥協するつもりはない。
それに彼らは皆、同じ服を身に纏っていた。村を出る前に姉が教えてくれた『制服』というものだろう。
制服とは同じ職場に所属する証のようなものらしい。つまり彼らがどこに所属しているのか調べれば、おのずと似たような人間達がいる場所に辿り着けるに違いなかった。
辺りを見回し、暇そうにしている青果店の店主に声をかける。
「すみません。彼らの所属を教えてもらえますか?」
「ん? 兄ちゃん、抜き打ち検査を見るのは初めてか。どこのエリアでもたまに担当とは違う騎士団が見回りに来るんだよ。さすがに第一騎士団が来るのは久々だけどな。騎士見習い募集期間中ってことで宣伝も兼ねているんだろ」
「騎士見習い募集……」
「兄ちゃんも興味があるなら受けてみたらどうだ。試験は難しいらしいが、見習い期間さえ明けちまえば結構な額がもらえるぞ。ちょっと待ってろ。母ちゃん、騎士見習い募集のチラシってまだあったか?」
店主は店の奥で在庫整理を行っていた妻に声をかける。彼女は顔を上げ、レオンのほうを見た。すぐになるほどと頷き、チラシを持ってきてくれる。
それをありがたく受け取り、募集要項に目を通す。
当日必ず持参しなければならないものはなし。服装は自由。剣も貸し出してくれるそうだ。
諸々制限はあるが、レオンはすでに十五歳。持病もなく健康体。受験資格は揃っている。性別についての記載がないのがありがたかった。
「ありがとうございます」
「騎士になったらうちの店を贔屓にしてくれよ」
「はい!」
チラシを綺麗に畳み、ポケットに入れる。二人に深々と頭を下げ、そこからほど近い宿に宿泊を決めた。
宿に泊まっている間、毎日のように窓から見回りの騎士達の姿を眺める。もし試験を突破できなかったとしても、なんとか彼らと繋がりを持てないものかと考えながら。
やってきた騎士見習い試験の日。大勢の騎士志望者が集まる場所で、レオンは驚くほどにあっさりと合格を決めた。
村でもアルファとベータに交ざって剣術のまねごとをしていたが、あくまでもお遊びの範疇だった。あまりにも簡単に相手を打ち負かせたことに拍子抜けする。
何はともあれ、レオンの騎士団入りが決まった。
見習い期間は半年から一年。この期間は強制的に寮暮らしとなり、数年目の騎士達に交ざって大部屋で暮らすこととなる。
門限など一部制限がある代わりに、衣食住が保証された。
部屋はベータもアルファも体格のいい者もひょろっとしている者もごちゃまぜ。二段ベッドに取りつけられたカーテンの中だけがプライベートなエリアとなっている。
同室どころか騎士団内にいるオメガは、レオンただ一人。
だが同期も先輩も気づく気配がまるでない。彼らと一緒に食事を摂り、風呂に入る。時にはデザート争奪戦にも名乗りを上げる。集団生活には慣れっこなレオンはすぐに寮生活に適応した。
三ヶ月もすれば鍛練後、酒場に繰り出す余裕さえできる。先輩達はレオンを可愛がってくれて、度々寮近くの安くて美味い店に連れていってくれた。
だがレオンが遠慮なく奢ってもらっている間に、同期は半数以下にまで減ってしまう。
辞めた理由はそれぞれ。鍛練についていけなくなった者が一番多い。中には先輩騎士に手を出され、耐えられずに涙ながらに去る者も……。性的な意味でも暴力的な意味でも。
騎士見習いに手を出す輩は仕事も鍛練もサボりがちで、娼婦からも煙たがられるようなろくでもない男達である。毎日のようにレオンとデザート争奪戦を繰り広げている先輩がコソッと「あいつらには近づくなよ」と教えてくれた。
そんな男達が優秀な種を持っているはずがない。お断りだ、と言いたいところだが、残念ながらレオンはろくでなしの食指すらも動かすことができなかった。なにせ彼らが狙うのは女の子のように線が細いベータだったのだから。
狙われることがないどころか、彼らはなぜかレオンを見るとスッと視線を逸らすのだ。道を空けられることさえあった。
アルファと勘違いされていることに気づいたのは、一年が経ち、騎士へ昇格させてもらった後のことだった。
正式に騎士として採用されてから初めて配属されたのは、第七騎士団。
騎士団は全部で十あり、騎士見習いが所属するのは第十騎士団。そこから騎士に昇格すると同時に第九騎士団に配属されることがほとんどだ。腕がよければ第八騎士団に配属されることもあるが、レオンの第七騎士団入りは異例で、先輩からひどく驚かれた。
見習い期間中、オメガの猫獣人としてはなんの成果も得られなかったレオンだが、騎士見習いとしては優秀だったらしい。
なんとも複雑な気分だ。
第七騎士団で若い騎士達をまとめるのは、白髪の目立つ団長。気前のよさと豪胆な性格は部下だけではなく、他の騎士団に所属する騎士達からも人望を集めていた。
もちろんレオンだって彼を慕う一人だ。そして当然のように彼の種を狙っていた。
両親よりも年上だが、優秀であることには違いないのだ。子種さえ出してくれれば、年など関係ない。子供を一緒に育ててくれなんて迫るつもりはないのだから。
もちろん恋人や配偶者に向けるような愛情や気遣いだっていらない。一夜あれば事足りる。彼に狙いを定め、ひたすら時を待った。
チャンスが巡ってきたのは、団長の勇退を祝う会でのこと。
根っからの酒好きな団長はこれが最後ということもあって、初めから飛ばしまくった。若者達への嫌がらせも兼ねて値段もアルコール度数も高い酒ばかりを狙って開けて――そのうち理性さえも飛ばした。
「――レオン~。レオンはどこだ~」
「ここです」
名前を呼ばれた時、チャンスだと思った。たとえ身体を支えるためだけに呼ばれたのだとしてもここで逃せば後がない、と。
レオンは団長のもとに駆け寄り、彼の部屋まで送った。そこからは村で仕込んでもらった方法を実践する。
とはいえ、あくまで初歩中の初歩。完全に酔っ払った相手をベッドに運び、服を少しずつ緩めていく。本来ならばオメガの色気を最大限利用して誘い込むべきなのだが、手順なんてどうでもいい。相手のペニスさえ勃たせられればこちらのものだ。
少しだけ視線を下げ、ブツの状態を確認する。
そこにあったのはオナニーを覚えたばかりの少年のようにギンギンに勃ち上がった男根であった。ズボンの上からでも分かるほどに見事なモノはまさしくこの二年間、ずっとレオンが望んでいたものだ。
想像以上の状態に、喉がゴクリと大きく動く。
村で教えてもらった通り、二年間かかさずに尻を拡張していたレオンの穴はすでにガバガバ。目の前の見事なブツだって簡単に呑み込める。
心配なのはテクニックだけ。寝ている相手、それも好意を持ってもらってはいない相手をナカで果てさせることができるだろうか。
ひとたび猫獣人の穴に挿れれば理性が吹っ飛ぶと聞いている。
だがそれはあくまでも普通の猫獣人の話。自分もそうだと安心していいのか……。一抹の不安が過ったが、その迷いはすぐに解消された。
「レオン、ケツを出せ」
「団長?」
「グズグズするな!」
「は、はい!」
団長の意識は完全に飛んでいなかったのだ。酒に酔ってもなお、目の前にいるのがレオンだと、屈強な男だと認識した上で犯そうとしている。ならば身を任せてしまえばいい。
団長の声で色気もムードもなくなった。
レオンは急いでズボンとパンツを脱ぎ捨てて、畳んでベッドサイドに置く。そして夢にまで見た立派なイチモツにバージンを奪ってもらおうと彼に近づいた――その時だった。
「そこまでだ!」
ブドウ酒色の髪の男がレオンの前に現れたのは。
その辺の酒場で出される安酒とは色が違う。見習いを抜けたばかりのレオンでは到底手が出ない、高い酒の色だ。
ノックもせずにドアを蹴破った男達はそのまま部屋に侵入する。そしてあろうことか団長を取り押さえてしまった。ヤル気だけはある尻を濡らしているレオンのことなどお構いなしである。
何がなんだか分からない。
レオンが目を白黒させていると、頭の上からふわりと毛布を落とされた。
「お前も災難だったな……」
与えられたのは見当違いの言葉。
無駄のない拘束を前に、同意の上で行為に及ぼうとしていたのだと主張する余裕はない。レオンは下半身をさらしたまま、ぼうっと彼らを眺めるのだった。
団長が長年に亘って若い騎士達を性的な意味で食らっていたと知ったのは、それからしばらく経ってからのことである。体格のいい男を犯すのが特に好きで、レオンの尻は騎士見習い時代から狙われていたらしい。
見習い期間が明けてすぐ第七騎士団の所属になったのも、剣の腕を見込まれたからではなく、団長がレオンのむっちりとした胸板と尻を目当てにしていたからだった。
ならさっさと犯してくれればよかったのに――そう思うのはレオンが猫獣人だからだろうか。「引退直前に極上の身体を味わいたかった」と語る団長の胸ぐらを掴み、壁に打ちつけたい衝動に駆られた。
この時、少しでも種をナカに入れてもらえていたら、すぐにでも胸を張って村に帰れたのだ。
すでにお縄になってしまった団長がどんな趣味嗜好を持ち合わせていようとも、『騎士団長』としての彼は間違いなく上級の雄だった。すぐ近くで見ていたのだから間違いない。
だが彼の罪もまた本物なのである。
行為を強要され、心に傷を負った者がいる以上、擁護するつもりはない。牢屋の中からレオンに手を伸ばす彼から目を逸らし、第七騎士団に戻った。
新しく配属された団長・ダリオは、騎士団でも有名な愛妻家。妻によく似た子供達も溺愛しており、レオンに手を出してくれる見込みはゼロ。また今回の一件を重く受け止めた王家からの指示もあって、前団長が残していった悪しき爪痕を消し去るかのごとく改革が行われた。
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