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【全年齢】深夜の願い事
1、熱い夜へ誘うチケット
しおりを挟む……え? これマジ?
……ほんとにマジ??
何かの間違いとか冗談とか、だよ、な……?
ヤバい……動揺が隠しきれない。俺は今どんな顔をしてるんだ?
自分では努めて平静を装っているつもりだ。でも所詮、つもりはつもりなだけなのかもしれない。
だって……目の前の男――隼人は、ものすごく訝しげな目で俺を見ているから。
「おいおい修司。そんな面白い顔してどうしたんだ? 猿が木から落ちたみたいな顔してるぞ」
どんな顔だよ!?
なんて冷静にツッコミ入れてる場合じゃない。
でも、俺の動揺がバレたわけではないようだから、ちょっと安心だ。
静まれ俺の心……。ここで対応を誤ると、友人関係に亀裂が入るほど気まずいことになるかもしれない。
「あ、ああ。なんでもない。えっと……映画……だったよな」
根本的に俺の見間違いや勘違いって可能性も十分にある。もう一度よーく確認してみよう。
「うん。たまたまバイト先の先輩にもらったんだけど、一緒に行こうぜ」
隼人が差し出している映画のチケット。上映開始時刻は夜中の24時。オールナイト上映ってやつだ。
タイトルは【うほっ。ガチムチ】。
映画館は……ああ。間違いない。やっぱりあそこか。見間違いでも勘違いでもなんでもなかった。
「オールナイトなんて面白そうだよな。次の土曜ならバイトも大学もないから、修司の予定さえ合えば、って思ったんだけど」
「その日なら……大丈夫……かな……?」
いや、ほんとは次の日ガッツリ朝からバイトだけどね。でもこれはバイトどころじゃない。誰かとシフト代わってもらっとこう。
「じゃ、決まりだな。しっかし、どんな映画なんだろうな? 【うほっ。ガチムチ】なんて初めて聞くタイトルだし、映画館も聞いたことない名前だし。修司知ってる?」
「い、いや、俺も知らないなあ」
うん。ごめん。ウソついた。本当は知ってる。すっごく知ってる。
一般人で知ってたらちょっと怖いけど、すげー有名なゲイ映画とハッテンバだったりするのだ。
このチケットをくれた先輩って、もしかしたらゲイなのか……?
こんなのパンピーに渡しちゃダメだって……。
しかもオールナイトなんて、なに考えてんだよ。オールナイトのハッテンバなんて、館内あちこちでハッテンしまくってるに決まってんじゃんか!
……まあ……この天から降ってきたチャンスは大いに活用させてもらうけどな!
ぶっちゃけ、前から隼人のことはいいなって思ってたし……。
ゲイ映画を観た反応で、こっち側の人間かどうか分かるかもしれない。もしその気がなくても、四方八方から聞こえるハッテンの嬌声で目覚める可能性だってある。
それどころか、今回の誘い自体、俺にゲイっ気があるかどうか確かめるために隼人が仕組んだ作戦、って可能性も……。
……ここで考えても始まらない。すべては次の土曜日だ。
俺は何も知らずに隼人に付いていくだけ、ということにしておこう。
「それじゃ、次の土曜は、夜の11時に駅前待ち合わせでいいか?」
「……いや。どうせなら軽く飲んでから行かないか?」
「それもいいな。じゃ、9時くらいでいい?」
「オッケー」
俺の返事を聞くと、バイトがあるからと、隼人は急ぎ足で人ごみに消えていった。
隼人にその気があるかどうか分からないけど、酒が入れば俺のチャンスの可能性が高まるのは間違いない。どうなるかは分からないけど、打てる手は全部打っておかないと、な。
鬼が出るか蛇が出るか。俺の想いが木っ端微塵に砕け散るか、成就できるか。
さすがにノン気には告白できない。
願うのは、隼人にもゲイ気質がある衝撃の展開だ。そして、できるなら、酒の勢いをプラスして、ハッテンまで持ち込めれば完璧だ。
すべては、次の土曜日に賭かっている。
続く
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