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【R18】響くモノ
1、響
しおりを挟むベッドで横になったまま、タバコに火を点ける。
薄暗い室内に、静かなクラシックのBGMと赤い火種がよく映えた。
「……どうぞ」
隣の男が、テーブルの上の灰皿を取って寄こした。さっきまであれだけ放心してたのにタフなものだと感心する。
だが、こうした細かな気配りも彼の仕事のうちだ。野獣のように燃えた痴態も、絶頂の果ての放心も、全部仕事。本気で感じていたのかどうか俺には知りようがないし、どうでもいいことだ。
彼の名は――確か、響(ひびき)と言ったか。
ほんの二時間ほど前までは、縁も所縁も面識もない赤の他人だった。
響は、俺が買った。
新宿にある会員制クラブ。ただし、『裏』の、だが。
扱っている商品は人。それも、若い男限定の。俺は客で、響は商品。ただそれだけの関係だ。
客は店に金を払い、商品は一夜限り、客のモノになる。どんな趣向も、どんな欲望も、このクラブで満たせないものはないだろう。それだけの人材が揃っている場所だ。
……相手が男の時点で、すでに特殊な趣向だがな。
商品を壊しさえしなければ、どれだけ穢そうが、注ぎ込もうが、全ては客の自由なのだ。
「あの……高松さん……。俺、どうでした?」
少し怖々といったふうに、響が聞いてくる。
今さっきまでベッドで乱れていた男と同一人物とは思えないほどの変わりように、内心少し驚いた。
「ああ、とても良かったよ」
俺の言葉に胸を撫で下ろし、響は布団にくるまった。
響を指名した理由は実に単純。顔が好みだったからだ。写真を見た瞬間に、響に決めた。
長いまつ毛に整った顔立ち。清潔そうに伸ばした髪も理想そのもので、年甲斐もなく陰茎が疼いたものだ。
もう五十に手が届きそうなこの俺が、歳の半分にも満たない青年を弄べるだけでも価値がある。ましてやこんな美青年ならなおさら。
決して安くはない金を払う理由には十分だ。
「あの……もし気に入ってくださったなら……また……指名してください……」
「それはもちろんだが、まだ今夜の仕事が終わってないのに次をねだるのは少し気が早いんじゃないか?」
「あ……。ぁああぁぁ……すみませんすみませんすみません……」
その異常なまでの怯え方に、しばし呆然としてしまった。
薄暗がりでも分かるほどに顔は蒼白になり、見目美しい美青年の面影がどんどんと消え失せる。
「そんなに謝らなくてもいいんだよ。俺は別に怒ってるわけじゃない。だから落ち着いて」
肩に手を置き、なるべく優しい口調でなだめた。すると、響の呼吸は少しずつ落ち着きを取り戻し、タバコの火が消える頃にはもとの響へと戻っていた。
「……すみません。俺がご奉仕する立場なのに、取り乱しちゃって……」
「気にすることはない。でも、もしよかったら、理由を聞かせてもらえるか?」
続く
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