うほっ。ガチムチ ~BL短編集~

赤沼

文字の大きさ
4 / 9
【R18】響くモノ

1、響

しおりを挟む


 ベッドで横になったまま、タバコに火を点ける。
 薄暗い室内に、静かなクラシックのBGMと赤い火種がよく映えた。

「……どうぞ」

 隣の男が、テーブルの上の灰皿を取って寄こした。さっきまであれだけ放心してたのにタフなものだと感心する。

 だが、こうした細かな気配りも彼の仕事のうちだ。野獣のように燃えた痴態も、絶頂の果ての放心も、全部仕事。本気で感じていたのかどうか俺には知りようがないし、どうでもいいことだ。

 彼の名は――確か、響(ひびき)と言ったか。
 ほんの二時間ほど前までは、縁も所縁も面識もない赤の他人だった。

 響は、

 新宿にある会員制クラブ。ただし、『裏』の、だが。

 扱っている商品は人。それも、若い男限定の。俺は客で、響は商品。ただそれだけの関係だ。

 客は店に金を払い、商品は一夜限り、客のモノになる。どんな趣向も、どんな欲望も、このクラブで満たせないものはないだろう。それだけの人材が揃っている場所だ。
 ……相手が男の時点で、すでに特殊な趣向だがな。

 商品を壊しさえしなければ、どれだけ穢そうが、注ぎ込もうが、全ては客の自由なのだ。

「あの……高松さん……。俺、どうでした?」

 少し怖々といったふうに、響が聞いてくる。
 今さっきまでベッドで乱れていた男と同一人物とは思えないほどの変わりように、内心少し驚いた。

「ああ、とても良かったよ」

 俺の言葉に胸を撫で下ろし、響は布団にくるまった。

 響を指名した理由は実に単純。顔が好みだったからだ。写真を見た瞬間に、響に決めた。
 長いまつ毛に整った顔立ち。清潔そうに伸ばした髪も理想そのもので、年甲斐もなく陰茎が疼いたものだ。

 もう五十に手が届きそうなこの俺が、歳の半分にも満たない青年を弄べるだけでも価値がある。ましてやこんな美青年ならなおさら。
 決して安くはない金を払う理由には十分だ。

「あの……もし気に入ってくださったなら……また……指名してください……」
「それはもちろんだが、まだ今夜の仕事が終わってないのに次をねだるのは少し気が早いんじゃないか?」
「あ……。ぁああぁぁ……すみませんすみませんすみません……」

 その異常なまでの怯え方に、しばし呆然としてしまった。
 薄暗がりでも分かるほどに顔は蒼白になり、見目美しい美青年の面影がどんどんと消え失せる。

「そんなに謝らなくてもいいんだよ。俺は別に怒ってるわけじゃない。だから落ち着いて」

 肩に手を置き、なるべく優しい口調でなだめた。すると、響の呼吸は少しずつ落ち着きを取り戻し、タバコの火が消える頃にはもとの響へと戻っていた。

「……すみません。俺がご奉仕する立場なのに、取り乱しちゃって……」
「気にすることはない。でも、もしよかったら、理由を聞かせてもらえるか?」


続く

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ダメリーマンにダメにされちゃう高校生の話

タタミ
BL
高校3年生の古賀栄智は、同じシェアハウスに住む会社員・宮城旭に恋している。 ギャンブル好きで特定の恋人を作らないダメ男の旭に、栄智は実らない想いを募らせていくが── ダメリーマンにダメにされる男子高校生の話。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

処理中です...