聖女に選ばれた純朴な少女が〝闇落ち〟して、国を滅ぼすまでの物語

鷲空 燈

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第一章 見習い聖女編

第二十話 王子の事情2

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「ま、まあまあ、皆さん落ち着いてくださいな! シリウスも突然王位を継承できなくなったと聞き、今は混乱しているのです。どうか、先の発言は己の運命を悲観した若者の心にも無い暴言だとご理解くださいませ」

 マリアンヌ王妃が必死の弁明をした。

 マリアンヌ王妃はシリウス王子の実母だ。
 なにもなければ我が実子である第一王子が王となり、マリアンヌ王妃は王太后として安定した老後を送れるはずだった。
 なのに、その未来がなくなった。
 エレーナが聖女に選ばれたせいで。
 我が子が王位を継ぐこと剥奪されたことに、シリウスと同じかシリウス以上に憤慨しているはずである。

 だが今は、王継承どころの離しではない。
 このままではシリウス王子の生命が危ないのだ。

 罪状は聖女に対する不敬罪。その罰は死罪。

 いくらなんでも王より身分の高い聖女に対して〝猿〟発言は無い。
 満場一致、一点の曇りもなく純度百の立派な不敬罪だ。
 暴言王子は、今この瞬間に首を刎ねられても不思議はない。

 ちなみにだが、エルリック第二王子の実母リファ・クルーウェルは、二年前に逝去している。

「当のシリウス王子からの謝罪がありませんな」

 サイモン教皇が冷たく言い放つ。
 さすがにまずいと気付いたのか、シリウス王子が嫌そうに頭を下げた。

「……気が動転して、心にもないことを言ってしまったようだな。とりあえず謝罪することにしよう」

 と、心にもない謝罪をした。
 というか、これは謝罪なのだろうか。

 ――謝罪……なんだろうな。この王子にとっては。
 だって、すごく悔しそうな顔をしてるもの。

 まぁ平民に頭を下げること自体、彼にとってこれ以上無い屈辱であろうし、罰にはなるのだろう。
 ここらが落とし所なのかな、なんて思っていると味方陣営がジッとエレーナの顔を見ている。

 ――はて?

「エレーナ様、いかがなさいますか?」サイモン教皇が言った。

 ――ん? いかが? いかがとは?

「エレーナ様、この件に関してはノットエレガントでも構いません」シスター・クレアが言った。

 ――んん? ノットエレガントでもいい? どゆこと?

「聖女様、我輩はいつでも行けるでありますぞ」ドルーズ騎士団長が言った。

 ――んんん? 行ける? 行けるって、どこに? 

「エレーナ様、早く……、早く抜剣の許可をください」グリッセンが言った。

 ――んんんん?? ば、抜剣の許可!?

 ここへ来てエレーナはようやく状況を理解した。

 ――ちょ、ちょっと待って?
 王子の生命が、この後の私の発言にかかってるってわけ?
 重っ!
 重すぎる!
 責任が重すぎるわ!
 十二歳の小娘に王子の命運を握らせないで欲しいんだけど。

 肝心の王子はといえば、謝罪したことで禊が済んだと言わんばかりに、呑気にお茶を飲んでいる。

 ――はぁ。シリウス王子は自分が生命の危機だなんて、想像打にしていないのだろうな。

 猿呼ばわりは腹がたったけど、一国の王子を殺すほどか、と言われると首を傾げてしまう。
 加えて、エレーナにはシリウス王子の王位継承権を失わせてしまった、って負い目もある。
 以上を総合して、エレーナは決断した。

「わかりました。シリウス王子の事情も理解できますし、先の暴言は聞かなかったこととします」

 国王陛下と王妃様は安堵の表情を浮かべた。
 シリウス王子は椅子の上でふんぞり返り、俺様が頭を下げたんだから当然でしょ、と言わんばかりの態度だ。
 ――やっぱりムカムカするわ、この王子。

 一方、エレーナ陣営は不完全燃焼と言った面持ちである。
 ――みなさん血の気が多すぎじゃありませんこと?

「そ、それでは改めまして、婚約の話を進めましょう」

 マリアンヌ王妃の仕切り直しに、エレーナはふと思いついたことを口にした。

「あの、一つ提案があるのですが」

 これには両陣営が意表を突かれたようだ。
 すべての視線がエレーナに集中する。

「シリウス王子はこの婚姻に乗り気ではないようですし、フィリップ第二王子と私が婚姻を結ぶのはどうでしょう?」

 当事者以外の全員が目を輝かせた。
 一番大きな声で賛同したのは王妃マリアンヌだった。
 それはそうだろう。
 実子が王になるという夢が、また実現することになるのだ。

 エレーナは自身の提案の理由について以下のように説明した。

 初代聖女様からの言いつけは〝王家で一番優秀なものを聖女の夫にしろ〟である。
 つまり何の種目で一番優秀なのかを指定していないのだ。
 これが盲点だ。

 シリウス第一王子は確かに、学業でも、剣術でも、フィリップ第二王子より優秀なのかもしれない。

 だが見たところ、対人関係の構築は苦手そうだ。

 つまり、〝王家の中で(対人関係構築が)一番優秀なフィリップ第二王子を聖女の夫にすること〟に、何の問題もないのである。

 と、いうことをエレーナは説明した。

 エレーナの提案に全員が大きく賛同した。
 ただ一人、シリウス王子を除いて。

「断る! 俺は全てにおいてフィリップより優秀だ! それに、もしフィリップがさ……聖女と結婚したら、俺は〝フィリップより無能だから聖女にえらばれなかった〟と言われ続けるだろう! そんなことは耐えられないし、許されない!」

 話し合いは振り出しに戻った。

 ――もうやだ、こいつ、誰かなんとかして。
 あと、私のことをまた猿と言おうとしたよね?

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