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第一章 見習い聖女編
第二十三話 王子の断罪
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部屋を覆っていた蒸気がようやく晴れてきた。
ぼんやりと人々の姿が顕になってくる。
――んん?
そこには異様な光景が広がっていた
真っ先に目に飛び込んできたのは、樹木でぐるぐる巻きにされて宙に浮くシリウス王子の姿だった。
「は、放せ! 俺を誰だと思っている! 不敬であるぞ! 放せ! 放さぬか!」
シリウス王子は、とりあえず元気だった。
これはシスター・クレアの樹木魔法だろう。
シリウス王子には傷一つついていない。
相変わらずエレガントな魔法である。
エレーナはサイモン教皇とシスター・クレアに目を向ける。
よかった。
どうやら無事そうだ。
ホッとしながら、急いで駆け寄った。
「二人とも大丈夫ですか? ごめんなさい、一人で逃げてしまって……」
「謝る必要はありません。それが正解です。エレーナ様は私が教えた通りに、まずは安全を確保するという行動しただけなのですから。非常にエレガントでしたよ。九十五点をあげましょう」
まさかの過去最高得点ゲットだった。
あんな無様に逃げ出したのに?
シスター・クレアの採点基準は不明すぎるわ。
「ほほほ、聖女様が無事でよかったですじゃ。おっと、おかしな真似をするでないぞ、マゼラン。グリッセン、マゼラン大司教を見張っておきなさい」
マゼランはなにかしようとしていたのか、サイモンに言われると、諦めたように両手を上げた。
マゼランの顔の前には鋭利な金属が浮いている。
その先端はマゼランの眉間に向いていた。
これはおそらくサイモン教皇の金属魔法だろう。
話には聞いていたが、見るのは初めてだ。
よく見ると、エドワード国王とマリアンの王妃の顔の前にも同じような金属が浮いている。
金属がなくても、王と王妃はその両手を樹木で椅子に固定されており、動けそうにない。
グリッセンは言われた通り、マゼラン大司教の後ろで剣を構えている。
そして、部屋の奥では騎士二人の決着がついていた。
ブラッドリーはだらりと下げた右腕からボタボタと血を流し、壁を背に座り込んでいた。
その首元に剣を突きつける聖教徒騎士団長のドルーズ。
二人から少し離れた壁に突き刺さっているのはブラッドリーの剣だろう。
「なんなんだ、貴様! いつの間にこんな力をつけてやがった!」
座り込んだまま、ブラッドリーが吠えた。
「ふむ、いつの間に、と問われれば、今朝から、と答えるしかあるまい。聖女様の警備をお許しいただいた瞬間から、尋常ではないほど力が増したのだ。これが言い伝えられている〝聖女様の祝福〟なのであろうな。つまり、この勝負は我輩と貴殿の純粋な力比べではないと言えよう。だから負けたとて、あまり気を落とすでないぞ?」
すごい。
あの蒸気で視界ゼロの中、みんなキチンと役割をはたしていたのか。
何もしていないエレーナは、ほんのちょっぴり恥ずかしくなった。
「ふぅ、どうやら今回も生き延びましたね」
後ろから呑気な声が聞こえてきた。
もう一人の何もしていない人物、フィリップ第二王子だ。
この状況にもかかわらず、ニコニコと微笑んでいる。
エレーナより頭一つ小さなこの王子は、普段からこのような修羅場をくぐっているのだろう。
こんな小さな子が、と思うとつい自分の妹と重ねて悲しくなった。
「さて、困ったことになりましたな」
サイモン教皇があまり困ってなさそうな顔で言った。
「聖女様を侮辱するだけに留まらず、よもや攻撃魔法を放つとはのう」
サイモンがあごひげを撫でながら言う。
その声はひょうひょうとしているが、怒っているのが誰の目にも明らかだった。
怒りがある点を超えると、逆に冷静になるタイプなのだろう。
「教皇猊下! お待ち下さい!」
悲痛な叫びの主はマリアンヌ王妃だった。
「先の説明の通り、シリウスはずっと目指していた王への道がとざされてしまったことで、混乱しているのです! なにとぞ、寛大な処置をお願いいたします!」
「それはできませんな、マリアンヌ王妃。シリウス王子はすでに不敬罪を犯し、聖女様の恩赦でその罪を許されたばかりじゃった。それから一刻も経たず、次は暗殺未遂を犯したのじゃぞ? なのに許せじゃと? ふざけるのもたいがいになされよ!」
「く……、それを押してお願いいたします。どうか寛大な処置を……どうか」
マリアンヌ王妃の涙ながらの陳述に、当のシリウス王子はキョトンとした表情であった。
「は? な、何を言ってるんだ? あんなのちょっとふざけただけじゃないか! あんな何の能力もない欠陥聖女を押し付けられて、むしろ俺は被害者なんだ! それに俺は第一王子だぞ! こんな扱いをされていい人間じゃないんだ! 早くこの拘束を解くがよい! そして俺に謝罪しろ!」
「いいから、黙りなさい、シリウス! 何のためにわたしが頭を下げていると思っているの! このままだとあなたは処刑されるのよ!?」
「話になりませんな。ドルーズよ、せめて苦しまないように首を落としてあげなさい」
「承知しました。子供を殺すのは忍びないが、こればかりは致し方あるまい。シリウス王子、覚悟されよ」
ドルーズ団長が上段に剣を構えた。
ぼんやりと人々の姿が顕になってくる。
――んん?
そこには異様な光景が広がっていた
真っ先に目に飛び込んできたのは、樹木でぐるぐる巻きにされて宙に浮くシリウス王子の姿だった。
「は、放せ! 俺を誰だと思っている! 不敬であるぞ! 放せ! 放さぬか!」
シリウス王子は、とりあえず元気だった。
これはシスター・クレアの樹木魔法だろう。
シリウス王子には傷一つついていない。
相変わらずエレガントな魔法である。
エレーナはサイモン教皇とシスター・クレアに目を向ける。
よかった。
どうやら無事そうだ。
ホッとしながら、急いで駆け寄った。
「二人とも大丈夫ですか? ごめんなさい、一人で逃げてしまって……」
「謝る必要はありません。それが正解です。エレーナ様は私が教えた通りに、まずは安全を確保するという行動しただけなのですから。非常にエレガントでしたよ。九十五点をあげましょう」
まさかの過去最高得点ゲットだった。
あんな無様に逃げ出したのに?
シスター・クレアの採点基準は不明すぎるわ。
「ほほほ、聖女様が無事でよかったですじゃ。おっと、おかしな真似をするでないぞ、マゼラン。グリッセン、マゼラン大司教を見張っておきなさい」
マゼランはなにかしようとしていたのか、サイモンに言われると、諦めたように両手を上げた。
マゼランの顔の前には鋭利な金属が浮いている。
その先端はマゼランの眉間に向いていた。
これはおそらくサイモン教皇の金属魔法だろう。
話には聞いていたが、見るのは初めてだ。
よく見ると、エドワード国王とマリアンの王妃の顔の前にも同じような金属が浮いている。
金属がなくても、王と王妃はその両手を樹木で椅子に固定されており、動けそうにない。
グリッセンは言われた通り、マゼラン大司教の後ろで剣を構えている。
そして、部屋の奥では騎士二人の決着がついていた。
ブラッドリーはだらりと下げた右腕からボタボタと血を流し、壁を背に座り込んでいた。
その首元に剣を突きつける聖教徒騎士団長のドルーズ。
二人から少し離れた壁に突き刺さっているのはブラッドリーの剣だろう。
「なんなんだ、貴様! いつの間にこんな力をつけてやがった!」
座り込んだまま、ブラッドリーが吠えた。
「ふむ、いつの間に、と問われれば、今朝から、と答えるしかあるまい。聖女様の警備をお許しいただいた瞬間から、尋常ではないほど力が増したのだ。これが言い伝えられている〝聖女様の祝福〟なのであろうな。つまり、この勝負は我輩と貴殿の純粋な力比べではないと言えよう。だから負けたとて、あまり気を落とすでないぞ?」
すごい。
あの蒸気で視界ゼロの中、みんなキチンと役割をはたしていたのか。
何もしていないエレーナは、ほんのちょっぴり恥ずかしくなった。
「ふぅ、どうやら今回も生き延びましたね」
後ろから呑気な声が聞こえてきた。
もう一人の何もしていない人物、フィリップ第二王子だ。
この状況にもかかわらず、ニコニコと微笑んでいる。
エレーナより頭一つ小さなこの王子は、普段からこのような修羅場をくぐっているのだろう。
こんな小さな子が、と思うとつい自分の妹と重ねて悲しくなった。
「さて、困ったことになりましたな」
サイモン教皇があまり困ってなさそうな顔で言った。
「聖女様を侮辱するだけに留まらず、よもや攻撃魔法を放つとはのう」
サイモンがあごひげを撫でながら言う。
その声はひょうひょうとしているが、怒っているのが誰の目にも明らかだった。
怒りがある点を超えると、逆に冷静になるタイプなのだろう。
「教皇猊下! お待ち下さい!」
悲痛な叫びの主はマリアンヌ王妃だった。
「先の説明の通り、シリウスはずっと目指していた王への道がとざされてしまったことで、混乱しているのです! なにとぞ、寛大な処置をお願いいたします!」
「それはできませんな、マリアンヌ王妃。シリウス王子はすでに不敬罪を犯し、聖女様の恩赦でその罪を許されたばかりじゃった。それから一刻も経たず、次は暗殺未遂を犯したのじゃぞ? なのに許せじゃと? ふざけるのもたいがいになされよ!」
「く……、それを押してお願いいたします。どうか寛大な処置を……どうか」
マリアンヌ王妃の涙ながらの陳述に、当のシリウス王子はキョトンとした表情であった。
「は? な、何を言ってるんだ? あんなのちょっとふざけただけじゃないか! あんな何の能力もない欠陥聖女を押し付けられて、むしろ俺は被害者なんだ! それに俺は第一王子だぞ! こんな扱いをされていい人間じゃないんだ! 早くこの拘束を解くがよい! そして俺に謝罪しろ!」
「いいから、黙りなさい、シリウス! 何のためにわたしが頭を下げていると思っているの! このままだとあなたは処刑されるのよ!?」
「話になりませんな。ドルーズよ、せめて苦しまないように首を落としてあげなさい」
「承知しました。子供を殺すのは忍びないが、こればかりは致し方あるまい。シリウス王子、覚悟されよ」
ドルーズ団長が上段に剣を構えた。
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