聖女に選ばれた純朴な少女が〝闇落ち〟して、国を滅ぼすまでの物語

鷲空 燈

文字の大きさ
23 / 23
第一章 見習い聖女編

第二十三話 王子の断罪

しおりを挟む
 部屋を覆っていた蒸気がようやく晴れてきた。
 ぼんやりと人々の姿が顕になってくる。

 ――んん?

 そこには異様な光景が広がっていた

 真っ先に目に飛び込んできたのは、樹木でぐるぐる巻きにされて宙に浮くシリウス王子の姿だった。

「は、放せ! 俺を誰だと思っている! 不敬であるぞ! 放せ! 放さぬか!」

 シリウス王子は、とりあえず元気だった。

 これはシスター・クレアの樹木魔法だろう。
 シリウス王子には傷一つついていない。
 相変わらずエレガントな魔法である。

 エレーナはサイモン教皇とシスター・クレアに目を向ける。

 よかった。
 どうやら無事そうだ。

 ホッとしながら、急いで駆け寄った。

「二人とも大丈夫ですか? ごめんなさい、一人で逃げてしまって……」

「謝る必要はありません。それが正解です。エレーナ様は私が教えた通りに、まずは安全を確保するという行動しただけなのですから。非常にエレガントでしたよ。九十五点をあげましょう」

 まさかの過去最高得点ゲットだった。

 あんな無様に逃げ出したのに?
 シスター・クレアの採点基準は不明すぎるわ。

「ほほほ、聖女様が無事でよかったですじゃ。おっと、おかしな真似をするでないぞ、マゼラン。グリッセン、マゼラン大司教を見張っておきなさい」

 マゼランはなにかしようとしていたのか、サイモンに言われると、諦めたように両手を上げた。
 マゼランの顔の前には鋭利な金属が浮いている。
 その先端はマゼランの眉間に向いていた。

 これはおそらくサイモン教皇の金属魔法だろう。
 話には聞いていたが、見るのは初めてだ。

 よく見ると、エドワード国王とマリアンの王妃の顔の前にも同じような金属が浮いている。
 金属がなくても、王と王妃はその両手を樹木で椅子に固定されており、動けそうにない。

 グリッセンは言われた通り、マゼラン大司教の後ろで剣を構えている。


 そして、部屋の奥では騎士二人の決着がついていた。
 ブラッドリーはだらりと下げた右腕からボタボタと血を流し、壁を背に座り込んでいた。
 その首元に剣を突きつける聖教徒騎士団長のドルーズ。

 二人から少し離れた壁に突き刺さっているのはブラッドリーの剣だろう。


「なんなんだ、貴様! いつの間にこんな力をつけてやがった!」

 座り込んだまま、ブラッドリーが吠えた。

「ふむ、いつの間に、と問われれば、今朝から、と答えるしかあるまい。聖女様の警備をお許しいただいた瞬間から、尋常ではないほど力が増したのだ。これが言い伝えられている〝聖女様の祝福〟なのであろうな。つまり、この勝負は我輩と貴殿の純粋な力比べではないと言えよう。だから負けたとて、あまり気を落とすでないぞ?」


 すごい。
 あの蒸気で視界ゼロの中、みんなキチンと役割をはたしていたのか。
 何もしていないエレーナは、ほんのちょっぴり恥ずかしくなった。

「ふぅ、どうやら今回も生き延びましたね」

 後ろから呑気な声が聞こえてきた。
 もう一人の何もしていない人物、フィリップ第二王子だ。
 この状況にもかかわらず、ニコニコと微笑んでいる。

 エレーナより頭一つ小さなこの王子は、普段からこのような修羅場をくぐっているのだろう。
 こんな小さな子が、と思うとつい自分の妹と重ねて悲しくなった。

「さて、困ったことになりましたな」

 サイモン教皇があまり困ってなさそうな顔で言った。

「聖女様を侮辱するだけに留まらず、よもや攻撃魔法を放つとはのう」

 サイモンがあごひげを撫でながら言う。
 その声はひょうひょうとしているが、怒っているのが誰の目にも明らかだった。
 怒りがある点を超えると、逆に冷静になるタイプなのだろう。

「教皇猊下! お待ち下さい!」

 悲痛な叫びの主はマリアンヌ王妃だった。

「先の説明の通り、シリウスはずっと目指していた王への道がとざされてしまったことで、混乱しているのです! なにとぞ、寛大な処置をお願いいたします!」

「それはできませんな、マリアンヌ王妃。シリウス王子はすでに不敬罪を犯し、聖女様の恩赦でその罪を許されたばかりじゃった。それから一刻も経たず、次は暗殺未遂を犯したのじゃぞ? なのに許せじゃと? ふざけるのもたいがいになされよ!」

「く……、それを押してお願いいたします。どうか寛大な処置を……どうか」

 マリアンヌ王妃の涙ながらの陳述に、当のシリウス王子はキョトンとした表情であった。

「は? な、何を言ってるんだ? あんなのちょっとふざけただけじゃないか! あんな何の能力もない欠陥聖女を押し付けられて、むしろ俺は被害者なんだ! それに俺は第一王子だぞ! こんな扱いをされていい人間じゃないんだ! 早くこの拘束を解くがよい! そして俺に謝罪しろ!」

「いいから、黙りなさい、シリウス! 何のためにわたしが頭を下げていると思っているの! このままだとあなたは処刑されるのよ!?」

「話になりませんな。ドルーズよ、せめて苦しまないように首を落としてあげなさい」

「承知しました。子供を殺すのは忍びないが、こればかりは致し方あるまい。シリウス王子、覚悟されよ」

 ドルーズ団長が上段に剣を構えた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路

藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。 この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。 「聖女がいなくても平気だ」 そう言い切った王子と人々は、 彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、 やがて思い知ることになる。 ――これは、聖女を追い出した国の末路を、 静かに見届けた者の記録。

処理中です...