【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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【番外編】先輩の長い片想い(湊人side)

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「俺さぁ、この頭が地毛だから中学生の時から髪を黒く染めて短く刈ってたんだ」

 俺が弁当を食べ終えても、ジュン先輩は原田さんの席に腰掛けながら俺に昔の話を語ってくれた。

「……地毛証明書とか提出しなかったんですか?」
「ないないそんなの。学校側が『染めろ』しか言わなくてさぁ、泣く泣くってヤツ。
 就活もさー、なんか言われんじゃないかなって不安で入社直後までずっと黒の短髪でいたんだ」
「それは大変でしたね」
「だけどさー、入社してすぐの頃、遠野さんに対して悪い噂が立つようになったんだよ。いわゆる……『コネ入社』とか『社長室』とかの」
「ああ……あの噂ですか」

 俺は既に原田さんから「あの2つの噂は社長が遠野さんのポテトサラダの味に惚れて、事務の紹介をして時々遠野さんに手作りのポテトサラダを就業時間後に給湯室で作ってもらって社長室まで持って来させていたからだ」という種明かしをしてもらっている。だが、入社直後くらいの段階では誰もそれを知らなかったに違いない。

「遠野さん、すごく可哀想だったんだ。周りみんな口々にそういう話をヒソヒソやるから『見た目に反してヤル事エグい』とか。
 それなのに遠野さんは全く気にしていない様子で黙々と仕事をこなしていてさぁ、そんな遠野さんの姿がめちゃくちゃかっこいいなって思ったんだよ。遠野さんを目で追うようになったのもその頃からで、そのガキみたいなヒソヒソ噂を何とかしてあげたいって気持ちになってさ」

 どうやら、ジュン先輩の片想いが始まったのはそれがきっかけだったようだ。

「今思えばさー、俺もガキっぽかったんだよ。可哀想な遠野さんを救ってあげたいっていうか……なんかその、ナイトみたいになりたかったっていうか」

 アラサーで女好きの先輩の口から「ナイト」なんて言葉が出てくるとゾワッとした気色悪さを感じるのだが、7年くらい前の話だそうなので一応は左耳から右耳へと受け流しておく。

「黒く染めるのも短髪にするのも辞めたのがその頃で、地の部分も出すようにしてさ……遠野さんよりも俺に注目が向くようにしたんだ」
「……遠野さんからは、感謝されたんですか?」

 一応後輩としてナイトの効果の程を確認してみたのだが

「されてたらこんなに好きになってないって……」

 溜め息まじりにしみじみとそう返され、「なるほどな」と納得する。

「俺もさぁ、何度も諦めようとしたんだよ遠野さんの事。
 だけどさぁ~、好きな気持ちを止められないんだよ。だって遠野さん、めちゃくちゃ美人さんだもん」
「美人……」

 俺は先輩の美人発言のタイミングに合わせ、高橋総務部長のデスクに今でも飾られている集合写真を思い起こした。

「美人でしょ、遠野さん」
「……」

 会社ホームページに掲載する為、第一と本社のメンバー全員が集まった集合写真で、確か遠野さんは1番隅の方に小さく写っており正直どんな顔だったのか思い出せない。

「美人なんだよ! その辺話を合わせておけよ後輩なんだからッ!」

 つい無言になってしまった俺の頭をジュン先輩が小突く。

「すんません……」


「あーあ……遠野さん、今どこで何してるんだろう?」

 12時45分を回り、ランチに出掛けていた原田さんや営業メンバーが戻ってくる時間帯に差し掛かっても

「元気にしてるといいなぁ……」

「もう俺、元気にしてる遠野さんを遠くから見守る青空になりたいわー…………」

 ジュン先輩は窓から見える快晴の秋空を眺めていて

(青空か……なんか、分かるかもしれない)

 俺も俺で拗らせ片想い対象の可愛らしい顔を思い浮かべながら、しばらく先輩と同じように目線を窓へと向けていたのだった。




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