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3文字が、私を壊す
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「健人」
「田上くん」
私達はほぼ同時に田上くんの名を呼び、人を掻き分けながら近付く。
「ああ……」
田上くんは私達の顔を見た瞬間、気まずそうに目線を落とし後退りした。
(やっぱり田上くん、いつもと様子が違う……)
私が彼の態度でそう感じたくらいだから、ジュンなら尚更だろう。
「親父が空気読めない発言してマジでゴメン」
タカパンさんに「説得して」と言われていた筈なのに、ジュンは真逆の言葉を田上くんに言っていた。
「……」
田上くんは俯いてフルフルと細かく震えている。
「花の注文、健人がやりたくないっていうなら強制しないよ。健人がそこまでなるくらいなら事情があるんだろうし」
ジュンもきっと、田上くんを気の毒に感じたんだろうと思った。
「ジュンくん……」
田上くんはその時、ジュンの方へ目を動かして何かを言おうとした。
(えっ?)
「やっぱり、なんでもない」
……けど私の方へほんの数ミリだけ目を私の方へ動かした直後、唇を貝のように閉じる。
「……」
ジュンは今の田上くんの態度をどう見ただろう?
私には明らかに「理由を言えないのは私の所為」と示しているとしか思えなかった。
「「「……」」」
「マサ先生はお坊ちゃんだから許嫁婚だったんだ。けど、何年か前に変な女に付き纏われて苦労してなぁ……それで最近ようやく結婚出来たって訳なんだ。
マサ先生は良い人だから、その変な女を無碍に出来なかったんだろうよ可哀想になぁ~」
しばし私達3人は言葉を発せず、代わりに清さんの軽快なトークがバッググラウンドのように聞こえていた。
清さんは「良い話」として話しているんだろうけど、今の私にはとてもチープで下らなく、逆に記憶に刻み込まれてしまうからしんどい。
「理由は言わなくていいよ健人、俺が親父を何とかするから。
ほら俺、上手く伝えるの得意な方だからさぁ、健人が嫌がっている理由をなんとなくで親父に言ってそれで別の花屋でオーダーするように俺も動くから。だから」
ジュンは咄嗟に優しい言葉をかけ、清さんの下らない話を遮ろうとしてくれてたのに
「ああ!! 健人! 居るんじゃねぇか、このクソボウズが!!
せっかく俺が花の注文しようと思ったのに理由もなく断りやがって! それでもプロかぁ!?」
清さんが急に私達の方へ向かって語気の強い言葉をガンガンぶつけてきた。
「ちょっ! 親父っ……」
ジュンはすぐに背後を振り返り、清さんを言い返そうとそちらの方へと一歩踏み出す。
「なぁ健人おめぇっ! 『注文が立て込んでる』なんて嘘じゃねーか! 奥ちゃんに確認したんだぞ!! 1件や2件新規の注文したって問題ねぇって話じゃねーかぁ」
清さんはマサ先生への花の注文を田上くんが無碍にした事についてイラついているようだ。
「だから理由があるんだって健人はっ!」
ジュンはズンズンと清さんの方へと歩いていき、人の間をかき分けていく。
「……」
また田上くんの方に向き直ると、まだ口を硬く閉じていて拳をグッと握り締めていて
「田上くん、私の事は気にしなくていいから。だから田上くんが思い悩んでる内容教えて。私達双子みたいにしてたじゃない……」
たまらず私は「双子」という言葉を口にした。
「遠野……」
私と目を合わせた田上くんは涙をいっぱい浮かべている。
その涙は、悲しみじゃなく怒りに打ち震えているように見えて
「えっ……」
田上くんの表情で異様さを感じ、清さんの方を私が振り向くのと
「もう奥ちゃんに言っといたからなっ!! 送り先も『タカミ』じゃねぇ!! 本当の名前の———」
清さんが大声で田上くんを指差すのと
「だから商店街でその名前2度と口にすんなっつっただろうが!! こんのクソジジイが!!!!」
衝撃波みたいな田上くんの声がほぼ同時に発せられて、集会所に居る人間の頭がバグを起こしたかのようになった。
「えっ…………」
誰も言葉を出せなくなった集会所で、私の小さな息衝きが際立って感じられる。
「ごめん遠野……俺も昨日知ったんだよ……俺も全然知らなくて」
田上くんは申し訳なさそうな様子で首を垂れ、涙がコンクリートの地面に二つ三つと落ちていった。
「田上くん」
私達はほぼ同時に田上くんの名を呼び、人を掻き分けながら近付く。
「ああ……」
田上くんは私達の顔を見た瞬間、気まずそうに目線を落とし後退りした。
(やっぱり田上くん、いつもと様子が違う……)
私が彼の態度でそう感じたくらいだから、ジュンなら尚更だろう。
「親父が空気読めない発言してマジでゴメン」
タカパンさんに「説得して」と言われていた筈なのに、ジュンは真逆の言葉を田上くんに言っていた。
「……」
田上くんは俯いてフルフルと細かく震えている。
「花の注文、健人がやりたくないっていうなら強制しないよ。健人がそこまでなるくらいなら事情があるんだろうし」
ジュンもきっと、田上くんを気の毒に感じたんだろうと思った。
「ジュンくん……」
田上くんはその時、ジュンの方へ目を動かして何かを言おうとした。
(えっ?)
「やっぱり、なんでもない」
……けど私の方へほんの数ミリだけ目を私の方へ動かした直後、唇を貝のように閉じる。
「……」
ジュンは今の田上くんの態度をどう見ただろう?
私には明らかに「理由を言えないのは私の所為」と示しているとしか思えなかった。
「「「……」」」
「マサ先生はお坊ちゃんだから許嫁婚だったんだ。けど、何年か前に変な女に付き纏われて苦労してなぁ……それで最近ようやく結婚出来たって訳なんだ。
マサ先生は良い人だから、その変な女を無碍に出来なかったんだろうよ可哀想になぁ~」
しばし私達3人は言葉を発せず、代わりに清さんの軽快なトークがバッググラウンドのように聞こえていた。
清さんは「良い話」として話しているんだろうけど、今の私にはとてもチープで下らなく、逆に記憶に刻み込まれてしまうからしんどい。
「理由は言わなくていいよ健人、俺が親父を何とかするから。
ほら俺、上手く伝えるの得意な方だからさぁ、健人が嫌がっている理由をなんとなくで親父に言ってそれで別の花屋でオーダーするように俺も動くから。だから」
ジュンは咄嗟に優しい言葉をかけ、清さんの下らない話を遮ろうとしてくれてたのに
「ああ!! 健人! 居るんじゃねぇか、このクソボウズが!!
せっかく俺が花の注文しようと思ったのに理由もなく断りやがって! それでもプロかぁ!?」
清さんが急に私達の方へ向かって語気の強い言葉をガンガンぶつけてきた。
「ちょっ! 親父っ……」
ジュンはすぐに背後を振り返り、清さんを言い返そうとそちらの方へと一歩踏み出す。
「なぁ健人おめぇっ! 『注文が立て込んでる』なんて嘘じゃねーか! 奥ちゃんに確認したんだぞ!! 1件や2件新規の注文したって問題ねぇって話じゃねーかぁ」
清さんはマサ先生への花の注文を田上くんが無碍にした事についてイラついているようだ。
「だから理由があるんだって健人はっ!」
ジュンはズンズンと清さんの方へと歩いていき、人の間をかき分けていく。
「……」
また田上くんの方に向き直ると、まだ口を硬く閉じていて拳をグッと握り締めていて
「田上くん、私の事は気にしなくていいから。だから田上くんが思い悩んでる内容教えて。私達双子みたいにしてたじゃない……」
たまらず私は「双子」という言葉を口にした。
「遠野……」
私と目を合わせた田上くんは涙をいっぱい浮かべている。
その涙は、悲しみじゃなく怒りに打ち震えているように見えて
「えっ……」
田上くんの表情で異様さを感じ、清さんの方を私が振り向くのと
「もう奥ちゃんに言っといたからなっ!! 送り先も『タカミ』じゃねぇ!! 本当の名前の———」
清さんが大声で田上くんを指差すのと
「だから商店街でその名前2度と口にすんなっつっただろうが!! こんのクソジジイが!!!!」
衝撃波みたいな田上くんの声がほぼ同時に発せられて、集会所に居る人間の頭がバグを起こしたかのようになった。
「えっ…………」
誰も言葉を出せなくなった集会所で、私の小さな息衝きが際立って感じられる。
「ごめん遠野……俺も昨日知ったんだよ……俺も全然知らなくて」
田上くんは申し訳なさそうな様子で首を垂れ、涙がコンクリートの地面に二つ三つと落ちていった。
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