【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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【番外編 その後のお話】兄弟になろう(side亮輔)

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(最悪だ……)

 家庭教師のアルバイトは時給が高い分苦労が多く「生徒に分かりやすく楽しく教えられた!」なんて達成感は得られない。

(今日は特に反省する事ばかりだなぁ……)

 俺はいつもとは違う方向へバイクを走らせ

(あーちゃんに慰めて貰いたい気分だけど、今日はお姉さんの家で忘年会パーティーなんだよなぁ。あーちゃんと2人きりになれない事もだけど、お姉さん達みんな良い人過ぎて逆に気が重い……)

 悶々としながらホームパーティー会場へと向かった。





「こんばんは、遅くなりましてすみません」

 エントランスで家主に呼び掛け、開錠してもらうなり、エレベーターに乗り込む。


 玄関のインターフォンを押すと扉がガチャッと開いて

「いらっしゃい亮輔りょうすけくん、バイトお疲れ様」

 家主の美しい笑顔が俺を出迎えてくれた。

「お邪魔します、
「遠慮しないで、入って入って♪」
「あっ、これ、お姉さんが好きなビールです」
「わぁ♡ありがとう♡」

 と俺は呼んでいるけれど、目の前の美しい女性とは正確には他人になる。
 とはいえ、彼女は俺の初恋の相手の血縁者であり、同棲相手あーちゃんの師匠にあたる……その意味で「お姉さん」と呼ぶのはある意味間違いではない。

 お姉さんはにこやかな表情でエールビール6缶パックを俺の手から受け取り

皐月さつきに手を合わしたいでしょ? 行っておいで」

 とても優しい声でそう言ってくれた。

「でも、もうパーティー始まるんじゃ……?」

 皐月さんは俺にとって初恋の相手であり大事な人だから、お線香の煙をたなびかせて手を合わせたい。
 けれどもそんな事をしたらパーティー開始の雰囲気をぶち壊してしまわないかと不安になる。

 するとお姉さんは片眉を下げながらクスッと笑い

「それがね、あともう少しかかってしまうのよ」
「えっ?」
「ジュンの掃除が終わらないから」

 パーティーが始まらないのは頼んでいた掃除が終わっていないから、なんて明かしたものだから

「ええ??! じゃあ俺ジュンさんを手伝いますよ!! 昨日はうちの大掃除を手伝ってくれたんですから」

 慌てて靴を脱いでバイクのヘルメットを雑に置いてしまった。

「いいのいいのやらせておけばっ!こんな事くらいしか役に立たないんだもんアイツ」
「そんな事ないですって!! ジュンさんめちゃくちゃ良い人なのにっ!!」

 お姉さんは「掃除の手伝いはしなくていい」と言ってくれたんだけど、俺はトトトッと足を鳴らして皐月さんへの挨拶もキッチンで揚げ物をしているあーちゃんへのねぎらいの言葉もせず、ダイニングとリビングとを隔てている引き戸を開け……

「ジュンさんお疲れ様ですっ! 失礼な事してごめんなさいっ!!」

 拭き掃除に精を出している茶髪ウェーブのジュンさんに声を掛けた。

「ふぇえ? って、何??」

 不意にそんな事を言われたものだから、ジュンさんは三脚からバランスを崩し

「わわわわわわわわわ!! 危ないっ!!」

 慌てて三脚を掴んでジュンさんの腰を支える。

「大丈夫ですか? ジュンさんっ!!」

 結局俺はジュンさんに無礼を働いてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになったのだけれど

「亮輔くんったら♡ 今日も最高にイッケメーン♡♡♡」

 彼は茶化しながらも俺にニコニコ顔を向けてくれた。

「イケメンはジュンさんの方でしょ」

 俺は作業していた掃除に不備がない事を確認しながらジュンさんを三脚から下ろし

「そんなコト、ユウちゃんにも言われないよぉ♪」

 とんでもない自虐を簡単に口から吐いているジュンさんをソファへと移動させる。

「そんなわけないですよ。どこからどう見てもジュンさんとお姉さんは美男美女カップルじゃないですかっ!」

 俺は俺で三脚を畳みながらそう言い返してやったのだけれど

「でもさー、最初に会った時は『いけすかねぇチャラ男』ってカッとなって俺を持ち上げたじゃん?」
「っ……」

 今年最大の失態をサラリとおさらいされてしまい、三脚を抱えながら俺はその場にしゃがみ込んでしまった。

(俺が悪いけど、痛いところ突かれた……)

 お姉さんの誕生日が過ぎた11月4日の夜。
 俺とあーちゃんは誕生日プレゼント代わりの旅行土産を渡しにお姉さんが経営する珈琲豆専門店『After The Rain』へ立ち寄った。
 勝手口扉を開けあーちゃんと2人で「お誕生日おめでとうございます!!」と元気に明るく呼び掛けると、目の前に現れたのはと噂されたチャラ男とお姉さんがキスをして抱き合っている光景で……

「襟首掴んでジュンさんを持ち上げてしまい、本当にすみませんでした」

 今でもありありと思い出せる大失態をまた謝った。

「えー、その謝罪何度目? もう気にしてないってば!」

 ジュンさんは落ち込む俺の肩をポンポンと叩き、三脚をスルスルと俺のわきから外していく。

「でも……」
「もー! 亮輔くんは真面目なんだからっ! ギャグじゃん?あんなの。
 俺が100%ひゃくぱー悪いんだもん」
「そんな事ないですって! あれはれっきとした恋人同士の愛のある行為キスであって」
「けど、状況的に見えるわけないよね。チャラ男と大切な人とが唇くっつけてるんだもん」
「っ……」
「亮輔くんは悪くないよ。とっても良い子だと思うしいつも一生懸命生きてるじゃん。偉いよ」

 それから俺の頭を優しく撫でて、さっき俺が座らせたソファに俺をひょいと持ち上げストンと優しく下ろした。

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