132 / 317
彼女と俺の秘めた話
5
しおりを挟む
「……そういえば夏実は連休中に親戚の集まりあるんだろ? いつ?」
コーヒーを喉に流し入れて強引に話題転換させるしか、正直この空気を抜け出すのは無理だった。
「あー……14日って言ってたなぁお母さん。でも、一緒に行かなくてもいいとは言われたけどねー。お姉ちゃんは来ないし」
夏実は晴美さんとの会話を思い出すようにスマホを手にして親指を動かしている。
「行けばいいだろ毎年行ってるんだし」
「じゃあ湊人は? おばちゃんの親戚と、今年は会いに行くの?」
「いや、俺は13日の午前中に親父とお袋を新幹線に乗せなきゃいけないからその見送りだけする」
「お迎えは?」
「14日の18時」
「じゃあ私と帰宅日も帰宅時間も被るじゃん。湊人も行けばいいのに」
「お袋の親戚がめんどくさいの、夏実に何度も愚痴った事あるだろ?」
「集まる人数の半数以上がタバコとお酒大好きなんだっけ?」
「そう。そんなところにマスクだけしに入り込んでも多分頭痛じゃ済まない……そもそも未婚の20代や30代は餌食になるから」
「餌食?」
「『結婚しないのか?』『相手探してやろうか?』って。お袋の実家は特にその傾向が強いから」
そこまで喋って、俺は残りのコーヒーを飲み干す。
桃農家を営むお袋の実家では、毎年お盆になると「親戚の集まり」と称して数日間の大宴会が開催される。
大人の楽しみしか無いあの集まりにはガキの頃からあまりいい印象を持っておらず、唯一の楽しみは縁側で採れたての桃を食べる事だった。
「水蜜桃」と皆が呼ぶそれをお袋から一玉貰い、縁側に座って皮を歯で摘んで引き剥がしてから一心にむしゃぶりつく。
皮は薄いが、毛がチクチクとしてそれが舌に刺さるのが嫌で……でも慣れない指でほじくるように剥こうとしたら実が崩れて茶に変色してしまう。
果肉の表面はなるべく綺麗なままチクチクを避けて食べるという面倒な食べ物ではあったが、誰かに剥いてもらうよりは自分で剥く楽しさもあって……紫煙の溜まり場で頭痛が止まらなかった俺を癒す行為でもあった。
「じゃあ、昔からあまり楽しくなかったんだね」
「そうだな……美味いものもあったけど、ガキの頃の話だから」
多分……今その「水蜜桃」を同じようにむしゃぶりついたとしても、ガキの頃に感じた思いには重ならないのだろうと思う。
「だから、親の送り迎えくらいがちょうどいいんだよ俺には」
目線を夏実の赤みさす頰に向けながら、俺はそう言って少し微笑んでみせた。
「そっか」
採れたての水蜜桃で癒された話は夏実に一度もした事がないから、その「そっか」に他意はない筈だ。
「うん。だから夏実は行ってきなよ」
だから俺もあまり意味のない「うん」を呟いて、夏実は晴美さん達と行くようにと促す。
「でもその日は湊人が1人になっちゃう……」
夏実は可愛らしい態度で俺の座っている位置まで近づいて癒しのキスをくれた。
「夜には帰ってくるんだろ? ……そのくらいなら寂しくないし」
チョコレートの甘さとカフェオレのミルク感が俺の口内を満たす。
「ほんと?」
「嘘じゃない……じゃあ、寂しくならないように何か予定入れる? 13日の夜とか15日の日中とか」
夏実ともっとキスをしたくなって俺も椅子から立ち上がり、モスグリーン色のラグが敷いてある場所まで夏実を連れて行って胡座をかくと、俺の膝の上に彼女の身体を乗せ……
「ん♡」
「……っ、ん」
そこからはお互いの唇を優しく食んで、ちゅぷちゅぷ音を立てながら休日の予定を計画した。
「取り敢えず今日は一日お家でまったりがいい♡」
「明日と明後日は? DVD鑑賞したり、夜にドライブデートするのにちょっと外に出たりは?」
「そうだねー。夜景が綺麗なところ行ってみたい♪ 展望台とか」
連休前半の予定の時はイチャイチャキスしながら予定立てていたのに
「あっ! 13日の夜は花火やりたい!! 茉莉ちゃん達呼んでみていい?」
「花火って、手持ち花火のヤツ?」
「そうそう! この近くに手持ち花火出来る公園や空き地があるか茉莉ちゃんに訊いてみるね!!」
と夏実が急に思い立つと俺からサッと離れ、スマホで茉莉や滉と連絡を取り出したのだからこっちはほんの少しだけ寂しい気分になる。
「まぁいいけど」
茉莉達と手持ち花火って、完全に俺が保護者役になるじゃねーか。とか……
本当に夏実はあの2人が好きなんだな。とか……
そんな事を思いながら夏実の楽しそうに電話する姿を眺めていると
「ねーねー湊人!! 14日の日中さぁ、茉莉ちゃんと滉くんがここで勉強会したいんだって。湊人、2人に勉強教えてくれる?」
いきなり寝耳に水レベルの提案を持ちかけられ、俺は目を見開いた。
「はあぁぁ??! なんでだよ! 夏実が居ないのにあいつらがここに来る理由ないだろう?」
「あるよぅ。だって湊人教えるの上手だし、私の為に買ってくれた参考書余ってるじゃん」
「余ってるっていっても、アレ実家に置きっ放しだし……」
「13日の送りの前、広瀬家に行くんだからその時に取りに行くとか?」
「まぁ、可能っちゃ可能だけど」
「じゃあ決まり!!」
夏実はとびきりの笑顔を俺に一瞬向けて、また茉莉と喋り始めた。
(あー……変な予定まで組まれちゃったよ。
あいつら予備校ないんだっけ? 盆休みは休講なのか?? っていうか、夏実以外の高校生に教えるってあり得ないんだが。
夏実みたいに俺の説明理解してくれるか不明だし、参考書手渡して自由に自主勉強させるしかないよなぁ)
コーヒーを喉に流し入れて強引に話題転換させるしか、正直この空気を抜け出すのは無理だった。
「あー……14日って言ってたなぁお母さん。でも、一緒に行かなくてもいいとは言われたけどねー。お姉ちゃんは来ないし」
夏実は晴美さんとの会話を思い出すようにスマホを手にして親指を動かしている。
「行けばいいだろ毎年行ってるんだし」
「じゃあ湊人は? おばちゃんの親戚と、今年は会いに行くの?」
「いや、俺は13日の午前中に親父とお袋を新幹線に乗せなきゃいけないからその見送りだけする」
「お迎えは?」
「14日の18時」
「じゃあ私と帰宅日も帰宅時間も被るじゃん。湊人も行けばいいのに」
「お袋の親戚がめんどくさいの、夏実に何度も愚痴った事あるだろ?」
「集まる人数の半数以上がタバコとお酒大好きなんだっけ?」
「そう。そんなところにマスクだけしに入り込んでも多分頭痛じゃ済まない……そもそも未婚の20代や30代は餌食になるから」
「餌食?」
「『結婚しないのか?』『相手探してやろうか?』って。お袋の実家は特にその傾向が強いから」
そこまで喋って、俺は残りのコーヒーを飲み干す。
桃農家を営むお袋の実家では、毎年お盆になると「親戚の集まり」と称して数日間の大宴会が開催される。
大人の楽しみしか無いあの集まりにはガキの頃からあまりいい印象を持っておらず、唯一の楽しみは縁側で採れたての桃を食べる事だった。
「水蜜桃」と皆が呼ぶそれをお袋から一玉貰い、縁側に座って皮を歯で摘んで引き剥がしてから一心にむしゃぶりつく。
皮は薄いが、毛がチクチクとしてそれが舌に刺さるのが嫌で……でも慣れない指でほじくるように剥こうとしたら実が崩れて茶に変色してしまう。
果肉の表面はなるべく綺麗なままチクチクを避けて食べるという面倒な食べ物ではあったが、誰かに剥いてもらうよりは自分で剥く楽しさもあって……紫煙の溜まり場で頭痛が止まらなかった俺を癒す行為でもあった。
「じゃあ、昔からあまり楽しくなかったんだね」
「そうだな……美味いものもあったけど、ガキの頃の話だから」
多分……今その「水蜜桃」を同じようにむしゃぶりついたとしても、ガキの頃に感じた思いには重ならないのだろうと思う。
「だから、親の送り迎えくらいがちょうどいいんだよ俺には」
目線を夏実の赤みさす頰に向けながら、俺はそう言って少し微笑んでみせた。
「そっか」
採れたての水蜜桃で癒された話は夏実に一度もした事がないから、その「そっか」に他意はない筈だ。
「うん。だから夏実は行ってきなよ」
だから俺もあまり意味のない「うん」を呟いて、夏実は晴美さん達と行くようにと促す。
「でもその日は湊人が1人になっちゃう……」
夏実は可愛らしい態度で俺の座っている位置まで近づいて癒しのキスをくれた。
「夜には帰ってくるんだろ? ……そのくらいなら寂しくないし」
チョコレートの甘さとカフェオレのミルク感が俺の口内を満たす。
「ほんと?」
「嘘じゃない……じゃあ、寂しくならないように何か予定入れる? 13日の夜とか15日の日中とか」
夏実ともっとキスをしたくなって俺も椅子から立ち上がり、モスグリーン色のラグが敷いてある場所まで夏実を連れて行って胡座をかくと、俺の膝の上に彼女の身体を乗せ……
「ん♡」
「……っ、ん」
そこからはお互いの唇を優しく食んで、ちゅぷちゅぷ音を立てながら休日の予定を計画した。
「取り敢えず今日は一日お家でまったりがいい♡」
「明日と明後日は? DVD鑑賞したり、夜にドライブデートするのにちょっと外に出たりは?」
「そうだねー。夜景が綺麗なところ行ってみたい♪ 展望台とか」
連休前半の予定の時はイチャイチャキスしながら予定立てていたのに
「あっ! 13日の夜は花火やりたい!! 茉莉ちゃん達呼んでみていい?」
「花火って、手持ち花火のヤツ?」
「そうそう! この近くに手持ち花火出来る公園や空き地があるか茉莉ちゃんに訊いてみるね!!」
と夏実が急に思い立つと俺からサッと離れ、スマホで茉莉や滉と連絡を取り出したのだからこっちはほんの少しだけ寂しい気分になる。
「まぁいいけど」
茉莉達と手持ち花火って、完全に俺が保護者役になるじゃねーか。とか……
本当に夏実はあの2人が好きなんだな。とか……
そんな事を思いながら夏実の楽しそうに電話する姿を眺めていると
「ねーねー湊人!! 14日の日中さぁ、茉莉ちゃんと滉くんがここで勉強会したいんだって。湊人、2人に勉強教えてくれる?」
いきなり寝耳に水レベルの提案を持ちかけられ、俺は目を見開いた。
「はあぁぁ??! なんでだよ! 夏実が居ないのにあいつらがここに来る理由ないだろう?」
「あるよぅ。だって湊人教えるの上手だし、私の為に買ってくれた参考書余ってるじゃん」
「余ってるっていっても、アレ実家に置きっ放しだし……」
「13日の送りの前、広瀬家に行くんだからその時に取りに行くとか?」
「まぁ、可能っちゃ可能だけど」
「じゃあ決まり!!」
夏実はとびきりの笑顔を俺に一瞬向けて、また茉莉と喋り始めた。
(あー……変な予定まで組まれちゃったよ。
あいつら予備校ないんだっけ? 盆休みは休講なのか?? っていうか、夏実以外の高校生に教えるってあり得ないんだが。
夏実みたいに俺の説明理解してくれるか不明だし、参考書手渡して自由に自主勉強させるしかないよなぁ)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
47
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる