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俺と彼女と可愛い甘え
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しおりを挟む「俺が嫉妬したら、夏実は喜ぶんだろうか?」
服を脱ぎ、浴室に入ったところで俺はポツリと独り言を漏らす。
ーーー
『俺が変なだけかもしれませんが……。
自分が嫉妬深い分、逆に妻から可愛い嫉妬なんかされちゃったら余計に夜が燃えちゃうんですよねー♪』
ーーー
夏実の卵焼き師匠こと村川くんは、ちょうど今日のランチタイムの中でそんな話を俺にしていた。
彼曰く、自分の嫉妬は醜く感じて嫌になるのに相手からしてもらうと愛を感じるし甘えてくれている実感を持つのだと言う。
(でもそれって、男がする嫉妬と女がする嫉妬の本質が違う所為なんじゃないだろうか?
静華との事で夏実が嫉妬してきたのは実際可愛いと感じたし愛されてる実感もあった。わがまま言って甘える様子は俺の心をキュンとさせたし、その夜だって新婚さんに負けない程度に燃えたというか……)
「……っ」
シャワーを浴びていたら血流が下半身へ向かうのを感じ、視線をそこに落とした。あの日の夜の出来事を思い出していたら、棒までもがその記憶を呼び起こしたらしい。
(ヤバいヤバい……考えを「30男の嫉妬の是非」に戻さなければ)
ギュッと目を閉じ、自ら沸き起こるかもしれない嫉妬の可能性について真面目に考え始めた。
(夏実の嫉妬や甘え、わがままは単純に可愛い。これは「好き」の同義語であると共に湧き上がる感情の意味でも可愛さを感じる。
だが、俺みたいな男が同様の感情や行動を夏実にぶつけたらどうなる? ……そんなの「おっさんキモい」の一言で片付けられやしないだろうか?)
村川くんはきっと勘違いをしているのだ。
「自分の嫉妬は醜くて妻から嫉妬されると欲情する」のではなく
「男の嫉妬は醜くて女から嫉妬されると男は欲情する」が正しいのだと……俺の脳はそう結論を出した。
「そうだよ、俺がそんな事したって可愛い筈がないし夏実が喜ぶ訳ないんだ。そうだその通りだ」
自分に言い聞かせながら水分を拭き取った身体に部屋着を通し、浴室を出る。
「わっ、夏実凄い! 美味そう♪」
冷蔵庫や炊飯器、小鍋の中をそれぞれ確認したら今夜は和食だと分かり、自然と声が漏れた。
「この短期間でまた料理の腕を上げたんだなぁ……後でいっぱい褒めてやらなくちゃなぁ」
それらを全て温めテーブルの上に配膳し終わったところで、夏実にビデオ通話をかける。
『あ、お風呂すんだぁ?湊人ぉ』
電話を中断した所為か、画面に表示された夏実は少し眠そうな表情をしている。
「眠いなら通話切ろうか? 今から夏実が作ったのを食べるところなんだけど」
『勝手に眠くなったのは私だからいいのぉ。ご飯いつも簡単なメニューでごめんね』
夏実はベッドのの上にでもいるんだろうか?固定された位置からは眠そうに欠伸したり顔を擦ったりする部屋着姿の上半身が映し出される。
「簡単じゃないよ。ちゃんとした和食メニューでビックリしたよ。魚焼いてるし炊き込みご飯だし」
夏実が俺の為に用意してくれたのは、焼き鮭、豆腐の味噌汁、数種類のきのこが入った炊き込みご飯で、なんとも秋の雰囲気を感じる美味そうなメニューだった。
『でも魚は魚焼きグリルじゃなくてフライパンで焼いてるしぃ、お味噌汁もご飯も顆粒だし使ってるしぃ』
「充分過ぎるだろ……うん、凄く美味しい!」
俺もスマホをテーブルの上に置いて固定させて、食べている姿を夏実に見せようとした。
画面通して自分の食べる姿を夏実に見せるなんて初めての経験だし、なんか10代の動画配信者がやってそうな行為で恥ずかしい。
『スマホ越しだけど湊人が食べてる姿を見るのって、なんかいいね♪ しあわせぇ~♡』
(恥ずかしいけれど、夏実が喜んでいるみたいだから良しとするか)
結局ビデオ通話は俺の食事シーンを夏実に晒すところで終え、あとは夏実が寝落ちするまで通話のみでダラダラ喋る事にした。
「水の音とかうるさくないか?」
『湊人の声が低いからかなぁ? ちゃんと聞こえるよ♪』
今まであまり使ってこなかったがスピーカーって本当に便利機能なのだと知る。
「そういうの、高音の方が雑音に負けないんじゃなかったか?」
『じゃあ私が湊人の声が大好きだからだぁ。えっと……抽出?』
さっきのビデオ通話もそうだし、今夏実がやっているイヤホンマイクもそうだが……両手がフリーに使えれば、飯も食えるし食器も洗って片付けられる。
「必要な音だけ拾おうとすれば雑音なんか気にならなくなるからな、人間って」
『人間の耳は便利だね』
食器を片付け、歯を磨けばあとは寝るだけ。
「夏実、そういうのは便利とは言わないんだよ『都合いい』って言うんだ」
あとは寝るだけの状態になった俺は、夏実よりもだいぶ遅れてベッドルームに入った。
『同じじゃないの?』
「不便なものでも都合の良さを感じたりするからな。だからイコールにはならない」
ハンズフリーの通話は便利。
スピーカーも、便利。
だが俺にとってのイヤホンマイク通話は、便利というよりは「都合いい手段」だ。
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