この花言葉を君に

silverchaff

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本編

10月18日3

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「もうちょっとしたら美優みゆちゃん幼稚園から帰って来るんじゃない?」
「そうだね、帰ってきたらまた家の中がやかましくなるよ。龍斗りゅうとと一緒に電車で遊ぶって言ってたから後でレール組んでやんなくちゃ」
「美優ちゃんもすっかりお姉ちゃんらしくなったわね♪」
「美優もまだ4歳だから甘えたい盛りなのにね。親としては助かるけどさぁ」

 グラタンを食べ終えた後もまだテラス席で会話を続けていた2人であったが……。

「えっ? 臨時の集会、今から始まるの? マジで??!!」

 不意に鳴り響いた健人の着信音をきっかけに、優雅な秋風がピタッと止む。

「えっ? 田上くん、今のって奥さんから?」

 スマホをエプロンのポケットに突っ込んだ彼に夕紀が呼び掛けた。

「うん……なんかさ、臨時集会が今から始まるみたい。集会所に行かないとヤバいよ、遠野!」
「マジ? なんで今日臨時でやんの? 一日待てないの?」

 例の集会は明日の筈だ。どうしてわざわざ前日に臨時集会を開くのだろうかと夕紀は首を傾げていると、

「なんか分かんないけど……キヨさんが倒れたみたい」

 健人が唇を震わせながら、妻から聞いたばかりの内容を伝えた。

「えっ、清さんが?!」

 偶然にも話題にあげていた『キヨパン』のきよしが倒れたというしらせは度肝を抜くもので……

「俺、先に『はらだ理髪店』へ行くよ! 遠野も食べ終わったから急いだ方がいいかも!!」
「分かった!! 急いで追いかける!!」

 夕紀も田上くん同様に青ざめ、早々に会計を済ませると洋食店から集会場所となっている理髪店へ急いで向かった。

 集会が2日連続になるのはしんどいし、せっかく朝香や常連客から貰えたランチタイムが強制終了された悔しさはある。しかしそれよりも『タカパン』の清の体が心配になっていた。
 清は「商店街を照らす温かな光みたいだ」と皆が口々に語るくらいの人格者で、耕太郎と仲が良いだけでなく夕紀や健人のような若者にも優しく接してくれていて「ご長老との潤滑油」の役目を担ってくれている非常に有難い人だ。

(倒れただなんて……元気で明るい清さんが……そんな!!)

 急いで既に皆が集まっている中へと入っていく。

 すると……

「———というわけで、今日から2週間父が入院する事になりました。その間、店は通常通り兄夫婦が…………母は父の世話等で外出する事が多くなりますので皆様ご了承お願い申し上げます」

「えっ」

 夕紀の目に飛び込んだのは、商店街メンバー面々の後頭部と、記憶に残る茶色のウェーブヘアを冠した男で……


「ほだか…………くん?」

 7年前と見た目がさほど変わらないの姿に驚き、その名を呟いた。

「あれっ? 夕紀ちゃん、まさか『ジュン坊』を知っているのかい?」

 すると、夕紀の隣に立っていた「長沢金物店」の店主で我が店の常連様である長沢宗幸ながさわむねゆきが、不思議そうな声色を聞かせながら肩をトンッと叩く。

「えっ??!! 清さんがいつも言ってた『バカ息子のジュン坊』って、穂高ほだかくんの事だったの????!!!!!」

 と、皆が……まして本人が居る前で大きな声を出してしまった。

「ああ~! 夕紀ちゃんダメだよ! 集会中は静かに! 耕太郎に叱られちゃうよ」

 宗幸が慌てて指を口元に持ってきて夕紀に合図したけれどもう遅い。

「えっ? 夕紀ちゃんジュン坊知ってたの??」
「遠野、ジュンくんと知り合いだったの? なんで?」

 近くで立っていた『もりやま青果』の初恵はつえや健人だけでなく、

「遠野さんって確か、ジュン坊がこっち来なくなった後に店出したよな?」
「変だよなぁ」
キヨさんも美智代みちよさんもジュン坊がなかなか帰ってこないって嘆いてたっていうのに」

 一斉に夕紀の方を向いてしまってザワザワし始め……

「えぇ!!? 遠野って遠野さん?!! 本当の本当に、俺の知ってる遠野さんなの????」

 さっきまで説明口調で皆に喋っていたがハイトーン&ハイテンションボイスを出しながらこちらへ顔を向けてしまったのだった。

「あ……」

(本当に……)

 彼の大きな口から発せられた声で「7年前の10月18日に棄てた彼だ」という確信を持つ。

穂高ほだか純仁すみひとだ……)

 綺麗な茶髪ウェーブヘアや乳白色の肌だけでなく、声もテンションの高さも他人と一致するだなんて考えられない。

……)

「やっぱり遠野さんじゃん!! 本物だぁ! 超久しぶり!! え~? どうしてここに居るの? マジでビックリなんだけど!!」

 周囲からの視線に顔が熱くなる夕紀の方へ、彼は大股でズンズンと近付き、ためらいもなくギュッと握手してきた。

「えっ……ちょっ!」

 突然手を握られて戸惑う夕紀に、宗幸は苦笑いになり

「今朝に清さんが入院したっていうんで、ジュン坊はわざわざ有給取ってこっちに帰って来てくれたみたいでね。しばらく商店街の集会とか手伝いに来てくれるみたいなんだ」

 と、説明してくれた。

「え? 穂高くんが集会の手伝い?!」

(穂高くんが例の「バカ息子のジュン坊」だった事に驚いてるっていうのに、明日の集会にも参加するとか理解が追い付かないんだけど!!)

「清さん、入院2週間くらいかかるらしいよ。ジュンくん優しいよねぇ! 7年帰って来ないからいい加減な次男坊とか皆言ってるし俺もジュンくんの事『何考えてんだか分かんない』とか言っちゃってたけどさぁ、なんだかんだ言って家族思いだし地元好きなんじゃん♪ やっぱりジュンくんはこうでないと!!」

 「ジュン坊と幼馴染」と以前より耳にしていた健人が喜ぶのはまぁ……意味が分かるとして

「遠野さんの店って、うちのパン屋の2軒隣なんだってね! さっき義雄さんから聞いたよー♪  知らなかったー! なぁんか運命感じちゃう♡ すげー嬉しい♡」

(なんで私の事こんなに喜んでんのよ! 意味が分からないんだけど!!)

 健人以上に笑顔になってピョンピョンと子どもみたいに垂直跳びして喜ぶ穂高純仁のが理解の範疇を超えている。

「清さんが入院しちゃってしばらく集会来られないからジュン坊が代わりに出てくれたり店の見回りとかしてくれるみたいよ。清さんの代わりになる人がすぐ来てくれて助かるわ♪」

 初恵さんは夕紀と純仁を微笑ましく交互に見つめて意味深なニヤニヤをしてくるし、宗幸も健人も「良かった良かった」と頷いている。

「えっ…………ええええ」

 予想だにしていなかった穂高純仁との再会に、夕紀はうろたえる事しか出来なかった。





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