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本編
これからは一緒に……1
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*
亮輔の過去や奥さんの出産など、身の回りの心配事が解決すると気が抜けてしまう。
朝香はいつのまにか亮輔を手を繋いだ状態で眠ってしまったようだ。
「ん……」
窓から朝日の光が差し込む中で朝香が目覚めると
「おはよ」
亮輔が微笑みを浮かべながらこちらへ朝の挨拶をしてくる。
「あれ……? りょーくん、寝なかったの?」
ぼんやりとした様子で朝香が問うと
「もちろん寝たよ。起きたのは少し前ってだけで」
亮輔は優しいハグで朝香の身体を包むなり
「あーちゃんの寝顔、最高に可愛いから見逃したくないんだよ♡」
意地悪な囁きを施す。
「やぁん……恥ずかしいよぅ♡」
寝顔を見られるなんて初めてではないというのに朝香は照れ臭くなる。
亮輔は朝香の照れ顔を愛おしく眺めていたかったようだが、状況的に意地悪い囁きをしたのは良くないと感じていたらしく
「あ、健人さんにはね、メッセージで先に『おめでとうございます』って打ったんだ。でも奥園さんに直接お祝いも言いたいから面会日を確認してもらってるよ。やっぱり緊急手術になってて、麻酔が解けたのがあの時間だったみたい」
真面目な話題転換をしてくれた。
「そうだったんだね」
「面会が無理なら退院後でも構わない話はしてるよ。あーちゃんはどうするの?」
「うーん私も親族じゃないからなぁ。手術になってしまったら尚更お身体に負担がかかっているだろうし退院後でもいいかなって思うかなぁ」
(夕紀さんは田上さんと幼馴染だし奥さんとも仲が良いから個人的に面会行くのかもしれないけど……)
田上夫妻は夕紀の方が朝香よりも関係性が深い。
「そっかぁ。じゃあ、面会可能だった場合は俺だけ行くね」
亮輔は朝香と一緒に面会に伺う気でいたのかもしれない。少し残念そうな表情になっていたので
「退院後のお祝いはりょーくんと一緒に行きたいな」
と朝香は答えた。
「えへへ♡」
朝香の返答が嬉しかったのか、ハグの力が強まり
「あーちゃんの『りょーくん呼び』めちゃくちゃ嬉しい♡ 愛を感じる♡」
とまた囁いてくる。
「やぁん♡ くすぐったいし照れちゃう♡」
「単純に嬉しいんだよ♡ 大好きなあーちゃんにりょーくんって呼ばれるのが♡」
亮輔は本当に喜んでいるようで甘い声を出し頬にキスもしてくれる。
「むぅ~……本当は『亮輔くん』って呼ぶつもりだったんだよ。服で顔が圧迫されて『す』と『け』が消されちゃっただけで」
「でもあーちゃんからはこれからも『りょーくん』って呼んでほしいな♡ 幸せで満たされてくから♡」
大好きな人の名前を上手く呼べなかったのは恥ずかしいが、彼本人が喜んでいるならそのまま『りょーくん』と呼び続けるしかない。
(まぁ、いっかぁ……私だって『あーちゃん』って呼ばれているんだし)
呼び方は「あーちゃん」「りょーくん」で着地する事となった。
現在時刻は午前9時。
予想以上に睡眠を取れたようだ。
「あっ、りょーくんのお部屋、片付け必要だよね? 私手伝いするよ」
真下の103号室は亮輔が暴れた跡がそのまま残っている筈だ。朝香が指を下に向けながらそれを提案すると
「部屋ぐちゃぐちゃなの恥ずかしいけど、片付けは助かるかなぁ」
亮輔はしぶしぶ了承する。
「ぐちゃぐちゃは気にしないよ! 2人で片付けたら早く済むし!」
「まぁ……そうだね」
2人共微笑みながら外階段を降り、部屋の片付けに取り掛かる。
(ぐちゃぐちゃっていっても想定内だなぁ)
確かに物を投げた形跡はあったが危険なガラス片や陶磁器の欠片などは見当たらない。もしかしたら亮輔が眠る隙に俊哉が片付けてしまったのかもしれない。
「服を畳むね」
クローゼットは開け放たれていて辺り一面に衣類が引き出されていたので、朝香はそれらを片付ける事にした。
「ごめんねあーちゃん……デカいものは俺がやるから。あー、パソコンもタブレットも画面割れてる。新しく買わないとヤバいなこれは」
亮輔は壊れた端末に頭を抱えつつ、倒れていた本棚を持ち上げ元の位置に戻している。
(危ない破片が落ちたりしてないからそこまでビックリはしなかったけど、普段綺麗に整頓されているお部屋を知ってるから意外に感じちゃうなぁ……)
それほど亮輔にとって「遠野夕紀」の名前表示は衝撃的だったという事になる。今はもう気持ちが落ち着いていて散らかした件を悔やんでいるようだが。
(あ、そういえば……この部屋ってりょーくんの仮住まいって言ってたような)
服を畳み終えクローゼットに仕舞い直しながら、朝香は俊哉の話を思い起こしていた。
あの話を整理すると、高い建物を見ると飛び降りてしまいそうな程の極限状態だった亮輔を見兼ねた俊哉は自分の管理しているアパートの空き部屋に住まわせていた……という事になる。
(って事は……りょーくんにはこの部屋とは別に、元々住んでいたお部屋があるって話になってくるよね? 俊哉さんのご実家とか??)
彼は「笠原」ではなく「上原」の家族になっているのだから、当然家も上原俊哉の生家が実家となる筈。
(お家のお部屋が2階だからアパートで仮住まい? いや、2階くらいならそんなに心配しないよね。現に私の部屋は2階で今まで全く問題なかったんだもん)
……と、脳内で勝手に推理していると
部屋の中にインターフォンの音が鳴り響く。
「?」
朝香は首を傾げ、亮輔の方を向くと朝香と同じように首を傾げており
「まだ午前中なのに。誰だろう?」
不思議そうな表情をしながら扉を開ける。
「亮輔っ、誕生日おめでとう」
「えっ?! 俊哉くん??」
やってきたのは、やや疲れた表情をした俊哉。
「あ……えっと、お邪魔、してます」
朝香も彼の登場に驚きつつも慌てて亮輔のすぐ側に立つ。
「お邪魔だなんてとんでもないよ朝香さん。昨夜からずっと、こっちがお世話になっているんだから」
俊哉は朝香にニコッと微笑み優しい言葉をかけてくれたが……その直後。
「亮輔マジでいい加減にしてくれよ、もう20歳になったんだから」
亮輔を叱る意味で小突く。
「うっ……」
「まったく……段々デカくなるお前の身体を抑えつけるの毎回苦労してたんだからな! これで最後にしてくれよ」
「本当に気をつけるよ……俊哉くん本当にごめんなさい」
本当にこれまで何度も俊哉に落ち着かせてもらったのだろう。亮輔は申し訳ないと頭を下げおり反省しているようだった。
亮輔の過去や奥さんの出産など、身の回りの心配事が解決すると気が抜けてしまう。
朝香はいつのまにか亮輔を手を繋いだ状態で眠ってしまったようだ。
「ん……」
窓から朝日の光が差し込む中で朝香が目覚めると
「おはよ」
亮輔が微笑みを浮かべながらこちらへ朝の挨拶をしてくる。
「あれ……? りょーくん、寝なかったの?」
ぼんやりとした様子で朝香が問うと
「もちろん寝たよ。起きたのは少し前ってだけで」
亮輔は優しいハグで朝香の身体を包むなり
「あーちゃんの寝顔、最高に可愛いから見逃したくないんだよ♡」
意地悪な囁きを施す。
「やぁん……恥ずかしいよぅ♡」
寝顔を見られるなんて初めてではないというのに朝香は照れ臭くなる。
亮輔は朝香の照れ顔を愛おしく眺めていたかったようだが、状況的に意地悪い囁きをしたのは良くないと感じていたらしく
「あ、健人さんにはね、メッセージで先に『おめでとうございます』って打ったんだ。でも奥園さんに直接お祝いも言いたいから面会日を確認してもらってるよ。やっぱり緊急手術になってて、麻酔が解けたのがあの時間だったみたい」
真面目な話題転換をしてくれた。
「そうだったんだね」
「面会が無理なら退院後でも構わない話はしてるよ。あーちゃんはどうするの?」
「うーん私も親族じゃないからなぁ。手術になってしまったら尚更お身体に負担がかかっているだろうし退院後でもいいかなって思うかなぁ」
(夕紀さんは田上さんと幼馴染だし奥さんとも仲が良いから個人的に面会行くのかもしれないけど……)
田上夫妻は夕紀の方が朝香よりも関係性が深い。
「そっかぁ。じゃあ、面会可能だった場合は俺だけ行くね」
亮輔は朝香と一緒に面会に伺う気でいたのかもしれない。少し残念そうな表情になっていたので
「退院後のお祝いはりょーくんと一緒に行きたいな」
と朝香は答えた。
「えへへ♡」
朝香の返答が嬉しかったのか、ハグの力が強まり
「あーちゃんの『りょーくん呼び』めちゃくちゃ嬉しい♡ 愛を感じる♡」
とまた囁いてくる。
「やぁん♡ くすぐったいし照れちゃう♡」
「単純に嬉しいんだよ♡ 大好きなあーちゃんにりょーくんって呼ばれるのが♡」
亮輔は本当に喜んでいるようで甘い声を出し頬にキスもしてくれる。
「むぅ~……本当は『亮輔くん』って呼ぶつもりだったんだよ。服で顔が圧迫されて『す』と『け』が消されちゃっただけで」
「でもあーちゃんからはこれからも『りょーくん』って呼んでほしいな♡ 幸せで満たされてくから♡」
大好きな人の名前を上手く呼べなかったのは恥ずかしいが、彼本人が喜んでいるならそのまま『りょーくん』と呼び続けるしかない。
(まぁ、いっかぁ……私だって『あーちゃん』って呼ばれているんだし)
呼び方は「あーちゃん」「りょーくん」で着地する事となった。
現在時刻は午前9時。
予想以上に睡眠を取れたようだ。
「あっ、りょーくんのお部屋、片付け必要だよね? 私手伝いするよ」
真下の103号室は亮輔が暴れた跡がそのまま残っている筈だ。朝香が指を下に向けながらそれを提案すると
「部屋ぐちゃぐちゃなの恥ずかしいけど、片付けは助かるかなぁ」
亮輔はしぶしぶ了承する。
「ぐちゃぐちゃは気にしないよ! 2人で片付けたら早く済むし!」
「まぁ……そうだね」
2人共微笑みながら外階段を降り、部屋の片付けに取り掛かる。
(ぐちゃぐちゃっていっても想定内だなぁ)
確かに物を投げた形跡はあったが危険なガラス片や陶磁器の欠片などは見当たらない。もしかしたら亮輔が眠る隙に俊哉が片付けてしまったのかもしれない。
「服を畳むね」
クローゼットは開け放たれていて辺り一面に衣類が引き出されていたので、朝香はそれらを片付ける事にした。
「ごめんねあーちゃん……デカいものは俺がやるから。あー、パソコンもタブレットも画面割れてる。新しく買わないとヤバいなこれは」
亮輔は壊れた端末に頭を抱えつつ、倒れていた本棚を持ち上げ元の位置に戻している。
(危ない破片が落ちたりしてないからそこまでビックリはしなかったけど、普段綺麗に整頓されているお部屋を知ってるから意外に感じちゃうなぁ……)
それほど亮輔にとって「遠野夕紀」の名前表示は衝撃的だったという事になる。今はもう気持ちが落ち着いていて散らかした件を悔やんでいるようだが。
(あ、そういえば……この部屋ってりょーくんの仮住まいって言ってたような)
服を畳み終えクローゼットに仕舞い直しながら、朝香は俊哉の話を思い起こしていた。
あの話を整理すると、高い建物を見ると飛び降りてしまいそうな程の極限状態だった亮輔を見兼ねた俊哉は自分の管理しているアパートの空き部屋に住まわせていた……という事になる。
(って事は……りょーくんにはこの部屋とは別に、元々住んでいたお部屋があるって話になってくるよね? 俊哉さんのご実家とか??)
彼は「笠原」ではなく「上原」の家族になっているのだから、当然家も上原俊哉の生家が実家となる筈。
(お家のお部屋が2階だからアパートで仮住まい? いや、2階くらいならそんなに心配しないよね。現に私の部屋は2階で今まで全く問題なかったんだもん)
……と、脳内で勝手に推理していると
部屋の中にインターフォンの音が鳴り響く。
「?」
朝香は首を傾げ、亮輔の方を向くと朝香と同じように首を傾げており
「まだ午前中なのに。誰だろう?」
不思議そうな表情をしながら扉を開ける。
「亮輔っ、誕生日おめでとう」
「えっ?! 俊哉くん??」
やってきたのは、やや疲れた表情をした俊哉。
「あ……えっと、お邪魔、してます」
朝香も彼の登場に驚きつつも慌てて亮輔のすぐ側に立つ。
「お邪魔だなんてとんでもないよ朝香さん。昨夜からずっと、こっちがお世話になっているんだから」
俊哉は朝香にニコッと微笑み優しい言葉をかけてくれたが……その直後。
「亮輔マジでいい加減にしてくれよ、もう20歳になったんだから」
亮輔を叱る意味で小突く。
「うっ……」
「まったく……段々デカくなるお前の身体を抑えつけるの毎回苦労してたんだからな! これで最後にしてくれよ」
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