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番外編
朝に香る9
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「りょーくん大丈夫?」
顔色を次々と変えていく亮輔の様子に朝香が声を掛けると、彼は指先を額にくっつけながら
「なんていうか……中学卒業してからの俺って精神的に不安定なのもあったけど色々やらかしてるから、それを全てお父さん……じゃなくて、村川さんに見られていたのかって思うと申し訳ない気持ちでいっぱいで」
めちゃくちゃ複雑な心境であるという内容を呟く。
「いやぁ、立派じゃったよ亮輔くんは。皐月さんの事をあの歳で乗り越えるってだけでもえらい事よ。
行きたかった学校にも通えず、親に邪険に扱われ、ただでさえ可哀想な感じじゃったんじゃし、金髪ピアスの見た目でいようが大人の女性に甘えようが儂ゃ何も思うとらん!」
「「!!!!」」
それに対して義郎はガハハ笑いをしながら亮輔の傷に塩を塗り込むような言葉を言って朝香達の肩をビクッと震わせたのだが、すぐに
「じゃけどのぅ、儂は亮輔くんがこうして生き続けてくれた事が嬉しい。それがとにかく嬉しかったんじゃ」
大きな顔に涙を浮かべた義郎の表情を目の当たりにした直後、別の意味でまた驚いた。
「村川さん……」
「儂は亮輔くんとは他人じゃ。接点はほぼ無いといってええ。じゃから儂が出来る事は東京滞在中に亮輔くんの様子を見に行く事だけ。まして夕紀の保護者的立場としちゃあ、亮輔くんに介入しちゃいけん事も分かっておる。
じゃが儂は朝香の父親でもあるんじゃ。娘が密かに想いを寄せる人物に情が湧いてしまうのも、親心だと思うてつかあさい」
それから義郎は椅子から立ち上がるとりょーくんの前に立ち、深々と頭を下げた。
「えっ……『密かに想いを寄せる』って」
「お父さん……私が包帯を巻いてる中学生のりょーくんに片想いしてたのを知ってたの?」
予想外の父親の態度に朝香達はパニックを起こす。
(夕紀さんの口からお母さんが私の片想いを知ってるって話を聞いた事があったけど、まさかお父さんまで把握していただなんて……!!)
朝香の片想いについて相談を裕美に持ち掛けた夕紀だってこの事は想定外だったのではないかと思われる。何故なら娘を持つ父親が一番危惧するのは恋愛話だと理解しているからだ。
(オシャレに疎くて珈琲に真っ直ぐな性格であっても、お父さんにとって私は大事な一人娘。お父さんの性格上、一人娘の想い人や彼氏の存在は疎ましいだろうし、寧ろそんな話題すら耳に入れなくないと思うに決まっている……それなのにお父さんなんでこんなにニコニコしてるんだろう)
「そりゃあ知っとるよ! ママから聞いたんじゃもん」
こんなにもハラハラしているというのに、父が一人娘の恋心を知っている理由が単純過ぎて、朝香ははずっこけそうになった。
「えっ!? ちょっ……お母さんっ!」
裕美は巨体で豪快に笑う義郎を非常に愛している。いくら娘の恋愛話とはいえ、隠し事はしたくはなかったのだろう。
(けど、あんまりだよっ!!)
朝香は背後を向いて裕美に一言申しようと思ったんだが、既にそこは空席になっていて裕美の分のケーキ皿もコーヒーカップも片付けられている。
(もしや……先に食べ終えて夕食の準備に取り掛かっているのでは?)
あいにくキッチンはこのリビングから離れていて裕美の姿を確認出来ない。
「ズルい」と思いながら朝香が口を尖らせていると、義郎から「朝香も話を聞きなさい」と注意されてしまい、仕方なくまた正面を向く羽目になった。
「儂が今回わざわざ朝香と亮輔くんをここへ呼び寄せたのは、上原俊哉さんとの約束を叶える為なんじゃ。
『亮輔くんが20歳を迎え、精神的にも落ち着いてきた頃に、儂がしてきた全てを懺悔しよう』っての」
再び義郎の方を向くと、真面目に謝る父親の姿が目に飛び込んできて……
「懺悔……ですか?」
亮輔と同じく「懺悔」の言葉に疑問を持つ。
「上原さんは優しい人じゃけぇ『そがぁな懺悔なんかせんでもええ』って言うてくれちょったんじゃがぁの、儂も儂でケジメっちゅうもんをつけにゃあいけんと思ぉちょるけぇね」
「…………」
「儂は夕紀にとって憎き相手である事を知りながらも、娘の淡い恋心を応援してやりたいと思う不甲斐ない男です。
朝香が上京する時に、住まいを探せず八百屋の2階に仮住まいさせてもろぅちょる夕紀を差し置いて、亮輔くんと同じアパートを融通して朝香の住まいを確保してもろうとりました。本当に申し訳ありません」
義郎がわざわざ「話を聞きなさい」と注意した意味を、朝香はようやくそこで理解した。
(私が俊哉さんが管理するアパートに……しかもりょーくんの部屋の真上に住むようになったのは偶然でも何でもなくて、お父さんと俊哉さんが話し合いをしたからだったってこと……?)
「上原さんは朝香をあのアパートに住まわせる件にかなり乗り気での『家賃負担はさせません』とまで言うてくれちょったんじゃが、そこまでされちゃあ朝香の社会勉強にならんけぇまず一年は相場よりも少し安いくらいの値段で住んでもろうて、上原さんと朝香が直接顔を合わせるタイミングが来たら半額以下に下げるという話に落ち着いたんじゃ。上原さんは忙しい人じゃけぇ生活していく上で大きなトラブルが起きたり、亮輔くんとの距離がグッと近づいたりしない限りそんな事起きんと思うちょったけぇ。儂も『どうせあり得んじゃろ』と軽い気持ちでその提案受けたんじゃが、まさか本当に一年過ぎて家賃半分以下になるどころか同棲までに至るとは……いやはや上原さんの手腕を侮っちょったわい」
顔色を次々と変えていく亮輔の様子に朝香が声を掛けると、彼は指先を額にくっつけながら
「なんていうか……中学卒業してからの俺って精神的に不安定なのもあったけど色々やらかしてるから、それを全てお父さん……じゃなくて、村川さんに見られていたのかって思うと申し訳ない気持ちでいっぱいで」
めちゃくちゃ複雑な心境であるという内容を呟く。
「いやぁ、立派じゃったよ亮輔くんは。皐月さんの事をあの歳で乗り越えるってだけでもえらい事よ。
行きたかった学校にも通えず、親に邪険に扱われ、ただでさえ可哀想な感じじゃったんじゃし、金髪ピアスの見た目でいようが大人の女性に甘えようが儂ゃ何も思うとらん!」
「「!!!!」」
それに対して義郎はガハハ笑いをしながら亮輔の傷に塩を塗り込むような言葉を言って朝香達の肩をビクッと震わせたのだが、すぐに
「じゃけどのぅ、儂は亮輔くんがこうして生き続けてくれた事が嬉しい。それがとにかく嬉しかったんじゃ」
大きな顔に涙を浮かべた義郎の表情を目の当たりにした直後、別の意味でまた驚いた。
「村川さん……」
「儂は亮輔くんとは他人じゃ。接点はほぼ無いといってええ。じゃから儂が出来る事は東京滞在中に亮輔くんの様子を見に行く事だけ。まして夕紀の保護者的立場としちゃあ、亮輔くんに介入しちゃいけん事も分かっておる。
じゃが儂は朝香の父親でもあるんじゃ。娘が密かに想いを寄せる人物に情が湧いてしまうのも、親心だと思うてつかあさい」
それから義郎は椅子から立ち上がるとりょーくんの前に立ち、深々と頭を下げた。
「えっ……『密かに想いを寄せる』って」
「お父さん……私が包帯を巻いてる中学生のりょーくんに片想いしてたのを知ってたの?」
予想外の父親の態度に朝香達はパニックを起こす。
(夕紀さんの口からお母さんが私の片想いを知ってるって話を聞いた事があったけど、まさかお父さんまで把握していただなんて……!!)
朝香の片想いについて相談を裕美に持ち掛けた夕紀だってこの事は想定外だったのではないかと思われる。何故なら娘を持つ父親が一番危惧するのは恋愛話だと理解しているからだ。
(オシャレに疎くて珈琲に真っ直ぐな性格であっても、お父さんにとって私は大事な一人娘。お父さんの性格上、一人娘の想い人や彼氏の存在は疎ましいだろうし、寧ろそんな話題すら耳に入れなくないと思うに決まっている……それなのにお父さんなんでこんなにニコニコしてるんだろう)
「そりゃあ知っとるよ! ママから聞いたんじゃもん」
こんなにもハラハラしているというのに、父が一人娘の恋心を知っている理由が単純過ぎて、朝香ははずっこけそうになった。
「えっ!? ちょっ……お母さんっ!」
裕美は巨体で豪快に笑う義郎を非常に愛している。いくら娘の恋愛話とはいえ、隠し事はしたくはなかったのだろう。
(けど、あんまりだよっ!!)
朝香は背後を向いて裕美に一言申しようと思ったんだが、既にそこは空席になっていて裕美の分のケーキ皿もコーヒーカップも片付けられている。
(もしや……先に食べ終えて夕食の準備に取り掛かっているのでは?)
あいにくキッチンはこのリビングから離れていて裕美の姿を確認出来ない。
「ズルい」と思いながら朝香が口を尖らせていると、義郎から「朝香も話を聞きなさい」と注意されてしまい、仕方なくまた正面を向く羽目になった。
「儂が今回わざわざ朝香と亮輔くんをここへ呼び寄せたのは、上原俊哉さんとの約束を叶える為なんじゃ。
『亮輔くんが20歳を迎え、精神的にも落ち着いてきた頃に、儂がしてきた全てを懺悔しよう』っての」
再び義郎の方を向くと、真面目に謝る父親の姿が目に飛び込んできて……
「懺悔……ですか?」
亮輔と同じく「懺悔」の言葉に疑問を持つ。
「上原さんは優しい人じゃけぇ『そがぁな懺悔なんかせんでもええ』って言うてくれちょったんじゃがぁの、儂も儂でケジメっちゅうもんをつけにゃあいけんと思ぉちょるけぇね」
「…………」
「儂は夕紀にとって憎き相手である事を知りながらも、娘の淡い恋心を応援してやりたいと思う不甲斐ない男です。
朝香が上京する時に、住まいを探せず八百屋の2階に仮住まいさせてもろぅちょる夕紀を差し置いて、亮輔くんと同じアパートを融通して朝香の住まいを確保してもろうとりました。本当に申し訳ありません」
義郎がわざわざ「話を聞きなさい」と注意した意味を、朝香はようやくそこで理解した。
(私が俊哉さんが管理するアパートに……しかもりょーくんの部屋の真上に住むようになったのは偶然でも何でもなくて、お父さんと俊哉さんが話し合いをしたからだったってこと……?)
「上原さんは朝香をあのアパートに住まわせる件にかなり乗り気での『家賃負担はさせません』とまで言うてくれちょったんじゃが、そこまでされちゃあ朝香の社会勉強にならんけぇまず一年は相場よりも少し安いくらいの値段で住んでもろうて、上原さんと朝香が直接顔を合わせるタイミングが来たら半額以下に下げるという話に落ち着いたんじゃ。上原さんは忙しい人じゃけぇ生活していく上で大きなトラブルが起きたり、亮輔くんとの距離がグッと近づいたりしない限りそんな事起きんと思うちょったけぇ。儂も『どうせあり得んじゃろ』と軽い気持ちでその提案受けたんじゃが、まさか本当に一年過ぎて家賃半分以下になるどころか同棲までに至るとは……いやはや上原さんの手腕を侮っちょったわい」
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