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番外編
temptation2
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「このお酒にはタコや鰯のお刺身が合うらしくて、源さんや天野さんに相談しに行ったんだ。急ぎだったし鰯は無くてタコがメインになっちゃったんだけど。でも瀬戸内海のタコだって源さんがめちゃくちゃオススメしてくれたんだよ!」
亮輔は朝香に説明ながら綺麗に盛り付けられた刺身皿を私の目の前に差し出す。
「わぁ! タコの薄造りがいっぱい!!マグロやイカもある!!」
大きな刺身皿も源から借りてきたのだろうか、立派な磁気皿にタコだけでなくマグロやイカなど酒の肴に合いそうな刺身も添えられている。
「今日は早めに俺が1日家にいて本当に良かったよ。6時過ぎにお酒が届いて中を確認したら走って源さんのところへ行って刺身の相談をしてこれを買ってきたんだから」
「ええ? わざわざ走って源さんのところへ買いに行ってきたの? 私が作ったおかずが既にあったのに?」
朝香が夕飯のおかず作りをしに珈琲豆の配達後この部屋に戻り、作り終えて再び『雨上がり珈琲店』へ向かったのが午後6時前であった。
(私が作ってる様子も冷蔵庫に入れたのもりょーくん見てたのに、それなのになんでわざわざ魚屋まで走って出掛けたの?)
「だって手紙にそう書いてあったんだから買うに決まってんじゃん」
朝香の疑問に亮輔はアッサリとそう回答し、お酒と一緒に同梱されてたらしい封筒を差し出してきた。
「手紙って……まさかお父さん直筆?!
うちのお父さんの字、読みにくかったでしょ?!!」
義郎は筆まめな方で手書きで手紙や年賀状を書くのが好きだ。学生時代から使っているという万年筆があり、メンテナンスしながら愛用しているを朝香は幼い頃から知っている……けれど、所謂達筆の癖が強く娘にとっては読みにくくてしょうがない。大人相手ならまだ良いのかもしれないが20歳そこそこの亮輔にとっては読むのが苦痛な手紙だったんじゃないかと朝香は予想した。
「物凄く綺麗な字だったよ。惚れ惚れしちゃったくらい」
亮輔は「なんでそんなことを言うのか分からない」と言いたげな表情で朝香を見つめ
「とにかくあーちゃんも読んでみたら? 俺に宛ててくれた手紙だけど」
「えー……お父さんが書いたんだよねぇ……」
気が乗らない朝香に「読んで読んで」と急かしてくるので、仕方なく封筒から手紙を取り出して開いてみた。
「何これ! めちゃくちゃ読みやすい字!!!」
例の万年筆で書かれてはいるけれど、ピシッとした楷書で書かれていて朝香は目をこれでもかと見開かせる。
(嘘でしょ? お父さんのこんな字見たことないんだけど!!)
いつもとのギャップが激しすぎて裕美が書いたのではないかと疑ってしまうくらい読みやすい字体だ。
(でもお母さんは万年筆を絶対に使わないしこんな字を書かないからやっぱりここに書かれているお手本のような楷書体はお父さんの字で間違いないって事だよね……)
———先週は遠いところからわざわざ足を運んで下さって有難うございます。
亮輔くんが我が娘を好いてくれ、まして一緒に生活しているとの報せに心が高揚してしまい、あろう事か早々に酒を煽って酩酊状態で接してしまったことをお許し下さい。
また、我が家に来て下さった亮輔くんの立ち振る舞いが以前と違って爽やかな青年に成長していたので大変驚きました。以前のような孤独感や目の鋭さも無く私の話を真剣に聞いてくれる亮輔くんの姿がとても嬉しく、ついつい自分だけ酒が進んでしまいました。
本当は亮輔くんと酒を飲み交わしたかったのにそれが出来ず大変申し訳ありません。お詫びの代わりに私の好きなお酒と冷酒器を用意させていただきました。
この酒は常温でも美味ですが、今は暑くなってきたので徳利に少量の氷を入れて少し冷やしても良いと思います。
刺身によく合う酒だと思いますので、是非娘と一緒に楽しんで下されば幸いです。
娘は素直でまっすぐではありますが亮輔くんに迷惑をかけてしまうこともあるかと思います。至らないところの多い娘ですがどうか仲良くしてやってください———
「…………」
丁寧な時候の挨拶や結びの言葉を除くと、そのように書かれていたので朝香はとても驚いていた。
(すっごく……良い意味でお父さんらしくない文章だぁ……)
綺麗な字体もさることながら若い人でも読みやすい言葉で書かれている。
(もし本当にお父さんが書いた手紙だとしたら、何回も書き直ししたんじゃないかなぁ……)
父の苦労が読み取れる手紙文であった。
「お父さんからこんな良い手紙貰えるなんて思ってもみなかったよ。すっごくすっごく嬉しい!」
手紙を封筒に戻して亮輔に返すと、彼はとても嬉しそうに微笑んでいる。
「多分、りょーくんに読んでもらおうと、相当噛み砕いた文章にしたんだと思うよ。結構書き直ししたんじゃないかなぁ」
朝香が予想したそのままの内容を彼に伝えると
「そっか……そうなんだ……嬉しいなぁ」
喜びの実感がこもった優しい声を出し、封筒を抱き締めながらゆっくりと目を閉じている。
亮輔は朝香に説明ながら綺麗に盛り付けられた刺身皿を私の目の前に差し出す。
「わぁ! タコの薄造りがいっぱい!!マグロやイカもある!!」
大きな刺身皿も源から借りてきたのだろうか、立派な磁気皿にタコだけでなくマグロやイカなど酒の肴に合いそうな刺身も添えられている。
「今日は早めに俺が1日家にいて本当に良かったよ。6時過ぎにお酒が届いて中を確認したら走って源さんのところへ行って刺身の相談をしてこれを買ってきたんだから」
「ええ? わざわざ走って源さんのところへ買いに行ってきたの? 私が作ったおかずが既にあったのに?」
朝香が夕飯のおかず作りをしに珈琲豆の配達後この部屋に戻り、作り終えて再び『雨上がり珈琲店』へ向かったのが午後6時前であった。
(私が作ってる様子も冷蔵庫に入れたのもりょーくん見てたのに、それなのになんでわざわざ魚屋まで走って出掛けたの?)
「だって手紙にそう書いてあったんだから買うに決まってんじゃん」
朝香の疑問に亮輔はアッサリとそう回答し、お酒と一緒に同梱されてたらしい封筒を差し出してきた。
「手紙って……まさかお父さん直筆?!
うちのお父さんの字、読みにくかったでしょ?!!」
義郎は筆まめな方で手書きで手紙や年賀状を書くのが好きだ。学生時代から使っているという万年筆があり、メンテナンスしながら愛用しているを朝香は幼い頃から知っている……けれど、所謂達筆の癖が強く娘にとっては読みにくくてしょうがない。大人相手ならまだ良いのかもしれないが20歳そこそこの亮輔にとっては読むのが苦痛な手紙だったんじゃないかと朝香は予想した。
「物凄く綺麗な字だったよ。惚れ惚れしちゃったくらい」
亮輔は「なんでそんなことを言うのか分からない」と言いたげな表情で朝香を見つめ
「とにかくあーちゃんも読んでみたら? 俺に宛ててくれた手紙だけど」
「えー……お父さんが書いたんだよねぇ……」
気が乗らない朝香に「読んで読んで」と急かしてくるので、仕方なく封筒から手紙を取り出して開いてみた。
「何これ! めちゃくちゃ読みやすい字!!!」
例の万年筆で書かれてはいるけれど、ピシッとした楷書で書かれていて朝香は目をこれでもかと見開かせる。
(嘘でしょ? お父さんのこんな字見たことないんだけど!!)
いつもとのギャップが激しすぎて裕美が書いたのではないかと疑ってしまうくらい読みやすい字体だ。
(でもお母さんは万年筆を絶対に使わないしこんな字を書かないからやっぱりここに書かれているお手本のような楷書体はお父さんの字で間違いないって事だよね……)
———先週は遠いところからわざわざ足を運んで下さって有難うございます。
亮輔くんが我が娘を好いてくれ、まして一緒に生活しているとの報せに心が高揚してしまい、あろう事か早々に酒を煽って酩酊状態で接してしまったことをお許し下さい。
また、我が家に来て下さった亮輔くんの立ち振る舞いが以前と違って爽やかな青年に成長していたので大変驚きました。以前のような孤独感や目の鋭さも無く私の話を真剣に聞いてくれる亮輔くんの姿がとても嬉しく、ついつい自分だけ酒が進んでしまいました。
本当は亮輔くんと酒を飲み交わしたかったのにそれが出来ず大変申し訳ありません。お詫びの代わりに私の好きなお酒と冷酒器を用意させていただきました。
この酒は常温でも美味ですが、今は暑くなってきたので徳利に少量の氷を入れて少し冷やしても良いと思います。
刺身によく合う酒だと思いますので、是非娘と一緒に楽しんで下されば幸いです。
娘は素直でまっすぐではありますが亮輔くんに迷惑をかけてしまうこともあるかと思います。至らないところの多い娘ですがどうか仲良くしてやってください———
「…………」
丁寧な時候の挨拶や結びの言葉を除くと、そのように書かれていたので朝香はとても驚いていた。
(すっごく……良い意味でお父さんらしくない文章だぁ……)
綺麗な字体もさることながら若い人でも読みやすい言葉で書かれている。
(もし本当にお父さんが書いた手紙だとしたら、何回も書き直ししたんじゃないかなぁ……)
父の苦労が読み取れる手紙文であった。
「お父さんからこんな良い手紙貰えるなんて思ってもみなかったよ。すっごくすっごく嬉しい!」
手紙を封筒に戻して亮輔に返すと、彼はとても嬉しそうに微笑んでいる。
「多分、りょーくんに読んでもらおうと、相当噛み砕いた文章にしたんだと思うよ。結構書き直ししたんじゃないかなぁ」
朝香が予想したそのままの内容を彼に伝えると
「そっか……そうなんだ……嬉しいなぁ」
喜びの実感がこもった優しい声を出し、封筒を抱き締めながらゆっくりと目を閉じている。
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