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本編
珈琲オタクの意地5
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「えっ」
向日葵さんが自分を珈琲屋さんであると認識している事にまず驚き
「あのえっと……俺が色々とご迷惑をお掛けしまして……その、お詫びをしたくて」
背が高い男性がペコッと頭を下げている様子もまた不思議に感じてしまった朝香は
「あああぁ! いえっ! いえいえいえいえっ!! そんなそんな向日葵さんが頭を下げるようかコトは何も何もっ!!!!」
ここが図書館入り口だというのを忘れ、大きな声をだし両手も首もブンブンと左右に振る。
「えっ? ヒマワリサン?」
その上無意識に口から出してしまった「向日葵さん」という、自ら勝手につけた渾名も建物に響き渡ってしまったので
「ん? なんだなんだ?」
「さっきヒマワリがどうのとか聞こえなかった?」
「あれ、またヤジュウじゃん」
「ちっこい女の子誰?」
……と、ザワザワし始めた。
(まずい!! この前の時よりも人が集まってきてる!!)
3週間前、コピールーム通路で向日葵さんと女性が言い争いをしていた時よりも悪状況になっていると気付いた朝香は全身をカァッと熱くして
「あわわわわわすみませんすみません!」
周囲の学生らに頭をペコペコと下げようとしたら、向日葵さんはサッと小柄な朝香を隠すように前に出て
「再びご迷惑をおかけしました」
一言だけそう告げると、朝香の方を振り向き大きな身体を屈め
「もう一度謝らせて下さい」
そう囁き、一緒に図書館を出る。
「えっ……」
外に出るなり向日葵さんは朝香の手を優しく握ると
「カフェテリア、あなたのお店のコーヒーなんですよね。俺……申し訳ないって、ずっと反省してて」
そのままカフェテリアの方へと朝香を連れて行く。
(えっ? 何? なになに?? どういう事?!!)
当の朝香はパニックに陥っていて正常な判断が出来ず、連れられるまま人気の少ないカフェテリアへ舞い戻る形となってしまった。
カフェテリアのテーブル席に着くと、ちょうど岩瀬が拭き掃除をしているところだった。
「あれ? 朝香ちゃん。またどうしたの?」
岩瀬はまず、ほんの10分ほど前に顔を合わせたばかりの朝香に向かってのんびりとした声を掛けたのだが……それから
「うぉっ!」
直後に大きな金髪学生の存在に気付いて野太い声をあげる。
「あ、あの」
落ち着いた大人の岩瀬が驚くくらい自分達の並びが異様に感じたのだろう……それを察した朝香は顔を斜め上にあげて向日葵さんに呼びかけようとしたら
「ここ、座ってもいいですか?」
向日葵さんは岩瀬へ自らの顔を真っ直ぐに向け、着席の許可をとった。
「ああ……人ほとんど居ないけどまだ営業中だから。大丈夫、だけど……」
岩瀬は不思議そうな表情で頷き
「ありがとうございます」
金髪な上に耳には銀色のピアスがいくつもチラ見えしている、一見ガラの悪そうなの学生は丁寧な挨拶をして
「ここ、座ってもらえますか?」
朝香が立っているすぐ近くの椅子をひいて座らせようとしてくる。
「え……あ、はい」
朝香は素直に着席したものの何が何だか分からず混乱しているし、チラリと岩瀬の方を見るも……
「って、事はっ、注文かなっ!」
彼もまた混乱しているようでいつもとは違うギクシャクしたような声をあげて厨房へ戻っていく。
「奢らせて下さい」
ただ唯一落ち着いているのは向日葵さんだけで
「あ……はい」
この異様な雰囲気に呑まれたまま、朝香は頷くしかなかった。
「わぁ……プリンアラモードだ」
しばらくして向日葵さんがトレイを持ってテーブル席へ戻ってきた時、朝香が真っ先に目に入ったのがこのカフェテリア自慢のプリンアラモード。
(ずっと食べてみたかったヤツ!!)
ここには夕方焙煎豆の配達でしか訪れない為に、そもそも席に座って客としてメニューを注文した事がない。
(人気メニューの一つだし、夕方だからもう品切れなんだとばっかり)
いつもそうだと決めつけ、このプリンアラモードも食べてみたいと欲したとしてもそれは実現不可能なんだと思い込んでいたのだ。
「こんな夕方に注文って出来たんですね……」
朝香がまじまじとデザートプレートを見つめていると
「今日はたまたまプリンが残っていたらしいです。厨房の方に『デザート残ってませんか?』って訊いたら『使ってるフルーツは有り合わせになるけどプリンアラモードなら』って返答だったから、勝手に注文させていただきました」
向日葵さんは優しい口調でそう答えてくれた。
「あ、ありがとうございます」
(さっき『奢らせて』って言ってたとはいえ、私の為にデザート注文を? すごく嬉しい……ちゃんとうちのコーヒーも2杯注文してくれてるし)
朝香は向日葵さんの義理堅さや誠実な態度に感心し
(コーヒーは……飲めるんだね。やっぱり)
「中身はさっき自分が持ってきた『はなぶさブレンド』だろうか?」と予想しながら、向日葵さんが自分の前にコーヒーカップが置かれる様子に目を向ける。
(「はなぶさブレンド」がここに置かれるようになって1週間くらいかな? 向日葵さんはもう飲んだのかな? もしかして今日のコレが初めてだったり?)
向日葵さんの優しさを素直に噛み締めたいと思っても、やはり岩瀬から又聞きした「『このコーヒーは飲みたいと思わない』と言っていたらしい」という向日葵さんの情報が脳裏を過ぎって表情が硬くなってしまう。
向日葵さんが自分を珈琲屋さんであると認識している事にまず驚き
「あのえっと……俺が色々とご迷惑をお掛けしまして……その、お詫びをしたくて」
背が高い男性がペコッと頭を下げている様子もまた不思議に感じてしまった朝香は
「あああぁ! いえっ! いえいえいえいえっ!! そんなそんな向日葵さんが頭を下げるようかコトは何も何もっ!!!!」
ここが図書館入り口だというのを忘れ、大きな声をだし両手も首もブンブンと左右に振る。
「えっ? ヒマワリサン?」
その上無意識に口から出してしまった「向日葵さん」という、自ら勝手につけた渾名も建物に響き渡ってしまったので
「ん? なんだなんだ?」
「さっきヒマワリがどうのとか聞こえなかった?」
「あれ、またヤジュウじゃん」
「ちっこい女の子誰?」
……と、ザワザワし始めた。
(まずい!! この前の時よりも人が集まってきてる!!)
3週間前、コピールーム通路で向日葵さんと女性が言い争いをしていた時よりも悪状況になっていると気付いた朝香は全身をカァッと熱くして
「あわわわわわすみませんすみません!」
周囲の学生らに頭をペコペコと下げようとしたら、向日葵さんはサッと小柄な朝香を隠すように前に出て
「再びご迷惑をおかけしました」
一言だけそう告げると、朝香の方を振り向き大きな身体を屈め
「もう一度謝らせて下さい」
そう囁き、一緒に図書館を出る。
「えっ……」
外に出るなり向日葵さんは朝香の手を優しく握ると
「カフェテリア、あなたのお店のコーヒーなんですよね。俺……申し訳ないって、ずっと反省してて」
そのままカフェテリアの方へと朝香を連れて行く。
(えっ? 何? なになに?? どういう事?!!)
当の朝香はパニックに陥っていて正常な判断が出来ず、連れられるまま人気の少ないカフェテリアへ舞い戻る形となってしまった。
カフェテリアのテーブル席に着くと、ちょうど岩瀬が拭き掃除をしているところだった。
「あれ? 朝香ちゃん。またどうしたの?」
岩瀬はまず、ほんの10分ほど前に顔を合わせたばかりの朝香に向かってのんびりとした声を掛けたのだが……それから
「うぉっ!」
直後に大きな金髪学生の存在に気付いて野太い声をあげる。
「あ、あの」
落ち着いた大人の岩瀬が驚くくらい自分達の並びが異様に感じたのだろう……それを察した朝香は顔を斜め上にあげて向日葵さんに呼びかけようとしたら
「ここ、座ってもいいですか?」
向日葵さんは岩瀬へ自らの顔を真っ直ぐに向け、着席の許可をとった。
「ああ……人ほとんど居ないけどまだ営業中だから。大丈夫、だけど……」
岩瀬は不思議そうな表情で頷き
「ありがとうございます」
金髪な上に耳には銀色のピアスがいくつもチラ見えしている、一見ガラの悪そうなの学生は丁寧な挨拶をして
「ここ、座ってもらえますか?」
朝香が立っているすぐ近くの椅子をひいて座らせようとしてくる。
「え……あ、はい」
朝香は素直に着席したものの何が何だか分からず混乱しているし、チラリと岩瀬の方を見るも……
「って、事はっ、注文かなっ!」
彼もまた混乱しているようでいつもとは違うギクシャクしたような声をあげて厨房へ戻っていく。
「奢らせて下さい」
ただ唯一落ち着いているのは向日葵さんだけで
「あ……はい」
この異様な雰囲気に呑まれたまま、朝香は頷くしかなかった。
「わぁ……プリンアラモードだ」
しばらくして向日葵さんがトレイを持ってテーブル席へ戻ってきた時、朝香が真っ先に目に入ったのがこのカフェテリア自慢のプリンアラモード。
(ずっと食べてみたかったヤツ!!)
ここには夕方焙煎豆の配達でしか訪れない為に、そもそも席に座って客としてメニューを注文した事がない。
(人気メニューの一つだし、夕方だからもう品切れなんだとばっかり)
いつもそうだと決めつけ、このプリンアラモードも食べてみたいと欲したとしてもそれは実現不可能なんだと思い込んでいたのだ。
「こんな夕方に注文って出来たんですね……」
朝香がまじまじとデザートプレートを見つめていると
「今日はたまたまプリンが残っていたらしいです。厨房の方に『デザート残ってませんか?』って訊いたら『使ってるフルーツは有り合わせになるけどプリンアラモードなら』って返答だったから、勝手に注文させていただきました」
向日葵さんは優しい口調でそう答えてくれた。
「あ、ありがとうございます」
(さっき『奢らせて』って言ってたとはいえ、私の為にデザート注文を? すごく嬉しい……ちゃんとうちのコーヒーも2杯注文してくれてるし)
朝香は向日葵さんの義理堅さや誠実な態度に感心し
(コーヒーは……飲めるんだね。やっぱり)
「中身はさっき自分が持ってきた『はなぶさブレンド』だろうか?」と予想しながら、向日葵さんが自分の前にコーヒーカップが置かれる様子に目を向ける。
(「はなぶさブレンド」がここに置かれるようになって1週間くらいかな? 向日葵さんはもう飲んだのかな? もしかして今日のコレが初めてだったり?)
向日葵さんの優しさを素直に噛み締めたいと思っても、やはり岩瀬から又聞きした「『このコーヒーは飲みたいと思わない』と言っていたらしい」という向日葵さんの情報が脳裏を過ぎって表情が硬くなってしまう。
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