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【番外編】スープ

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「どうかな? あーちゃんのお口に合ってるかな?」

 不安そうに彼が私の顔を覗き込むから

「美味しいよ、ありがとう♡」

 私は御礼を言い、彼の頬に軽いキスをする。

「あっ……」

 私のキスは想定外だったみたいで私の唇が触れた部分は途端にピンク色が広がり、彼の頬どころか耳や首までもその色で染まっていった。

「キス、嬉しい?」
「もちろんっ!!」

 私の問いに即答し、ピンク色の首や耳をコクコクと前後に動かす彼の様子は可愛らしくて私は体だけではなく心までをもポカポカほわほわとさせていた。



 食べ終わった後は彼が膝枕をしてくれて、そのまま私を寝かしつけようとしてくれる。

「スープ作ってくれて本当にありがとう。すっごく助かっちゃった」

 私は目を閉じた状態で改めて御礼を言うとりょーくんはすぐに「感謝されるほどでもないよ」と謙遜する。


「そんな事ないよ……りょーくんが今日用意してくれたトマトスープ飲んでたら『スープって凄いな』って改めて感じちゃったんだもん」
「あーちゃんだって毎日お味噌汁やスープを食事の度に用意してくれるのに?」
「自分が作るってだけじゃ気付かなかったんだよ……」

 謙遜りょーくんに言い返すつもりで言った「スープって凄いな」は、大袈裟な表現のつもりで口にした訳ではなかった。

 スープってなんか不思議で、自分で食事を用意する時は「なんとなく汁物はあった方がいい」って感覚で、なんとなくお味噌汁やお吸い物などを作っていた。
 暑い日に温かいものを飲むのは冷房の効いた店の中でずっとバイトしている私的にはアリだけど、りょーくんみたいに暑がりな人だと飲みたがらなかったりしていたし……絶対必要な位置付けって訳でもないんだろうなと感じていた。
 だけど今日りょーくんが作ってくれたスープは簡単ではあれど、一口だけで空腹の体にスーッと染み渡っていき食材の美味しさや香りがじわじわと広がって何もかも癒してくれる感じがして、今まで私の抱いていた汁物に関する考え方がその瞬間で一気にガラッと変わってしまったんだ。


「俺もいつも思ってたんだけどさ、あーちゃんって夏の暑い時でも生理で体がしんどい時でも必ず決まった日に珈琲豆を焙煎するでしょ。あれって本当は大変なんじゃないの?」

 するとりょーくんが優しい口調で私にそんな質問を投げかけてきた。

「んー、焙煎は趣味と勉強を兼ねているからなぁ……大変と思ったことはないなぁ」

 1人暮らしを始めて以来2日に1回、定期的に行う私の珈琲豆焙煎は既に生活の一部になってきている。

(アパートでのキッチン焙煎は「早くお店で出している豆の特徴を覚えたい」という強い気持ちがあったこそ始めた訳なんだし、そもそも「大変」とか「苦労」とか感じた事そのものがないんだよねぇ……)

「あーちゃんにとって焙煎は仕事のうちなんだね。使命感があってかっこいいなぁ」

 私の返答にしみじみとした雰囲気でりょーくんは納得してる様子だったんだけど

「勿論今はりょーくんに喜んでもらいたくてやってる部分があるよっ!りょーくんに私の珈琲を飲んでもらいたいって気持ちとか、私の『好き』を知ってもらいたいって気持ちとか……仕事の理由の他にも色々あるからっ!」

 私は彼に今の私の想いを知ってほしくて、それまで閉じていた両目をパチッと開くなり彼の顔を一心に見つめる。

「フフッ」

 私の両目パチッにりょーくんは一瞬驚きの表情を見せたものの、すぐに笑って

「俺も、さっきは『あーちゃんに喜んでもらいたい』って思いながらスープを準備してみたんだよ。
 俺はあーちゃんみたいに料理が上手じゃないけど、俺の出来る事であーちゃんに何かしてあげたいなって思いがあったから」

 私の頭をよしよししながら、やわらかな微笑みや優しい言葉をシャワーのように注いでくれる。

「おこがましい気もするんだけど、今日の俺のスープはあーちゃんのコーヒーと同じ想いで頑張ってみたつもり。
 俺はあーちゃんのコーヒーにいつも癒されていて元気ももらえるから」

 シャワーのように降り注ぐりょーくんの沢山の愛情に私は身も心もとろけてしまって……

「ありがと……りょーくん……」

 幸せな気持ちで胸いっぱい頭の中もお花畑みたいになっていき、私は大した言葉も言い返せないまま眠りについてしまったのだった。


 


「おやすみ、あーちゃん♡ 大好きだよ♡♡」


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