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似ているのはもう、ホクロの位置だけ
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「変わんないところがいっぱいあるだなんて嘘だよそんなの。太ちゃんは凄く大人っぽくなったもの。
今着てるファッションも凄くお洒落だし、そもそも太ちゃんがチョコミントみたいな色の服を着るなんて昔は想像もつかなかったもん」
「チョコミント?」
花ちゃんの「チョコミント」という不思議なワードチョイスに僕は首を傾げる。
「そう、アウターの中に着てるボーダー柄のそれ」
「あぁ……確かにチョコミントっぽいかな?」
花ちゃんの指摘通り、僕はダークブラウンとミントグリーンのボーダーロングTシャツをダウンコートの中に着ている。
これは単に、仕事でほぼ白い服しか着ないから普段の時は色付きの服を選ぶようにしているだけで「特にこの配色が好き」という意味ではなかった。
「うん、めちゃくちゃチョコミントっぽい。そういう色のアイス食べたくなっちゃうレベル」
「食べたくなるって……」
花ちゃんが発言した「食べたくなっちゃう」に心がときめき……
「ここには無いみたいだから、ホテルチェックインしたらコンビニで買おうっと」
「……」
自己完結させた姉の結論に体内の空気がフシュウッと抜けた。
「ここでの注文は紅茶とアップルパイにしようかなぁ」
弟の気も知らない姉は無邪気にメニュー表を手渡してきたから、作り笑いを一つ作って店員を呼びオーダーした。
注文した飲み物やスイーツが僕達の席に運ばれ、カチャッと食器がぶつかる小さな音が僕の耳に伝わる。
昨日のメッセージで「会おうよ」と僕から誘ったけれど、明日以降の予定は花ちゃんと話していない。
でもさっき「ホテルにチェックインしたら」と言っていたから、きっと今日限りの再会という気ではないんだろう。
「昔はさぁ、『顔がそっくりなきょうだい』って言われてたよね……」
それまでアップルパイと紅茶とを交互に口に運んでいた花ちゃんが、突然そんな事を話し始めた。
「その昔って、15年以上前の話?」
花ちゃんと僕は年齢が5つも離れている。
幼少期の僕は今よりずっと肌の色が明るいトーンだったようで女の子と間違えられていたというエピソードを母さんや花ちゃんから聞いた事があった。
花ちゃんは女の子で僕はれっきとした男なのだから、「顔がそっくり」の頃もやはりその時期の話なんかじゃないかと僕は思った。
「うん、太ちゃんが幼稚園入る前くらいの話」
「それじゃあ僕は完全に記憶無いよ。僕が女の子に間違えられていたエピソードの他にそんなのもあったんだ?」
「あったんだよ……太ちゃんは声も高くて可愛いくて私と女の子の遊びばかりしてたなぁ」
「そういえば……確かにそんな感じだったかも」
いつだったか花ちゃんと昔のアルバムを引っ張り出して一緒に見た記憶を思い出しながら、僕はブラックコーヒーを一口飲んだ。
「その太ちゃんがサッカー少年になって、高校行ってすぐに目指す大学見つけて、こっちで一人暮らしして……。
大学とアルバイトを両立させて自立した生活してるなんて、やっぱり凄いと思うもん」
そう言って僕の顔を優しい目つきで見る花ちゃんに、自分の心がキュッと締め付けられた。
「自立してないよ。学費は払ってもらってるし、車も中古の軽自動車だけど買ってもらったし」
「でも自動車学校や免許の費用は高校時代にバイトして貯めたお金で賄ったんでしょ? それに『一人暮らしの費用は仕送りしてない』って、お母さん言ってたよ」
「まぁね……」
確かに、一人暮らしの費用は親に頼っていない。だけど樹くんに頼り切っているのだから自慢出来る話でも何でもない。
「太ちゃんは充分自立してるよ。何も出来ない、職歴の一つも無い私とは大違い」
「……」
僕の良い面ばかりを花ちゃんは褒める。
だけどその「良い面」の下にはドロドロとした部分がある事を僕は大好きな花ちゃんに明かせない。
「太ちゃんはカッコイイなぁ……私と似ているのはもう、ホクロの位置だけかもしれないね」
「カッコイイなぁ」をとびきり笑顔で口にした花ちゃんは、直後しんみりとした表情で空になったティーカップに向かって溜め息をついたので、僕は喉をゴクリと鳴らした。
「花ちゃん……」
喉の渇きを癒すコーヒーはもう僕のカップにも残されておらず、口の中に溜まった唾液で自らを潤す。
「何?」
両手で空のティーカップを抱え、視線もその方に移したままの花ちゃんに
「今日泊まるホテルって、もう予約済みなの?」
僕はやや緊張しながらその質問を投げかけた。
「え?」
「だってさっき花ちゃんが『ホテルにチェックインしたらどうの』って言ってたし」
「あぁ……それはまだだよ。出来れば太ちゃんの住んでる場所に近い方がいいかなぁって思ったから、太ちゃんと夜ご飯食べた後でスマホで調べようかなぁなんてのんびり考えてるんだけど」
それを聞いて、僕はもう一度唾液を嚥下する。
「じゃあさ……花ちゃんは、いつ帰る予定?しばらくこっちに居てくれるの?」
「それも、まだ……」
「じゃあ、しばらくこっちで羽根を休める? ……まぁ休息は必要だと僕も思うよ、帰ったらどうせ父さん母さんから見合い勧められて別の男との結婚させられるかもしれないんだし」
僕の視線に気付いた花ちゃんが、顔をあげるなり表情を強張らせた。
今着てるファッションも凄くお洒落だし、そもそも太ちゃんがチョコミントみたいな色の服を着るなんて昔は想像もつかなかったもん」
「チョコミント?」
花ちゃんの「チョコミント」という不思議なワードチョイスに僕は首を傾げる。
「そう、アウターの中に着てるボーダー柄のそれ」
「あぁ……確かにチョコミントっぽいかな?」
花ちゃんの指摘通り、僕はダークブラウンとミントグリーンのボーダーロングTシャツをダウンコートの中に着ている。
これは単に、仕事でほぼ白い服しか着ないから普段の時は色付きの服を選ぶようにしているだけで「特にこの配色が好き」という意味ではなかった。
「うん、めちゃくちゃチョコミントっぽい。そういう色のアイス食べたくなっちゃうレベル」
「食べたくなるって……」
花ちゃんが発言した「食べたくなっちゃう」に心がときめき……
「ここには無いみたいだから、ホテルチェックインしたらコンビニで買おうっと」
「……」
自己完結させた姉の結論に体内の空気がフシュウッと抜けた。
「ここでの注文は紅茶とアップルパイにしようかなぁ」
弟の気も知らない姉は無邪気にメニュー表を手渡してきたから、作り笑いを一つ作って店員を呼びオーダーした。
注文した飲み物やスイーツが僕達の席に運ばれ、カチャッと食器がぶつかる小さな音が僕の耳に伝わる。
昨日のメッセージで「会おうよ」と僕から誘ったけれど、明日以降の予定は花ちゃんと話していない。
でもさっき「ホテルにチェックインしたら」と言っていたから、きっと今日限りの再会という気ではないんだろう。
「昔はさぁ、『顔がそっくりなきょうだい』って言われてたよね……」
それまでアップルパイと紅茶とを交互に口に運んでいた花ちゃんが、突然そんな事を話し始めた。
「その昔って、15年以上前の話?」
花ちゃんと僕は年齢が5つも離れている。
幼少期の僕は今よりずっと肌の色が明るいトーンだったようで女の子と間違えられていたというエピソードを母さんや花ちゃんから聞いた事があった。
花ちゃんは女の子で僕はれっきとした男なのだから、「顔がそっくり」の頃もやはりその時期の話なんかじゃないかと僕は思った。
「うん、太ちゃんが幼稚園入る前くらいの話」
「それじゃあ僕は完全に記憶無いよ。僕が女の子に間違えられていたエピソードの他にそんなのもあったんだ?」
「あったんだよ……太ちゃんは声も高くて可愛いくて私と女の子の遊びばかりしてたなぁ」
「そういえば……確かにそんな感じだったかも」
いつだったか花ちゃんと昔のアルバムを引っ張り出して一緒に見た記憶を思い出しながら、僕はブラックコーヒーを一口飲んだ。
「その太ちゃんがサッカー少年になって、高校行ってすぐに目指す大学見つけて、こっちで一人暮らしして……。
大学とアルバイトを両立させて自立した生活してるなんて、やっぱり凄いと思うもん」
そう言って僕の顔を優しい目つきで見る花ちゃんに、自分の心がキュッと締め付けられた。
「自立してないよ。学費は払ってもらってるし、車も中古の軽自動車だけど買ってもらったし」
「でも自動車学校や免許の費用は高校時代にバイトして貯めたお金で賄ったんでしょ? それに『一人暮らしの費用は仕送りしてない』って、お母さん言ってたよ」
「まぁね……」
確かに、一人暮らしの費用は親に頼っていない。だけど樹くんに頼り切っているのだから自慢出来る話でも何でもない。
「太ちゃんは充分自立してるよ。何も出来ない、職歴の一つも無い私とは大違い」
「……」
僕の良い面ばかりを花ちゃんは褒める。
だけどその「良い面」の下にはドロドロとした部分がある事を僕は大好きな花ちゃんに明かせない。
「太ちゃんはカッコイイなぁ……私と似ているのはもう、ホクロの位置だけかもしれないね」
「カッコイイなぁ」をとびきり笑顔で口にした花ちゃんは、直後しんみりとした表情で空になったティーカップに向かって溜め息をついたので、僕は喉をゴクリと鳴らした。
「花ちゃん……」
喉の渇きを癒すコーヒーはもう僕のカップにも残されておらず、口の中に溜まった唾液で自らを潤す。
「何?」
両手で空のティーカップを抱え、視線もその方に移したままの花ちゃんに
「今日泊まるホテルって、もう予約済みなの?」
僕はやや緊張しながらその質問を投げかけた。
「え?」
「だってさっき花ちゃんが『ホテルにチェックインしたらどうの』って言ってたし」
「あぁ……それはまだだよ。出来れば太ちゃんの住んでる場所に近い方がいいかなぁって思ったから、太ちゃんと夜ご飯食べた後でスマホで調べようかなぁなんてのんびり考えてるんだけど」
それを聞いて、僕はもう一度唾液を嚥下する。
「じゃあさ……花ちゃんは、いつ帰る予定?しばらくこっちに居てくれるの?」
「それも、まだ……」
「じゃあ、しばらくこっちで羽根を休める? ……まぁ休息は必要だと僕も思うよ、帰ったらどうせ父さん母さんから見合い勧められて別の男との結婚させられるかもしれないんだし」
僕の視線に気付いた花ちゃんが、顔をあげるなり表情を強張らせた。
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