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手中の花を生かすも殺すも、人間(ひと)次第
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「泣かないでよ太ちゃん……」
僕の涙に気付いた花ちゃんが、やわらかく温かな眼差しを向けてくる。
「泣くよ、そんな話聞いたら……」
花ちゃんの眼差しはやわらかくて温かいと感じると同時に悲痛さもその裏で感じる。
「太ちゃんは優しいね、よしよし」
僕の泣き顔を覆い隠すように、花ちゃんが僕に被さってきた。
「っ」
ハグをされているんだ。と、数秒経って気付いた。
「私はダメで、どうしようもない、価値のない人間で、太ちゃんの言う通り職歴もバイト歴も無い。ついこの前まで地元から外へ出た事もなかったし、実家に戻りたくない私が頼れるのは太ちゃんしか居ないんだ。弟の太ちゃんに頼るなんて、ダメな姉だと思うけど」
僕の涙は花ちゃんの部屋着の中へと吸い込まれる。
「でも本当に私は、ここにしか行く場所が無くて……自分で新しい土地で一からやり直そうとか、そんな勇気さえ持てない弱い人間なの」
僕に抱きつく花ちゃんの背中に腕を回そうか……その判断に躊躇する。
何も言えないし、何も出来ない。
「だからお願い太ちゃん。私の生み出したお金を、少しでもいいから受け取って下さい……そうでないと私のしてきた事が無意味になっちゃう。だからどうか私を拒むような事を、しないで下さい」
花ちゃんの悲痛な声が無数の針となって僕の身を刺していく。
(僕はなんて事をしてしまったのだろう……)
スクショの件は嬉しかった。僕の言葉が離婚協議中の花ちゃんの生きる糧になっていたのだとしたら、「あわよくば」などと他意を含めたメッセージを送った僕は間違ってなかったのだろう。
その嬉しさが込み上げている反面、先程同じ僕から紡いだ数々の言葉が花ちゃんを泣かせた事実が罪であったという自覚を持った。
今もなお、花ちゃんを怒鳴り「バイトすら出来っこない」と考えを押し付けた事への後悔が頭の中をグルグルと掛け回っていり。
「分かった……花ちゃんを拒んだつもりじゃなかったんだけど、そういう意味なら受け取るよ」
僕から言葉を出せたのは、たったそれだけで
「ありがとう、太ちゃん」
ハグを解いて微笑む花ちゃんに
(情けない弟でごめん……)
と、心の中で謝る。
「夜中なのに長々とごめんね太ちゃん。お風呂も入んなきゃいけないのにね」
「ううん、花ちゃんと話が出来て良かった」
ごめんを言うのは僕の方なのに先に花ちゃんから謝られてしまって、また自分を情けなく思う。
「でもさ、いきなり30万は出し過ぎだと僕は思うよ。バイトしてるから今のところお金に困ってないし、少しずつにしようよ」
情けないついでにそんな提案しか出来ないのがまた申し訳ない。
「少しずつって、例えば4万? ここの家賃の半分の」
「いや、そこはまた明日の朝2人で考えようよ。明日の2限は休講で、授業は昼からだから」
「そうなんだね、よかったぁ。昼からなら太ちゃんもゆっくり身体を休ませる事が出来るね」
「うん、だから花ちゃんは朝ごはん作らないでね。どんなに美味しい匂いさせたって、起きられる自信がないから」
「そりゃそうだよね、クタクタだよね太ちゃんは」
僕も花ちゃんみたいに微笑んで冗談を言ってみせると、目の前の女性は可憐な花が咲いたようにパァッと明るい笑顔に変わった。
「じゃあ、また明日。花ちゃんも朝の支度全部休んで、たっぷり寝てね」
「うん、明日はお言葉に甘えるね。おやすみなさい」
2人一緒に立ち上がって「おやすみ」を言い合い、僕はその部屋から出ていった。
僕の涙に気付いた花ちゃんが、やわらかく温かな眼差しを向けてくる。
「泣くよ、そんな話聞いたら……」
花ちゃんの眼差しはやわらかくて温かいと感じると同時に悲痛さもその裏で感じる。
「太ちゃんは優しいね、よしよし」
僕の泣き顔を覆い隠すように、花ちゃんが僕に被さってきた。
「っ」
ハグをされているんだ。と、数秒経って気付いた。
「私はダメで、どうしようもない、価値のない人間で、太ちゃんの言う通り職歴もバイト歴も無い。ついこの前まで地元から外へ出た事もなかったし、実家に戻りたくない私が頼れるのは太ちゃんしか居ないんだ。弟の太ちゃんに頼るなんて、ダメな姉だと思うけど」
僕の涙は花ちゃんの部屋着の中へと吸い込まれる。
「でも本当に私は、ここにしか行く場所が無くて……自分で新しい土地で一からやり直そうとか、そんな勇気さえ持てない弱い人間なの」
僕に抱きつく花ちゃんの背中に腕を回そうか……その判断に躊躇する。
何も言えないし、何も出来ない。
「だからお願い太ちゃん。私の生み出したお金を、少しでもいいから受け取って下さい……そうでないと私のしてきた事が無意味になっちゃう。だからどうか私を拒むような事を、しないで下さい」
花ちゃんの悲痛な声が無数の針となって僕の身を刺していく。
(僕はなんて事をしてしまったのだろう……)
スクショの件は嬉しかった。僕の言葉が離婚協議中の花ちゃんの生きる糧になっていたのだとしたら、「あわよくば」などと他意を含めたメッセージを送った僕は間違ってなかったのだろう。
その嬉しさが込み上げている反面、先程同じ僕から紡いだ数々の言葉が花ちゃんを泣かせた事実が罪であったという自覚を持った。
今もなお、花ちゃんを怒鳴り「バイトすら出来っこない」と考えを押し付けた事への後悔が頭の中をグルグルと掛け回っていり。
「分かった……花ちゃんを拒んだつもりじゃなかったんだけど、そういう意味なら受け取るよ」
僕から言葉を出せたのは、たったそれだけで
「ありがとう、太ちゃん」
ハグを解いて微笑む花ちゃんに
(情けない弟でごめん……)
と、心の中で謝る。
「夜中なのに長々とごめんね太ちゃん。お風呂も入んなきゃいけないのにね」
「ううん、花ちゃんと話が出来て良かった」
ごめんを言うのは僕の方なのに先に花ちゃんから謝られてしまって、また自分を情けなく思う。
「でもさ、いきなり30万は出し過ぎだと僕は思うよ。バイトしてるから今のところお金に困ってないし、少しずつにしようよ」
情けないついでにそんな提案しか出来ないのがまた申し訳ない。
「少しずつって、例えば4万? ここの家賃の半分の」
「いや、そこはまた明日の朝2人で考えようよ。明日の2限は休講で、授業は昼からだから」
「そうなんだね、よかったぁ。昼からなら太ちゃんもゆっくり身体を休ませる事が出来るね」
「うん、だから花ちゃんは朝ごはん作らないでね。どんなに美味しい匂いさせたって、起きられる自信がないから」
「そりゃそうだよね、クタクタだよね太ちゃんは」
僕も花ちゃんみたいに微笑んで冗談を言ってみせると、目の前の女性は可憐な花が咲いたようにパァッと明るい笑顔に変わった。
「じゃあ、また明日。花ちゃんも朝の支度全部休んで、たっぷり寝てね」
「うん、明日はお言葉に甘えるね。おやすみなさい」
2人一緒に立ち上がって「おやすみ」を言い合い、僕はその部屋から出ていった。
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