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花から求められる犬と、主人との約束
★6
しおりを挟む花ちゃんとお風呂に入るのは2度目になる。
「すっごく良い匂いがするね、なんで?」
手を繋ぎながら一緒に脱衣所に入り花ちゃんを抱き締めると、さっきまでは香らなかったフローラルな香水みたいな匂いに気付いて僕はすぐに顔をあげた。
「太ちゃんが食器洗ってくれてる間に、グロスつけたの。タイチに喜んでほしくて」
僕の見つめる先にはすっぴんの可愛らしい花ちゃんの笑顔と、今から2人で過ごす期待感に満ちたような潤んだ唇との、相対するものが入り混じった光景が現れ
「お風呂の後でつければいいに」
蕩けるようなリップグロスごと、まずはその唇に舌を滑らせた。
「んっ……タイチくすぐったい♡」
「ワザとそうしてるんだよ、今の僕はワンコのタイチだから。
犬が飼い主に人間みたいなキスしたらおかしいでしょ?」
便宜上脱衣所や浴室では「服を脱いだらタイチ」が適用されるというルールに2人の間で交わされている。
「ふふっ♡ 確かにそうだけど、でもベッドでは」
「今はタイチに集中したいんだってば」
確かに花ちゃんの言う通り、タイチの時でも人間らしいキスはする。だけど『お風呂』という期待感膨らむ場においては一層ワンコである意識を強く持っていたかったんだ。
(お風呂だと全裸で居なきゃいけないからゴム無しの空間でおかしな事をしてしまいそうだし)
「服を脱いだらタイチ」の特例ルールを課したとはいえ、今までコスプレ道具としてパーカーを利用してきた分、やはり無いとモチベーションや気持ちのバランスが崩れそうになる。
(全裸でも、僕は今「タイチ」で花ちゃんは「飼い主」…………。
絶対に忘れないようにしなくちゃ。理性を持っておかなくちゃ)
下半身が疼くのは雄の本能なのだから仕方がない。かといって人間の僕を出してはならない。
それを花ちゃんは理解してくれているし、僕もハッキリと理解しておきたかった。
「……別にね、太ちゃんと店長さんの仲だから紙袋を持って帰ってくる事に関しては気にしてないよ。
店長さんがどんな人かは知らないけど『彼女とイチャイチャして楽しんでね』っていうお姉さん心があるんじゃないかな?」
タイチの冷たい指によって下着姿となった花ちゃんが、突然そんな話題を口にしてきた。
「それはまぁ……そうかも。『ガールフレンドちゃん』みたいな言い方をしてたから」
タイチの意識を高めてきたのに、不意に「太ちゃん」を出されると正直困る。
「『ガールフレンドちゃん』なんだぁ♪ 私。女子高生みたいな子を想像されてるのかなぁ……」
けれどもその言い回しは自分の首を自らの手でキツく締めているように感じられて「男」としての心が傷んだ。
「店長の意図は分かんないけど、現実のガールフレンドちゃんも充分可愛いと僕は思うよ」
「んっ……」
ご主人様の言う『ガールフレンドちゃん』を勝手に想像しては、「24歳の私じゃ見合わないよね」と言いたそうな表情をしてくる花ちゃんに、僕はタイチの気分に立ち戻ってもう一度そのフローラルな唇を食み、グロスを残らず舐め取っていく。
「可愛いよ花ちゃん……大好き」
グロスの効果で高まっていく男の欲情は目の前の愛する花ちゃんの衣服を脱がし、水色の花柄ショーツ一枚だけにさせる。
「花ちゃんが可愛いから興奮しちゃうけど……今はワンコだから、安心してね」
そう告げた僕は犬の「お座り」の体勢をとって
「えっ?」
舌先でショーツの端を手繰り寄せ歯でそれを噛んだ。
「タイ……チ?」
僕が噛んだのはショーツ前面にデザインされた刺繍花の一つで、位置的には骨盤辺りなんだろうか?
刺繍糸で固く形作られた花弁を前歯でしっかり挟むなり、ゆっくり下ろしていく。
「ん……」
後退しながら引っ張らずとも、顎を上から下へと動かすだけでショーツは綺麗な脚を通過して足の甲へとストンと落ちる。
「っはぁ……」
フローラルな唇を味わい尽くし発情した僕の舌や歯はそれだけでは飽き足らず、脚の付け根のツルツルした部分と、縮毛の生え際の部分との境目を舌先で何度も往復したり前歯でカチカチと毛先を噛んだりして、僕同様に発情した花ちゃんの匂いや塩味がかった体液の味を愉しんだ。
「んもぉ……タイチってばエッチなワンコっ! めっ!」
たまらず僕の頭を両手で引き剥がし、目が合うなり可愛らしく叱る花ちゃんに
「だって花ちゃんが可愛いんだもん。グロスも美味しかったし」
僕は吐息を荒くしながらそう答えた。
「グロスは食べ物じゃないのよ」
花ちゃんは可愛い癖して僕の眼差しを遇らう術を心得ている。
(本物の飼い主みたいだ……)
2度目のお風呂というイベントを前にして、僕の胸はチクリと傷んだけれども
(それでいい……それがいいんだ、僕は)
ハッキリとそう思い直してニコッと笑ってやった。
「タイチはイタズラが大好きなんだからっ! ほら、立って。最後のを脱がしてあげるから」
花ちゃんは僕と立ち位置を替えるようにしゃがみ込み飼い主の義務のような手付きでボクサーパンツをズルッと大胆に下ろして脱がせる。
(でもやっぱり花ちゃんには僕の下着をゆっくり脱がして欲しかったなぁ)
仕方がないと理解していても情緒ってモノを欲してしまう自分の愚かさに恥ずかしくなったんだけど
「でもあの下着の脱がせ方、興奮しちゃった♡」
再び立ち上がって見せてきた花ちゃんの表情には純粋な可愛らしさも飼い主らしさも抜けていて
「ほんと?」
「うん♡」
僕の脱がし行為が嬉しかったというニュアンスの吐息をかけてくれた花ちゃんが愛しく感じられ、脚の付け根へと流れる血液の量が増えていく。
応援ありがとうございます!
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