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階段を一つ昇り、僕は持ち物を棄てる

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「7月1日の事、教えてくれてありがとう。予定が立てやすくなりました」

 僕から三歩離れた状態で話すカスミさんの姿は、白く小さな花を付ける霞草のように健気で儚げなように感じる。

「カスミさんは大事なお客様だからね。
 だから先に教えたんだよ。他のお客様にはまだ教えてないんだ」

 僕はまぶたを伏せながらそう、カスミさんに答える。

「本当?」

 視界を狭めた僕の耳にカスミさんの嬉しそうな声が響き、僕はそのまま頷く。

「予約する時、7月1日に出来るコースって決まりますか?」
「予約は1週間前でしょ?その頃は研修始まって間もない時期だから確定はしないかも。確定するのはきっと当日だろうから、お金はいつもよりも多く準備してもらうと……いいかも」
「わかりました。楽しみにしてますね」

 僕はカスミさんの嬉しそうな声色に、更にドキドキさせ……口を開きながら顔をあげる。

「僕、カスミさんが喜ぶオプションコース受け持てるように研修頑張るね」
「リョウさんなら大丈夫ですよ。ステップアップしたリョウさんを心待ちにしたいから、7月1日まで会うの我慢しますね! その分、節約しなくっちゃ」
「節約って、なんだか主婦みたいだね」
「ふふ♪ 私、主婦だもの」
「あはは♪ それもそうだよね」

 視線の先に居るカスミさんは声に負けないくらい明るくて素敵な笑顔を僕に見せている。

「じゃあ、次に会うのは7月1日だね。季節の変わり目だからカスミさん風邪とか引いちゃダメだよ?」
「リョウさんは本当に優しいなぁ。私意外と体丈夫なんで夏風邪引いた事ないんですよ」
「それでもだよ!身体は大事にしてね!」
「はい♪」
「もう時間だねカスミさん。帰り道気をつけて」
「ありがとうリョウさん、またね」
「うん、またね!!」

 カスミさんは満面の笑みでバイバイと手を振り返して、リョウの部屋を退室した。



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