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16歳のリョウとチワワの僕と、白い花

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 カスミさんは、僕が今手にしているものすら気付かずにグイグイと体を押してベッドに僕の上半身を横たわらせた。
 僕の視界は一度天井を向き、それからすぐに目の釣り上がったカスミさんの顔全面が天井のクリーム色をさえぎる。

「それは……そうだろうって思うよ」

 カスミさんの声色や表情の怖さに怯える気持ちを抑えながらも、あくまでごく冷静にゆっくり呼吸をしながら、少しずつ言葉を発していた。

「そうだろうって、どういう事? じゃあ、受付で告げられたコースが『添い寝コース』で、オプションが『耳ツボほぐし』って! 冗談みたいな話が本当だと言うのね?嘘じゃないと言うのね?!」
「そうだよ、今日から追加されたコースとオプションは間違いなくそれだよ」
「どういう事?!」
「どういう事も何も……事なんだ」
「だからそういう事ってなんなのよ!! リョウさんは1週間店のオーナーと存分にまぐわったんでしょう? 存分にアソコをベロベロと舐めたのよねぇ? 私の……私との約束がそうだったんだもの。リョウさんは私のアソコをたくさん舐めてくれる為に、好きでもないオーナーの身体を舐めて頑張ったんでしょう?! 舐め犬になれたんでしょう??!」

 掴まれた服の部分がグッと持ち上がり、呼吸が苦しくなる。

「ぐっ……」
「ねぇ!! そうなんでしょう? その筈だったでしょう!? ねぇ! リョウさぁん!!!」
「っ……カスミ、さっ……」
「今まで出来なかった粘膜にも、もう触れるようになったのよねぇ? そこはオーナーから許可してもらってるのよねぇ? だから予約開始の時にあんなに集まったんでしょう? 『いつもあんな風に予約集中する事ない』ってみんな口を揃えてたわ! だから……だからっ! 私っ……」

 息苦しさから、今までずっと右手に持っていたカスミさん宛ての小瓶が僕の手から滑り落ち、ゴトンと重い音を立てた。

「なに……? ラッピングされた、瓶?」

 カスミさんは音が鳴った方を向き、それまで掴んでいた僕のシャツから手を離す。

「っ! ……けほっ」

 僕は身体を起こして胸元をさすり息を整えている間に、カスミさんは目を見開いたまま僕の用意した小瓶をラッピング包装ごと掴んで持ち上げた。

「何? コレ……」
「っ……それはっ、僕が個人的に用意したカスミさん用のアロマポプリだよ。瓶の中に、カスミさんの好きな柑橘系ベースのハーブやエッセンシャルオイルを入れたんだ」

「ポプリ?」

 カスミさんはラッピング包装のリボンをその場で解き、中から現れた丸底ガラス瓶をマジマジと見つめ始めた。

「たとえば生理中であるだとか、店に行きたくても行けない時ってあるから。その時でも僕は……やっぱりお客様には心落ち着けてリラックスしてほしくて……。
 そのまま蓋を開けて飾ってもいいし、小分けにして不織布の袋に入れたらサシェにもなって」

 カスミさんが瓶の蓋を開けると、僕の調合した香りがふわりと立ち上り拡がっていく。

 カスミさんの好きなシトラスの香りになるように……また、瓶の外側から眺めても癒されるようにレモンやミモザや黄色に着色された霞草などといったドライフルーツやドライフラワーも入れてある。

「これを……私に?」
「そうだよ。今日が僕というセラピストにとって一段階成長した日で、カスミさん達に感謝の気持ちを込めたいと思って個人的に用意したんだ。今まで僕を指名してくれてありがとうという気持ちと……これからもよろし」
「くだらないっ! こんなものを作る暇があるなら、冗談みたいなコースやオプション以上のものを準備して欲しかった」

 「これからもよろしく」と言い終える前にカスミさんはバッサリと切り捨てるような言葉を僕の前で吐き、瓶の中身を乱暴に引き上げては片手でグシャグシャとそれらを粉々にしていく。

「え……」

 目の前で無残に潰れ粉状になったものがカスミさんの手指の隙間からパラパラと落ちていくのを……僕は呆然と見つめていた。

 解かれたラッピング包装や小瓶も落ち、乾いた音と鈍い音が続けて鳴る。

 それからカスミさんはシトラスの強い匂いが染み付いた手を鼻の近くに持ってきて、さも嫌そうにスンと鼻を鳴らし香りを吸い込んだ後で僕の方へ顔を向き直ると

「だから?」

 と短く言った。

「だから……って……」

 瓶の中身を乱暴に潰したり不要だとばかりに床へ全て落としたりするカスミさんの行動が……いつも僕が見てきた常連客のそれではないと、信じられない気持ちになる。

「だからなんなの? まさかこれって謝罪用のプレゼントって意味?
 私のアソコを舐められる程のモノにならなかったから、そのお詫びのつもりなの?」
「それは……そんなつもりじゃないよ」
「じゃあどんなつもりよ!! 信じられない!! 私をどこまで馬鹿にしたら気が済むのよリョウさんは!!」

 カスミさんは更に怒りを込めた態度で僕を再びベッドに押し倒すと、馬乗りになるよう僕の上に乗っかってきた。

「カスミさん」
「リョウさんは優秀なセラピストなんでしょう? 今までオーナーに叱られた事がないんでしょう? だから、リョウさんは私の望む癒し行為が出来るように1週間頑張ってくれたのよねぇ?」

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