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16歳のリョウとチワワの僕と、白い花
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「っ……カスミさ」
「私……3週間前にリョウさんからちゃんと聞いたのよ? この部屋で。
リョウさんと交わした会話は一度だって忘れた事がないんだから、今更リョウさんが『嘘だ』と言っても通用しないんだから!
リョウさん言ったでしょう!! 『お金貯めといてね』って!! それって、今までのコースよりも値段が高くなるって意味でしょう? コースだけでなく、オプションも特別なものでっていう意味でしょう? ねぇ、違った?!」
シトラスの強い香りやエッセンシャルオイルが染み付いた手指で、僕の首や赤い首輪をベタベタと触る。
「カスミさんっ……やめて」
目をカッと見開いたまま怒声混じりの言葉を至近距離の僕に浴びせ……時々僕の頭を揺さぶった。
強い揺さぶりはリョウの首輪を緩め、犬耳やボリュームのあるショートヘアの白髪カツラをずらしていく。
(やばい! リョウの姿じゃなくなっちゃう……)
僕はカスミさんの両手首を掴んでなんとかその揺さぶりを止めようと踏ん張り……それから少しずつ言葉を発した。
「確かに……僕は……カスミさんに、カスミさんの望む行為が出来るように頑張るって、言ったよ」
「じゃあどうして!? どうしてそれが添い寝と耳ツボになったというの?」
「それは……」
「それは? ねぇ、それはって、何??」
「それは…………僕が、まだ、未熟……だった、から」
「えっ?」
僕の口にした「未熟」の言葉にカスミさんは口元を歪めて聞き直した。
そのカスミさんの顔を僕は真っ直ぐに見つめながら、カスミさんの望む「舐め犬」になれなかった理由を述べる。
「僕がこの店のオーナー……ううん、ご主人様の課題をこなせなかったから。だからその課題がどうにもならないと、僕が他のセラピストと同じ『舐め犬』になる事をご主人様からお許しを貰えないんだ」
「課題って一体なんなの?」
「それは僕とご主人様との契約に関わる事だから言えない。
カスミさんはちょっと誤解してるよ。この1週間、僕はご主人様どころか女性の肌のどの部分も一切、キスしてないし舐めてもいない。
カスミさんが店に来なかった間に担当したお客様は皆オイルのコースを希望していたし、カスミさんに少し話をしたご主人様との研修でも、僕は指しか触れていないんだ」
「……どういう事?」
「どういう事も何も、そうとしか言いようがないんだ。だからカスミさんの望む行為はつまり、延期になってしまったといった方が正しいんだと思う」
カスミさんが、尚も信じられないという様子で馬乗りを止めた。
僕は解放された身体をゆっくりと起こし、気を落ち着かせようとベッドの上にペタンと座り込むカスミさんの隣に寄り添うように僕も座って、以前よりも艶めいているストレートの髪に触れる。
「全部僕が未熟な所為だよ。だからカスミさんの望む行為が出来るようになるまで、まだ待っていて欲しいんだ」
喋っている内容に嘘偽りはない。確かに僕はご主人様から課された『6月21日か22日にガールフレンドちゃんと最高に気持ちの良い時間を過ごす』という命令に背く形となった。
だから6月22日の深夜にメールで報告し、代わりに23日から行う研修内容の変更をご主人様にお願いしたんだ。
「待つって……いつまで?」
「まだ今の段階では分からないし、答えられない」
これも嘘は言っていない。実際「6月22日の日付変更と共に」という花ちゃんとの約束が彼女の生理周期によって果たせなくなり、それは今日に至っても「未実行」のままなのだから。
「仕切り直しは3日の夜に」と2人の間で約束を交わしたけれど、今からたった2日であっても未来は未来。予定通りその約束が果たせるか現時点では誰にも分からないんだ。
「僕はご主人様の課題をこなせないような未熟な存在だよ。優秀なセラピストという訳じゃない。だから未熟なりにも、僕を求めるお客様の癒しでありたいから添い寝のコースを開始出来るように頑張ったんだ」
「……添い寝なら、今まで私にしてくれたでしょう? どうして一から研修する必要があるの?」
「カスミさんに今までしていたのは甘えん坊コースの延長だよ。あれは単にカスミさんがそうして欲しいと僕に要求したから僕の出来得るコースの中で行っていただけの事なんだ。だからカスミさんをバックハグしながら耳や首を少しだけ舐めていたんだよ」
「じゃあ……新しい添い寝のコースは、一体どんなエッチな行為が出来るというの?」
僕の頭撫でや髪撫で行為によってカスミさんの声は少し落ち着いてきたけれど、それでも身体の筋肉はどこもかしこも緊張していてプルプルと小刻みに震えている。
「エッチな行為は一切しないよ」
とそのような状態になっているカスミさんに向かって、僕は真剣な想いを込めて告げた。
「は?」
「さっきも言ったけどね、たとえうちの店に来る資金が潤沢にあったってお店に来られない期間ができてしまうでしょう?病気で一歩も外出出来なかったり月経痛に苦しんでいたり服を脱ぐ事が出来なかったり。
お金があっても女性にはそれが叶わず1人寂しく過ごさなくちゃならない期間がどうしてもあると、僕は気付いたんだ。そしてそういうお客様も漏れなく癒す事が出来なければ、この店のチワワとして成立しないんじゃないかとも思ったんだよ」
「エッチな行為は一切しないって……なんなのよそれ。風俗店のやる事じゃないでしょう?」
「私……3週間前にリョウさんからちゃんと聞いたのよ? この部屋で。
リョウさんと交わした会話は一度だって忘れた事がないんだから、今更リョウさんが『嘘だ』と言っても通用しないんだから!
リョウさん言ったでしょう!! 『お金貯めといてね』って!! それって、今までのコースよりも値段が高くなるって意味でしょう? コースだけでなく、オプションも特別なものでっていう意味でしょう? ねぇ、違った?!」
シトラスの強い香りやエッセンシャルオイルが染み付いた手指で、僕の首や赤い首輪をベタベタと触る。
「カスミさんっ……やめて」
目をカッと見開いたまま怒声混じりの言葉を至近距離の僕に浴びせ……時々僕の頭を揺さぶった。
強い揺さぶりはリョウの首輪を緩め、犬耳やボリュームのあるショートヘアの白髪カツラをずらしていく。
(やばい! リョウの姿じゃなくなっちゃう……)
僕はカスミさんの両手首を掴んでなんとかその揺さぶりを止めようと踏ん張り……それから少しずつ言葉を発した。
「確かに……僕は……カスミさんに、カスミさんの望む行為が出来るように頑張るって、言ったよ」
「じゃあどうして!? どうしてそれが添い寝と耳ツボになったというの?」
「それは……」
「それは? ねぇ、それはって、何??」
「それは…………僕が、まだ、未熟……だった、から」
「えっ?」
僕の口にした「未熟」の言葉にカスミさんは口元を歪めて聞き直した。
そのカスミさんの顔を僕は真っ直ぐに見つめながら、カスミさんの望む「舐め犬」になれなかった理由を述べる。
「僕がこの店のオーナー……ううん、ご主人様の課題をこなせなかったから。だからその課題がどうにもならないと、僕が他のセラピストと同じ『舐め犬』になる事をご主人様からお許しを貰えないんだ」
「課題って一体なんなの?」
「それは僕とご主人様との契約に関わる事だから言えない。
カスミさんはちょっと誤解してるよ。この1週間、僕はご主人様どころか女性の肌のどの部分も一切、キスしてないし舐めてもいない。
カスミさんが店に来なかった間に担当したお客様は皆オイルのコースを希望していたし、カスミさんに少し話をしたご主人様との研修でも、僕は指しか触れていないんだ」
「……どういう事?」
「どういう事も何も、そうとしか言いようがないんだ。だからカスミさんの望む行為はつまり、延期になってしまったといった方が正しいんだと思う」
カスミさんが、尚も信じられないという様子で馬乗りを止めた。
僕は解放された身体をゆっくりと起こし、気を落ち着かせようとベッドの上にペタンと座り込むカスミさんの隣に寄り添うように僕も座って、以前よりも艶めいているストレートの髪に触れる。
「全部僕が未熟な所為だよ。だからカスミさんの望む行為が出来るようになるまで、まだ待っていて欲しいんだ」
喋っている内容に嘘偽りはない。確かに僕はご主人様から課された『6月21日か22日にガールフレンドちゃんと最高に気持ちの良い時間を過ごす』という命令に背く形となった。
だから6月22日の深夜にメールで報告し、代わりに23日から行う研修内容の変更をご主人様にお願いしたんだ。
「待つって……いつまで?」
「まだ今の段階では分からないし、答えられない」
これも嘘は言っていない。実際「6月22日の日付変更と共に」という花ちゃんとの約束が彼女の生理周期によって果たせなくなり、それは今日に至っても「未実行」のままなのだから。
「仕切り直しは3日の夜に」と2人の間で約束を交わしたけれど、今からたった2日であっても未来は未来。予定通りその約束が果たせるか現時点では誰にも分からないんだ。
「僕はご主人様の課題をこなせないような未熟な存在だよ。優秀なセラピストという訳じゃない。だから未熟なりにも、僕を求めるお客様の癒しでありたいから添い寝のコースを開始出来るように頑張ったんだ」
「……添い寝なら、今まで私にしてくれたでしょう? どうして一から研修する必要があるの?」
「カスミさんに今までしていたのは甘えん坊コースの延長だよ。あれは単にカスミさんがそうして欲しいと僕に要求したから僕の出来得るコースの中で行っていただけの事なんだ。だからカスミさんをバックハグしながら耳や首を少しだけ舐めていたんだよ」
「じゃあ……新しい添い寝のコースは、一体どんなエッチな行為が出来るというの?」
僕の頭撫でや髪撫で行為によってカスミさんの声は少し落ち着いてきたけれど、それでも身体の筋肉はどこもかしこも緊張していてプルプルと小刻みに震えている。
「エッチな行為は一切しないよ」
とそのような状態になっているカスミさんに向かって、僕は真剣な想いを込めて告げた。
「は?」
「さっきも言ったけどね、たとえうちの店に来る資金が潤沢にあったってお店に来られない期間ができてしまうでしょう?病気で一歩も外出出来なかったり月経痛に苦しんでいたり服を脱ぐ事が出来なかったり。
お金があっても女性にはそれが叶わず1人寂しく過ごさなくちゃならない期間がどうしてもあると、僕は気付いたんだ。そしてそういうお客様も漏れなく癒す事が出来なければ、この店のチワワとして成立しないんじゃないかとも思ったんだよ」
「エッチな行為は一切しないって……なんなのよそれ。風俗店のやる事じゃないでしょう?」
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