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雨のように降り注ぐ愛を、受け止める
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「店では、犬のコスプレをしてお客様に癒し行為をしていたんだ。
僕はまだ未成年だったから、舐め犬っていってもエッチな部分や粘膜に触っちゃいけなかったんだけど……でも、お客様が下着姿になった状態でプレイをしていたから、花ちゃんが今嫌な気持ちになってしまうのは当然だと思う」
「……オイルマッサージは?」
「それも勿論していたよ。寧ろ僕の担当はそっちの方がメインだった」
「舐めてもらうお店なのに、太ちゃんの担当がオイルマッサージメインって……」
「……変、かな?」
「ううん、それってきっと太ちゃんのマッサージが上手だからなんだろうね」
花ちゃんは優しく、あくまで僕を好意的に捉えてくれていた。
「女性用風俗店って私にとっては全く知らない世界だけど、結婚生活や仕事で疲れていて誰かに触れられたいっていう気持ちは分かる。普通なら体を舐めてもらいたいところだけど、オイルマッサージでも同じくらい癒されるんであれば敢えてそっちを選ぶ女の人は結構居るんじゃないかな」
「……そうかもしれないね。僕のお客様の中には『彼氏に悪いから』ってオイルのコースを選ぶ人も居るよ。犬の格好をしてるし店も『恋愛行為じゃない』って言ってるし僕達もお客様も『浮気はダメ』ってスタンスでしてる」
でも、それは店と客との間で交わされる約束事であって、それを知った他者は違う考えを持つかもしれない。
男性のお客様向けに展開される風俗店を「浮気」と見なし嫌悪感を持つ女性が多いのも、その典型的な例だろう。
だからこそ花ちゃんにこれを知られるのが怖かった。
花ちゃんが僕を「綺麗」と褒めてくれるのは嬉しかったけど、同時に自分の仕事が裏切り行為であると暗に見なしているんじゃないかという恐れがあった。
帰宅すぐに手洗いやうがいをしっかりと行うルーティンも「穢れを少しでも落としてから彼女に触れたい」という清めの気持ちが強い。
「約束かぁ……私が太ちゃんのお客だとしたら、ちゃんと守れるかなぁ? あんなに気持ちいいオイルマッサージされて、脚にキスされちゃったら好きになってしまうかも」
花ちゃんの言葉は、軽い自己嫌悪に陥っている僕にとっては意外だった。
「えっ?」
「太ちゃんのお客さん達は心が強いよね。私は風俗店のお客さん……向いてないや」
なんで急にそんな事言ったんだろうと不思議に思っていたら
「あ」
そこで、カスミさんが何故あんな行動をとったのかを理解する。
「えっと……昨夜の女性……」
「カスミさん?」
「うん、そう。そのカスミさんの気持ち……分かるよ。昨夜の事は犯罪行為だから本来なら絶対にやっちゃいけないけど」
「うん」
「公園に響き渡っていたたカスミさんの言葉を思い返したら、結構共感する事多いなって」
花ちゃんに僕は同意の頷きをした後で、脳内を整理するように僕とカスミさんとのやり取りを花ちゃんに話し始めた。
「ちゃんとカスミさんにも『僕は犬だから彼氏でもなんでもないよ恋愛行為じゃないよ』って何度も言ってたんだ。
カスミさんから『特別な下着を着けた方がいいのか』『脱毛処理をした方がいいのか』って訊かれた時も『旦那さんがカスミさんの行動を怪しむだろうし特別な事はしなくていいよ』という答え方をしていたんだよ」
「カスミさんは、結婚してる人だったんだ?」
「うん、でも結婚生活が寂しいって言ってた。昨日脱毛処理をした部分を僕に見せた時も……旦那さんは出張が多くてほとんど顔を合わせないって、言ってた」
「そっか……」
「単純に僕の努力が足りなかったんだ。本来なら僕の為に特別な事なんてしなくていいのに……知らずのうちにカスミさんを期待させるような態度を取ってしまったから」
「そういう事じゃないと思うよ。太ちゃんがどんな態度をとろうと、カスミさんは結果的に『太ちゃんを独占したい、太ちゃんに一番綺麗な部分を見せて一番先に舐めてもらいたい』って、思ったんじゃないかな……私ならきっとそうするもん」
と花ちゃんは言い、僕に悲しく微笑んでみせた。
「花ちゃんは……しないよ」
「ううん、きっとしちゃう。私って誰かに優しくされたらコロッといっちゃう意志の弱い人間だから、太ちゃんの気持ちいいマッサージのファンになっていっぱい通いたくなっちゃって、きっと好きになる」
その言葉に僕は息を呑んだ。
花ちゃんが店に客として訪れ白いチワワにアロマオイルで身体をほぐしもらうなんて具体的な想像をしてはいなかった。
けれども僕が働いて身につけたテクニックを利用して花ちゃんの気持ちを動かせたなら……凌太から花ちゃんを奪う事が出来るなら……そういう想像なら高3を迎える直前に開かれた結婚式の空間で幾度ととなくしていたんだ。
(春風にふわりと舞う純白のウェディングドレスや幸せそうな笑顔を凌太に向ける花ちゃんを凝視しながら……僕は……)
僕はまだ未成年だったから、舐め犬っていってもエッチな部分や粘膜に触っちゃいけなかったんだけど……でも、お客様が下着姿になった状態でプレイをしていたから、花ちゃんが今嫌な気持ちになってしまうのは当然だと思う」
「……オイルマッサージは?」
「それも勿論していたよ。寧ろ僕の担当はそっちの方がメインだった」
「舐めてもらうお店なのに、太ちゃんの担当がオイルマッサージメインって……」
「……変、かな?」
「ううん、それってきっと太ちゃんのマッサージが上手だからなんだろうね」
花ちゃんは優しく、あくまで僕を好意的に捉えてくれていた。
「女性用風俗店って私にとっては全く知らない世界だけど、結婚生活や仕事で疲れていて誰かに触れられたいっていう気持ちは分かる。普通なら体を舐めてもらいたいところだけど、オイルマッサージでも同じくらい癒されるんであれば敢えてそっちを選ぶ女の人は結構居るんじゃないかな」
「……そうかもしれないね。僕のお客様の中には『彼氏に悪いから』ってオイルのコースを選ぶ人も居るよ。犬の格好をしてるし店も『恋愛行為じゃない』って言ってるし僕達もお客様も『浮気はダメ』ってスタンスでしてる」
でも、それは店と客との間で交わされる約束事であって、それを知った他者は違う考えを持つかもしれない。
男性のお客様向けに展開される風俗店を「浮気」と見なし嫌悪感を持つ女性が多いのも、その典型的な例だろう。
だからこそ花ちゃんにこれを知られるのが怖かった。
花ちゃんが僕を「綺麗」と褒めてくれるのは嬉しかったけど、同時に自分の仕事が裏切り行為であると暗に見なしているんじゃないかという恐れがあった。
帰宅すぐに手洗いやうがいをしっかりと行うルーティンも「穢れを少しでも落としてから彼女に触れたい」という清めの気持ちが強い。
「約束かぁ……私が太ちゃんのお客だとしたら、ちゃんと守れるかなぁ? あんなに気持ちいいオイルマッサージされて、脚にキスされちゃったら好きになってしまうかも」
花ちゃんの言葉は、軽い自己嫌悪に陥っている僕にとっては意外だった。
「えっ?」
「太ちゃんのお客さん達は心が強いよね。私は風俗店のお客さん……向いてないや」
なんで急にそんな事言ったんだろうと不思議に思っていたら
「あ」
そこで、カスミさんが何故あんな行動をとったのかを理解する。
「えっと……昨夜の女性……」
「カスミさん?」
「うん、そう。そのカスミさんの気持ち……分かるよ。昨夜の事は犯罪行為だから本来なら絶対にやっちゃいけないけど」
「うん」
「公園に響き渡っていたたカスミさんの言葉を思い返したら、結構共感する事多いなって」
花ちゃんに僕は同意の頷きをした後で、脳内を整理するように僕とカスミさんとのやり取りを花ちゃんに話し始めた。
「ちゃんとカスミさんにも『僕は犬だから彼氏でもなんでもないよ恋愛行為じゃないよ』って何度も言ってたんだ。
カスミさんから『特別な下着を着けた方がいいのか』『脱毛処理をした方がいいのか』って訊かれた時も『旦那さんがカスミさんの行動を怪しむだろうし特別な事はしなくていいよ』という答え方をしていたんだよ」
「カスミさんは、結婚してる人だったんだ?」
「うん、でも結婚生活が寂しいって言ってた。昨日脱毛処理をした部分を僕に見せた時も……旦那さんは出張が多くてほとんど顔を合わせないって、言ってた」
「そっか……」
「単純に僕の努力が足りなかったんだ。本来なら僕の為に特別な事なんてしなくていいのに……知らずのうちにカスミさんを期待させるような態度を取ってしまったから」
「そういう事じゃないと思うよ。太ちゃんがどんな態度をとろうと、カスミさんは結果的に『太ちゃんを独占したい、太ちゃんに一番綺麗な部分を見せて一番先に舐めてもらいたい』って、思ったんじゃないかな……私ならきっとそうするもん」
と花ちゃんは言い、僕に悲しく微笑んでみせた。
「花ちゃんは……しないよ」
「ううん、きっとしちゃう。私って誰かに優しくされたらコロッといっちゃう意志の弱い人間だから、太ちゃんの気持ちいいマッサージのファンになっていっぱい通いたくなっちゃって、きっと好きになる」
その言葉に僕は息を呑んだ。
花ちゃんが店に客として訪れ白いチワワにアロマオイルで身体をほぐしもらうなんて具体的な想像をしてはいなかった。
けれども僕が働いて身につけたテクニックを利用して花ちゃんの気持ちを動かせたなら……凌太から花ちゃんを奪う事が出来るなら……そういう想像なら高3を迎える直前に開かれた結婚式の空間で幾度ととなくしていたんだ。
(春風にふわりと舞う純白のウェディングドレスや幸せそうな笑顔を凌太に向ける花ちゃんを凝視しながら……僕は……)
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