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巨蟹宮のマークと、双子のような僕達

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「あとね」

 ベッドで仰向けになっている彼女は人差し指をアロマオイルの瓶へと向けて

「イランイランのオイル、使ってみてもいい? あの香りってエッチな気分にさせるんでしょ?」

 雑な知識を織り交ぜながら、可愛らしいお願いを僕に乞う。

「ふふっ♡ そうだね、あのオイルはグレードの高いものだから、とっても良い効果が得られるんじゃないかな……」

 正直イランイランの香りなんかなくたって僕は十二分に興奮しているんだけど、大好きな彼女の望みなら叶えてあげないといけない。

「……それにね、花ちゃん」

 僕はイランイランの瓶を開封するなり、アロマディッシュではなく……脱いだ僕の衣服に全て垂らす。

「『イランイラン』は南国の言葉で『花の中の花』って意味だから」

 僕の汗が染み込んだ服にイランイランの精油が染み込むさまは、これから彼女と一つになって溶け合いたいのだという僕の意思とピッタリ重なっていて

「僕はずっと……『花ちゃんみたいだな』って思いながら、この瓶を大事に大事に取っておいたんだよ」
「太ちゃん……」
「だからね、花ちゃんのその望みは、僕にとって最高に嬉しいものなんだよ」

 嬉しさも興奮も、最高潮に達していた。

「私ってイランイランみたいにエッチなイメージ?」

 驚いた表情をしながら僕を見つめる彼女は最高に可愛い。

「イランイランの香りはね、催淫効果ばかり注目されちゃうけど鎮静作用に優れているんだ。気持ちをリラックスさせたり、ホルモンバランスを整えたり……今のこの、花ちゃんの髪がベッドの上で広がってる様子はイランイランの花弁はなびらみたいだなって思うし」

 自分の知り得る内容を彼女に伝えながら、セミロングの髪に触れ……愛おしい気持ちが高まっていって

「全部好き、花ちゃんが大好きって気持ちになる」
「太ちゃん……」

 花ちゃんが僕の「好き」「大好き」でふんわりと甘く優しく微笑んでくれたから、10回をゆうに超えるキスを施した。

「アロマの効果ってすぐに出るの?」
「さぁ? 他のオイルと同じじゃない?」

 僕は花ちゃんの体を優しく抱き締め、甘く扇情的な香りを存分に吸いながら、彼女にやわらかな笑みを向けてあげた。

「そっかぁ……ふふっ♡」

 その時に見せてくれた彼女の笑みも、僕のと同じような雰囲気を持たせてくれているのが嬉しい。

「花ちゃんの、いっぱい舐めてあげるね」

 仰向けになり僕の顔に跨がるよう花ちゃんを膝立ちの体勢にさせたら、彼女は不安そうな顔になって首を横に振った。

「どうして? 花ちゃん、この体勢で僕に舐められるの好きでしょ?」

 女性上位の顔面騎乗の体勢で花ちゃんの陰部を舐める行為は、の愛撫ではお決まりのプレイだった。

 けれども…………。

「っ……」
「どうしたの?花ちゃん」
「そうだけど……でも……」

 花ちゃんは何かを言おうと口を開けたものの、何も言う事なくすぐに口を閉じた。

「何か気になる?」
「……」

 本当は僕だって気付いている。
 今まででやり取りしていた愛の行為は、第三者によって記憶を塗り替えられてしまったから。

「もしかして、僕の事を気にしてる?」

 ……そう。
 僕は一度、の姿で穢されてしまった。
 必死に唇を閉じて何もかも侵されまいとしたけれど、皮膚の浸透圧に負けた僕は否応にも第三者の粘液で味蕾を反応させ、脳を支配され、海綿体に血液を溜まらせたんだ。

「……だって」

 今にも泣き出しそうな顔をする彼女の手を引き……微笑み顔を作って
 
 チュッ、と……

「気にしてない」という気持ちを込めた優しいキスをしてあげた。

 確かにカスミさんにされた行為と体勢がほぼ一緒だ。気にしてないのは本当だと彼女に分かってもらいたいけど、それでも彼女は気にしてしまうらしいのが無言の表情から読み取れる。

「太ちゃん……」

「じゃあ、花ちゃんが下になろっか」

 花ちゃんが不安を感じる事なく心ゆくまで気持ちよくなれるようにと、僕が上半身を起こしたら

「あのね」

 意を決したような表情で花ちゃんは口を開いた。

「うん?」
「あの……蟹座かにざのマークのを、やってみたい」
「蟹座?」

 「あのね」に続く言葉を待っていたら、急に予想外の「蟹座」というワードが出て僕の頭は混乱する。

「だって、太ちゃんも私も蟹座でしょ?」
「……まぁ、そうだけど」

 僕の誕生日は6月22日
 花ちゃんの誕生日は7月22日
 ちょうど星座占いの蟹座の期間に2人ともギリギリ当て嵌まるのだ。

「太ちゃんの誕生日が蟹座の始まりの日で、私が最後の日。
 ……雑誌か何かでその事を初めて知った時、運命的なものを感じたの」
「運命?」

「運命っていっても大それた事じゃなくて、『最初と最後ってすごいなぁ』のレベルだよ?当時私も小学2年生だったし」

 確かに。と僕は思い、昔の記憶を僕も手繰り寄せてみた。

(そう言われてみれば、花ちゃんが「蟹すごい」って喜んでいた日の事はなんとなく覚えているなぁ……)

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