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1st season 第二章
037 氷結姫
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その頃王都では氷結姫の二つ名で呼ばれる冒険者が話題となっていた。
曰く、透き通る肌を持つ美姫であり、その美しさは王都でも五指に入る
曰く、珍しい氷魔法の使い手であり、美しい栗毛色の髪をたなびかせ、極寒の魔法を奮う
曰く、D級でありながらその戦う様は凄まじく、いかなる魔物を前にしても怯むこと無く、マナの尽きるまで魔物を屠り続ける
曰く、ソロでしか活動せず、B級パーティーの勧誘すら断った
曰く、美男、富豪、いかなる誘いにも応じる事がなく、その美姫と食卓をともにしたものすら居ない
エルダーサの街を離れてから暫くの記憶がユリアには無い。
あまりに頻繁にキュアーをかける必要があったため、記憶の混濁を起こしたのだ。
そして数ヶ月かけて回復したユリアは、カインが既にこの世にいないことを知った。
仲間たちの挙動から、うすうす感づいたユリアが問い詰めたのだ。
例え仲間であっても、男との接触を極端に避けるユリアに、男性メンバーが辟易とし始めた頃だった。
そしてカインの死を知ったユリアは要塞から離脱する事を告げる。
ユリアが離脱を告げると、メイも離脱し、ユリアに同道する意思を表明した。
カインに秘密がバレることを恐れ、壊れゆくユリアを見ていられなくなり、いっそバレてしまえば、あんな普通の男の子の事などすぐに忘れる、恋など所詮そんなものだと思っていたのだとメイは語った。
だが、ユリアのカインに向ける愛情はメイの想像をはるかに越えており、全ての原因は己が傲慢が引き起こしたこと、もしもユリアが死ぬ気なのなら、自分も最後まで一緒に行くと涙ながらに語った。
メイが涙を見せたのは要塞のメンバーにとってもはじめての事だった。
しかしユリアは同道を断った。
カインの死は、快楽に抗えなかった弱い自分のせいに他ならないと言い、壊れた自分を見捨てること無く、皆は本当に良くしてくれたと礼を良い、これからの人生はひとり、結婚と出産の女神ナザリアに、懺悔の日々を送りたいと告げパーティーを去った。
身を飾らず、粗食を口にし、男女を問わず人と交わらず、ただただ魔物との戦いに身を置いた。
そう、ユリアは自殺を許さぬナザリア神にたったひとつの誓約を立てたのだ。
犯してしまった罪の懺悔に二度と男と契る事無く、ひたすら人類の為に魔物を倒し続け、やがてその牙に倒れ塵と還ったのなら、来世でも再びカインと巡り、今度こそ結ばれる人生を歩ませて欲しいと。
そんなユリアの元に、ギルドから一件の指名依頼が舞い込んだ。
いつものユリアなら指名依頼など全て断るのだが、今回は伯爵家からの依頼、せめて説明だけでも聞きに行ってもらわないと自分が板挟みになると懇願され、やむなく伯爵家を訪問する。
「誠に申し訳ございません。私はパーティーに属しておらず、護衛依頼の訓練も積んでおりません。ゆえにご依頼頂いてもカイザル様の御身をお守りするに不十分なのです」
依頼主は伯爵家の三男、カイザルであった。
「いやいや、何もユリア殿一人に全てを押し付けるつもりは無い。当家よりも護衛を付けるし、噂に名高い氷結姫殿が護衛についているとあらば、不逞の輩もしっぽを巻いて逃げるというもの」
「カイザル様からのお申し出はこの身にあまる光栄、されどやはり・・・」
「まぁまぁ、そう難しくばかり考えずとも、こちらも無理強いするつもりは無いですから。せめて夕食でもご一緒しながら最後にご一考下さい。あちらにユリア殿の席を用意させてあります」
普段なら食事はおろか一杯の紅茶ですら固辞するユリアだったが、伯爵家の依頼を断り、用意された食事すら断ったとあればユリアのみならず、紹介を押し付けられたギルドの職員まで類が及びかねない。
なんとか依頼は断ろうと、喉を通らぬ美食を流し込み、なれぬ愛想笑いを返すユリアの、その意識が突然途切れた。
~~~~~
ゆらゆらと漂うような意識が次第に覚醒してゆく。
目をこすろうとするが手が動かせない。
はっとして周囲を見回すと、あの、カイザルという男が股の間にいる。
ユリアの衣服は全て剥ぎ取られ、白いベッドの上でバックボードに両手を固定されている。
「一体何をっ?」
「まったく、おとなしく依頼を受けていればじっくりと可愛がってやったものを、父に気取られず屋敷内を運ぶのは苦労したのだぞ?」
「おやめください。私はナザリア神に誓いを立てた身、無体なことをすればあなたにも天罰が下りましょう」
「ほぅ、それはどのような天罰か楽しみだ。ときにユリア殿はどのような男の誘いにも靡かぬという、もしや乙女であらせられますかな?」
「あなたに関係ありませんっ!」
「まぁどの道すぐにわかること、まずはこのまま楽しませて頂くとしよう。何、痛くとも心配は無い。あとでクスリをたっぷり使って、この世のものとは思えぬ快楽を体験させてあげるよ」
カイザルの熱り立ったペニスがユリアのクレパスに添えられる。
(嫌っ!誓いが、カインに会えなくなるっ!)
それは咄嗟の行動だった。
使い慣れた氷の槍を産み出したユリア、カイザルにそれを投げつけた。
魔法使いを捕らえながら、封魔の首輪すら用意していなかったカイザルは、本当に間抜けな男だった。
しかしそんな間抜けとは言え伯爵家の人間、殺めれば間違いなく死罪となる。
すでに動かぬ骸となったカイザルをそのままに、枷を破壊したユリアはシーツで身を包み、家人を呼ぶためにドアをあける。
ユリアの実力であればこのまま逃げおおせ、どこか僻地に身を隠すことも出来ただろう、しかしナザリア神に誓いをたてたユリアは逃げるを良しとしなかった。
むしろこのまま捉えられ、処刑されることを望んでいた。
自分に死を与えてくれる者たちの足音を、ユリアは千秋の思いでただ待つのだった。
曰く、透き通る肌を持つ美姫であり、その美しさは王都でも五指に入る
曰く、珍しい氷魔法の使い手であり、美しい栗毛色の髪をたなびかせ、極寒の魔法を奮う
曰く、D級でありながらその戦う様は凄まじく、いかなる魔物を前にしても怯むこと無く、マナの尽きるまで魔物を屠り続ける
曰く、ソロでしか活動せず、B級パーティーの勧誘すら断った
曰く、美男、富豪、いかなる誘いにも応じる事がなく、その美姫と食卓をともにしたものすら居ない
エルダーサの街を離れてから暫くの記憶がユリアには無い。
あまりに頻繁にキュアーをかける必要があったため、記憶の混濁を起こしたのだ。
そして数ヶ月かけて回復したユリアは、カインが既にこの世にいないことを知った。
仲間たちの挙動から、うすうす感づいたユリアが問い詰めたのだ。
例え仲間であっても、男との接触を極端に避けるユリアに、男性メンバーが辟易とし始めた頃だった。
そしてカインの死を知ったユリアは要塞から離脱する事を告げる。
ユリアが離脱を告げると、メイも離脱し、ユリアに同道する意思を表明した。
カインに秘密がバレることを恐れ、壊れゆくユリアを見ていられなくなり、いっそバレてしまえば、あんな普通の男の子の事などすぐに忘れる、恋など所詮そんなものだと思っていたのだとメイは語った。
だが、ユリアのカインに向ける愛情はメイの想像をはるかに越えており、全ての原因は己が傲慢が引き起こしたこと、もしもユリアが死ぬ気なのなら、自分も最後まで一緒に行くと涙ながらに語った。
メイが涙を見せたのは要塞のメンバーにとってもはじめての事だった。
しかしユリアは同道を断った。
カインの死は、快楽に抗えなかった弱い自分のせいに他ならないと言い、壊れた自分を見捨てること無く、皆は本当に良くしてくれたと礼を良い、これからの人生はひとり、結婚と出産の女神ナザリアに、懺悔の日々を送りたいと告げパーティーを去った。
身を飾らず、粗食を口にし、男女を問わず人と交わらず、ただただ魔物との戦いに身を置いた。
そう、ユリアは自殺を許さぬナザリア神にたったひとつの誓約を立てたのだ。
犯してしまった罪の懺悔に二度と男と契る事無く、ひたすら人類の為に魔物を倒し続け、やがてその牙に倒れ塵と還ったのなら、来世でも再びカインと巡り、今度こそ結ばれる人生を歩ませて欲しいと。
そんなユリアの元に、ギルドから一件の指名依頼が舞い込んだ。
いつものユリアなら指名依頼など全て断るのだが、今回は伯爵家からの依頼、せめて説明だけでも聞きに行ってもらわないと自分が板挟みになると懇願され、やむなく伯爵家を訪問する。
「誠に申し訳ございません。私はパーティーに属しておらず、護衛依頼の訓練も積んでおりません。ゆえにご依頼頂いてもカイザル様の御身をお守りするに不十分なのです」
依頼主は伯爵家の三男、カイザルであった。
「いやいや、何もユリア殿一人に全てを押し付けるつもりは無い。当家よりも護衛を付けるし、噂に名高い氷結姫殿が護衛についているとあらば、不逞の輩もしっぽを巻いて逃げるというもの」
「カイザル様からのお申し出はこの身にあまる光栄、されどやはり・・・」
「まぁまぁ、そう難しくばかり考えずとも、こちらも無理強いするつもりは無いですから。せめて夕食でもご一緒しながら最後にご一考下さい。あちらにユリア殿の席を用意させてあります」
普段なら食事はおろか一杯の紅茶ですら固辞するユリアだったが、伯爵家の依頼を断り、用意された食事すら断ったとあればユリアのみならず、紹介を押し付けられたギルドの職員まで類が及びかねない。
なんとか依頼は断ろうと、喉を通らぬ美食を流し込み、なれぬ愛想笑いを返すユリアの、その意識が突然途切れた。
~~~~~
ゆらゆらと漂うような意識が次第に覚醒してゆく。
目をこすろうとするが手が動かせない。
はっとして周囲を見回すと、あの、カイザルという男が股の間にいる。
ユリアの衣服は全て剥ぎ取られ、白いベッドの上でバックボードに両手を固定されている。
「一体何をっ?」
「まったく、おとなしく依頼を受けていればじっくりと可愛がってやったものを、父に気取られず屋敷内を運ぶのは苦労したのだぞ?」
「おやめください。私はナザリア神に誓いを立てた身、無体なことをすればあなたにも天罰が下りましょう」
「ほぅ、それはどのような天罰か楽しみだ。ときにユリア殿はどのような男の誘いにも靡かぬという、もしや乙女であらせられますかな?」
「あなたに関係ありませんっ!」
「まぁどの道すぐにわかること、まずはこのまま楽しませて頂くとしよう。何、痛くとも心配は無い。あとでクスリをたっぷり使って、この世のものとは思えぬ快楽を体験させてあげるよ」
カイザルの熱り立ったペニスがユリアのクレパスに添えられる。
(嫌っ!誓いが、カインに会えなくなるっ!)
それは咄嗟の行動だった。
使い慣れた氷の槍を産み出したユリア、カイザルにそれを投げつけた。
魔法使いを捕らえながら、封魔の首輪すら用意していなかったカイザルは、本当に間抜けな男だった。
しかしそんな間抜けとは言え伯爵家の人間、殺めれば間違いなく死罪となる。
すでに動かぬ骸となったカイザルをそのままに、枷を破壊したユリアはシーツで身を包み、家人を呼ぶためにドアをあける。
ユリアの実力であればこのまま逃げおおせ、どこか僻地に身を隠すことも出来ただろう、しかしナザリア神に誓いをたてたユリアは逃げるを良しとしなかった。
むしろこのまま捉えられ、処刑されることを望んでいた。
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